ダンまちTACTICS   作:Leni

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82.大激戦

『Lv.3』が二人、『Lv.2』が六人。前衛壁役(ウォール)がいて、後衛魔導士がいて、治療師(ヒーラー)がいる。

『Lv.4』相当の『迷宮の孤王(モンスターレックス)』を倒すには不足はないとは言いきれないが、討伐も十分可能なパーティ構成である。

 しかし、それはあくまで対策が十分だった場合に限る。

 

 情報と準備が不足している状況では、適正パーティであっても『迷宮の孤王』は途端に難敵へと変わる。『ゴライアス』の場合、その最大の特徴である膂力(りょりょく)の前に前衛壁役(ウォール)が倒れ、パーティが一気に瓦解(がかい)することもあり得た。

 

 そう、自分は絶好調だと言わんばかりに正面から『ゴライアス』に挑み、『咆哮(ハウル)』をまともに受けたルークのように。

 ここまでの階層で相手してきた『ミノタウロス』。それらも放ってきた、『恐怖』で相手の動きを束縛する技である。だが、その束縛力は『ミノタウロス』の比ではない。

 

「――!?」

 

「ルークぅ!」

 

 ルークだけでなく、開幕いきなりの『咆哮(ハウル)』に前衛陣がことごとくやられ、皆一様に動きを止めてしまった。そんな中、主力の魔導士として後方に待機していた『Lv.3』の少女の悲鳴が上がる。

 だが、拳を大きく振りかぶった『ゴライアス』の一撃がルークに直撃する直前。後方から救いの手が伸びた。

 

「――【ラグリエル・クリスヘイム】!」

 

 戦闘開始直後からニイナが唱えていた第二の『魔法』。長文詠唱によって(つむ)がれたそれは強力な『回復魔法』であり、さらにあらゆる状態異常をはね除ける『浄化魔法』だ。

 その効果によりニイナの周囲に聖なる『結界』が展開され、『結界』内部に入った者が『浄化魔法』の恩恵を受けた。

咆哮(ハウル)』によって喚起されていた『恐怖』が、瞬く間に消え去る。

 これにより、前衛陣は強制停止(リストレイト)から脱することができた。

 

「うおッ、おおおッ!」

 

 動けるようになったと同時に、その場で防御体勢を取ったルーク。それにより、彼は『ゴライアス』の拳の直撃を受けても、軽く後ずさりするだけで済んだ。

 防御が間に合っただけでなく、ベルが掛けた防護の『白魔法』である【プロテス】のおかげもあっただろう。

 少なくともこれで、パーティ唯一の前衛壁役がいきなり欠けるという最悪の事態だけは防ぐことができた。

 

「――みんな、『妖精の聖域』の中で戦うんだ!」

 

 痛みに耐え、なんとか調子を取り戻したルークが、すぐさま全員に指示を出す。

 彼が負った軽い怪我は、『結界』の効果によりすぐに癒やされ、かすり傷すら残らなかった。

 

 持続回復の効果をもたらすニイナの『結界』。だが、それ以上にこの状況では『浄化』の効果が大きい。

『結界』の中ならば『咆哮(ハウル)』はうるさいだけのただの大声にしかならない。ニイナが精神力(マインド)の続く限り『結界』を維持していれば、誰かが強制停止(リストレイト)にかかることはない。

 残る問題は『ゴライアス』本体の圧倒的な膂力であるが……。

 

「みんな頑張れー。全員に防護の『魔法』を掛けておいたから、物理攻撃主体の『ゴライアス』相手なら即死はそうそうないよ!」

 

 ベルがアイズと共に、後方の通路から湧いて出てきた通常モンスターを狩りながら、そんなことを言った。

 ベルは先ほどから生徒たちへ順番に【プロテス】を掛けていた。状態異常を予防するような『白魔法』は残念ながらなかったため、『咆哮(ハウル)』に関しては素通りすることになってしまったが、それでも【プロテス】の効果は高い。

 

 さらに、ベルは追加でルークにだけ『時魔法』を発動する。

 

「【ひるがえりて来たれ、幾重(いくえ)にもその身を刻め】――【ヘイスト】!」

 

 これにより、ルークは『耐久』だけでなく『敏捷』も爆発的に増加した。『ゴライアス』と戦う上でこれ以上ない支援に、ルークは安心すると同時にひどく悔しさを覚えた。

 

