悪魔の孫は時の王者となって世界最強 NEXT TIME 作:MTHR
アンケートの結果、一番票が入ったのはタバサ(六票)でした。その次がルイズ(5票)で、アンリエッタとカトレアが同率(4票)、その次がキュルケ(1票)でした。
ゼロの使い魔編の追加ヒロインは、キュルケ以外の誰かを採用するつもりです。
今回はアンリエッタ登場回です。
ルイズは夢を見た。
トリステイン魔法学院に入学する前の、まだ家で貴族の教育を受けていた頃の夢を。
──ルイズ!?ルイズ、どこに行ったの?ルイズ!まだお話は終わっていませんよ!
幼いルイズは今、母と召し使いから逃げていた。
優秀な姉達と魔法の成績を比べられ、物覚えが悪いと叱られていた最中逃げ出したからだ。
──上のお嬢様はあんなに魔法がおできになるって言うのに……
──貴族なのに魔法が使えないなんてね……
使用人達の陰口から逃げるように、ルイズは『秘密の場所』と呼ぶ中庭の池へと足を運ばせる。
今は誰も使わなくなった小舟に乗り、予め用意してあった毛布に身をくるんで蹲るルイズ。ゆっくりと池の上を進んでいく船に揺られて心を落ち着かせていたルイズに、突如として声がかけられた。
「泣いているのかい?ルイズ」
顔を上げると、そこにらフードを纏い、帽子を被った青年がいた。この時のルイズはまだ6~7歳程の年齢のため、目の前の青年とは10歳程は離れているだろう。
「子爵さま、いらしていたの?」
「今日は君のお父上に呼ばれてきたのさ、あのお話のことでね」
「まあ!」
それを聞いてルイズは頬を赤く染めうつむく。
「いけない人ですわ。子爵さまは……」
「ルイズ。ぼくの小さなルイズ。きみはぼくのことが嫌いかい?」
「いえ、そんなことはありませんわ。でも……わたし、まだ小さいし、よくわかりませんわ」
ルイズの言葉を聞いた青年は笑い、ルイズに手を差し出した。
「子爵様……」
「ミ・レィディ。手を貸してあげよう。ほら、つかまって。もうじき晩餐会が始まるよ」
「でも……」
「また怒られたんだね?安心しなさい。ぼくからお父上にとりなしてあげよう」
ルイズは差し出されたその手を取ろうとする。
その時、小舟の上を大きな風が襲い、青年の帽子を吹き飛ばした。
「なっ!!?」
いつの間にか16歳の姿に戻ったルイズが、目の前に立つ男の全容を目にして、思わず目を見開いた。
目の前に立っていたのは、子爵ではない。
『………』
──そこに立つのは、荘厳な王であった。
全身が黒と金で統一された、身を包む華美な鎧。
右胸には懐中時計を模したパーツが6つ付いており、肩からは黄金の勲章をかけており、背中には時計の長短針を模したプレートによって構成される大時計がマントの様に装着している。
顔はクロノグラフ付の時計風で、ルイズには読めないが、カタカナで『ライダー』の文字を描いた複眼の形状は翼を広げた鳥のよう。
文字盤部分は幾つもの小さく高精細な『王』の文字が並んだ柄になっている。
その姿は、正しく『王』と呼ぶに相応しい存在であった。
「なっ……なっ、何なのよ……貴方は……ッ!?」
目の前に立つ王の威圧感に、視線を向けられていないにも関わらず恐怖を覚えるルイズ。自分が立っている場所は、ヴァリエール家の屋敷の秘密の場所ではなく、殺伐とした広野に移り変わっていた。
『王』は悠然と広野を歩く。
その王の背後には、巨大な石像が建てられていた事に気づいたルイズは、その石像を見上げる。
中央に立つ銅像を守るように、25体の仮面と鎧に身を包む戦士達の銅像が円陣を成している。その中心で、巨大な時計を背にして構えを取る銅像を見て、ルイズは再び驚愕する。
「スズキイルマ…初変身の像……!?なんなのよ、これ……!?」
その銅像に刻まれた文字を読めないはずなのに、何故かルイズはこの銅像の題名を理解することが出来た。
そう、そこに建てられていた銅像は自信の使い魔、鈴木入間を精密に象った銅像だったのだ。自身の知る使い魔の姿よりも若干若く、腰に奇妙なベルトを巻いているが、間違いはなかった。
──ウォォオオオオオオオオオオッ!!!
