ダンまちTACTICS   作:Leni

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第八章『魔界決戦』編:暗雲切裂く双翼の剣
77.剣聖への第一歩


 収穫祭を兼ねた『女神祭』を終え、オラリオに晩秋の寒気が到来した。

 祭りで英気を養った冒険者たちはダンジョンへと繰り出し、一部の者は採掘が始まった『人造迷宮』の跡地から稀少金属を掘り出す。

 

闇派閥(イヴィルス)の残党』が完全に排除され、『歓楽街』の利権の引き継ぎも終わり、商売が上手く回るようになったオラリオ。この街は現在、好景気に突入していた。

 そうなると、オラリオの管理機関であるギルドに税金が大量に集まるようになる。さらに、ギルドがその税金収入で市場に出回った『人造迷宮』産の稀少金属を買い取るようになり、それがまた市場を活性化させ、景気はさらによくなった。

 

 だが、当然、ギルドが稀少金属を買い漁る動きに怪しみ、探ろうとする者たちも出る。

 ギルドに内偵を入れようと暗躍する商人たちだが、その答えが後日あっさりギルドから公開されて、皆、肩透かしを食らう形となった。

 

立杭(シャフト)計画、なぁ……ウラノスも何を考えているんだか」

 

「ダンジョンに穴開けて地下エレベーター作るとか、これウラノスの案じゃないだろ」

 

ギルド長(ロイマン)の案かー」

 

 ギルドの動きは、三ヶ月ぶりに開かれた神々の集会、『神会(デナトゥス)』でも話題になった。

 

 立杭計画。ダンジョンに沿うように作られ、一部に穴を空けて扉を設置した『人造迷宮』を参考に、地下に伸びる塔という名の杭をダンジョンに打ち込む大胆すぎる計画だ。

 ギルド内部でも賛否両論なこの計画だが、神々が『神会』で示した方針は、『静観』であった。

 

 ギルドの主神であるウラノス神が主導した計画なら、横槍を入れる神も多く出ただろう。

 だが、この計画を推し進めているのは、ギルド長のロイマンだった。

 よって、神々は人間(こども)の選択として、その結果を見守ることにしたのだ。

 

 そうして立杭計画についての対応が決まっても、『神会』は終わらなかった。

 神々が話し合うべき話題は、まだまだあるのだ。

 

「あー、もうすぐ『学区』が来るので、はしゃぎ過ぎてガネーシャの眷族(こども)に迷惑かけんようになー。以上」

 

「適当すぎ!」

 

「バルドルが来るからって、対応雑すぎない?」

 

 司会進行をしていたロキ神の態度に野次が飛ぶが、ロキ神は適当に流して、『神会』を進めていった。

 それから、一通りの議題を消化した後、ロキ神が宣言する。

 

「さてさて、いよいよ命名式や! トップバッターは、いきなり本命いくでぇ!」

 

「えっ、まさか」

 

「いっちゃうのか、いっちゃうのかー!」

 

「ベル・クラネル、『Lv.2』、レコードホルダーや! まずは、今の二つ名【血塗られた聖兎剣士(ヴォーパル・バニー)】から変更するかどうかやけど――」

 

「変えるに決まっている!」

 

「当時のオレたちは、理解度が不足していた……」

 

「何が兎だ! 猛獣じゃねえか!」

 

 ロキ神の言葉に、神々からどんどん意見が飛んでくる。

 そんな神々の盛り上がりように、ロキ神の隣に座っていたヘスティア神が絶望した顔で震えていた。

血塗られた聖兎剣士(ヴォーパル・バニー)】よりも酷い二つ名が付いたら、どうしようか。そんな思いでいっぱいだったのだ。

 

 だが、そんなヘスティア神に対して助け船を出したのかどうなのか、ヘファイストス神が神々に向けて言った。

 

「あまり変な二つ名は付けない方がいいわよ」

 

「えー、ファイたん、どういうことや?」

 

「ここはオレたちのセンスを見せるときだろう?」

 

 神々が当然、不満の声を上げるが、ヘファイストス神はため息を吐いてその声を否定した。

 

「ダメよ。今や、ベル・クラネルはオラリオの顔なの。そして、もしかすると下界の悲願を彼が達成するかもしれない。そんなときに、オラリオの外の神に変な二つ名を知られたら……」