 これでは、おんぶに抱っこだ。だが、ベルの【プロテス】の『魔法』がなかったとしたら、『ゴライアス』の最初の一撃で致命傷を負っていたかもしれない。

 彼は、自分のことながら、なんとも情けなく思った。そして、これ以上ベルに頼らず『ゴライアス』をこの八人で打倒してみせると奮起(ふんき)した。

 

 ルークがそう思ったのも仕方がない。ベルは我が子を谷に突き落とす獅子のごときことをしておきながら、子を守るために忙しなく動き続けているのだ。今は『白魔法』と『時魔法』の支援のみだが、状況によっては精神力を補給するための【チャクラ】も飛び出すかもしれない。

 この矛盾したベルの行動には、アイズも思わず薄い笑い顔を浮かべてしまった。ちなみに彼女は今、ベルの頼みで大広間(ルーム)に出てきた『ゴライアス』以外のモンスターを間引いている。

 

 だが、ベルによって甘々な扱いをされている事実に、視野を広く持っているルークとニイナ以外の生徒はまだ気付けていない。

 よって、生徒たちは死地へと飛びこむ『覚悟』でもって、『ゴライアス』と激闘を繰り広げ始めた。

 

 前衛壁役(ウォール)のルークが防ぎ、治療師(ヒーラー)のニイナが『結界』を維持する。

 その間に、前衛攻役(アタッカー)の少年少女たちが攻勢を仕掛け、後衛のエルフとヒューマンが矢と『魔法』を飛ばす。

 

 彼ら八人の連携はここに完成し、初めて会う『階層主』を着実に追い詰めていった。

 

 途中から、他の冒険者たちが後方から逃げ込んでくるイレギュラーも発生する。だが、そこはベルとアイズがにらみを利かせ、ルークたちの戦いの邪魔をさせないようにした。

 

『階層主』討伐は、上位の【経験値(エクセリア)】が手に入る。

 戦いが有利と知れば、横から割って入ってその【経験値】のおこぼれに預かろうとする冒険者も出かねないのだ。ベルとアイズが牽制(けんせい)している理由は、その横槍を防ぐためであった。

 

 そんなベルとアイズの支援を受けながら、八人全員が各々できることを最大限こなす。

『ゴライアス』は少しずつ確実に傷付いていき、やがて力を失いその場に膝を突く。そうして動きを止めたところで、前衛陣が殺到して攻撃を加えていき、『ゴライアス』は立ち上がれなくなり両手を突いて四つん這いになった。

 そこに、真正面で『ゴライアス』と対峙していたルークの長剣が舞う。首の下半分を剣閃で裂かれ、『ゴライアス』は地に伏せ、おびただしい量の血を流して沈黙した。

 

「うおおおおおッ!」

 

 ベルとアイズの牽制の結果、暇をする形となり見物に徹していた冒険者たちが、歓声を上げる。

 実のところ、彼らもルークたちのように15階層の崩落で『中層』から脱出できずに困り果てていた。その果てに辿り着いた17階層にて、ベルとアイズというオラリオ屈指の冒険者が、『学区』の生徒のお守りのためにこの空間を維持していると知った。それを見た彼らは休息(レスト)も兼ねて、若者たちの戦いを娯楽として楽しむことにしたのだ。

 

「やるじゃねえか!」

 

「お前ら、俺たちの派閥(ファミリア)に来いよ!」

 

「あっ、ずっりい! 勧誘とかありなのか!?」

 

「ははっ、無理無理。【ロキ・ファミリア】のツバ付きだぜ、ヤツら」

 

「ああー、そういうことか。残念!」

 

 後ろから好き勝手言われながらも、ルークは油断なく『ゴライアス』の死亡を確認した。その後は四苦八苦しながら『ゴライアス』の体内から『魔石』を取り出した。

 遺骸は全て灰へと変わってしまいドロップアイテムが残されなかったため、一瞬残念そうな顔を浮かべるルーク。だが、手に持った『魔石』を仲間たちに見せつけるように掲げ、その顔に満面の笑みを浮かべた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 ボロボロになりながらも『ゴライアス』との戦いを勝利で飾った生徒たち。彼らは後方から続々とやってきた冒険者と共に『(なげ)きの大壁(たいへき)』を越えて、18階層へと進出した。

『楽園』とまで呼ばれる、水晶と大自然に満たされた地下世界。そこでいざ観光、と二つの小隊がしゃれ込もうとしたところで、地上から崩落現場をどうにか突破した救助隊が、今頃になって到着した。

 

