ダンまちTACTICS   作:Leni

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8.魔剣鍛冶師

【ヘファイストス・ファミリア】での防具の調達が終わり、いよいよベルにとって初めてのダンジョン探索が近づいてきた。

 だが、それに待ったをかけるようにヘファイストス神が言った。

 

「ところで、その剣も上層に持ち込むつもり?」

 

 ヘファイストス神の視線の先には、鞘に収められた《エクスカリバー》があった。

 すると、ベルは「いえ」と否定して答える。

 

「予備の剣の方を使うつもりです」

 

 ベルは、もう一本の剣、《ルーンブレイド》を手に持ち、剣帯に留める。

 すると、それを見ていたリリルカがジト目になって、ベルへ向けて言う。

 

「リリとしては、そちらの剣も大概だとは思うのですが。なかなかの逸品と見えますよ」

 

「そうなのか?」

 

 遅れてやってきたため、剣を検分していないヴェルフが興味を引かれたように目を輝かせた。

 一方、リリルカにジト目を向けられたベルは、居心地が悪そうに身を縮めながら、言う。

 

「えっと、これもクリスタル防具セットと同じで市販品だったけど……」

 

「ベルさん、正直に答えてください。お値段は?」

 

「……一般的なブロードソードが、百本買える値段」

 

《ルーンブレイド》。お値段ざっと二万ギルである。ちなみに同じ店のブロードソードが、二〇〇ギルであった。

 

「ベルさんはお馬鹿なんですか!?」

 

 リリルカは(いきどお)って、ベルの腰から《ルーンブレイド》を奪い取ろうとする。

 一方、武器の価値に疎いヘスティア神が、二人のやりとりを笑って見ていたヘファイストス神に尋ねる。

 

「ヘファイストス、一般的なブロードソードっていくらするんだい?」

 

「うーん、質によるけれど、数打ち品でも最低一万ヴァリスはするんじゃないかしら」

 

「ベル君!? 一〇〇万ヴァリスの剣で『ゴブリン』や『コボルト』と戦うつもりだったのかい!? 目立つ、絶対に目立つよ!」

 

 ヘファイストス神の答えを聞いて、ヘスティア神もベルに詰め寄り始めた。ちなみにヘスティア神はリリルカに三億ヴァリスの槍を渡して『ゴブリン』や『コボルト』と戦わせている。

 そんなヘスティア神に対して、ベルは焦りながら言い訳するように答える。

 

「防具と違って、剣ならそこまで目立たないかなって……」

 

「いやいや、ベルさん。この剣のデザインは、鞘に入っている時点で十分目立っていますからね」

 

 ベルの剣帯から奪い取った《ルーンブレイド》をヘファイストス神に押し付けるように渡しながら、リリルカがそう断言した。

 そして、剣を受け取る形になったヘファイストス神は、笑いながらその装飾過多な剣をヴェルフに渡す。

 

「ヴェルフ、剣も見つくろってあげて」

 

「へーい。……片手剣か。昨日ちょうどいい感じのができたから、それを進呈するかね。クソッ、俺もこのくらいの剣は打てるようになりてえな」

 

《ルーンブレイド》を抜いて、魔力を宿すその独特な刃を確認しながら、ヴェルフが悔しそうにそうつぶやいた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 ヴェルフが自分の工房から運んできた剣。無骨な鋼の長剣だが、ベルはそれを見てなかなかいい剣だと感想を漏らした。

 少なくとも、武具店にて二〇〇ギルや一万ヴァリスで投げ売りされているような、数打ちのブロードソードよりは、遥かに出来がいい。

 

「へえー、剣の目利きもできるのか、お前」

 

「うん、これでも昔、騎士に任命されたこともあるよ」

 

「だから【ヘスティア・ファミリア】に入って、『戦争遊戯(ウォーゲーム)』で腕試しってわけか?」

 

「腕試しじゃないよ。勝つつもり」

 

「お前、それは……」

 

