ダンまちTACTICS   作:Leni

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70.ウラノス・ファミリア

 アイドルユニット【ミスティッククエスト】の活動が一段落付き、過密だったスケジュールを緩め始めた。

 この活動を通じて、『異端児(ゼノス)』の存在周知という役目を見事に果たした『竜女(ヴィーヴル)』のウィリュジーネ。

 彼女は今、『カーバンクル』のカールと共に、ダンジョンへ『帰省』していた。

 

 もちろん、二人だけで勝手にダンジョンへ来ているわけではない。

 ギルドの承認を受けたうえで、【ヘスティア・ファミリア】と、ヴェルフ、アイズ、ティオナという彼女たちをダンジョンから連れ出した面々と、さらに【ロキ・ファミリア】の幹部数名を連れてのダンジョン入りである。

 

 現在、彼女たちがいるのは37階層。『深層』である。

 なぜウィリュジーネとカールがこんなダンジョンの奥深くまで来ているかというと、ウラノス神からの指示であった。

 なんでも、ダンジョンの奥には冒険者では立ち入られない、モンスター専用の特別な空間があるらしい。そこへウィリュジーネとカールたち『異端児』を訪れさせるようにとの『強制任務(ミッション)』が下ったのだ。

 

 本来ならば、『深層』など軽々と行けるような場所ではない。

 だが、さすがの【ロキ・ファミリア】というべきか、なんら苦難を感じさせることもなく一行は37階層まで到達していた。

 ただし、ただの『Lv.2』でしかないリリルカとヴェルフは、ここまでの道のりの困難さにゲッソリとしていたが。

 

 そうして、37階層を進むうち、一行はとある場所へと辿り着いた。

 暗黒に包まれた37階層。そんな中にありながら、複数の魔石灯の明かりが一行の先に待っていた。

 冒険者の集団。いや、違う。各々武装して、派閥の団旗を掲げてはいるものの、その集団を構成する者たちは人間ではなかった。

 そこにいたのは、新品の武具に身を包んだ、モンスターの集団であった。『異端児』だ。

 

「よかった。合流できたね」

 

 一行を率いていたフィンが、ホッと安心したようにそう言った。

 そして、フィンは団員に持たせていた団旗を大きく振るように指示する。

 指示を受けた【ロキ・ファミリア】の幹部候補であるラウル・ノールドが団旗を振ると、相手の集団も団旗を振り返してきた。

 

 相手の旗に描かれた徽章(きしょう)は、眷族を持たないはずのウラノス神の派閥(ファミリア)のもの。

 先日から『異端児』たちは、【ウラノス・ファミリア】の団員として正式にギルドに認定された。『神の恩恵(ファルナ)』は受けてはいないものの、ギルドの公認を受けてダンジョン内での活動を堂々と行なえるようになっていた。

 

 しかも、彼らの武装は【ヘファイストス・ファミリア】の上級鍛冶師(ハイ・スミス)が作ったものだ。

【ミスティッククエスト】がアイドル活動をしている間に、ヴェルフが忙しくしていたのは、この『異端児』のための武装を作るために駆り出されていたからだ。

 今回、ヴェルフが一行に同行しているのも、武具の状態を確認し、使用感を聞き出すためである。

 もちろん、ヴェルフが作った武具も『異端児』のメンバーの幾人かが装備しており、ヴェルフは遠目に映るそれを凝視するように確認していた。

 

 そして、大きな広間(ルーム)で二つの集団が合流する。

『異端児』は、種族が見事にバラバラであった。『リザードマン』の戦士がいれば、美しい『セイレーン』の少女もいる。『ガーゴイル』が人間たちを注意深く観察している一方で、『アルミラージ』が真っ先にウィリュジーネと彼女が抱えるカールのもとへと駆けよってきた。

 団旗を持つのは、赤い帽子(レッドキャップ)を被った『ゴブリン』だ。

 

「おお、人間だ……こうして真正面から会うのは初めてだな!」

 

『リザードマン』の戦士が、前に進み出てきて流暢にそんな言葉を話した。

『異端児』にも、人語をしっかりと話せるかは個体差がある。ギルドからそう聞いていたフィンだが、どうやら目の前の存在は会話が上手そうだと判断し、自分も前へと進み出て言葉を交わそうと試みた。

 

