ダンまちTACTICS   作:Leni

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80.剣姫の異名を持ち風を自在に操る高貴なる女性剣士

 悪気はなかった。反省はしている。などと被疑者であるアイズは証言した。

 

「悪気はないのに、ここまでボコボコにしなくても……」

 

 突発的な決闘が行なわれた『学区』の戦闘訓練施設(アリーナ)。そこでベルは、アイズに打ち負かされた少年の治療を手伝いながら、アイズからここまでの経緯を聞くことにした。

 そのアイズは、戦闘が終わった瞬間、本人もさすがにやり過ぎたと理解したらしい。オロオロとした顔で周囲を見てベルを探した。そして、近くにいたベルを見つけて、ホッと安心したような表情を見せていた。

 そして、ベルに「アイズさん、やり過ぎ!」と責められて、さきほどの証言となったのだ。

 

 それから、鼻の骨が折れるまでアイズに模擬戦用の剣で叩かれた対戦相手、『第七小隊』の小隊長を介抱し終えたベル。

 小隊長の少年は、ルーク・ファウルという名のヒューマンだ。『戦技学科』の【バルドル・クラス】に所属しており、ベルも先ほど教室で顔を見た覚えがある。

 そして、アイズが担当する小隊の隊長でもある。つまり今後はダンジョン内でアイズに監督されることとなるわけだ。

 

 そうなると、決闘に至った原因の調査と、その原因の解消は絶対に必要だとベルは考えた。

 そこで、ベルは『話術士』の『ジョブ』の力を使い、この場を話し合いでまとめることに決めた。

 

「で、どうしてこんなことになったのかな? アイズさんは口下手過ぎるから、ルークさんの方から教えてもらえるかな?」

 

「……オラリオの冒険者に、言うことはねえ!」

 

「それは困る。キミはこれから、そのオラリオの冒険者が大量にうろついているダンジョンに、アイズさんを(ともな)って潜ることになるんだ。不満があるなら、今のうちに言っておかないと、思わぬ事故もありえるよ?」

 

「なっ、脅しているのか!?」

 

「脅しどころの話じゃないよ。オラリオの冒険者は、キミが思っている以上に乱暴な人が多いんだ。そんなところに、監督者であるアイズさんと仲が悪いことを示しながら向かったら、どんな扱いを受けるか……アイズさんは、オラリオの冒険者にも大人気なんだ」

 

「ぐっ! これだから、オラリオの冒険者は!」

 

「それだ。キミは、オラリオの冒険者を嫌っているか憎んでいる。そのあたりに、アイズさんとの衝突の原因があるんじゃないかな?」

 

「……ちっ、そうだよ。オラリオの冒険者は、ダンジョンに籠もってばかりで、外の世界に目を向けようともしていない! それで割りを食っているのが『学区』だ」

 

「オラリオのせいで、『学区』が割りを食うような何かがあるってことだね?」

 

「ベル・クラネル! お前だって、知っているだろう! オラリオの外では、『竜の谷』からあふれ出した竜が、人類の生存圏を脅かし続けているんだ!」

 

 訪竜問題。そう名付けられた竜による被害は、深刻な社会問題である。

『隻眼の黒竜』が封じ込められた『竜の谷』から、しばしば配下の竜が溢れ出す。そのたびに、竜は下界に甚大な被害をもたらしている。

 この問題に、近年に入って対処してきたのは、世界を巡っている『学区』に所属している教師と生徒たちが主であった。

 

 そのあたりの事情をベルはアイズに言い聞かせるようにしつつ、周囲の生徒たちにも聞こえるように語った。

 すると、そのベルの語りを聞いたルークは目を見開いて言った。

 

「なんだ、ベル・クラネル。十分、問題を把握しているんじゃねえか」

 

「そうだね。以前、立ち寄った村で、竜退治をしたときにレオン先生と会って、詳しく聞くことができたからね」

 

