ダンまちTACTICS   作:Leni

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第八章のラストまで執筆を終え、予約投稿しました。原作最新21巻の最終エピソードまで達することになるため、そこで第一部完とし、ひとまずの完結となります。このまま一日一話ずつ更新を続けるので、最後までどうぞお付き合いください。


81.学生だって冒険したい!

 リリルカほどではないが、ベルにも指揮官としての適性がある。

 ニイナ以外の三人が全員自己主張が激しく、自分勝手、好き勝手に動こうとする。そんな『第三小隊』相手に、ベルのその指揮能力は遺憾(いかん)なく発揮された。

 

 ここはダンジョンの『上層』。

 ベルはそこで、南天騎士団時代に(つちか)った能力でもって、生意気な問題児たちを上手くまとめてしまった。

 

 だが、ベルは『教導者(インストラクター)』であって、小隊の隊長ではない。そこでベルは途中で指揮の役割をニイナに譲って、自身は彼らの行動を見守ることに専念し始めた。

 その後、『第三小隊』は誰かの指揮下で動くことの効率の良さを知ったことでなんとか連携を取るようになり、『第七小隊』と交代しながら『上層』のモンスターを討伐していく。

 

 それから、ある程度進んだところで、一行は休憩(レスト)を取ることにした。

 

 ベルは、まず一番苦労していたニイナの努力を真っ先に(ねぎら)った。

 

「ニイナ、しっかり隊をまとめられていたよ」

 

「うん、お姉ちゃんに良い報告をしたいからね!」

 

 ダンジョンに入る前、ギルド本部にてニイナは初めて姉のエイナと会った。

 その姉は、心配そうにダンジョンへ向かうことになる妹のニイナを見つめていた。

 だが、そこで近くにいた同僚に尻を叩かれ、エイナは悲鳴を上げてから、あらためてニイナに言った。

 

「ダンジョン実習の成功、確信しているわ。だって、あなたは私の自慢の家族なのだもの」

 

 その言葉だけで、ニイナは有頂天となった。あれほど会うかどうか迷っていた、見知らぬ自慢の姉。

 だが、この四日間でベルからエイナの話を聞き、久しぶりにエイナと手紙でやり取りもし、ニイナの中からわだかまりはスッカリ消えていた。そこへさらに姉から期待の言葉をかけられて、喜ばぬ妹ではなかった。

 

 彼女のやる気はダンジョンに入場してからも維持され、それでいて空回りすることもなく、『第三小隊』は『歴代最底辺の小隊(ワースト・パーティ)』の名を返上してもいいくらいには活躍を見せていた。

 

 一方、『第七小隊』。こちらも、順調にダンジョン攻略を進めていた。

教導者(インストラクター)』のアイズが余計な口出しをしないため、いつも通りのペースでいつも通りに戦うことができている。

 こちらも小隊長のやる気が(はや)りすぎている節もあるが、戦闘に影響を与えるほどではない。よって、エリート部隊に相応しい活躍を彼らは見せていた。

 そもそも、彼らは三年前に『学区』がオラリオに帰港したときも、今と同じように実習を行なっていた。そのときの最終到達階層は、十五階層である。

 

 だが、そんな彼らも、久しぶりのダンジョンでは緊張の連続だったらしい。休憩(レスト)を取り始めると、ドッと疲れたようにその場に座りこんでしまった。

 本来ならば、休憩中でも気を抜けないのがダンジョンだ。しかし、この場には二人の『教導者』がおり、彼らの隙を埋めるようにベルとアイズは周囲を満遍なく見回していた。

 

 だが、そこで空気を読まない者がいた。『第三小隊』の小人族(パルゥム)であるクリスだ。

 

「ベル、キミのその剣、なかなか素敵だね。どこで作られた武器なのかな?」

 

 本日のベルのメインウェポンは、ヴェルフの作った『ガンブレード』である。サブウェポンは《エクスカリバー》だが、今日の予定ではこれを抜く事態にはまず陥らないと見ていた。

 そんなメインウェポンをベルはクリスに見せながら、自慢するように言った。

 

「これは、僕たちの派閥(ファミリア)と契約している専属鍛冶師の作品だよ。『ガンブレード』っていうんだ」

 

「おお、それが【ヘファイストス・ファミリア】の『ガンブレード』か! 『学区』でも評判になっていたよ!」

 