ルイズがその銅像を凝視していたその時、殺伐とした広野に雄叫びと轟音が聞こえてきた。
ルイズが振り替えると、その視線の先には、無数の武装集団が、あるものは以前入間が見せたサイドバッシャーと似たような鉄の馬に乗り、あるものはかなり大きな銃のような物を手にしている。その背後には、フーケのゴーレムにも匹敵する体躯を持つ、何百体もの鉄製のゴーレムが同じように突撃してくる。
ルイズは怯えたように身を強張らせる。魔法が使えず他者からバカにされ続けたとはいえ、裕福で平穏な人生を過ごしてきた彼女が、鬼気迫る勢いで突撃する武装集団を見て、平常心でいられるはずがない。
彼等の目に、ルイズの事など映っていない。全て、ルイズの背後にいる王しか映っていない。
ルイズが恐怖に目をつぶった、その時だった。
『……はぁっ!!』
王が手を振り上げる。
その瞬間、武装集団達の雄叫びは、一瞬にして悲鳴と断末魔に変わった。
ルイズは目を開けると、絶句してしまった。
ルイズの失敗魔法とは比べ物にならない爆発が、次々と武装集団を呑み込み、屍へと変えていたのだ。
そこから先は、正に地獄絵図だった。
人々は爆発に呑まれながらも、僅かに生き残った者達が果敢に王へと突撃するが、王に触れることも出来ず、爆炎にその身を焼かれて物言わぬ屍へと変えられる。
遠くから、武装集団が大きな筒のようなものを抱え、煙の尾を引きながら何かを飛ばしてくるが、王の摩訶不思議な力で制止してしまう。
鉄製のゴーレムが王を押し潰さんと雪崩れ込んでくるが、王はまるで赤子の手を捻るようにゴーレムを投げ飛ばし、原型も留めぬほどに破壊していく。
やがて、王は手を突き出す。
その瞬間、世界が静止した。
人々の断末魔も、ゴーレムの激震も、空を飛ぶ何かも、全てが静止した世界のなかで、王は静かに口を開いた。
『人間が、この私を倒すことなど不可能だ。何故か分かるか?』
王が拳を握りしめる。
黒い波動が波紋のように広がり、全てが消えた。
人々もゴーレムも、全てが塵となって虚空へと消えていく。
「あ……あぁ……」
最早ルイズは、怯えることしか出来なかった。
全てを塵も残さずに消した王は、巨大な銅像の前の玉座に向かって歩き出す。
『“人間”は、“悪魔”にとって………“餌”でしかないからだ』
その言葉と共に、王は玉座に座る。
黒と金の鎧が消え、そこから大きなマントを羽織った男の姿が露になる。
逆光が指していて、ルイズにはそれが見えなかった。だが、何故かその顔に、ある人物の姿が重なり、ルイズは無意識に呟いていた。
「………イル……マ……?」
ルイズは飛び起きるように目を冷ました。
辺りを見渡せば、そこはいつもの自室のベッドの上だった。
「なんだったのよ……あの夢……」
起きても鮮明に思い出せる夢に、ルイズは訳が分からないというように頭を振る。ネグリジェは汗でびっしょりだ。
その時、ルイズの部屋の窓から、一人の男が飛び出した。その光景にもなれていたルイズだが、突然の事なのでビクッとする。
「あれ?今日は早いね」
それは、ルイズの使い魔である入間だった。
ユエ達が来てから、彼は寝場所をミラーワールドに変え、ルイズが就寝につくまで部屋に待機し、それが終わればミラーワールドにはいって眠る。朝になったら入間達の誰かがルイズを起こしにいくのだ。
入間は「いつもそうだったら良いんだけどね~」と呑気に呟きながら、部屋に脱ぎ散らかされたルイズの服を籠に積めると、窓から飛び降りて洗濯場へと向かっていった。
部屋に一人残されたルイズは、消えていった入間の背中と、夢の中で見た光景を思い返して、まさかというように呟いた。
「あの鎧の男ってもしかして………いや、まさかね……」
考える事を止めたルイズは、着替えるためにベッドから立ち上がった。
そうして、ルイズに同行して、入間とユエとミレディが教室にやって来た。
元々、魔法や魔術の勉強が好きな三人は、未知の世界で発展した魔法を学ぼうと積極的に授業を聞いている。アメリ達も参加することはあるが、今の彼女達はルーン解除手段の研究や一宿一飯の義として食堂の手伝いをしたりとで、この場にはいない。