【ガネーシャ・ファミリア】と、アイズを心配してやってきた【ロキ・ファミリア】、そしてベルを探しにきた【ヘスティア・ファミリア】の合同救助隊だ。

 その救助隊には『学区』の教師たちの姿もあった。二つの小隊の少年少女たちは、教師たちの心配する声を聞いて、全てを忘れて観光しようとしていた事実を恥ずかしそうに隠した。

 

 そして彼らは、ベルとアイズの援護を受けながらも、生徒たちだけで『ゴライアス』を撃破したと教師陣に報告した。その結果、ベルは教師たちに、凍てつくような視線で見られることになった。「何してやがるんだ、テメエ」といった感じの目であった。

 

 だが、唯一レオンだけは笑みを浮かべたまま生徒たちを見ていた。

 ベルとアイズの二人は、『ゴライアス』戦の最中にレオンが単身で彼らに追いつき、生徒たちの戦いを遠くから見守っていたことに気付いていた。ゆえにベルも、レオンにだけは変に誤解されずに済むだろうと楽観視し、教師たちの追及をのらりくらりとかわした。

 

 そんなことがありつつも、18階層で一旦キャンプを築いて、眠りについた生徒たち。

 その後は、救助隊に連れられて地上への脱出を行なった。

 

 大人数のため、行きとは全く違う早さで上へと昇っていき、摩天楼施設(バベル)を出て地上の空を拝む一同。

 摩天楼施設前の中央広場(セントラルパーク)には、『第三小隊』と『第七小隊』の無事を確認しに来ていた『学区』の生徒たちが、多数いた。制服姿の生徒たちが、小隊の面々に無事を喜ぶ声色でそれぞれ呼びかける。

 

「ニイナ!」

 

 だが、その生徒たちを押しのけて、真っ先に小隊へと駆け寄る者がいた。

 ニイナの姉、エイナ・チュールだ。

 エイナは集団の中からニイナを見つけると、彼女の手を取り、涙を流しながら妹の無事を喜んだ。

 その姉の行動にニイナは胸がいっぱいになり、姉に釣られるように彼女も目から涙をこぼしてしまった。

 

 そして、ニイナは鼻声になりながら、姉に言った。

 

「お姉ちゃん、ただいま」

 

「おかえりなさい……無事でよかった……」

 

「お姉ちゃん、聞いてほしいことがあるの」

 

「……なあに?」

 

「お姉ちゃんの言うとおりに、もし冒険者は『冒険』しちゃいけないなら、きっと私は冒険者に向いていないんだと思う」

 

「ニイナ……」

 

「でも、私は冒険者になるよ。だって、『冒険』したいから!」

 

「そう……」

 

 ニイナの言葉を聞いて、エイナは指先で目元にあふれる涙をぬぐう。

 

「それなら、ニイナ……」

 

 瞳を(うる)ませたままエイナは、真剣な表情で妹に告げる。

 

「あなたは、私が専属アドバイザーとして、みっちり教育します! そこの問題児のベル君たちと一緒に、冒険者のなんたるかをとことん叩き込んであげるわ!」

 

「あはは、そっか。うん!」

 

 すると、ニイナも自分の顔に浮かんだ涙を戦闘服の袖でぬぐう。

 そして、後ろにいるベルに振り返りながら、彼女は言った。

 

「そういうわけで、ベル君! 【ヘスティア・ファミリア】への『派閥体験(インターン)』を希望します! いいかな!?」

 

 唐突に話題を振られる形となったベル。彼は救助隊の【ヘスティア・ファミリア】の面々と、中央広場に駆けつけたヘスティア神と一緒に、ニイナとエイナのやり取りを見守っている最中であった。

 ニイナの『派閥体験』希望。その要求に、ヘスティア神は笑顔でサムズアップし、リリルカも力強くうなずいた。

 よって、ベルはニイナの言葉に笑顔で答える。

 

「いいよ! よろしくね、ニイナ!」

 

 そうして波乱に満ちたダンジョン実習は終わり、ベルの『教導官(インストラクター)』としての任期は満了となった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 ベルとアイズが受けた『教導官(インストラクター)』としての仕事は、あえていうならばギルド非公認の冒険者依頼(クエスト)だ。

 冒険者依頼を成功させたとなると、報酬の受け渡しは必須である。『学区』側も当然、報酬を踏み倒すつもりなどなく、約定通りの報酬が支払われる。

 

 その報酬の支払い場所は、『学区』でもオラリオでもなかった。

 

 オラリオから少々離れた東の広野(ひろの)。街道は近くになく、『王国』との戦争の舞台となることも多い広大な場所で、ベルとアイズは『残光』の習得に(はげ)むことになっていた。