「へー、『学区』にまで知れ渡っているんだ」

 

「そうだとも。『鍛冶学科』の生徒たちが歯ぎしりしていたよ。自分たちの『機構武装』はオラリオの鍛冶神に合格をもらえないのに、なんで『ガンブレード』はここまで名声が届くほどの発明品として、広く受け入れられているんだってね」

 

「ああ、その話ね。僕の専属鍛冶師が言うには、信頼性の違いだって。『機構武装』はダンジョン内で機構が破損したらそれまでだけど、『ガンブレード』は銃のパーツが壊れても、剣として使い続けられる、らしいよ。『ガンブレード』は銃のパーツを組み込んでも、剣部分の強度に一切の影響がない設計になっているんだって」

 

「へえ、その助言、『鍛冶学科』に言ってやっても構わないかい?」

 

「良いと思うよ。それで良質な武器が多くできて、下界のモンスター被害が抑えられるようになれば、専属鍛冶師の人も喜んでくれるはず」

 

 そんな会話をするうちに、他の生徒たちも『ガンブレード』が気になったようで、へたり込むのをやめてベルの周囲に近づいてくる。

 その中にアイズも交じっていたのには、ベルも笑いそうになった。なんだかんだアイズも、この特殊な武器がずっと気になっていたのだろうと、ベルはそのまま流すことにした。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 それから彼らは、毎日のようにダンジョンへと潜り、活動を続けた。

 二つの小隊は、小隊間での連携も見せるようになり、躊躇(ちゅうちょ)なくダンジョンの奥へと進んだ。

 主な活動場所は、ダンジョンの15階層。

 

 『学区』の規定により、『Lv.2』のパーティは最終的に10階層以降で実習の課題をこなすこととされていた。そして、15階層までの活動を許されている。16階層以降に潜るのは厳禁である。

 

 オラリオの基準では『Lv.2』が複数名居るパーティならば、16階層以降でも活動することは余裕だと言われている。

 だが、それはあくまでダンジョンで長年活動し、オラリオで【ランクアップ】した冒険者に限った話。

 

『学区』の生徒のほとんどはダンジョン未経験であり、もし前回の帰港で経験したことがあったとしても、ダンジョンに潜った回数は多くない。

 よって、生徒たちがダンジョンの『未知』なる何かにつまずいてしまわないよう、安全マージンを広めに取って15階層までと決めていた。

 それはまさに、ベルたちのアドバイザーであるエイナ・チュールが普段言っている、「冒険者は『冒険』しない」という言葉の通りであった。

 

 だが、ここにいるのはいずれも思春期の少年少女。大人の言うことを正直に受け入れられるほど、素直な者たちではなかった。

 ダンジョン実習開始から一週間。その時はとうとう訪れた。

 

「ベル、今の俺たちで18階層……『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』まで行けると思うか?」

 

 そんなことを言い出したのは、『第七小隊』の小隊長ルークだ。

 彼は、自分たちの小隊がここまでなんら問題なくダンジョン攻略を進められたことに、手応えを感じていた。少なくとも、ベルの目には、ルークがそう感じているように映った。

 

 そこでベルは、素直に本当のことを告げることにした。

 

「あえて言うなら、()()()()

 

 ベルがそう告げると、一同は「おおっ」と嬉しさ半分、驚き半分の声を上げた。

 だが、ニイナはベルの言葉に含まれていた意味をしっかり理解していたようで、不安げに告げた。

 

「可能だけど、安全は保障しない。そういうことだよね? ベル君」

 

「そうだね。僕は、ダンジョンの『攻略』というものには、二種類あると思っているよ。『冒険』をしない、安全な日常の稼ぎ。そして、『冒険』を必要とする、危険な試練への挑戦」

 

「試練……」

 

「みんな、『Lv.2』を超えているわけだから、知っているはずだ。安全な日常を過ごすだけじゃ【ランクアップ】できない。その一方で……安全を軽視したら、簡単に人は死ぬ」

 

 そのベルの言葉に、ゴクリと、誰かがツバを飲みこんだ。

 

「試練を乗り越えないと、冒険者は強くなれない。でも、人をふるい落とすから試練と呼ばれるんだ。だからこそ、ダンジョンでは毎日のように冒険者が命を落とし、その一方で試練を乗り越えた上級冒険者は尊敬される」

