ダンまちTACTICS   作:Leni

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7.鍛冶神ヘファイストス

 ベルがヘスティア神の血を背に受け入れ、『神の恩恵(ファルナ)』を刻まれた翌朝。

【ヘスティア・ファミリア】一同は、ヘスティア神とリリルカが懇意にしているという、鍛冶系の【ファミリア】へと訪ねていた。

 本来なら、朝一からダンジョンに籠もり『JP』を溜める心づもりだったベルだが、これに団長のリリルカが待ったをかけたのだ。その理由は、ベルの防具が『Lv.1』の新米が装備するには、あまりにも立派すぎるというものであった。

 

 ベルとリリルカは『Lv.1』の駆け出し冒険者だ。当然、ダンジョンの奥深くまでは潜らない。

 よって、他にも駆け出しが集まる『上層』にてモンスターと戦うことになるのだが、ダンジョンの『上層』はそれほど広くはないとリリルカは語る。他の冒険者の集団、パーティと遭遇して、ベルが見つかればどうなるか。その立派すぎる装備を見られて、高確率で因縁を付けられるだろうとリリルカは主張した。

 その場で嫌味を言われるのはマシな方で、場合によっては装備を盗もうと目を付けられ、【ファミリア】の本拠(ホーム)へ強盗に入られる危険性すらあるという。

 

 リリルカの言うことは大げさすぎるとベルは思ったが、リリルカは冒険者になる前、何年もサポーターとしてダンジョンに通っていた。よって、彼女の言うことは無視できないとヘスティア神が追従し、こうしてヘスティア神の案内で、彼女の馴染みの鍛冶神のところへと訪ねたのだ。

 

 そして、都市内にある工房の一つにやってきたヘスティア神たち。

 そこには、ヘスティア神の馴染みである鍛冶神、ヘファイストス神がいた。燃えるような紅い髪の美しい(じん)物。右眼部分には大きな眼帯を着けており、顔半分を覆い隠してしまっている。

 

 そんな顔なじみの鍛冶神と再会の挨拶をしたヘスティア神は、早速とばかりにベルの事情を簡素だが明かした。ベルはゼウス神に育てられた子であることと、異世界から帰還した『レアスキル』持ちであること、『戦争遊戯』の秘密兵器であることを包み隠さず話したのだ。

 すると、ヘファイストス神は、ベルが持つ二本の剣を見せるよう要求した。

 

 ベルは素直にそれへ応じ、剣帯から二本の剣、《エクスカリバー》と《ルーンブレイド》を鞘ごと取り外して鍛冶神へと手渡す。

 そして、すぐさまヘファイストス神は《エクスカリバー》の方を鞘から抜き、検分を始めた。

 

「なかなかの剣ね。第一級冒険者が主力武器(メインウェポン)としているような剣よ。しかも、特殊効果の付いた特殊武装(スペリオルズ)ね」

 

「そこまでですか!」

 

 ヘファイストス神の言葉に、リリルカが叫ぶようにして驚いた。

 一方、オラリオの事情には疎いベルは、首をかしげる。すると、リリルカが興奮してベルに向けて言った。

 

「第一級冒険者の主力武器となると、数千万ヴァリスの価値がある武器ですよ!」

 

「《エクスカリバー》は伝説の騎士剣だからね。それくらいはしても驚かないよ」

 

「ええっ、数千万ヴァリスですよ!?」

 

「団長の槍なんて、三億ヴァリスだよ。それと比べたら……」

 

「ああっ、そうでした……」

 

 そんなリリルカとベルのやり取りの間にも、ヘファイストス神は興味深げに《エクスカリバー》を確認していた。

 そして、抜き身となっていた剣を鞘に収め、ベルへと返却する。

 

「『不壊属性(デュランダル)』の効果は付いていないようだから、大切に扱いなさい」

 

『不壊属性』とは、その名前通り、折れたり壊れたりすることのない加工をされた特殊武装のことだ。

 予備の武器を多数抱えずにダンジョンの奥深くまで潜るならば、この『不壊属性』の武具があるかどうかは生死に大きく影響するらしい。

 

 それを聞いて、ベルは思う。

《エクスカリバー》を使うときは、『メンテナンス』のアビリティは外さないようにしよう、と。

『メンテナンス』とは、装備を破壊されたり盗まれたりしなくなるという『サポートアビリティ』である。『アイテム士』というジョブで習得できる『アビリティ』で、ベルはまだ習得していない。『戦争遊戯』が終わったら、優先して習得しようとベルは考えた。

 

 ただし、『メンテナンス』をセットできる『サポートアビリティ』欄には、『メンテナンス』以外にも強力な『アビリティ』が揃っている。『アビリティ』習得に必要な『JP』を多く獲得できるようになる『獲得JPアップ』という『サポートアビリティ』などは、日々のダンジョンでのモンスター狩りでは是非ともセットしておきたいところである。