「じゃあ、なんでだ。なんでお前は、その後『学区』に来なかった! なんでオラリオに向かったんだ! お前の力があれば、竜の被害のいくらかは、抑えられたはずだ!」

 

「そうかもしれない。それでも、僕は『学区』じゃなくてオラリオに向かった。どうしてか分かるかい?」

 

「はっ、どうせ、冒険者に憧れて、なんて自分勝手な理由だろうよ!」

 

「違うよ」

 

「あ?」

 

「オラリオに居た方が、早く強くなれるからだ」

 

「なんだよ、それ!」

 

「ダンジョンがあるオラリオで戦い続けた方が、僕は早く強くなれると思った。早く強くなれば、それだけ早く『黒竜』を倒すことができる。僕とアイズさんは、『黒竜』の討伐を目標に掲げているから」

 

「……ッ!? それが気に食わねえんだ!」

 

「うん、どういう理由でそう思ったか、教えてほしい」

 

「竜の被害は放っておいて、『黒竜』だけ倒そうだなんて、虫が良すぎる! 本命にだけ対処して、他は放置して、世間からは『英雄』扱い! それで満足だっていうのか!?」

 

「なるほど。キミは、僕たちオラリオの冒険者が、美味しいところだけを奪っていくのが、気にくわないわけなんだね」

 

「そうだ。お前だって、『学区』に来なかったってことは、『黒竜』だけ倒せば満足なんだろう!?」

 

「問題はそこだね。『黒竜』を退治に専念することが悪いことか、討論してみよう! 周りのみんなも、意見があったらどんどん言ってみて!」

 

 と、そこでベルは、彼らを遠巻きにしていた他の生徒まで巻き込んで、討論会を始めてしまった。

『話術士』の特有の会話の間が、生徒の耳に彼の言葉をすんなりと受け入れる体勢を整えさせてしまった。ベルが詐欺師ならば、今頃生徒たちから大金を巻き上げられたかもしれない。それほど、ベルの言葉には抗いがたい一種の魔力や魅力のようなものがあった。

 

「確かにオラリオは、訪竜問題を軽視しすぎだと思う」

 

「いや、でもオラリオは『ベヒーモス』と『リヴァイアサン』を実際に倒しているんだ。オラリオの協力なしに『黒竜』を倒せるのか?」

 

「あふれた竜と戦い続けるだけで、『黒竜』を倒せる『英雄』が生まれるならいいけど……」

 

「確かに、早く強くなりたいならダンジョンに潜り続けた方がいいよな」

 

「【剣姫】も【見習い剣聖(リトル・ソードマスター)】も、ダンジョンがあったから世界最速の【ランクアップ】ができたわけだよな」

 

「『学区』は移動能力があるから、竜への対処もしやすいよね」

 

「じゃあ、役割分担って事か?」

 

「私はそれには賛同できない。ルークの肩を持ちたいわけじゃないけど、私たちが竜の対処をしているのに、名声だけオラリオに持っていかれるのは気にくわないわね」

 

「そもそも、オラリオの冒険者には、どれだけ『黒竜』退治の目があるんだ?」

 

「確か、『Lv.7』が四人だ。それと、ベルさんが『Lv.7』相当だって噂」

 

「かつての【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】と比べると、ちょっとどうなのかな……?」

 

「そもそも『Lv.7』相当ってなんだよ。『Lv.2』でそんなことってある?」

 

 と、そこで生徒たちの視線が、ベルへと集まった。

 その目は、期待半分、疑惑半分といった目。そして、そこへさらにルークが言った。

 

「なあ、ベル・クラネルよ。あんた、本当に強いのか?」

 

「うん、少なくとも、さっきキミが戦ったアイズさんに匹敵する力はあるつもりだよ」

 

 ベルのその言葉に、アイズがわずかにムッとするが、事実なので反論の声は上げなかった。

 

「じゃあ、その力を示してみてくれ。『黒竜』を討つって言っているくらいだ。それ相応の力を見せてくれなきゃ、納得できねえ」

 