「ヘスティア様と団長の幸せは、誰にも奪わせない。そう決めたんだ」

 

「…………」

 

 そんなヴェルフとベルのやり取りを聞いていたヘファイストス神が、黙り込んだヴェルフに向けて言った。

 

「ねえ、ヴェルフ。あなたは、鍛冶師としてのお得意様で、一緒にダンジョンで戦う仲間でもあるこの子のために、何もしないの?」

 

 ヘファイストス神の片眼の視線の先。そこには、リリルカがいた。

 リリルカは、ヴェルフと普段から一緒にダンジョンに潜っている。ヴェルフが『Lv.2』となって『鍛冶』の『発展アビリティ』を習得するまでの契約であるが、それでもわずかな期間、ダンジョンでの苦難を共にした仲間なのだ。

 

「あなたがこの子のために、ここ数日駆け回っていたのは知っているわ。でも、結局あなたは魔剣を打たなかった。……あなたは、矜持(きょうじ)ですらないただの意地と仲間を(はかり)にかけている。今のあなた、すごく格好悪いわよ」

 

「俺は……」

 

「残り一日よ。よく考えなさい」

 

 そんなヘファイストス神とヴェルフのやりとりをヘスティア神とリリルカは黙って見守っていた。

 ただ、ベルだけは話が見えず、一人首をかしげていた。

 

 そんなベルに、ヴェルフがヘファイストス神から目をそらすようにして問いかける。

 

「なあ、ベルだったな。お前は魔剣のことをどう思う?」

 

「……それって、振ると魔法が飛び出すあの魔剣?」

 

「そうだ。魔法が飛び出して、勝手に砕け散るその魔剣だ」

 

「えっと……」

 

「ちなみにリリスケの答えは、道具であって剣ではない、だそうだ」

 

 ヴェルフのその言葉に、ベルがチラリとリリルカの方を見ると、彼女は無言でうなずいてみせた。

 だが、ベルはヴェルフがなぜそんな問いをしてくるか理解できず、その理由を素直に尋ねてみた。

 すると、ヴェルフは正直に理由を答えた。

 

「俺はクロッゾっていう、精霊の血を引く鍛冶貴族の一族出身でな。その一族は昔、魔剣を自由自在に打つことができた。だが、ある時、所属する王国に献上した魔剣が、エルフの住む森を焼き払った」

 

 ヴェルフは語る。

 クロッゾの一族はそのことで精霊の怒りを買い、その日以降、一族は魔剣が打てなくなったという。

 その結果、貴族として没落するクロッゾの一族。

 しかし、鍛冶師として『神の恩恵(ファルナ)』を授かったヴェルフは……どういうわけか魔剣を打つことができたのだという。しかも、造り出せるのはただの魔剣ではない。森を焼き尽くすことができる、『クロッゾの魔剣』という特別製の魔剣だ。

 

「でもな、俺は魔剣を打つつもりはない」

 

「どうして……?」

 

「俺は魔剣が嫌いだ。使い手を残して絶対に砕けていく」

 

「それは……うちの団長の『剣ではなく道具』という答えでは納得いかない?」

 

「ああ。道具として見たら、ただの魔剣はともかく『クロッゾの魔剣』は最悪だ。あれの力は人を腐らせる。あまりにも『強すぎる』んだ。使い手の矜持も、鍛冶師の誇りも、何もかも台無しにしてしまう」

 

 ベルに向けてそう言い放つヴェルフ。その目をベルは、真っ直ぐに見て、浮かんできた答えを素直に彼へとぶつけることにした。

 

「魔剣は、矢だよ」

 

「……道具の次は、矢ときたか。剣だっつってんのに。ちなみに、その心は?」

 

「僕が騎士をやっていた国では、侍という戦闘職の人達がいてね。その人たちは、刀に宿る魂を『引き出す』技術を持っていたんだけど……」

 

 ベルの語りをヴェルフは黙って聞いている。

 

