X国の元幹部だけどなんか質問ある? 作:逢瀬
バックアップにより蘇ったボンバーマンも私の力を認め、呻き声とも駆動音とも取れる音声を上げているストーンマンも同じく認めている。
サイコトランスミッションを終了させ、現実の体に戻った私を襲うのは猛烈な違和感。自らの肉体を動かす感覚がズレる気持ち悪さには慣れそうもなかった。
二度三度と深く呼吸を行い、揺れる視界がマシにはなるが……不快さは据え置きだ。
ディスプレイに映る三体の自立型ネットナビは訝しげに見てくるが、わざわざこちらの状態を説明してやる義理は無いのでそのままディスプレイを落とし、目を閉じた。
先の戦闘の反省点だが……結局のトドメは奇策のポルターガイストだった所か。あのチップは
主武装を二つとも晒した事については、隠し球は出していないから良しとしよう。バスターのバグでプラネットマンを侵し壊して持ってきたと向こうは判断するだろうし……実際、弱らせてからはバスターを乱発してバグでトドメを刺した。
記憶データは消し飛ばしたからそこから読まれる事は無い……筈だ。100%無いと言えないのは相手が"天才"のDr.ワイリーだからだ。
0から1や10を生み出すのが天才だ、何が飛び出してきてもおかしくは無い……ああ、腹が立つ。
ミシリと手の中のモデルVが軋む……だが軋むだけで壊れる気配は微塵も感じられない。
ある程度まで力を込めて、先に指が壊れそうになって力を抜いた。
忌々しいコレを放り捨ててしまいたいがそれをしたらおしまいだ。
モデルVと私は運命共同体なのだから。
ーーーーー
バイラスの言う通りに天才であるDr.ワイリーの力量を持ってしてもバグに侵されきったプラネットマンの思考データの復旧は困難を極めた。
プラネットマンの構築データに組み込まれながらも独立性を保っていた為にウッドプログラムにバグの影響が及んでいないのは不幸中の幸いと言えるだろう。だが、本体は最早虫食いだらけの穴だらけ……形を保っているのが奇跡とも言えるだろう。
暫くコンソールを叩いていたDr.ワイリーであったが、深い溜め息と共に削除コマンドを入力していく。
思考データの破棄が始まり、プラネットマンの中身は空っぽと言える状態となっていく……バグの量が多過ぎたのだ、それこそそのまま
その横で辛うじてサルベージ出来た記憶データの断片に残るのは赤い何かが迫り来る不鮮明な画像だ。確かなのはただ一つ、これがバイラスの切り札の一つなのであろうという事だけだ。
情報が足りな過ぎる事にDr.ワイリーは苛立ちを隠し切れずに舌打ちが出る、無人の室内に響いたその音は直ぐにサーバーの稼働音に掻き消される。
やがて、プラネットマンの思考データの破棄が終了したと同時にファラオマンがDr.ワイリーのPCへと姿を表す。
『総統』
「首尾はどうなっておる」
『これだ』
ファラオマンが差し出したのは自らの記憶データの一部、それを再生すればファラオマン視点ではあるがボンバーマンと謎のナビのネットバトルが流れ始める。
ボムの雨を相殺するのはバスターの嵐、爆風を裂いて何発かはボンバーマンに命中するがダメージは皆無……だが、命中した直後からボンバーマンの構成データにノイズが走り始めたのをDr.ワイリーは見逃さなかった。
「バグか」
『複数の効果が練り込まれた物……この直後にバグで暴走したボンバーマンによる無差別爆撃が起こったが被害は0、それから数秒後にバグ修正が入る』
「フン、効果を欲張ったからバグ自体の強度を犠牲にしたという訳じゃな。詰めが甘い」
口ではそう酷評するがその目は真剣そのもので、謎のナビの一挙手一投足を見逃すまいと映像に神経を傾けている。
そしてバグ修正の隙に起きた【フミコミザン】らしき攻撃を途中で止めて【ステルスマイン】を回避した姿に映像を一度止める。
「不可解な回避じゃな、オペレーターによる指示としても予兆が見えてからの反応が早すぎる……」
『……奴にオペレーターはいない。アレは奴……バイラス本人だ』
Dr.ワイリーの片眉が不可思議に対して跳ねる。
現実世界の人間が電脳世界に現れることはありえない。だが、そのありえないを超える手段が無くもない。
「パルストランスミッションか……じゃがその設備はあの部屋には無かった筈じゃ」
『否、奴はこう言っていた……"サイコトランスミッション"と』
一瞬の間の後に起きたのは部屋全体に響き渡る程の哄笑。
狂気を孕んだソレの発作はDr.ワイリーには良くあること故にファラオマンはその発作が治まるまで沈黙する。
やがて、笑い声は消えた物の凶悪な笑みを浮かべたままのDr.ワイリーが冷静さをかなぐり捨てたかのように感情を露わに語り始める。
「サイコトランスミッション!奴めとんだ過去の失敗作を引っ張り出しおったな!身一つでプラネットマンをNAXAから奪ったのにはカラクリが有るとは思っておった!違うんじゃよ、
『……サイコトランスミッションとはなんだ?』
ファラオマンがそう問い掛けるとまだ居たのかと言わんばかりの視線を向け、熱狂から覚めたDr.ワイリーが近くにあった椅子に腰掛ける。
「前提としてパルストランスミッションの事は知っておるな?」
『特殊な機材により、人間の精神をデータとして抽出して電脳世界に送る物……だな』
「凡そその認識であっておる。代償としてナビよりも圧倒的に脆く、プラグインした場所まで行かねばプラグアウト出来ないという物がある……サイコトランスミッションはその代償二つを克服する為に開発された物じゃった」
そう言うDr.ワイリーの脳裏に一人の男が不意に思い出される。
自分よりも年を重ねたその男は天才と呼ばれていた自分や
その男の名は確か……
「Dr.バイル……バイラス、そうか奴の息子か」
『総統?』
「話を戻そう。そのサイコトランスミッションは致命的な欠点があったのじゃ。メットールにすら一撃で葬られる可能性がある程の脆さは無くなったがそれでも電脳世界でデリートされる事が有る。パルストランスミッションでは精神データが破損し、そのまま目覚めなくなる……が、サルベージに成功すればまた目覚めることが出来る。しかし、サイコトランスミッションではデリートはそのまま死を表すのじゃ」
そしてもう一つの致命的欠点……それを口には出さずにただ目を細めるDr.ワイリー。
わざわざ言う必要も無く、周りに吹聴してやる事でもない……悪では有るし、目的の為ならば例えどれ程の被害が出ようとも手段を選ばないのが彼ではある。だが、意味も無く他者の秘密を言いふらす程にはまだ堕ちてはいなかった。
深く息を吐き、止めていた映像を流し見るも流れるようなボンバーマンの最期をどこかつまらなそうにする。
「爆弾だけではやはり無理があるようじゃ」
『生まれ変わらせるのか?』
「新しい装備を増やすよりも根本から作り替えた方が早い……まあ、おいおいじゃな」
ボンバーマンの転生フラグが立ちました……転生先は多分、察しがつくと思います