ダンまちTACTICS   作:Leni

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71.突発遠征

 来たる『再戦』へと向けて、『二大祭』までに少しでも強くなりたい。

『深層』から地上に帰還したベルが、派閥の皆にそんな相談をした。

 

 すると、リリルカが即座にその答えを出した。それは、普段のパーティメンバーだけで行なう『遠征』であった。

 

 祭りを前にして、長期間のダンジョン攻略。『上層』や『中層』ならともかく、『下層』ならば競合するパーティも少ないだろうという予想をリリルカは立てた。

 よって、『下層』を目指して『遠征』をし、モンスターを倒し尽くして【経験値(エクセリア)】と『JP』へと変える。そんな方策をリリルカはベルに提示した。

 

 当然のように、ベルはこの案に飛び付いた。

 そして、とんとん拍子で突発的な『遠征』が決定し、【ヘスティア・ファミリア】のリリルカ、ベル、リューと、【ヘファイストス・ファミリア】のヴェルフの四人で準備を進めることとなった。

 

「ついこの間、『深層』に行ったばかりだってのに、次は『下層』か。まったく忙しないな」

 

 武具の整備を一手に引き受けているヴェルフが、言葉通り工房で忙しそうにしながらそんな愚痴をこぼした。

 一方、リリルカらが急に『遠征』へ行くと言い出したことで、同じように忙しさに追われることになった者がいる。

 リリルカとベルのアドバイザー業務をしている受付嬢、エイナ・チュールである。

 

「出発日がこの日なのに『挽歌祭(エレジア)』までに帰ってくるとか、また無茶な日程を組んで!」

 

 エイナの言葉通り、リリルカの予定では短い期間での『下層』攻略で十分な【経験値】を得ようとしているため、移動に関してはだいぶ強行軍となる。

 リリルカの目論見では、それを成功させるにあたってベルとリューの力量への依存がだいぶ大きくなる。

 よって、もしリリルカかヴェルフがパーティからはぐれた場合、二人の命はないと、エイナはリリルカに何度も注意する羽目になった。

 

 ベルとリューにとっては容易な階層であっても、リリルカとヴェルフにとっては紛れもない『冒険』となるだろう。

 エイナは今さらリリルカに、「冒険者は『冒険』しない」などと言うことはしない。言っても聞き入れようとしないからだ。それでもエイナは、リリルカたちが無事に帰ってきてくれるよう、本気で『遠征』の準備を手伝った。

 

 そして、秋が本格的に訪れようとする頃。【ヘスティア・ファミリア】とヴェルフは、意気揚々と『下層』目指してバベルの地下へと進んでいった。

 

「今日のベルは、久しぶりの鎧兜姿だな」

 

 無銘の『ガンブレード』の刃で道中に立ちふさがった『コボルト』の頭部をかち割りながら、ヴェルフが言う。

 すると、ベルはヴェルフの倒した『コボルト』の『魔石』を《ルーンブレイド》で突きながら、答える。

 

「うん。最近はフィンさんから課された『召喚士』ばかり鍛えていたから、久しぶりに前衛の『ジョブ』を鍛えようと思って。今日は、『ナイト』の『ジョブ』だよ」

 

「それは、どういうことができるんだ?」

 

「武具破壊と相手の【ステイタス】を一時的に下げる、『戦技』っていう『アクションアビリティ』が使える『ジョブ』だね」

 

「……『ナイト』なんだよな?」

 

「そうだよ。戦場において、騎士は勝つためなら汚い手段だって取れるからね」

 

「騎士道精神ってやつは……?」

 

「そんなものないよ。もしあったとしても、僕がいた国では、五十年間続いた戦争でそんなものとっくの前に失われていたよ」

 

 さすがに井戸に毒を投入したり農地を焼き払うような行為は忌避されていたけどね、などと恐ろしいことをベルは平然とした顔で言った。そんなベルの様子を見て、ヴェルフは鍛冶師の家に生まれてきてよかったなどと思うのであった。

 

 ちなみに、『ナイト』の『ジョブ』は、【鎧兜装備】、【盾装備】、【剣装備】という他の『ジョブ』でもベルが得意とする装備類を『装備』できるようになる『サポートアビリティ』も覚えられる。これらはすでに習得済みで、日々のダンジョン攻略中に使用することで、理解を深めている最中であった。

『ジョブ』の各種『アビリティ』は、理解を深め続けることで『Master』という表示に変わり、セットしなくても自在に使用できるようになるからだ。

 

 なお、最近になってベルは【チャクラ】という技を『Master』した。

 普段どれだけベルが、この技にお世話になって使い倒してきたか分かるというもの。ベルのこの技には、ギルド職員及びギルド長は何度も救われてきていた。戦闘用の技のはずが、残業続きの疲労回復やストレス性の胃痛治療に使われるとは、フィンやリリルカも思っていなかっただろう。