 

 その鍛冶神の言葉に、神々はハッとなった。

 普段は神々のセンスでイタい名を付けて、名付けられた眷族の主神の絶望顔を楽しむことを主目的としている命名式。

 だがしかし、今のベル・クラネルはオラリオの神々にとっての代表的な眷族なのだ。つまり、イタい名を付けたら、オラリオの外の神から、この場に居る全員が馬鹿にされてしまうことになる。

 

「じゃあ、オレの渾身の案、【半熟英雄(はんじゅくヒーロー)】は無しだな……」

 

「いや、ヘルメス、自分どんだけ半熟推しやねん」

 

「『半熟の英雄』って、ベル君本人の自称なんだぜ? じゃあ、推すしかないじゃないか」

 

「ベルきゅんも、こんなやつの前で口を滑らせてからに……」

 

 それから一転して、真面目な話し合いの場となり、神々が吟味を重ねて、一つの案に絞り込んだ。

 

「じゃあ、ベルきゅんの二つ名は、【見習い剣聖(リトル・ソードマスター)】っちゅうことで! 本人が希望している【剣聖】の称号は、さらなる【ランクアップ】時にあらためて検討な!」

 

 ベルはオラリオの代表的存在になった。

 しかし、まだ『Lv.2』の冒険者一年生でもある。それを加味して、見習いという名を付けることで、さらなる躍進を神々は期待することにした。

 この結果に、ヘスティア神はホッと一安心。

 少しばかり大げさな二つ名には思える。だが、ヘルメス神が提案した【半熟英雄(はんじゅくヒーロー)】よりはマシ。同じニュアンスでも、こちらの方がベル本人は喜ぶだろうという判断である。

 

 そうして、『神会』が終わり、ギルド経由でベルの新しい二つ名が告知された。

『女神祭』でのベルの一戦を観戦した人々は、【見習い剣聖(リトル・ソードマスター)】という字面を見た瞬間、皆一様にこんなことを思ったという。

 

「お前のような見習いがいるか」

 

 ベル・クラネル、『Lv.2』。彼は今では都市最強の一角として、オラリオ市民に認識されていた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 やがて秋が終わりを迎え、立冬となる。

 

 寒さに耐えるための『魔石製品』の需要も高まり、ベルたち【ヘスティア・ファミリア】は毎日のようにダンジョンへとアタックして大量の『魔石』を持ち帰った。

【ヘスティア・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】の交流も変わらず続いている。

 日程が近づいてきた『遠征』に向けて、事前訓練と称して派閥合同でダンジョンへと向かうことも増えた。

 

 そして、日々の訓練でベルは多くの【ロキ・ファミリア】の団員たちと剣を交わした。

 もちろん、訓練にはリリルカとリューも参加している。リリルカはすっかり【ロキ・ファミリア】の団員たちに馴染み、気難しいリューも同族のエルフを中心に交流を図った。

 特に魔導士のレフィーヤがリューに『並行詠唱』の教えを請うことが増え、同じ女性エルフ同士で急速に仲が深まっていき、一種の師弟のような関係に納まっていった。

 

 ダンジョン攻略をこなし、訓練をこなし、休養も取る。

 そんな日々が続いたころ、ベルはふと、オラリオ全体が浮き足立ってきはじめた兆候を感じ取った。

 

 その日は、ベルとリリルカの二人で本拠(ホーム)の家事をこなす予定の日だった。リューは以前の職場である酒場へ手伝いに行き、ヘスティア神はいつものバイトに出かけていた。

 

「最近、街がにぎやかだけど、またお祭りでもあるのかな?」

 

 ベルはペティナイフを砥石で研ぎながら、水回りの掃除をしているリリルカへそう尋ねた。

 すると、リリルカは掃除の手を止め、なんのことやらとしばらく考え込む。そして、ベルの聞きたいことを理解して、適切な答えを示した。

 

「そろそろオラリオに『学区』がやってきますから、皆、それが待ち遠しいのでしょう。まあ、一種のお祭りのようなものといえばそうですね」

 

「『学区』が来るの!?」

 

「はい。ベルさんは、『学区』をご存じでしたか」

 

「うん、『学区』の教師の人と知り合いなんだ。レオン先生っていう人!」

 