 それを考えると……『獲得JPアップ』などのお役立ち『サポートアビリティ』をセットして戦う普段使い用の装備と、『メンテナンス』をセットしたうえで戦う本気装備を使い分ける必要があるかもしれない。『マイセット』という機能があるため、そのあたりは容易に実現できそうだ。ベルは一瞬でそこまで考えた。

 

 図らずとも、リリルカの言う『上層』向けの装備調達は正解だったということだ。

 

 そして、《ルーンブレイド》も検分したヘファイストス神は、今度はベルの装備している防具に興味を持った。

 

《クリスタルの盾》、《クリスタルヘルム》、《クリスタルメイル》の三種である。こちらは、《エクスカリバー》のような伝説の装備ではなく、イヴァリースの武具店で買った市販品だ。ただし、イヴァリースで出回っている市販品の中では、最高級の逸品である。

 

「これは、ミスリル……いえ、ミスリルとプラチナの合金ね?」

 

 一目見ただけで、防具の素材を当ててみるヘファイストス神。

 それを聞いたベルは「さすが鍛冶神」と感心しながらうなずいた。

 

「ただ、この取り付けられている宝玉は、見たことがない素材ね。強い魔力が籠もっているようだけど」

 

「どういうわけか、その宝玉(クリスタル)が付いていると、普通のミスリル合金製の防具より頑丈になるんです」

 

「へえ……興味深いわね」

 

「異世界で……ええと、魔石だとか魔法石だとかクリスタルだとか呼ばれていた素材ですね」

 

 ベルがイヴァリースの言語を頭の中で共通語(コイネー)に訳して説明すると、彼の目の前の女神は片側しか露出していない目をキラリと輝かせた。

 

「別次元の独自素材……。ねえ、これ、貸してもらえないかしら? 詳しく調べてみたいわ」

 

 ヘファイストス神がベルにそんなことを聞いてくる。すると、その要求に応じたのはベルではなく団長のリリルカだった。

 

「これからダンジョンに行くのですが、替わりの防具を用意していただければ、ダンジョンに行っている間だけは、お貸しできます」

 

「分かったわ。どんな防具がいいかしら?」

 

 そこから、リリルカとヘファイストス神の交渉がしばらく続いた。

 最終的にヘファイストス神は、リリルカが懇意にしているという鍛冶師の防具をベルに譲渡することで合意した。

 それから、ヘファイストス神は工房に団員を呼び、件の鍛冶師を呼び出すよう言った。

 

 それを待つ間、ベルはリリルカに気になったことを尋ねる。

 

「団長って、専属の鍛冶師(スミス)がもういるんだね」

 

「ええ。専属となる代わりに、一緒にダンジョンへ潜る契約です。その方はまだ『Lv.1』で、オラリオで一流の鍛冶師となるには『Lv.2』へのランクアップの際に『鍛冶』という『発展アビリティ』を習得する必要があるのです」

 

『発展アビリティ』とは、【ステイタス】に表記される力、耐久、器用、敏捷、魔力の五つの『アビリティ』の他に、ランクアップするときのみ得ることができる特殊な『アビリティ』のことであるらしい。

 その『発展アビリティ』の一つである『鍛冶』は、【ヘファイストス・ファミリア】では『Lv.2』以上の鍛冶師が全員所持しているほどの、必須の能力なのだという。

 

「そんなのがあるんだね……。僕がランクアップするときは、どんな『発展アビリティ』が出てくるかな」

 

「ダンジョン探索を生業とする冒険者は、『耐異常』を覚える方が大半のようですね。もっとも、『Lv.2』へのランクアップは通常三年間はかかるらしいので、リリたちにとってはまだまだ先の話です。最速記録でも一年かかっているそうですよ」

 

「うーん、先は遠いね」

 

 そんな会話をするうちに、ヘファイストス神の工房に、一人の男性が入ってきた。

 赤い髪を短くした、ヒューマンの青年。黒い着流しを着こなしており、身長はベルよりもいくらか高い。

 

「参上しました。客がいると聞いたんですが……見たところ、リリスケの紹介ですか?」

 

 青年は、工房の中にいたリリルカとベルを見つけて、そんなことを言った。

 すると、ヘファイストス神が、その青年に向けて手に持っていた《クリスタルの盾》を見せながら告げる。

 

「検証用に珍しい素材の防具を借りるから、その見返りにヴェルフの防具を譲りたいの。いいかしら? あなたへの支払いは、私が個人的に持つわ」

 

「なんだ、客じゃないんですか……いや、間接的には客とも言えるか……?」

 

「何を言っているの。譲った防具を気に入って貰えたら、今後はリピーターになるのよ」

 

「おっ、確かにそうですね!」

 

 そんな主神とのやりとりを終えて、鍛冶師の青年はベルの前までやってきてジロジロとベルの体つきを観察し始めた。

 さらには、無遠慮にベルの上半身を触り始め、さらには巻尺で勝手にベルのサイズを測り始めた。

 