 

 ヴェルフは思う。ベルはどうやら日々成長しているようだと。

 そして、彼が身に着ける煌びやかな鎧兜を見て、さらに思う。いつの日かこれを超える防具を作りだし、ベルの全身を自分の武具でそろえてやろうと。

 そのためには、『Lv.2』程度の【ステイタス】では何もかもが足りない。よって、この『遠征』で少しでも成長すべく、彼は気合いを入れてダンジョンの奥へと進むのであった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 半日ほどで『安全階層(セーフティポイント)』である18階層へと到着した一行は、リヴィラの街には寄らず階層の外れで一眠りした。

 そして、全員の体力の回復を確認した後、すぐさまテント類をしまい込み、下の階層へと進んだ。

 彼らが目指すのは、次の『安全階層』である28階層だ。そこでベースキャンプを作り、周辺の階層で戦いの経験を積むというのが、リリルカの立てた案である。

 

 19階層から24階層の『大樹の迷宮』を一同は難なく進んでいく。

 ベルとリューが軽々と敵を屠るのは当然として、リリルカも槍を駆使してモンスターを次々と狩っていく。ヴェルフも負けじと戦うが、ここの階層あたりから『ガンブレード』を炸裂させて戦うことも増えてきた。

 

 まだ『下層』に至っていないのに、自力が足りない。その事実に、ヴェルフは歯がみしそうになる。だが、自分は鍛冶師で、自分が作りだした武具に頼ることはそれほど悪いことではないと思い直し、『魔弾』の使用を躊躇しないことに決めた。

『ガンブレード』は、鍛冶師としての自分が導き出した一つの答えだ。ならば、それに頼ることは鍛冶師として恥ではない。ヴェルフは己にそう言い聞かせた。

 

 そうするうちに、24階層の終着点へと一同は到着した。

 

「ここから先が、いよいよ『下層』です。一歩間違えれば即死もありえるので、より気合いを入れましょう」

 

 リリルカがそう言うと、ベルとリューは自然体で返事をした。

 三人とも一切の緊張を見せていない様子に、ヴェルフは「ふざけろ」と言いたくなった。だが彼は、それをグッと我慢して、この先に待つ素材の山を頭の中で想像することで緊張をほぐすことにした。

 

 そうして、『下層』の一歩目、『第二の死線(セカンドライン)』と呼ばれる領域、『水の迷都(みやこ)』へと彼らは足を踏み入れた。

 ヴェルフがここに訪れるのは、先日のウィリュジーネを連れていくための『深層』行きを含めて二度目。

 25階層から27階層を貫く巨大な滝が、相変わらず轟音を立てて水を落とし続けていた。

 

「さて、鍛冶師としては、ここで素材を大量入手してえところだが……」

 

「そう焦らないでください。まずは、28階層に拠点を作るのを目指しましょう」

 

「はー、『Lv.2』にはなかなか荷の重い話だな」

 

「29階層ならともかく、28階層までは『Lv.2』の適正階層ですよ」

 

「ただし、『基本アビリティ』が十分育っている場合、だろう?」

 

「そうですが、リリたちには頼もしい仲間が二人もいますからね」

 

「そうだな。ただ、お前たちの専属鍛冶師の立場から言わせてもらうと、さっきも言ったとおりモンスター狩りはほどほどに切り上げて素材回収は十分にしておきたい」

 

「リリもその方がいいのですが、ベルさんがそれを聞いてくれるかどうかは……」

 

 リリルカのその言葉を聞いて、ヴェルフはベルの方を見る。

 すると、ベルは何やら考え込みながら、虚空に指を這わしていた。おそらく、『レアスキル』の操作を行なっているのだろう。

 

 ベルはこの階層でも、モンスター戦を通しての自身の強化を怠らないだろう。

 そんな予想がリリルカと一致したことに、ヴェルフは苦笑した。

 

 ちなみに、リューは一人、自然体で周囲に目を向けていた。

 この中で一番冒険者としての経歴が長い彼女は、ここまでの道行きでも、たいへん頼りになってきた。

 今も周囲を警戒しているのだろう。彼女がいれば、パーティが突然危険に陥ることはそうそうないだろう。そんな安心感をヴェルフは覚え、心身をリラックスさせて『下層』へ挑むことにした。

 

 そして……。

 

「うおおおお、『アダマンタイト』が壁から生えてやがる!」

 

「ベルさん、あの『迷宮珊瑚(アンダー・コーラル)』の奥に『迷宮真珠(アンダー・パール)』の貝殻が!」

 