 

「もう、ベル君! 行くか戻るか、どっちが良いって言いたいの?」

 

「正解はないよ。だから、キミたちが決めるんだ」

 

 ニイナの問いに、ベルはバッサリと切り捨てるように告げた。

 そして、ベルはニイナを見て、次にルークを見て、さらに言った。

 

「冒険者の進む道に、正解はないんだ。全ては自分の責任で、自分の行く末を決めなければいけない。生きるか死ぬか、強くなるかならないか、僕に委ねるべきじゃない」

 

「そんな……」

 

 ベルに突き放され、ニイナは呆然とした表情になる。

 だが、ルークは、目に強い光を宿して、周囲を見回した。

 

「決を採ろう。進むか、戻るか。『学区』の決めた環境で自分を高め続けるか、『冒険』をして先の世界を見るか」

 

 ルークのその言葉から、二つの小隊は話し合いを始めた。

 そんな彼らに、ベルは言った。

 

「この場のキミたちのそれぞれの選択は、『学区』側には漏らさないと誓うよ。なにせ、僕は『教導者(インストラクター)』である以前に、キミたちを勧誘しにきた『募眷族官(リクルーター)』なんだからね」

 

 ベルのその言葉に、幾人かのやる気がみなぎり、場の雰囲気が変わった。

 そのベルをアイズは不思議そうな目で見た。なぜ、彼らを(あお)るような真似をするのか、と。

 その答えは単純。

 今の彼らは二個小隊。『学区』の定めた15階層攻略の基準でも明らかに過剰戦力であり、その実力の全ては発揮しきれていない。

 

 よって、『募眷族官』の立場としては、もっと彼らを本気にさせて、その状況での立ち回りを見たいとベルは思っているのだ。

 なんとも鬼畜な話だが、安全な場所で安全な狩りをするだけの生徒たちを見たところで、なんの参考にもならないのが実状だ。オラリオ最大派閥の【ロキ・ファミリア】の眷族としても、少数精鋭の【ヘスティア・ファミリア】の眷族としても、今の彼らが加入する人員として相応しいかどうかなど全く分からない。

 

 だが、ベルはこうも思っている。言うほど危険じゃないし、死なせることだってしない、と。

 彼は、安全マージンのギリギリを攻めることが上手いリリルカとのダンジョン攻略に付き合ってきたせいで、少々頭のネジが緩んでいた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「進まない。少なくとも、俺たちが命を駆けるべき時は、今この瞬間じゃない」

 

 ルークが二つの小隊の意見をまとめ、ベルにそう申し出た。

 それをベルは了承。彼らの本気を見られないことに少し残念に思いつつも、ベルは目の前の少年少女たちの意見を尊重することにした。

 そして、この決定に心底安心した者が、一人いて……。

 

「ふう……お姉ちゃんに、ちゃんとした報告ができそうでよかった……」

 

 この数日間で、姉のエイナと何度も言葉を交わしたニイナだ。

 彼女は姉から「冒険者は『冒険』しない!」との言葉を再三言われており、憧れの姉の言葉ながら、その繰り返しぶりにうんざりしていたほどだ。

 そして、それほど安全を重視する姉に、『学区』の規則を破ってダンジョンの奥へと向かったことが知られたとしたら。

 ニイナはルークをそそのかしたベルをにらみつけつつ、その目論見を阻止できたことに内心喜んだ。

 

 だが、皆、忘れていた。

 ここはダンジョンであり……人を呑み込む魔窟(まくつ)なのだと。

 

「くそっ、こっちも塞がれてやがる!」

 

「ベル君、吹き飛ばせないの!?」

 

「さらに崩落しそうだから、試してみたくはないかなぁ……」

 

 一行が15階層で活動している最中、突然、飛行モンスターの『バッドバッド』が天井から大量出現し、15階層が広範囲で()()した。

 これにより、一行は帰還ルートを喪失。ダンジョンの中に閉じ込められることとなってしまった。

 

 こうなってしまっては、道が開通するまでダンジョン内に留まるしかない。

 だが、15階層に長時間留まるだけの備えは少々心許ないというのが、彼らの現状であった。

 