「やあ。無事に合流できてなによりだ。僕はフィン・ディムナ。この集団のリーダーをさせてもらっているよ」

 

「おっ、噂の【勇者(ブレイバー)】だな! オレっちはリド! 【ウラノス・ファミリア】の暫定的な団長ってやつだ!」

 

「なるほど。リド、よろしく」

 

 フィンが前に右手を差し出し、握手を求めると、リドは驚愕して目を見開いた。

 そして、そこからニカッと笑みを浮かべて、自身も右手を差し出して、互いに手を握り合った。

 

「へへっ、冒険者と握手しちゃったぜ。フェルズのやつから、地上で同胞が人と握手をしたって聞いて、オレっちもしてみたいとずっと思っていたんだ」

 

『リザードマン』のリドがそう言うと、周囲の目がウィリュジーネに集まる。

 彼女は、アイドル活動中に幾度もファンとの握手会を行なっていた。その話をダンジョンにいる『異端児』たちもしっかりと伝え聞いていたようであった。

 

「アイドル! イイですネ!私モ地上デ歌を披露したイ!」

 

 レイという名を名乗った『歌人鳥(セイレーン)』が、ウィリュジーネのアイドル活動をうらやましがって、そんなことを言う。

 そして、彼女は『半人半鳥(ハーピィ)』のフィアと共に、その場で「ラララー」と歌い出した。

 

 だが、ここはあくまでダンジョンの危険地帯真っただ中。

 仲間の『石竜(ガーゴイル)』から注意が飛び、二人は歌を止めてションボリと肩を落とした。

 

 そんな様子をフィンは笑いながら眺めており、それを見たリドの警戒心をさらに緩めさせた。

 フィンの人心掌握術は、『異端児』相手にも有効。集団の中からこっそりフィンとリドの様子を見ていたリリルカは、フィンの狙いを正確に見抜いていた。

 だが、言わぬが花。リリルカは腹黒い師匠の内心には踏みこまず、自身もアイドル活動中に鍛えられた笑顔を維持して、『異端児』たちとの交流を進めていった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 37階層で合流した冒険者と『異端児』の一行は、38階層を駆け足で攻略して、『安全階層(セーフティポイント)』である39階層に辿り着いた。

 冒険者たちはここでベースキャンプを守り、ウィリュジーネとカールは『異端児』に任せて目的地へ送り出すこととなっていた。

 ウィリュジーネたちが『参拝』するダンジョンの未踏領域『最淵(カシオス)』は、『人類』が近づくことは適わないという。

 よって、ここからはモンスターである『異端児』のみでダンジョンの奥へと向かわなければならない。

 

「でも、大丈夫かい? この周辺では戦力は足りているだろうけど、より深く潜ろうとすると厳しくなりそうだよ」

 

『異端児』たちには『Lv.4』や『Lv.5』に匹敵する力を持つ者たちもいる。おそらく、『魔石』を摂取して『強化種』となっているのだろうと、フィンは見抜いた。

 だが、リドはというと、あっけらかんとした様子で「大丈夫だぜ」と答えた。

 もちろん、無根拠で言っているわけではない。

 

「最近、仲間に加わった同胞がな。めちゃんこ強えんだわ。それこそ、フィンにも匹敵する強さがある」

 

「僕に……? 冒険者で言う『Lv.7』の強さがあるということか……」

 

 素体としての強さに加え、高い知性でもって『強化種』としての高みを昇り続けているならば。

『Lv.7』、そしてその先の強さに辿り着くこともあるのだろう。フィンはそう自分を納得させた。

 

「この先で合流することになっているから、帰りにはそいつを連れてきてやるさ」

 

 リドはそう言って笑う。

 そして、ヴェルフによる装備の点検を受けた『異端児』たちは、ウィリュジーネとカールを連れてダンジョンの奥へと向かっていった。

 

「気の良い人たちでしたね」

 

 見送った『異端児』との今後の関わり合いについて考え込むフィンに、話しかけてくる者がいた。

 ベル・クラネルだ。

 そんなベルに、フィンは自問自答していた問いを投げかけることにした。

 

「ベルは、人類と『異端児』の融和はなされると思っているかい?」

 

「大丈夫だと思いますよ。この世界ではモンスターは人間の絶対的な敵対者かもしれませんが、イヴァリースでは人間がモンスターを仲間にするということは普通に行なわれていました。『話術士』の人たちなんて、モンスターと会話をすることもできましたし」