 緊張感とはなんだったのかとばかりに、素材の山を前にしてヴェルフとリリルカが興奮を露わにしていた。

 これには、ベルとリューも苦笑を隠せない。真っ直ぐ28階層を目指すとはリリルカの言葉であったが、彼女は稀少な素材を前に即、前言を撤回した。

 リリルカのバックパックが素材でどんどん膨らんでいき、荷物の重さで無駄に彼女の【ステイタス】を上げていく。

 

 二人がはしゃぐので、モンスターもその声を聞きつけて水路から飛び出してくるが、こちらはベルによって軽々と蹴散らされた。

 

 ちなみに、ベルは現在、【地形無視移動】という『ムーブアビリティ』をセットしている。

『風水士』で覚えた移動術で、水路、川、湖、海などの歩きづらくなる地形を、その影響を受けず移動できるようになるという代物。

 つまりベルは、鎧兜姿で水路に落ちたとしても、地上を歩くのと同じ感覚で水中を進むことができる。

 

 その特性を利用して、リリルカに水路にある稀少素材集めを任されていたのだが……28階層に着き次第、鎧を丁寧に磨かなければと思うベルであった。

 

 そんなことがありつつ、一同は予定より遅れて28階層に到着した。

迷宮の花園(アンダーガーデン)』と呼ばれるその『安全階層』は、その名の通り花畑が一面に広がった幻想的な場所だ。

 初めてヴェルフがここに訪れたときは、本当にダンジョンの中なのかと疑ったほどだ。

 

 そんな『迷宮の花園』。ベルたちより前にここへ訪れた集団が、隅の方で休んでいる様子がベルたちの視界に映った。

 だが、その集団はただの冒険者の集団ではなかった。

 

「おお、ベルっちたちじゃないか!」

 

 それは、【ウラノス・ファミリア】として地上で評判になりつつある、『異端児(ゼノス)』の集団であった。

 

「リドさん! こんにちは、皆さんも『冒険』ですか?」

 

「ハハッ、違う違う。食料集めだ。地上から美味え保存食が届くようになったけど、新鮮な食料も欲しいからな」

 

「なるほど!」

 

「『リヴィラの街』ってとこにも入れるようになったから、お金ってやつと交換するのにも素材はたくさん必要だしな」

 

「あそこはぼったくりが多いんですけど……」

 

「それでも、オレっちたちには使い道のない素材を食料とかと交換してもらえるんだ。ありがてえばかりだよ」

 

 ベルと、『リザードマン』のリドが、そんな言葉を交わす。

 そこへリリルカも入っていって、周辺の階層の情報交換を始めた。

 すると、リドが重大な情報をリリルカに対してこぼした。

 

「そろそろ、あの滝のところにヌシが出現する時期だ」

 

「滝のヌシ……『迷宮の弧王(モンスターレックス)』の『アンフィス・バエナ』ですか?」

 

 リリルカが、まさかの情報に驚きつつもそう問い返す。

 

「そうそう、そんな名前のやつ。二つの頭がある蛇みてえな竜な」

 

「そうですか……地上で調べても出現時期が読めなかったのですが、ここで情報が手に入るとは」

 

「前回は、地上の冒険者じゃなくて、オレっちたちで倒したからな。いや、実質的にはアステリオスが一人で挑んで、他の同胞で補助をしていたんだが」

 

「そんなことが……」

 

 リドの情報をリリルカは吟味する。

『階層主』が27階層に居座るとなると、28階層を中心にして活動することが難しくなる。

 では、どうすればいいのかというと……。

 

「討伐しよう」

 

 そう言いだしたのは、ベルであった。アステリオスが一人で挑んだと聞いたあたりから、彼の目は据わっていた。

 いつの間にか、ベルの中でアステリオスは倒すべき好敵手(ライバル)としての地位を確立していたらしい。

 その事実にリリルカはため息を吐きそうになった。それでも彼女は、『アンフィス・バエナ』戦に備えて持ってきていた道具の再確認をするため、『異端児』たちの近くにベースキャンプを張ることにした。

 

 リドと他の『異端児』たちは、そんなリリルカとベルの様子を楽しげに眺めており、リューはどう彼らと触れあって良いのか悩ましげにしていた。

 そして、ヴェルフは『異端児』たちが装備する【ヘファイストス・ファミリア】製の武具の傷み具合を観察しながら、思う。

 

 ――『階層主』とかふざけろと言いたくなったが、『偉業』を積むのにはもしかして絶好の機会か?

 

『階層主』は、戦いたいと思ったからといっていつでも戦える相手ではない。

 むしろ、このあたりの階層までの『階層主』は、『偉業』を積むために様々な派閥から日々狙われていると言っていい。

 ならば、準備万端で訪れた『遠征』で、『アンフィス・バエナ』と戦えるのは幸運なのではないか。ヴェルフは、思わず巡ってきた機会に、気合いを入れて挑むことを決めた。

 

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