 15階層は、『岩窟(がんくつ)の迷宮』と呼ばれる領域だ。

 その性質上、食料や水は採取が難しい。よって、彼らはこの環境下から脱して生き延びるため、ここからさらに下の階層へ移動することを強いられた。

 

「結局、18階層行きかよ」

 

 ルークがそう愚痴を言うが、その表情はどこか嬉しそうだ。

 18階層は安全階層(セーフティポイント)。水源があり、食料の採集場所があり、さらに冒険者が留まるリヴィラの街もある。

 安全のためにその階層まで移動すると、彼らは短い時間の話し合いで決めていた。

 

 下に行く方が安全。

 ダンジョン初心者生徒たちにとっては驚くべき事だが、冒険者であるベルとアイズのお墨付きもあって、自ら選んだその決断に彼らは命を懸けることにした。

 

 そして、16階層に彼らは足を踏み入れる。

 しかしそこで彼らは、なぜ『学区』がダンジョン実習は15階層までと決めているのか、目の当たりにすることになる。

 モンスターの出現頻度が、これまでとは格段に違うのだ。

 

 二つの小隊で交互に戦っているため消耗は避けられているが、それでも、彼らに休む時間はさほど与えられなかった。

 ベルとアイズも、この状況で彼らを手助けしようとはしていない。

 だが、二人は、時々、助言のようなものを隊員たちに投げかけており、それがまた効果的で、戦線が崩壊せずに済んでいた。

 

「くっ、厳しいですわ……肺が爆発しそう」

 

 敵の波が収まった瞬間、『第七小隊』のエルフの少女が泣き言を言いながら、息を荒げる。

 そのエルフの少女に、ヒューマンの少女が大丈夫かと声をかけていた。ヒューマンの少女の方は、まだ余裕がありそうだ。

 

「俺とナノは階位(レベル)のおかげでまだ余裕があるが、限界が近い者は多いな。ベル、手助けはやっぱりなしなのか!?」

 

 ルークがベルに確認するが、すぐさま否定の言葉か返ってくる。

 

「最初は、この面々で18階層まで行く目論見だったんだよね? じゃあ、僕とアイズさんは18階層までは手助けしなくても大丈夫ってことだよ」

 

「くっ……!」

 

 ベルの言うとおり、人数も、階位(レベル)も、十分足りている。

 彼らは『Lv.3』が二人、『Lv.2』が六人と、18階層に行くには余裕とも言える規模のパーティだ。

 

 だが、彼らはダンジョン初心者。次から次へと止まらずモンスターがあふれ出てくる環境に、全く対応できていないでいた。

 モンスターの群れそのものは、余裕で倒せる。

 だが、その余裕の戦いが、五回、十回と続くと、どうなるか。ダンジョン内でのペース配分を知らない彼らの体力は、見事に尽きそうになっていた。

 

 だが、体力というあやふやなものであっても、回復する手段はしっかりあるのが、(しん)時代である。

 

「みんな、集まって! 回復魔法をかけるよ!」

 

 ニイナが号令をかけて、詠唱を開始した。

 

「【揺れる聖輪(せいりん)、吐息は白く。花々(うた)う、清浄の丘】――【マギア・クリス】!」

 

 花弁のような白い魔力片が舞い、それに触れた隊員たちの傷が癒え、体力が回復する。

 それにより、息も絶え絶えだった隊員たちの顔色が戻ってきた。

 

 ニイナは治療師(ヒーラー)である。二つある『魔法』のどちらも回復系であるらしく、効力も高い。

 しかも、『Lv.2』への【ランクアップ】の際に『魔導』の『発展アビリティ』を習得しており、より効力の高い回復魔法を放つことができていた。

 

 戦闘の要は『第七小隊』の『Lv.3』二人だが、このパーティを下から支えている存在は、間違いなく『第三小隊』のニイナだった。

 そんな彼女を流石は、エイナさんの自慢の家族だなぁ、などとベルはのんきな顔で見ていた。現在、小隊の誰を勧誘しようかなどとは特には考えていないベル。今は生徒八人全員の情報収集に努めて、地上に帰ってからあらためて誰を勧誘するか決めようとしていた。

 

 そうして、幾度かの休憩(レスト)を挟み、一行は17階層に辿り着く。

 ルークは、18階層までどころか25階層までの道のりが載った地図をちゃっかり持ち込んでいた。そのため、彼らは迷うことなくここまで辿り着くことができた。

 