すると、今日の授業を担当するミスタ・ギトーが現れた。
長い黒髪に漆黒のマントといった黒ずくめの不気味な雰囲気を纏っており、授業が始まれば自身の系統最強説を語るため生徒たちに人気がない教師だ。
「では、授業を始める。知っての通り、私の二つ名は“疾風”。疾風のギトーだ」
教室中がシーンと静まり返る。
その様子を満足げに見つめ、ギトーはキュルケに声をかけた。
「最強の系統は知っているかね?ミス・ツェルプストー」
「“虚無”じゃないんですか?」
「伝説の話をしているわけではない。現実的な答えを聞いてるんだ」
「“火”に決まっていますわ。ミスタ・ギトー」
「ほほう。どうしてそう思うね?」
「全てを燃やしつくせるのは、炎と情熱。そうじゃございませんこと?」
「残念ながらそうではない」
ギトーは腰に差した杖を引き抜くと、言い放った。
「試しに、この私にきみの得意な『火』の魔法をぶつけてきたまえ」
キュルケはギョッとした。今は授業中だ。基本的に攻撃魔法である火の系統魔法を使えというギトーの挑発に、キュルケの眉が吊り上がる。
「どうしたね?君は確か“火”系統が得意なのではなかったのかな?」
「火傷じゃ……すみませんわよ」
「構わん。本気で来たまえ。その、有名なツェルプストー家の赤毛が飾りではないのならね」
ギトーの挑発に乗ってキュルケが呪文を唱え始め、直径1メイルほどの火球をつくりあげると、ギトー目掛けて炎の球を押し出した。
ギトーは自身目掛けて迫り来る炎の球を避けるどころか、杖を横振りに薙ぎ払う。烈風が舞い上がり、炎の球はかき消え、その向こうにいたキュルケをぶっ飛ばした。
静まり返る教室を見て、ギトーは悠然とした態度を崩さず喋り続けた。
「諸君、“風”が最強たる所以を教えよう。簡単だ。“風”は全てを薙ぎ払う。火も水も土も、風の前では立つことすら出来ない。残念ながら試したことは無いが、“虚無”さえ吹き飛ばすだろう。それが“風”だ」
キュルケが不満そうに肩を竦めるがギトーは気にした風もなく言葉を続けようとした時、ポツリと可憐な声が教室に響いた。
「……小さい男」
その声の主は、ユエだった。
彼女は別に聞かせるつもりはなかったのだが、教室が静まり返っていた為、やけに明瞭に響いた。
青筋を浮かばせるギトー。そこへ、間に入間を挟んで、ミレディがユエに話し掛けた。ユエと違って、とびきりウザいニヤニヤした表情で、わざと聞こえるように。
「あっ、やっぱりユエちゃんもそう思う?あの人って教師だよね?なら魔法も技術も学生でしかないキューちゃんより強いなんて当たり前なのに、なんで生徒を吹っ飛ばしたくらいで得意気なんだろうねぇ~?あれじゃあまるで弱いもの苛めみたいで逆に大人気なくてカッコ悪いよねぇ~?ねぇねぇ、あの人今どんな気持ちかな?女の子に手を上げていい気になる人ってどどんな気持ちになるのかな~?きっとミレディさんには一生分からないんだろうなぁ~!誰か教えてくれないかなぁ~、プギャァー!!」
「放っておきなよ。あの程度の微風で子供を吹っ飛ばしていい気になるなんて、公園で幼児から砂場を占拠して威張り散らしてる小学生と同レベルなんだし。ここは大人の対応をして話を聞いてあげればいいんじゃない?」
「「ブフォッ!」」
全力でギトーを煽るミレディをあしらうように入間が呟くと、ミレディとユエは思わず噴き出してしまう。
ギトーは煽られまくって完全にキレたのか、実力行使に移ろうと杖を構えた時、教室のドアが勢いよく開かれた。
「あやややや、ミスタ・ギトー!失礼しますぞ!」
「授業中です」
入ってきたのは、コルベールだった。しかし、普段は光を放っている頭はばかでかい金髪ロールのカツラによって隠され、ローブの胸にはレースの飾りやら刺繍やらが躍っている。
「おっほん。今日の授業は全て中止であります!」
教室中から歓声が上がる。コルベールは、それを抑える様に両手を振りながら言葉を続けた。
「えー、皆さんにお知らせですぞ」
もったいぶった調子で、コルベールはのけぞる。のけぞった拍子に、カツラが取れ、床に落ちた。