「分かった。どうやって力を見せようか」

 

「俺と戦え」

 

「……キミ、階位(レベル)はいくつ?」

 

「3だ!」

 

「なるほど、僕よりも上だね。でも、それだと、僕の力を示すにはちょっと不足しているかな。『耐久』が足りていないから、僕が本気で攻撃をしたら、キミが耐えられない」

 

「ぐっ……!」

 

「ルークぅ、落ち着いてぇー」

 

 そんな煽りとも取れる言葉に、ルークは頭に血が上りかけた。だが、さすがに二度連続でボコボコにされるのは忍びないと、周囲の者たちにベルへの挑戦は止められた。

 代わりに用意されたのは、訓練用の的だ。

 この戦闘訓練施設に備え付けの金属鎧。それに対し、ベルは訓練用の剣を持って打ちかかることになった。

 

 生徒たちに、『黒竜』の討伐を目指す冒険者の力を示す。ならば、派手に行こう。

 ベルはそう思い、手札の内の一つ、『魔法』を切ることにした。

 

「【(きた)れ雷神、(とどろ)雷霆(らいてい)! 希望をもたらす光となれ!】――【ケラウノス】!」

 

 付与魔法(エンチャント)。雷がベルの全身を覆い、ド派手な雷光が生徒たちを驚かせる。

 もちろん、『学区』の生徒にとって、『魔法』など今さら珍しくもない。だが、魔導士でもないただの剣士が使う『魔法』だというのに、とてつもない魔力の発散を生徒たちは感じ取った。

 そして、そこからさらにベルは、剣にまとった雷と『剣気』を練り合わせ、雷属性の『聖剣技』を放つ。

 

「【無双稲妻突き】!」

 

 雷を帯びた『剣気』が振り下ろした剣の先からほとばしり、閃光と共に的の金属鎧へと命中。

 そしてそのまま、的の金属鎧は消し飛んだ。

 

「うおおおおおおお!」

 

「すげえ!」

 

「えええっ、魔導士の並の威力?」

 

「バカ! あそこまですごいのは、先生たちくらいよ!」

 

 生徒たちの称賛をベルは浴びるが、別にベルは己の力を生徒たちに誇示したいわけではない。

 全ては、次の言葉を言うための前振りだ。

 

「僕は、この『魔法』の力をオラリオに来てから、短い期間で手に入れたんだ。そりゃあ、僕だって竜の被害を抑えたいよ。でも、第一は『黒竜』を倒すことだ。だから僕は……一番強くなれる道として、オラリオの冒険者を選んだ」

 

 そのベルの言葉に、ルークは悔しい表情を浮かべながらも、一応の納得を見せるしかなかった。

 

 その後も、生徒たちによる討論が、戦闘訓練施設の授業での使用時間になるまで続けられた。

 様々な意見が飛び出し、その一つ一つを検証して、現実的なものか話し合っていく。ベルはその『話術』で、誰かの意見を否定することはなかった。ただ、自分たちオラリオの冒険者が少しでも生徒たちに受け入れてもらえるよう、彼も自分の意見を多く発信した。

 それにより、ベルはいつの間にか生徒の多くに認められ、好意的に受け取られるようになった。

 ついでに、アイズとルークのわだかまりも解け、来たるダンジョン実習への不安もベルはだいぶ感じなくなった。

 

 ちなみに、そんな討論会を『学区』の教師たちが遠くから眺めており、目を細めて生徒たちの青春をまぶしい目で見るかのようにして、彼らの行く末を見守っていた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 そんな討論会から三日後、ダンジョン実習の日がやってきた。

 多くの生徒たちが『学区』を出て、港町(メレン)から迷宮都市(オラリオ)へと移動する。

『戦技学科』の生徒たちは、規定の戦闘服(バトル・ユニフォーム)を着込み、それぞれの武器を携帯している。

 

