悪魔の孫は時の王者となって世界最強 NEXT TIME 作:MTHR
ギーシュ冷遇気味ですので、ご了承下さい。
翌日、朝靄の中、学院の正門前でルイズ達は学院の前で準備をしていた。正門の前にいるのは、ルイズとギーシュ、そして入間と、入間の8人の恋人達だ。
「あの、君達?君達はなんで馬を用意しないんだい?ラ・ロシェールまで行くんだろう?まさか、歩いていく気じゃないだろうね?」
馬に鞍をつけたギーシュがそう尋ねてくる。
入間達は何を言っているのかと首をかしげたが、そう言えばギーシュは知らなかった事を思い出すと、入間が口を開いた。
「時間がかかりすぎるんだから、馬なんて使わないに決まってるでしょ……これを使う」
そう言うと、髪を後ろで束ねて黒い手袋をつけた入間は、宝物庫から、幾つものマシンを取り出した。
時計を模した装飾のあるバイク──“ライドストライカー”、ゲームキャラクターのような顔がある黄色いバイク──“仮面ライダーレーザー・バイクゲーマーレベル2”、黒いボディにユニコーンのような造形のバイク──“マシンゴースト”、黒いボディに青いサイバーラインが走る車──“ネクストライドロン”。
そして、既存のライダーマシンの右端には、どの仮面ライダーにも存在しないバイクが2台あった。
入間が既存のマシンを改造して作り出した、白いボディに『E』のイニシャルと、Eを横倒しにしたような装飾のあるバイク──“エターナルボイルダー”と、ライドストライカーに酷似した水色の氷の意匠を持つチマ専用のバイク──“ミライドストライカー”である。
「おぉ……これが私たち専用のバイク……!」
「イルマ先輩……ありがとうございます」
優花がエターナルボイルダーを見ながら目を輝かせ、チマは入間の腰に抱きつき、入間がチマの頭を撫でてやるなか、ギーシュは混乱したようにバイクを見る。この世界にはマジックボックスのようなアイテムも、機械の類いも存在しない為、この反応も当然と言えた。
細かく説明するのも面倒なので、入間は自分達の故郷の馬車のようなものだと簡単に説明すると、ギーシュはバイクや車をまじまじと見ながら、ルイズに声をかけた。
「そう言えば、お願いがあるんだ。僕の使い魔を連れていきたいんだけど……」
「あなたの使い魔?」
「あぁ、そういえばまだ紹介してなかったね!おいで、ヴェルダンデ!」
ギーシュがそう言いながら足で地面を叩くと、地面がモコモコと盛り上がり、ボコッと音を立てながら、小さな熊ほどはありそうなモグラが顔を出した。
【ジャイアントモール】と呼ばれるハルケギニア産の生物に抱きつくギーシュ。
「ヴェルダンデ! ああ、僕の可愛いヴェルダンデ!なあ、ルイズ!ヴェルダンデを連れて行ってもいいだろう?こんなに可愛いんだしさ! 」
「それってジャイアントモールじゃない。地中を進んでいくんでしょ?」
「そうだよ。ヴェルダンデは何せ、モグラだからな、馬と同じくらいはやいんだ!」
「いや、この乗り物、馬なんかより断然早いからついてこれないわよ。それに、行き先は浮遊大陸アルビオンよ?港町のラ・ロシェールからどうやって連れていくつもりなの?」
それを聞くと、ギーシュは悲しげに【ウェルダンデ】という名のジャイアントモールを抱きしめた。
「お別れなんて、辛い、辛すぎるよ……ヴェルダンデ……」
するとウェルダンデは、何やら鼻をひくつかせると、急にルイズの方をむいて、そのまま押し倒して擦り寄り始めた。
「ちょ……やっ……どこ触ってんのよ!」
モグラと戯れるルイズを見るギーシュと入間達。助ける気は無いらしい。ヴェルダンデは、ルイズの右手の薬指に光るルビーに鼻をすり寄せた。