「ここが、17階層……」

 

 17階層は、一本道である。

 18階層の入口まで一切の分かれ道はなく、長大な大通路が真っ直ぐ通っている。

 そして、その道の先。通路以上に広大な大空間が最後に待ち受けている。その名をこの場にいる面々は、知識の上で知っていた。

 

「『(なげ)きの大壁(たいへき)』……!」

 

 整った立方体の大広間(ルーム)

 そこは、たった一匹のモンスターのためだけに存在する空間。そして不運なことに、そのモンスターは彼らの目の前に立ちふさがった。

 

『オオオオオオオオッッ!』

 

 17階層の『階層主』。『迷宮の孤王(モンスターレックス)』、『ゴライアス』。

 灰褐色の肌を持つ人型のモンスターで、その太ましい巨躯は全身が筋肉に覆われている。

 七(メドル)近い体高と人に酷似した姿から、そのモンスターは『巨人』と一言で言い表すことができた。

 ギルドが認定する強さは、『Lv.4』相当。

『学区』の生徒らを阻む巨大すぎる障害が、18階層への入口の前に立ちはだかるように出現していた。

 

「そんな……」

 

 その絶望が交じった言葉を言ったのは、誰であろうか。

 そして、ルークがゴライアスをにらみつけながら、叫ぶように言った。

 

「出現はまだ数日先だったはずだ! どういうことだ!?」

 

「ルーク、毎朝、ギルド本部で確認していましたわよね?」

 

「ああ、18階層に来る機会を探っていたから、そこまでの行程だってちゃんと調べていた」

 

「それなら、なんでぇ!?」

 

「知らんッ!」

 

 揉める『第七小隊』だが、その声に反応して、『ゴライアス』が彼らの方を向いた。

 

「……ッ!? やるしかないのか!? ベルッ!」

 

「頑張ってね! 応援しているよ!」

 

「畜生、この状況でもかあッ!?」

 

 無慈悲にもベルは彼らを『ゴライアス』との戦いに追いやった。

 そして、ルークたちはベルに悪態を付きながら、強大な『階層主』へと挑まんとした。

 

「ベルさん、いいの……?」

 

 さすがにこの状況で手出しをしないのはまずいのでは。そう思ったアイズが、困ったような顔でベルの方を向いた。

 だが、ベルは苦笑して、アイズに言い返す。

 

「いや、よくはないよ。だから、手助けする。大丈夫、今日の僕は、サポート特化の『ジョブ』なんだ」

 

 本日のベルの『ジョブ』は、『白魔道士』。『アクションアビリティ』には『時魔法』をセットしていた。

『サポートアビリティ』こそ『剣装備』で攻撃的だが、他は全体的にサポートを使うことを考えた構成。それは即ち、どんな事態でも彼ら『学区』の生徒を死なせないことを考えての組み合わせだった。

 

「前衛に、『補助魔法』をかけるよ!」

 

 そう断りを入れてから、ベルは先ほどから念じていた『魔法』を解き放つ。

 

「【たゆたう光よ、見えざる鎧となりて、小さき命を守れ】――【プロテス】!」

 

 彼が使ったのは『白魔法』。対象は前衛壁役(ウォール)のルーク。防護の膜が彼を覆い、『耐久』を爆発的に向上させる。

 突然の見知らぬ『魔法』の効果に、ルークを始めとした幾人かの動きが止まる。

 そこへ、ベルが大声で言った。

 

「今のは、護りの『魔法』だよ! 援護はするから、みんな足を止めずに全力で頑張ってね!」

 

 ベルのその言葉に、皆、ハッとなって前を向く。すると、『ゴライアス』が人間たちの群れを前に、敵意を露わにしていた。

 そんな『ゴライアス』に対し、二つの小隊の隊員たちは各々の武器を手に、戦闘体勢を取る。そして、後衛の治療師であるのニイナが、思わぬベルの援護にニカッと笑いながら、叫ぶように言った。

 

「みんな! せっかくダンジョンに来たんだよ! 『冒険』、しよっか!」

 

 その言葉に隊員たちは、『学区』の生徒らしい爽やかな笑顔を浮かべて、「おう!」とそれぞれの声で応えた。

 

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