「……ツルツルで、滑りやすい」
タバサがポツリと呟くと、教室が爆笑に包まれる。入間とユエはどうとも思わなかったが、ミレディは腹を抱えて机の上をバシバシと叩いている。
「黙りなさい!ええい!黙りなさいこわっぱどもが!大口を開けて下品に笑うとは全く貴族にあるまじき行い!貴族はおかしいときは下を向いてこっそり笑うものですぞ!これでは王室に教育の成果が疑われる!」
コルベールが顔を真っ赤にして大声で怒鳴る。
普段見ないその剣幕に、教室中が静まり返った。
「えーおほん。皆さん、本日はトリステイン魔法学院にとって、よき日であります。始祖ブリミルの降臨祭に並ぶ、めでたい日であります」
コルベール先生は横を向くと、後ろで手を組み言葉を続ける。
「恐れ多くも、先の陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸なされます!したがって、粗相があってはいけません!急な事ですが、今から全力を挙げて、歓迎式典の準備を行います。その為に本日の授業は中止。生徒諸君は正装、門に整列すること、いいですな?」
生徒達は、緊張した面持ちになると一斉に頷いた。
王女になどまるで興味がない入間は、式典には参加せず、同じように行く気がなかった恋人達と共に図書館から拝借した本に目を通していた。
そうしている間にもすっかり日が落ち、ユエ達は入浴のためにミラーワールドに戻り、一緒に入ろうと連行されそうになった恋人達から必死に逃げてきた入間はルイズの部屋に戻ってきた。
部屋に入ると、そこではベッドの上でボーッとしているルイズがいた。しかし、特に興味がなかった入間は椅子に腰掛け、黙々と持ってきた本を読んでいた。
トントンとドアを叩く音がした。それを聞いて、止まった時が動き出したかのようにルイズが跳ね上がると、慎重な顔つきで扉を開けた。
「………?」
入ってきたのは、黒いフードを被った人物だった。そそくさと部屋に入り、ゆっくりとドアを閉める。一見すると物凄く怪しいその人物は、杖を取り出し何事かを唱え始めた。すると辺り一面、光の粉が宙を舞い始める。
「ディテクトマジック?」
「どこに耳が、目が光っているかわかりませんからね」
そのまましばらくの間注意深く周囲を探っていたが、やがて何もないと分かると、新たにやってきたその人物はフードを取った。
その顔を見て、ルイズと剣心は驚きの表情をした。
「姫殿下!!」
「お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ」
フードの中から現れたのは、トリステイン王国王女【アンリエッタ・ド・トリステイン】であったのだ。しかし、入間は椅子に座ったまま、ペラペラと本に目を通していた。
「イルマ!姫様の御膳よ!頭が高いわ!!」
ルイズが叱責を飛ばす。
その声が鬱陶しいのか、入間はアンリエッタに視線を向けた。
「………はぁ~」
そして、大きく溜め息を吐いたあと、再び本に視線を下ろした。
「申し訳ございません姫殿下!コイツのご無礼をお許しください!」
ルイズがあわてて謝罪する。
「ルイズ、そんな堅苦しい行儀は止めてちょうだい!貴女と私はお友達お友達じゃないの」
「勿体ないお言葉でございます、姫殿下」
「やめて!ここには枢機卿も、母上も、あの友達面をして寄ってくる欲の皮の突っ張った宮廷貴族たちもいないのですよ!ああ、もう、わたくしには心を許せるお友達はいないのかしら。昔馴染みの懐かしいルイズ・フランソワーズ、貴女にまで、そんなよそよそしい態度を取られたら、わたくし死んでしまうわ!」
「姫殿下……」
そうして、二人の話が始まる。
どいやら二人は幼馴染みの関係だったらしく、幼い頃の話を楽しげに交わしていた。
「結婚するのよ。わたくし」
すると、アンリエッタが低いトーンでそう告げると二人の会話のテンションが急に下がった。だが、入間には、アンリエッタのその言葉がわざとらしく感じていた。
「………おめでとうございます」