「成程、指輪か。ウェルダンデは宝石が大好きだからね」
納得したようにギーシュが頷き、使い魔を宥めようとしたと同時に、急に突風が吹き荒れてヴェルダンデを空高く打ち上げた。
「誰だ!僕のウェルダンデに何をする!!」
激昂したギーシュが喚きだし、薔薇の造花を掲げようとするが、その杖も風によって吹き飛ばされる。
すると、朝靄の空から、鷲の頭と上半身と翼に、ライオンの下半身を持つ幻獣、グリフォンが一行の前にゆっくりと降下してきた。
「僕は敵じゃない。姫殿下より、君たちに同行することを命じられてね。君たちだけではやはり心もとないらしい。しかし、お忍びの任務であるゆえ、一部隊つけるわけにもいかぬ。そこで僕が指名されたって訳だ」
そう言って、男は帽子を取って一礼をする。
二十代後半あたりの髭を生やした長髪の青年だ。彼の魔力を測定して、確かにこの世界のレベルを鑑みれば手練れだなと判断する。
「魔法衛士隊、グリフォン隊隊長。ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドだ」
文句を言おうと口を開きかけたギーシュは相手が悪いと知ってうな垂れた。
魔法衛士隊は全貴族の憧れである。ギーシュも例外でない。
「しかし、すまないね。婚約者がモグラに襲われているのを見て見ぬ振りはできなくてな」
「こ、婚約者!?」
それを聞いて、愛子が顔を赤くしてルイズを見る。入間達も、意外そうにルイズに視線を向けた。
当のルイズは、顔を赤くしながら小走りでワルドに近寄る。
「ワルド様……!」
「久しぶりだな、ルイズ!僕のルイズ!」
ワルドは人懐っこい笑みを浮かべると、ルイズに駆け寄り、抱き上げる。
「お久しぶりでございます」
「相変わらず軽いなきみは!まるで羽のようだ!」
「……お恥ずかしいですわ」
しばらくそうやって戯れていると、ワルドはルイズを降ろし、急に真顔になって入間の方を向いた。
「君がルイズの使い魔かい?人とは思わなかったな」
「……鈴木入間です」
「…ユエ。入間の女」
「アザゼル・アメリ。イルマの恋人だ」
「シアです。入間さんの女ですぅ」
「入間くんの最愛の恋人、ミレディ・ライセンちゃんだよ☆」
「ティオ・クラルスじゃ。ご主人様の恋人にして性の奴れあひぃぃぃんっ♡」
「畑山愛子です。ど、どうぞよろしく……」
「園部優花です……」
「イルマ先輩の恋人、チマです」
ワルドを少し見てから入間は短く自己紹介をすると、ユエ達がここぞとばかひにアピールしながら名乗る。とんでもないことを言おうとした変態はビンタをお見舞いされたことで崩れ落ちてハァハァしている。
「……そ、そうか。仲睦まじいようで何よりだよ……」
ワルドがひきつった笑みを浮かべて答える。その表情はユエ達の恋人発言か、それとも入間の足元でハァハァしているティオのせいか……両方かもしれない。
やがて、ワルドがグリフォンにヒラリと跨がると、ルイズに手を差し出す。ルイズがその手を取ってグリフォンに跨がったのを見て、入間はユエとアメリを前後にしてライドストライカーに、シアはレーザーに、ミレディはマシンゴーストに、優花はエターナルボイルダーに、チマはミライドストライカーに跨がり、愛子とティオはネクストライドロンに乗り込んだ。
「では諸君、出発だ!!」
ワルドの掛け声でグリフォンが出発する。
「それじゃあ、行こうか」
入間達もまた、各々が乗るマシンのエンジンをかけて、ラ・ロシェールという町に向けて出発した。
「…入間、あのキザッたいのは?」
「馬で追い付けるのか?」
「……知らない」
疾走と駆けていくグリフォンとバイクと車を必死に追いかける馬の後ろ姿を、アンリエッタは学院長室の窓から心配そうに眺めていた。隣では、オスマンが鼻毛を抜いていた。