「背は低いが、なかなか鍛えた身体だな……このサイズなら、在庫がある。よし、持ってくる。盾と兜と鎧でいいな?」

 

「うん。あっ、僕、ベル・クラネルっていいます。よろしく!」

 

「おっと、自己紹介を忘れていたな。鍛冶師のヴェルフだ。よろしくな」

 

 ベルと青年ヴェルフの二人は、力強く握手を交わした。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 ヴェルフが持ち込んだ防具。モンスター素材の防具一式とのことだが、ベルからすると金属製にしか見えなかった。

 どうやら、この世界のモンスター素材もなかなか複雑怪奇らしい。イヴァリースでも、モンスターを密猟して『毛皮骨肉店』という店舗に持ち込み、特殊な武具を作ってもらったものだなと、ベルは傭兵団で過ごした短い日々を懐かしむ。

 

 そして、ベルはヴェルフに促され、防具一式を『装備』した。

 

「んん……? なんだ? 俺の防具が見違えたように見える……?」

 

 ヴェルフは不思議そうに鎧を身に着けたベルを観察した。

 すると、ベルはヴェルフに向けて説明を始める。

 

「僕の『スキル』です。武具を『装備』する『スキル』ですね」

 

「装備する『スキル』って……なんだそりゃ?」

 

 ベルの言葉に、ヴェルフはさらに不思議そうな顔をする。

 それを見たベルは、ヘファイストス神と並んでベルたちの様子を見守っていたヘスティア神の方に視線を向ける。

 すると、ヘスティア神は隣にいるヘファイストス神へと尋ねた。

 

「ヘファイストス、ヴェルフ君とやらは、信用できる子かい?」

 

「ええ、義理堅くて、客の情報を勝手に漏らすような子ではないわ」

 

「そうか。ベル君、話しても構わないよ」

 

 そうしてベルは主神の許可を得て、今後、専属になってもらうであろうヴェルフに対して、自身の秘密の一部を明かすことにした。

 

「武具と僕の魂を繋げて、武具に宿る真の力を発揮する。そういう『スキル』ですよ」

 

「なんだと!?」

 

 ベルの説明に、ヴェルフが目を見開いて驚きを露わにした。

 さらに、ヘファイストス神も興味深げにベルを観察すると、一つ質問をしてきた。

 

「どんな武具でも『装備』できるのかしら?」

 

「いえ、『スキル』で『ジョブ』という……職業? 得意分野? そういうのを変更できるんですが、いま就いている『ジョブ』だと、武器は刀剣類、防具は帽子、兜、服、鎧、ローブが『装備』できます」

 

「あなた、本当に興味深いわね……ちなみに、いま就いている『ジョブ』は、なんていうのかしら?」

 

「け……『剣聖』です」

 

「あら。それはまた、すごい呼び名ね」

 

 ベルの答えに、ヘファイストス神は「フフフ」と笑ってそう言った。

 するとベルは恥ずかしそうに顔を赤くしながら、言い訳するように応える。

 

「じ、自称じゃないですからね!? あくまで『スキル』がそう名付けているんです! 僕はまだ師匠みたいな、『剣聖』と呼ばれるほどの剣の腕はありません!」

 

 正直、ベルとしては『剣聖』という『ジョブ』名は本気で格好良いと思っている。ただし、それは師匠の称号だ。自分が今名乗るには何もかも不足していると彼は思っていた。ゆえに、彼は『剣聖』を名乗ることをひどく恥ずかしがっていた。

 そんなやりとりをベルの前で聞いていたヴェルフが、興味深げに尋ねてくる。

 

「へえ、お前の師匠って、『剣聖』なんて呼ばれてんのか?」

 

「あ、はい。国一番の剣の腕を持つ『剣聖』で、【雷神】とも呼ばれていました」

 

「そりゃすげえ。お前も【ステイタス】はともかく、剣の腕前は期待できそうだな」

 

 ヴェルフとベルのやり取りに、ヘファイストス神は何か驚くことがあったのか、片方しかない目を見開いてつぶやいた。

 

「【雷神】……」

 

 すると、そのつぶやきを耳にしたヘスティア神は、面白そうな顔をして言う。

 

「ゼウスが育てた子の師匠が【雷神】って呼ばれているって、なんだか奇妙な偶然だよねえ」

 

 ヘスティア神のその言葉に、ベルたち人間三人は、不思議そうな顔になる。

 すると、ヘスティア神はさらに笑って言った。

 

「ああ、ゼウスって、天界では天空神で、雷神でもあるんだよ」

 

「お祖父(じい)ちゃん、そんなすごい神様だったんだ……」

 

 山奥の農村で農業に従事していた頃の祖父の姿を思い出しながら、ベルはそんな驚きの言葉をつぶやくように言った。

 




ベルの『装備』に関する設定は、本作のオリジナル設定です。
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