沈んだ声で告げられた結婚報告が望んだものでないことは確実だ。それに答えるルイズの声も自然と暗くなる。
「あ…そういえばごめんなさいね…お邪魔だったかしら…?」
「お邪魔?どうして?」
「恋人でしょ?」
アンリエッタの悪意がない素の発言に、ルイズは慌てて腕をぶんぶんに振って否定の言葉を述べる。
「ち、違います!ただの使い魔です!」
入間からアンリエッタに向かって放たれる殺意を感じる。何か仕出かす前に前に否定しなくてはと、ルイズは全力で否定した。
「そ、そうなの……ごめんなさい。ルイズ・フランソワーズ、貴女って昔からどこか変わっていたけれど、相変わらずね」
「好きでアレを使い魔にしたわけじゃありません」
「なら今すぐにでも契約解除するために君を殺してあげようか?」
その時、今までアンリエッタの存在を無視し続けて来た入間が初めて口を開いた。
「ちょ!どっどういうことよ!」
入間が本気で言っていると感じたルイズがつっ掛る。
それを見て、アンリエッタが再びため息をついた。
「姫様、どうなさったのですか?」
「いえ、なんでもないわ。ごめんなさいね……。いやだわ、自分が恥ずかしいわ。あなたに頼めるようなことじゃないのに……わたくしってば……」
(なら話さなければ良いのに……)
わざとらしい仕草ではぐらかすアンリエッタを見て、入間は目を細める。案の定、ルイズはアンリエッタに駆け寄って声をかけた。
「おっしゃってください。あんなに明るかった姫様が、そんな風に溜め息をつくということは、何か大きなお悩みがおありなのでしょう?」
「いえ、話せません。悩みがあると言ったことは忘れてちょうだい、ルイズ」
「いけません!昔はなんでも話し合ったじゃございませんか!私をお友達と呼んでくださったのは姫様です。そのお友達に、悩みごとの解決を託せないのですか?」
「わたくしをお友達と呼んでくれるのね……ルイズ・フランソワーズ。とても嬉しいわ」
アンリエッタは決心したかのように頷いて、語り始めた。
「今から話すことは、誰にも話してはいけません」
現在、外国のアルビオン王国ではこれまで王家に従ってきたはずのアルビオンの貴族達は王家に牙を向き、内乱が勃発しているという。
反乱軍が勝利を収めたら、次はトリステインを攻めてくることが予測されるために、トリステインは隣国のゲルマニアとの同盟を画策しているらしい。
その同盟の条件としてアンリエッタとゲルマニアの皇帝の結婚があるのだという。いわゆる政略結婚だ。
アンリエッタ自身はそれを望んではいないが、王族としての責務を果たすべくその結婚を受け入れるのだそうだ。
「なんてこと……あの野蛮な成り上がりどもの国に、姫様が嫁がなければならないなんて……!」
「仕方がないの。トリステインの未来のために、同盟を結ぶためなのですから……」
(だったら態々ここに来てまで良いに来る必要ないでしょ……)
入間の視線はどんどん険しくなるが、そんな様子に気付かないまま、二人の会話は続いていく。
アルビオンの反乱軍も、トリステインとゲルマニアの同盟は好ましく思っていないため、婚姻を妨げるための材料を血眼になって探しているのだという。
「では、もしかして、姫さまの婚姻を妨げるような材料が…?」
「おお、始祖ブリミルよ……この不幸な姫をお許しください……」
アンリエッタが顔を両手で覆い、床に崩れ落ちる。
(……これなら、リリアーナの方がマシだね)
最早、入間はアンリエッタに嫌悪感しか感じていなかった。厳しい目でアンリエッタを見ている。
アンリエッタによるとアルビオンの皇太子【ウェールズ・テューダー】という人物に送った手紙があるらしく、それが明るみになった場合即座に結婚は破談になり、トリステインは一国でアルビオンの反乱軍と戦わねばならなくなるらしい。
「ああ!破滅です!ウェールズ皇太子は、遅かれ早かれ、反乱軍に囚われてしまうわ!そうしたら、あの手紙も明るみに出てしまう!そうなったら破滅です!破滅なのです!」
「では、姫様、私に頼みたいことというのは?」