「ブッ……!」

 

 思わぬ名前が出てきて、リリルカは思わずその場でむせてしまった。

 そして、少し咳き込んだ後に、リリルカはベルに向けて勢いよく問うた。

 

「レオン先生って、あの現役最強の一角、レオン・ヴァーデンベルク様のことですか!?」

 

「そうだよ。お祖父(じい)ちゃんとオラリオに向けて旅をしていたときに、僕が竜退治をしたことは知っているよね?」

 

「……はい。吟遊詩人の(うた)で語られていましたね」

 

「そのときに、『学区』から竜退治に派遣されてきたレオン先生と会ったんだ」

 

「はあー、そんなことがあったんですねえ」

 

「手合わせを頼んでみたら、ボコボコにされて負けたよ」

 

「当たり前です! 相手は『Lv.7』で、当時のベルさんは『神の恩恵(ファルナ)』を受けていなかったのでしょう!?」

 

「あはは……で、そのときに、レオン先生から機会があれば『学区』へ訪ねてきてくれって言われていたんだ」

 

 そんなベルの言葉に、リリルカは一瞬、考え込んだ。

 そして、すぐに一つの案を頭の中でまとめて、ベルへと告げた。

 

「では、ベルさん。『学区』がオラリオに来たら、レオン様とのコネを利用して、『リクルート』に行ってくれませんか?」

 

「『リクルート』?」

 

「ベルさんは、『学区』がどんな場所か、どこまでご存じですか?」

 

 リリルカに問い返されて、ベルはすぐさま頭の中にある情報をひねり出した。

 

「えっと、正式には『海上学術機関特区』。『リヴァイアサン』討伐のときに作られた『足場』をもとに作り出された、世界を巡る海の上の学園(アカデミー)、だよね?」

 

「はい。では、その学園の生徒はどんな存在ですか?」

 

「確か、『学区』に所属している神様たちの眷族になって、学科ごとに分れて専門教育を受ける、だったかな……」

 

「そうですね。その中に、『戦技学科』という戦闘技術の専門教育を受ける学科があるそうです。そしてレオン様は、『戦技学科』の教師だそうです」

 

「あっ、もしかして、『リクルート』って、勧誘のこと?」

 

「正解です。要は『眷族募集』ですね。ベルさんには、正式な【ヘスティア・ファミリア】の使者、『募眷族官(リクルーター)』として、『戦技学科』の生徒を『眷族募集(リクルート)』していただきます」

 

 リリルカの言葉に、ベルは少し困惑し、そして言った。

 

「えっと、そういう役割は団長とか副団長の方がよくないかな?」

 

【ヘスティア・ファミリア】の団長はリリルカ、副団長はリューである。ちなみに、ベルは平団員であった。

 

「リリは『遠征』の準備で死ぬほど忙しくなりそうですし、リューさんはこういう仕事はとことん向いていません。分かるでしょう?」

 

「……ああー」

 

 リューは、典型的なエルフとしての性質を持っている。

 取っ付きづらく、人見知りで、他人に触れられるだけで激昂する。

 本人はそのエルフの性質を心底嫌っているらしいが、生理的な問題なので、解消したくてもどうしようもないらしい。

 

『眷族募集』の最中に生意気な生徒に絡まれたリューが「あまり私を怒らせない方がいい」などといってトラウマレベルの折檻をしてしまう様子が、ベルの脳裏によぎってしまった。

 これはいけないと、ベルは副団長に任せる考えをひるがえした。そして、団員の中で時間的に余裕のある平団員の自分が、『募眷族官』として相応しいと納得した。

 

 そんなベルに、リリルカがフォローをするようにして言う。

 

「あまり気負わずに行ってみてください。レオン様との縁を使えば、『学区』の中に入ることはおそらく可能でしょう。そうして、中に入ってしまえばこっちのものです。多分、一人も入団希望者が出ないということはないでしょうね」

 

「えっ、そうかな? うちの【ファミリア】って、弱小派閥だよね?」

 

「大丈夫ですよ。なにせうちには……オラリオの外まで名が(とどろ)く【見習い剣聖(リトル・ソードマスター)】がいるのですから」

 

 そんな言葉と共にリリルカから期待の目を向けられ、ベルは思わず照れてしまった。

 

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