「それが、ちょうど魔剣みたいでね。強力な効果を『引き出す』代わりに、刀は運次第で砕け散ってしまうんだ」

 

 魔剣は力を使い果たすと砕けるが、力を引き出された刀は一定確率で砕ける。

 そこに違いはあるが、その在り方はとても似ていた。

 

「僕がお世話になった傭兵団で、侍の人が言っていたんだけどね。『魂を引き出すための刀は、矢だと思え』って」

 

 ベルは、工房に持ち込んでいた武具の一つ、《アルテミスの弓》と矢筒に入った矢を手に取りながら、話を続ける。

 

「ヴェルフさんが矢尻を打ったことがあるかは知らないけど、矢尻だって鍛冶師が作る立派な武器だよね。だけど、矢の多くは使い捨てになる」

 

 ヴェルフは、沈黙を守りながらベルの話をジッと聞き続けている。

 そのヴェルフの前に、ベルは矢筒から抜いた矢を一本、掲げて見せた。

 

「それでも、矢は立派に人の命を守ることができる武器なんだ。侍の人は言っていたよ。使い捨てにするからこそ、刀に宿る魂と、刀を打った鍛冶師に感謝と尊敬の念を込めて『引き出す』んだって。その念があれば……『強すぎる』魔剣を手にしても、使い手が腐ることはないんじゃないかな」

 

 そこまで語り、ベルは矢を矢筒に収めて、笑みを浮かべた。

 

「そういう意見もあるってことで……」

 

 そう話を締めて、ベルはヴェルフに「何かの参考になったかな?」と尋ねた。

 すると、ヴェルフは目をつぶり、何かを考え込み始める。

 

「意地と仲間を秤にかけるな、か……。ここでなにもしなかったら、それこそ男が(すた)るな」

 

 小さな声でつぶやくように言った彼は、おもむろにまぶたを開いて、ベルを見た。

 

「今日の夜、俺の工房に来い。それまでに、矢を作っておく」

 

「矢? もしかして、それは……」

 

「ああ。魔剣の力を込めた矢だ。今回限り、矢の魔剣を打ってやる。それを使って、『戦争遊戯』に勝て。そして、『クロッゾの魔剣』の力に溺れない姿を俺に見せてみろ」

 

「……うん、任せて!」

 

 ヴェルフの答えに、ベルは笑顔を浮かべて彼に手を差し出した。

 すると、ヴェルフはそれに応じて、二人は本日二度目の握手を交わす。

 その二人のやりとりをヘファイストス神は満足そうな目で眺めていた。

 

 そして。

 ヴェルフは、ベルが持参していた弓と矢を受け取り、この弓で撃つに相応しい矢を打ってみせると意気込んだ。

 見事な弓である《アルテミスの弓》をその場で検分しながら、ヴェルフはポツリと言った。

 

「しかし、刀の魂を引き出すか……極東のヤツらって、そんなことできたのか」

 

 初めて聞いた能力に、ヴェルフは一度見てみたいと言った。

 すると、ベルはヴェルフの勘違いを正そうと、慌てて告げる。

 

「侍って言っても、極東の侍じゃないんだ」

 

「ん? 侍は、極東の騎士階級のことだろ?」

 

「僕が一ヶ月前まで居たのはイヴァリースって国で、そこでは多くの戦士が特殊能力を使えたんだ。侍は、その戦士の戦闘スタイルの一つ」

 

「なんだそりゃ? 聞いたことねえ国だが、どこかの神が支配している土地か?」

 

「これは、言いふらしてほしくないことなんだけど……」

 

 ベルは、ヴェルフの目をジッと見つめて、念を押すように言う。

 

「イヴァリースは、こことは違う次元にある国なんだ。別の世界。異世界なんだ」

 

 そう言われたヴェルフの表情は、宇宙空間を背景にして呆けた猫のようであったと、ヘファイストス神とヘスティア神は語った。

 

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