「見送らないのですか?オールド・オスマン」
「ホッホッホ。この老いぼれは見てのとおり、鼻毛を抜いとりますのでな」
「トリステインの未来がかかっているのですよ?何故そのような余裕の態度を……」
「既に杖は振られました。なに、彼ならば道中どんな困難に会おうとやってくれますじゃ」
「彼、とは?」
アンリエッタはワルドの事かと尋ねるが、オスマンは首を振る。ギーシュの名前をあげてみるが、答えは同じだった。
「まさか、ルイズの使い魔のことですか?彼は平民ではありませんか!」
「ホッホッホ、それは前提が間違っておりますぞ。詳しい詳細は省きますが……ワシは彼等だけは決して敵に回したくない。なにせ彼は伝説の使い魔“ガンダルーヴ”……いや、それを遥かに越えた存在だと、確信を持っております。なにせ、彼等は異世界から来た貴族ですからな」
「異世界?そんな場所が……」
正直、異世界という言葉には未だに半信半疑のアンリエッタだったが、オスマンの言葉には納得できるものもあった。昨夜見た、入間から発せられる尋常ではない雰囲気──言うなれば“王の風格”を肌で感じていたアンリエッタは、入間が只者ではないと感じさせていた。だからこそ、異世界と言うこと場はともかく、“貴族”という言葉はすんなりと頷けてしまった。
「ならば、祈りましょう。異世界から吹く風が、アルビオンに吹く風に負けぬことを」
そう言いながら、アンリエッタは遠ざかる入間達の背中を見る。
──自分の手で何もしようとしない人に、望み通りの未来なんて訪れる筈ないんだよ
昨晩、入間から言われた言葉が脳裏をよぎり、アンリエッタはズキリと痛む胸を抑えた。
魔法学院を出発してから半日、入間達の道のりは順調…というよりも、遅すぎるくらいの進みだった。
なにしろ、入間達魔界組が乗り込んでいるのはバイクや車なのである。ワルドの乗るグリフォンは馬よりも速く空を飛ぶ生き物ではあるが、最低でも時速200km以上を誇るライダーマシンのスペックには到底及ばない。ギーシュに至っては馬である。
なのでラ・ロシェールの道のりを知らない入間達はワルドやギーシュ達のペースに合わせなけれなならず、トロトロとゆっくりと進んでいく羽目になったのだ。寧ろ、ハンドル握ると性格が変わるシアが独走しないようにするのに骨を折る羽目になっていた。
そんな風に険しい岩山の中を縫うようにして進んでいくと、峡谷に挟まれるようにして街が見えた。
その時、入間達はマシンを止めた。そこへようやく追い付いたギーシュが後ろからやって来た。
「ど、どうしたんだい?急に止まって……」
戸惑うギーシュを他所に、ライドストライカーに跨がったまま、入間はポツリと告げた。
「ギーシュ君、決壊から出ないでね」
「……ん。“聖絶”」
その瞬間、ユエが指をタクトのように振るい、入間達を光のドームが包み込んだ。同時に、雨のように振ってきた無数の矢が、“聖絶”に阻まれて地面に墜落した。
「……特に怪人の気配はないね」
そう呟いた入間は“無双セイバー”を取り出し、“イチゴロックシード”を装填すると、ライドストライカーから結界の外へと飛び出した。
振り抜かれた無双セイバーからイチゴ型のエネルギーが飛び出し、無数の“イチゴクナイ”が射出される。雨のように降り注ぐクナイが、崖の上にいた男達の体を切り裂いた。
一分もかからぬ内に、崖の上にいた男達は血の海に沈んだ。
「「「……」」」
ルイズ、ギーシュ、ワルドは、その光景に呆然とするなか、シアは兎人族の跳躍力で崖の上に跳んでいくと、バサバサと翼が大きく羽ばたく音が聞こえてきた。一同が振り返ると、そこにはシルフィードに跨る、タバサとキュルケがいた。