 とは言っても、教える側であるレオンも理論立てて伝えられるわけではない。そもそもが、レオン自身、男神(ゼウス)女神(ヘラ)の眷族が使う様を盗み見て、見よう見まねで覚えた技なのだ。

 

 感覚でもって教えるしか、方法はない……そのはずだったが、世の中には抜け道というものがある。この場には、レオンが呼んだ『残光』習得のための特別講師が、追加でやってきていた。

 

 その講師とは、なんとオラリオを出禁になっている大神ゼウスであった。ここは、オラリオの外。ゼウス神がいても咎める者は誰もいない。

 そして、『学区』は現在、ゼウス神の滞在地である港町メレンに停泊している。

『学区』の停泊地に、ゼウス神が居る。それを知ったレオンはゼウス神とコンタクトを取り、『残光』に関する助言を求めたのだ。

 

 本来ならば、男の頼みなど聞くようなゼウス神ではない。

 だが、教える対象がベルとアイズの二人と知り、ゼウス神は素直にレオンの求めに応じた。

 

「まー、儂が編み出した技でもないんだが……それでも風と雷のことなら、儂、ちょっとは詳しいぞ?」

 

 大柄の老神が、そんなことを言って、ベルとアイズに助言をしていく。

 さすがは天空神にして雷神。ベルとアイズは神の御言葉に従って数度試すうちに、己の中で何かが噛み合うような感覚をつかんだ。

 

 そして、その時はすぐに来た。

 

「『残光』!」

 

 それは、雷交じりの光の斬撃。

 

「……『残光』」

 

 それは、風をまとった光の斬撃。

 

 見事、ゼウスの助言により、二人は『残光』を習得することに成功した。

 喜びを露わにするベルとアイズは、真っ先にゼウス神へ礼を述べた。

 

「ありがとう、お祖父(じい)ちゃん!」

 

「……ありがとう」

 

 すると、ゼウスは満面の笑みを浮かべ、調子よく言った。

 

「いやー、儂、教導の天才じゃね? いや、あっさり習得してみせた(ベル)も、天才だけど」

 

「……私は?」

 

「アイズちゃんは、大天才じゃ! 花丸あげちゃう」

 

 そうして、喜ぶアイズとベルの横で、レオンはポーカーフェイスを維持しながら、内心、とてつもない驚きに包まれていた。

 

 一筋縄では覚えられない絶技だと思っていた。

 だが、本家本元の使用者たちの主神にかかれば、こんなあっさりと習得できるものなのか。

 

 助言を頼んだときは、万が一にでも応じてくれればと思っていたが、こうも上手く事が進むとは。レオンは、想定以上の結果に、湧き上がってくる笑みを必死に抑えた。

 

 そうして、二人が『残光』を習得したならば次はどうするか。

 これに関して、レオンは一つ決めていたことがある。

 

 最終試練と称して、レオンはベルとアイズの二人に『残光』の撃ち合いによる戦いを挑んだ。

 

「……えっ、戦うんですか!?」

 

 ベルは、まさかのレオンの言葉に目を見張った。

 そして、再度レオンの意思を確認しても、彼の主張は変わらないままであった。

 

 レオンはその理由を告げる。かつて彼は、ゼウス神とヘラ神に『残光』についての訓示を得ていた。『残光』を奪い取った者と衝突し、高め合い、喰らうことで彼の『剣』は次の段階に進める、と。

 

「完全に私事だが、()の挑戦、受けてもらえるか?」

 

 それは、教師にあるまじき我欲の発露。

 しかし、その我欲にベルとアイズは応えた。

 

「……はい、それで、互いに強くなれるのであれば」

 

「……私も、強くなりたい」

 

 レオンの意志を尊重してのことではない。そうするほうが、自分たちも強くなれると考えてのことだった。

 

 それから、激しい戦いが広野で開始された。

 三人は三つ巴で『残光』を撃ち合い、相殺を繰り返しながらも、精神力(マインド)の限界まで光をその手につかみ続ける。

 

 広野が荒れ、草地が吹き飛ぶ。

 その戦いに巻き込まれないよう、三人を遠巻きにしながら、一柱(ひとり)、ゼウス神はつぶやく。

 

「やっべ、過去の儂、余計なこと言ったなぁ……死なないでくれよ」

 

 派手に光を放ち戦い続ける三人を見ながら、ゼウス神は神の身ながら彼らの無事を天に祈ることしかできないのだった。

 




以上で第八章の前半部は終了です。次回から、第八章の後半部、第一部の最終エピソードである『穢れた精霊』との決戦に進みます。
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