「無理よ、ルイズ!わたくしったら、混乱しているんだわ!考えてみれば、貴族と王党派が争いを繰り広げているアルビオンに赴くなんて危険なこと、頼めるわけがありませんわ!」
「……」
それが狙いだったか……と、入間はアンリエッタの意図を察して、ゴミを見るような目を彼女に向ける。
それから先の展開は、あまりにも入間の予想通りだった。
「何をおっしゃいます!たとえ地獄の釜の中だろうが、竜のあぎとの中だろうが、姫様の御為とあらば、何処なりと向かいますわ!姫様とトリステインの危機を、ラ・ヴァリエール公爵家の三女、ルイズ・フランソワーズ、見過ごすわけにはまいりません!このわたくしめに、その一件、ぜひともお任せください!姫様!このルイズ、いつまでも姫様のお友達であり、理解者でございます!永久に誓った忠誠を、忘れることなどありましょうか!」
「ああ……ルイズ。ルイズ・フランソワーズ!!私の力になってくれるの?ああ、なんという忠誠と友情!!今日の感動をわたくし、一生忘れませんわ!!」
互いに暑く抱擁をかわす。
入間は最早聞く価値もないと判断したのか、もうこの際ユエ達に掴まっても良いからこの場から離れようとした時、タイミング悪くアンリエッタが声をかけてきた。
「頼もしい使い魔さん」
「……」
嫌悪感に満ちた目でアンリエッタを見る入間。それに気付かないアンリエッタは、入間に向けて微笑んだ。
「ルイズの事を、どうか守ってくださいね」
「断る」
躊躇いなく、入間はアンリエッタの言葉を切り捨てた。
ポカンと口を開けるアンリエッタに目にしながら、入間は冷たい目で見ながら口を開く。
「さっきから聞いてれば……くだらない。“ご主人様とペット”でしかない自分達の関係を“友情”って嘘をつくのも、その“友情”を利用して、その“友達”を自分の不始末の尻拭いをさせようとしてる。その上、自分が出した依頼のリスクも分かってない……。トリステインの可憐な一輪の花とか言われてたけど、君の二つ名は“疫病神”がお似合いだよ」
「なっ……!?」
「イルマ!姫様になんて事を!!」
入間の嘲笑に絶句するアンリエッタと、怒りを露にするルイズ。
しかし、入間は目に宿した温度を変えないまま、チラリとルイズに視線を向けながら、アンリエッタに告げた。
「彼女は学生の身だよ?しかも、実戦どころか戦闘訓練すら皆無の一学生にすぎない。そんな彼女に国の行く末を左右する任務を与えるなんて、仮にも為政者が……いや、マトモな思考を持つ人間がやることとは思えませんね?」
「そ、それは……私には、ルイズ以外に信用が出来るものがいなくて……」
「違う」
アンリエッタの言葉を遮る。
「君が彼女に抱いてるのは“信用”じゃなくて“信頼”だよ。けど、“友情”に対する信頼じゃない。“忠誠心”に対しての信頼だ。彼女なら、君がどんな依頼を出しても拒まないし裏切らないって“信頼”してたんだ。忠誠を誓う相手の不幸を、彼女が見過ごせる筈がない。だから、君はここに来たんでしょう?自分にとって都合の良い“道具”として、彼女を君の保身の為に利用しようとしてね……」
「違う……私は……」
「イルマ!!いい加減にしなさい!!!」
そこへ、ルイズが憤怒の形相で入間につめよった。杖を向けられているが、入間は微塵も動じない。寧ろ、呆れたような目でルイズを見ながら口を開く。
「君さぁ……自分の立場わかってるの?」
「何よ!私が学生だから出来ないって言うの!?私は姫様のためなら、どんな危険な任務だろうと達成してみせるわ!!」
「これはフーケの時とはレベルが違う。魔法をコントロールできない、フーケのゴーレムに対しても何も出来なかった君がアルビオンに向かったところで、出来ることは何もない」
「ッ!」
入間は、アンリエッタのために何かをしたいというルイズの気持ちが分からないわけではないし、否定する気もない。だが、“思い”だけでまかり通るほど、現実は甘くないことも理解している。