「あ、あんた達、一体なんで来たのよ!!」
「朝に貴方達がどっか行くのを見かけてね。面白そうだから付いてきただけよ」
そんな会話をしているなか、襲撃者を尋問していた入間とシアが戻ってきた。
「何でついてきたの?」
「手伝い」
タバサが短く答える。
というのも、タバサがキュルケに便乗した理由としては、入間と同行するためだ。魔界から来た入間達の異常なまでの力に興味を持っているタバサは、彼等と同行すればその力の秘密に繋がるものを見て、自分も強くなる為の何かを得られるかもしれないと思ったからだ。
「……シア、アイツ等どうだった?」
「締め上げても、物取りの一点張りでしたよ。けど、やけに統率が取れてたから怪しいですね」
「……潰す?」
「いや、そこまでしても何も得られなそうだし止めておこうよ」
実際、入間は連中が反乱軍に雇われた傭兵だろうと予想はつくので、ユエの“股関スマッシュ”で時間を取るわけにもいかない。なので、そのまま付いていくことになったキュルケとタバサと共に、入間達はラ・ロシェールの街へと行くこととなった。
ラ・ロシェールにたどり着いた入間達。ルイズとワルドは乗船の交渉に向かうなか、他のメンバーは最も上等な宿である『女神の杵亭』へと足を運び、宿泊のための手続きを行っていた。
「アルビオンへ渡る船は明後日にならなければ出ないそうだ」
「急ぎの任務なのにこんな所で足止めだなんて……」
ルイズは口を尖らせて不満そうで、ワルドも困ったような顔を浮かべていた。
「あたし、アルビオンに行ったことないから分かんないけど、どうして明日は船が出ないの?」
「明日の夜は“スヴェル”の夜によって、二つの月が重なる。その翌日にアルビオンはこのラ・ロシェールへと近づく。船は限りある風石を使っていてね。最も近い距離で翌日飛べるのに、早くに飛んで無駄にしたがる船乗りはいないのだよ」
ワルドの説明に、入間達も納得したように頷くと、ワルドは宿で鋭気を養うことを提案した。入間は部屋の鍵をバラバラと机においた。
取った部屋は一人部屋が1つと、二人部屋が5つと、三人部屋が1つ。入間としては、男を三人部屋にして、残りの部屋を女子達の好きなように割り振らせようとしていたのだが……
「そうか。では、僕とルイズは同室だ。婚約者だからな」
ルイズがその言葉にはっとして、ワルドの方を向く。
「そんな、駄目よ!まだ私達、結婚してるわけじゃないじゃない!」
「大事な話が有るんだ。二人きりで話したい」
ワルドは首を振って、ルイズを見つめた。その真剣さに圧されて、ルイズとワルドの相部屋が決まった。
「……ん。それなら、私と入間で二人部屋」
「あっ!ユエさん抜け駆けはずるいですよぉ!せめて三人部屋にしましょうよぉ!!」
「そ、それなら!私が一緒にいくぞ!!」
「じゃあ、ここはミレディさんが相部屋だよ!昨晩はユエちゃんとアメちゃんだったし、今夜はミレディさんの番だからね!」
「フム。それなら妾も相部屋を所望するぞ。ここに来てから、あまり激しいプレイをしてないのじゃ。そろそろ発散しないと欲求不満になるのじゃ」
「そ、それなら私も……!」
「そ、その……私は、入間がシたいっていうなら……」
「イルマ先輩、お願いします…!」
そこへ、ここぞとばかりにユエ達が騒ぎ始めた。
場は一瞬で桃色である。ルイズとギーシュは顔を真っ赤にしており、タバサとワルドは無反応である。一方で、キュルケはやれやれと言うように為息を吐きながら苦笑する。
「あんなのを見せられたら……身を引くしかないじゃない」