 

「なるほど、異世界での『冒険』を経験しているキミがそう言うのなら、少しは楽観視してもいいのかな」

 

「僕の『ジョブ』一覧の中にも未解放ですが『話術士』があります。それに冒険者にも、カールみたいな人語を話せないモンスターと会話できる『スキル』を授かる人が、そのうち出てくるかもしれませんよ」

 

「さすがにそれは、楽観視しすぎだとは思うけれどね」

 

「確かに期待しすぎかもしれませんが……少なくとも彼らが武装して団旗を掲げる限り、冒険者たちとぶつかることはそうそうないでしょうね」

 

「ああ、もしも密猟者がいても、あれには返り討ちに遭うだろうね」

 

『異端児』を武装させるという案は、ロキ神とヘスティア神、ヘファイストス神が話し合って出したものだ。

 あれならば冒険者が識別を間違うこともないだろうし、【イケロス・ファミリア】のように他国の好事家へ売り払おうとする事件も起きにくいだろう。

 

 問題は、ダンジョンで生まれたばかりの『異端児』をいかに保護するかであるが……これに関しては、ここまでの道中でリドがフィンに向けて言っていた。「冒険者は『冒険』をするのが仕事なんだろ? そっちの仕事は、オレっちたちに任せてくれ」と。

 つまり『異端児』の群れは、同胞たちの保護を冒険者たちに押し付けようとはしていないのだ。

 

『異端児』の存在を知り、ダンジョン内で剣を鈍らせた冒険者は多くいただろう。

 だが、『異端児』の保護という仕事を冒険者たちに押し付けてさらなる被害を増やすことだけは避けられる。その事実に、フィンは少しホッとする気持ちになっていた。

 

 そして、ベースキャンプで待機すること一日ほど。

『異端児』たちがウィリュジーネとカールを連れて、無事に帰還した。その後方に、黒い巨体の『ミノタウロス』を連れて。

 その『ミノタウロス』は、革鎧に両手斧という装備をしていた。よって、その個体も『異端児』の一人であると推測できた。

 

 だが、その『ミノタウロス』はベースキャンプの方角を見るなり、大きな咆哮を上げて興奮しだした。

 当然、油断はしていなかった人間たち一同だが、あまりに強烈な『咆哮(ハウル)』に、階位(レベル)の低いメンバーが強制停止(リストレイト)を起こした。

 フィンは、とっさに槍を構えてその『ミノタウロス』をにらみつけるが――

 

「うおおお、待て待て、アステリオスも、フィンっちも落ち着けえええええ!」

 

 リドの焦りの声に、戦闘体勢に入ろうとしていたフィンはとりあえず戦闘突入を防ぐ方針へと変えた。

 団員たちをなだめ、強制停止したメンバーの手当をさせる。

 

 一方、リドたちも黒い『ミノタウロス』であるアステリオスをなんとかなだめすかし、その興奮を抑えることに成功していた。

 

 両陣営が落ち着くまで数分の時を要したが、なんとか『異端児』たちをベースキャンプに受け入れることができた。

 そしてフィンは、リドから今回のしでかしの詳細を聞くことにした。

 

「あー、それがな。オレっちたちは、今の自分として生まれてくる前の、ただのモンスターだった頃の『前世の記憶』みたいなものがわずかに残っているんだが……」

 

 リドが言うには、アステリオスは冒険者一行のメンバーと戦い、破れてしまった前世の記憶が色濃く残っているらしい。

 ゆえに、誰よりも強くなることを望み、『深層』に一人潜ってモンスターとの闘争に明け暮れているとのことだった。

 そのアステリオスは、ベル・クラネルの前に立ち、彼をジッと見下ろしていた。

 ベルはと言うと、自分が倒してきたモンスターのどの個体かどうかを思い出そうとして、頭を巡らせている。

 

「アステリオスの『前世』は、ただの『ミノタウロス』で、雷光の剣士に敗れたらしい」

 

 リドのその言葉に、フィンはピンと来た。

 アステリオスの前世は、リリルカに猛牛の試練を課したときに遭遇した、『ミノタウロス強化種』であろうと。

 フィンと、そしてリリルカがベルに目を向ける。

 すると、ベルはそこでようやく納得したように声を上げた。

 