「君がアルビオンまで死にに行きたいなら、僕も何も言わなかったよ。自殺願望者を止める義理なんてないからね。けど、任務を達成する気でいるなら警告するよ。君がどう言おうと、君には何も出来ない。皇太子のもとにたどり着く前に死ぬ。君がどれだけ意気込んでいても、それが現実だよ。その上、君が死ねば君の実家は王室と深刻な溝が出来る事になるよ。君がこの依頼を受けるのは、デメリットでしかないんだよ」
「……ッ!」
ルイズは入間を睨み付けながらも、反論出来なかった。
入間な言葉には、クラスメイト達のような嘲笑など微塵もないことに気づいたからだ。入間は客観的な事実をもとに、ルイズには達成できないと言っているのだ。意味もなく出来ると言い張っても、論破されて終わりなのは目に見えていた。
入間は再びアンリエッタに視線を向ける。怯えたような少女に、入間は微塵も罪悪感を抱いた様子もない。
「この国の王族は呆れたよ。仮にも王族が、人の善意に漬け込んで保身の為に利用して、内乱を起こすきっかけを作ろうとするなんて……しかも、自分がやってる事がどういうことなのかも自覚していない。まさに君は疫病神……」
「黙りなさいっ!」
入間の言葉に耐えきれなくなったように、目に涙を溜めながらアンリエッタが叫んで入間の声を遮りながら、杖を突き付ける。
「これ以上の侮辱は赦しませんっ!それでも続けるなら……っ!!」
アンリエッタの言葉が止まる。
入間が、ゆっくりと自身に向かって歩いてきたからだ。入間は歩いているだけで、何もしていない。殺気も放っていない。しかし、杖を突きつけられているにも関わらず、悠然と歩く入間の姿に、アンリエッタは未知なる恐怖を感じていた。
「君に致命的に足りないものを教えてあげる。それは“意思の強さ”だよ。王族としての使命を果たすための意思も、己の“欲”の為に動こうとする意思も、何もかも薄弱なんだよ。そんな人が可哀想な自分アピールしてきても、第三者からすれば滑稽でしかないんだよ。自分の周りの状況を変えたいなら、せめて自分の手で何かするくらいはしてみたら?」
そう語る入間の脳裏に映るのは、自身の仲間達だ。
己の意思で入間と共に歩む道を選んだユエ、野望のためにどんな困難も打ち破るアメリ、望む未来の為に最弱種族から英雄となったシア、人の可能性を信じて何千年も迷宮の奥で待ち続けたミレディ、両親を殺した多種属や神への憎悪を自覚しながらも高潔な生きざまを見せるティオ、生徒を守るために必死に足掻き続けようとする愛子、死にかけても根性をみせて立ち上がった優花、野望を掲げて堂々と成長していくチマ。そして、あらゆる理不尽を楽しみ、乗り越えてきたことで困難を乗り越えてきたクラスメイト達。
彼女達の意思の強さを誰よりもみてきた入間には、アンリエッタから彼女達と同じものを感じなかったのだ。
「っ!…わ、私に、何が出来るというのですか!?何の力もない私が何かしたところで、何も変わるわけが……」
「力はなくても、意思はある。自分のため、誰かのため、欲のために、足掻いて足掻いて足掻き続けていれば、何かが変わる。勿論、何も変わらないまま終わることもある。未来は何時だって誰にも分からないんだからね。けど、これだけはハッキリと言える……」
入間は一度口を閉じると、絶対零度よりも冷たい目でアンリエッタを見据えて、言い放った。
「自分の手で何もしようとしない人に、望み通りの未来なんて訪れる筈ないんだよ」
その言葉を聞いて、アンリエッタは顔を手で覆って膝をつき、泣き出してしまった。
「イルマ!!あんた姫様になんて事を!!!」
「僕が言っている事も理解できないなら、君は正真正銘のバカだね」
ルイズの激しい怒りを向けられても、蚊に刺された程度にも感じない入間はそう答える。遂にルイズの怒りが爆発し、入間に飛び掛かろうとした時、涙を流し続けていたアンリエッタの声が聞こえてきた。
「……やめて、ルイズ……」
「姫様……!?」
「その方の言う通り……私は心の何処かで、貴方を利用しようとしてここに来た……そして、トリステインにとんでもない厄災を招こうとした……私の不幸を餌にして、貴方の心を踏みにじった事を……どうか許してください……!」
「何を仰いますか姫様!私と姫様はこの先もずっとお友達でございます!」