 この三日で、ベルは自分が教導を務める『第三小隊』の面々と交流を深めてきた。

 小隊長、ニイナ・チュール。『Lv.2』の半妖精(ハーフ・エルフ)で、ポジションは治療師(ヒーラー)

 イグリン・マーズ。低身長の典型的なドワーフで、大鎚(ハンマー)を使う前衛だ。

 レギ・ギギ。黒妖精(ダーク・エルフ)の少女で、二振りの短剣を使う前衛の双剣使い。

 クロスティア・エルヴィア。通称クリス。両手剣を使う前衛で、『Lv.2』の小人族(パルゥム)

 

 彼女たちは、『歴代最底辺の小隊(ワースト・パーティ)』と他の生徒たちに呼ばれているほどの、最悪のパーティだった。一人一人の実力は高いが、あまりにも各人の個性が強く、小隊としての連携が全く取れないのだ。

 

 だがベルは、レオンが彼にそんな小隊を担当させた意図を察し、ありがたがっていた。なにせ、小隊に『Lv.2』の小人族が所属しているのだ。それはつまり、小人族の団長であるリリルカに対し、偏見を持たない可能性が高いということ。【ヘスティア・ファミリア】へ眷族を勧誘するならば、この小隊からがいいだろうと、ベルは目論んでいた。

 

「なんで『歴代最底辺の小隊(ワースト・パーティ)』と、行動を一緒にしなきゃいけないんだか……」

 

 そして、『第三小隊』のダンジョン実習には、アイズが率いる『第七小隊』も合同で参加することに決まっていた。先ほどの愚痴も、『第七小隊』の小隊長であるルークの言葉だ。

 これは、アイズの要請によるもの。

 より具体的に言ってしまうと、アイズは教導者としての業務を自分一人でこなせそうにないとベルへ素直に告げたのだ。そこでベルが、二つの小隊での合同実習を提案して、レオンにも承認されて無事実現したのである。

 

『第七小隊』は、なんでも『戦技学科』のエリートがそろった小隊であるらしい。

 そういうわけで、ルークは落ちこぼれとの合同実習に対し不満を口にしていたが、時々ベルの方向に目を向けていた。その目に宿るのは、ある種の尊敬の念。どうやら、ベルと共に行くダンジョン攻略そのものは、不服ではないようであった。

 むしろ、『教導者(インストラクター)』を交代してくれと今にも言い出しそうな雰囲気が、彼にはあった。

 だが、それを安易に口に出して、場をめちゃくちゃにしないがゆえのエリート。口は悪くても、この場において言うべき事と言わざるべき事の分別は付いていた。

 

 そして、彼が不安視しているのは、落ちこぼれ小隊だけでなく、担当する『教導者(インストラクター)』の教導能力もであった。

 アイズ・ヴァレンシュタイン。人を導く立場にはトコトン向いていない、【剣姫】の名に相応しいまさしく可憐なお姫様のような存在であった。実力自体はだいぶ物騒ではあるが。

 彼女がベルの担当する『第三小隊(おちこぼれ)』の『教導者』となっていたら、もともとまとまりのなかった『第三小隊』はダンジョン内で空中分解していたかもしれない。

 

 それを考えると、今の配置は最良。ルークは自分にそう言い聞かせた。

 はたして、実習の行方はどうなるのか。まとまりのない『第三小隊』を監視しながら、ルークはなんとか不安を心の奥底に押し込める。

 その最中、ルークは再びベルの顔色を確認する。

 彼の顔は自信に満ちていて、なんとも頼れそうである。

 

 そんなベルは、頼れる冒険者の先輩としての姿を少しでも見せようと、気合いを入れて表情の維持に努めていた。

『話術士』とは別の『ジョブ』になっている彼は、ボロが出ないように祈りつつも、オラリオにやってきて気もそぞろな『第三小隊』の隊員に声をかける。

 そして、寄り道をさせることなく彼らを導いたベル。そうして一同は、ダンジョンへの入場手続きをするために、真っ直ぐギルド本部へと向かうのであった。

 

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