「ああ、雷光の剣士って、【無双稲妻突き】を使う僕のことか!」

 

 なんとか思い至ることができたベル。そんな彼に向けて、アステリオスが武人を思わせる重厚な声で言った。

 

「再戦を」

 

「えっ……」

 

「どうか、自分と戦ってほしい。再戦を求む……!」

 

『前世の記憶』。それが、アステリオスの心に強く残っているのだろう。

 ゆえに、彼はベルとの戦いを要求してきた。

 これには、ベルも困ってフィンの方を見てしまう。戦うことに否やはないベルであったが、ここはダンジョンのベースキャンプ。むやみやたらに暴れ回るわけにはいかないため、フィンに助けを求めたのだ。

 

 すると、フィンは瞬時に頭を巡らせて、最適の答えをすぐさま導き出した。

 

「その戦い、僕が預かろう。二人の決着に相応しい舞台を用意すると誓う」

 

 ベルとアステリオス、そして周囲の面々の視線が、フィンに集まる。

 

「『再戦』は、地上にて執り行なう!」

 

 その言葉にベルはギョッとした顔をして、フィンにオウム返しするように疑問を投げかける。

 

「えっ、地上で、ですか?」

 

「ああ。オラリオには、二人が戦うに相応しい立派な施設があるじゃないか」

 

 フィンにそう言われ、ベルは少しの間考えを巡らせて、やがて答えを導き出した。

 

円形闘技場(アンフィテアトルム)!」

 

「そうだ。あそこならば、二人の戦いの舞台として不足はないだろう?」

 

「あんな広い場所、借り受けられるんですか……?」

 

「『挽歌祭(エレジア)』、そして『女神祭』が近いうちに地上で行なわれるだろう? その『女神祭』で【ミスティッククエスト】の公演(ライブ)を要求されているんだが……円形闘技場の予約状況を確認したところ、枠に余裕がまだあった。なら、二人の戦いを興行にしてしまえば、ギルドからも貸し出しの許可を得られるだろうね」

 

 古代の『英雄』や迷宮で亡くなった冒険者たちを哀悼する『挽歌祭(エレジア)』と、秋の収穫を喜びさらなる豊穣を祈念する『女神祭』。連続して開かれるこの二つの祭典は、オラリオの『二大祭』と言われている。

 哀悼をして都市全体が鎮まったところで、豊穣を喜ぶ明るい催し物で感情を爆発させる。そんな祭りが『二大祭』なのだ。

 

 そんなことをフィンが『異端児』たちに説明すると、『異端児』たちからアステリオスに向けて、うらやましそうな視線が飛ぶ。

 すると、フィンはさらに追加でとんでもない案を口にした。

 

「そうだな。これを機会にして、地上に訪れたい『異端児』を『女神祭』に招待するのも、ありかもしれないね」

 

「本当か、フィンっち!」

 

 真っ先にフィンの言葉に食いついたのは、リドだった。

 彼は、地上への憧れが特に強い『異端児』の一人なのだ。

 

 そんな彼に、フィンはニコリと笑って答えた。

 

「ああ、ギルドの許可を得る必要はあるけれど、神ウラノスも嫌とは言わないだろう」

 

「うおおー! マジかー! 里のみんなにも知らせてやらなくちゃあ!」

 

 喜びを露わにするリドに、フィンは己の中の真意を悟らせないようにしながら考える。

『異端児』との関係は、今後ダンジョン攻略を進めるうえで重要になってくるだろう。なにせ、『異端児』たちは『神の恩恵』を受けていないにもかかわらず、モンスターとの戦いを経て『強化種』として強くなり続けるのだ。

 ならば、彼らとの関係を深めることは、来るべき『穢れた精霊』との戦いでの『保険』になりうる。

 そんな腹黒思考をリリルカに見破られているのを自覚しながら、フィンは顔に笑顔を浮かべてリドたちに『女神祭』の予定を話し始めた。

 

 ちなみに、自分を差し置いて黒い『ミノタウロス』との激戦を繰り広げようとしているベルを目の当たりにして、アイズは強いショックを受けていた。

 ここ最近のベルさんは、私に対する扱いが悪い! そんな面倒臭いことを思わず言いそうになって、すんでの所で留まったアイズなのであった。

 

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