「あなたは、まだ私を友と呼んでくれるのですか…?ありがとう、ルイズ……」
アンリエッタの肩を掴んで必死に慰めるルイズ。
そして、ルイズは入間をキッと睨み付けるが、先程言われた言葉を思い返すと、悔しげに歯を食い縛りながらも、入間を見据えて口を開いた。
「それなら……アンタも手を貸して」
「……自分で任務を受けておきながら他力本願のつもり?」
「違うわ。私には任務を達成できないのは分かった…!でも、たとえ戦えなかったとしても、姫様のために何かしたいの!!」
そう言われて、入間はあることを考える。
正直、使い魔であろうと、入間は自分から戦場に乗り込む気など欠片もなかった。
しかし、アルビオンが内戦の真っ只中にいるという事を聞いて、一つの懸念があった。入間の愛娘、ミュウだ。“導越の羅針盤”で、今はアルビオンにいる事は把握しているが、流石に羅針盤ではミュウの状態を確認する事は出来ない。使い魔として自由行動が難しい今、ルイズの都合でアルビオンに赴けるのなら、その手段を取らない手はない。
「(任務は二の次でいい。ユエ達も連れていって、メンバーを分ければ彼女の身の安全は保証できる……)まぁ、暇潰しにはいいかもね」
「ちょ~~っと待ったぁ~~~~!!!」
そう言うのと同時にドアから勢いよく開き、何者かが転がり込んで来た。少し前に入間と決闘騒ぎを起こした生徒、ギーシュである。
意外な乱入者に、ルイズとアンリエッタは驚く。入間は最初から気付いていたのだが、特に言う気もなかった為、興味はないというようにソファーに座った。
「姫殿下! その困難な任務、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンにも仰せ付けますよう!!」
「あんた、今の全部聞いてたの!?」
「もちろんだよ!姫様が君の部屋に入るのが見えたんでね!君の使い魔の失礼な発言の時に入ろうと思ったけど、串刺しにされた僕が脳裏に浮かんだからね……だからタイミング的に今だと思ったんだ!」
「えと…あなたはグラモン…あのグラモン元帥の…?」
我にかえったアンリエッタがギーシュに話しかける。
「息子でございます。姫殿下!任務の一員に加えて下さるなら幸せでございます!」
「貴方も、わたくしの力になってくれるというの?」
「任務の一員に加えてくださるなら、これはもう、望外の幸せにございます」
「ありがとう。お父様も立派で勇敢な貴族ですが、貴方もその血を受け継いでいるようね」
そう言うとアンリエッタはギーシュに向かい二コリと笑い、すぐに表情を改める。
「ではルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、ギーシュ・ド・グラモン。二人に我が国トリステイン、ゲルマニア帝国両国との同盟の憂いとなる、密書の回収の任を命じます」
「「はい!その任確かに承りました!」」
その場に跪いて答える二人を、入間は白けた目で見ていると、アンリエッタが視線を向けている事に気づいた。
「あの……使い魔の方……」
「……何?」
「貴方の言う通り……私はルイズを友達と思わず、道具のように利用しようとしていたのかもしれません……貴方に言われなければ、私は自分の心も、ルイズとの友情も裏切ってしまうところでした……貴方にこんなことを頼むのはお門違いかもしれませんが……どうか、二人を守ってください……」
深く頭を下げるアンリエッタを一瞥し、入間何も答えずに踵を返し、窓ガラスに向けて飛び込み、ミラーワールドへと姿を消していった。
次回予告
ワルド「魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドだ」
愛子「婚約者!?」
ルイズの婚約者!?
入間「さて、行こうか」
アンリエッタ「祈りましょう。異世界から吹く風が、アルビオンに吹く風に負けぬことを」
EP14「閃光とともにmission start!」
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