他人の一番を決して奪わないと決めているキュルケがそう呟いている間にも、入間がミレディとチマを相部屋に決め、疲れたような表情で鍵を取って部屋に向かった。他のメンバーは不満そうにしながらも、二人部屋の鍵を取り、キュルケも二人部屋の鍵を取ってタバサに部屋に向かっていった。
女神の杵亭で最も上等な部屋を取ったワルドはテーブルに座ると、ワインの栓を抜き、グラスに注ぎそれを飲み干した。
「君も腰をかけて1杯やらないか? ルイズ」
ルイズは言われたままテーブルにつき、ワインが杯を満たすと、ワルドのそれと合わせる。
「二人に」
グラスが触れ合う音が響き、ワインを飲む。
ルイズはワインを飲みながら、ゲルマニアとの婚約を破棄するほどの重大な手紙とは何なのかを考えていた。
ワルドは、そんなルイズを見て、心配無用とばかりに胸を張る。
「大丈夫だよ。きっと上手くいく。何せ僕がついているんだから」
「そうね、貴方がいれば、きっと大丈夫よね。……それで、大事な話って?」
ルイズが本題を促すと、ワルドは急に遠くを見るような目になった。
「覚えているかい?あの日の約束……。ほら、きみのお屋敷の中庭で……」
「あの、池に浮かんだ小船?」
「きみは、いつもご両親に怒られたあと、あそこでいじけていたな。まるで捨てられた子猫みたいに、うずくまって……」
そういうと二人は昔話に花を咲かせる。
そしてその話はルイズ自身の魔法の話に変わっていく。
「ルイズ、君は自分に才能がないと言っていたが、そんなことはない。君は誰よりも優れたメイジの素質がある」
「そんな、まさか……」
「まさかじゃない。例えば君の使い魔のこともそうだ。彼の左手にあったルーンは、僕も調べたこともあったから知っている。あれは伝説の使い魔、『ガンダールヴ』の印さ」
「……伝説の使い魔?」
「『ガンダールヴ』。始祖ブリミルが用いたもので、誰もが持てる使い魔じゃあない。つまり君はそれだけの力を持ったメイジなんだよ」
そう言われルイズは己が呼び出した使い魔──入間の事を考える。
確かに入間は強い。もといた世界では、“最も魔王に近い男”の子息である彼は、確かに伝説の使い魔としても相応しい存在といえる。だが、対する自分は魔法が使えない劣等生。しかも、使い魔である入間を制御できていない。
だから、いくらワルドが言っても、信じることが出来なかった。
「この任務が終わったら、ルイズ、僕と結婚しよう」
「……えっ?」
いきなりのプロポーズに、ルイズは驚いた。
「僕は魔法衛士隊の隊長で終わるつもりはない。いずれは、国を……このハルケギニアを動かすような貴族になりたいと思っている」
「で、でも、私……。まだ……」
「君ももう子供じゃない。君は16だ。自分のことは自分で決められる年齢だし、父上だって許してくださっている。確かに、十年近くも、ずっとほったらかしだったことは謝るよ。婚約者だなんて、言えた義理じゃないこともわかっている!でもルイズ、僕には君が必要なんだ!」
「ワルド……」
ワルドの情熱的な言葉を聞きながら、ルイズは考え込む。
ワルドの事は嫌いではない。寧ろ、好きだ。しかし、いきなり結婚を申し込まれても、ルイズは何故か嬉しいと感じることが出来なかった。
ふと、ルイズの脳裏に入間達の姿がよぎる。
ハルケギニアでも、貴族が愛人を娶る事はよくある事とはいえ、一夫多妻は認められないルイズ。しかし、入間と恋人関係にある8人の女性達は、皆心の底から入間を愛していることは分かっていた。
それを思うと、ルイズの心中に疑問が沸き上がり、気付けば口を開いていた。
「私はまだ、あなたに釣り合うような立派なメイジじゃない。私は魔法の使えない“ゼロのルイズ”だもの……。だから、もう少し時間が欲しいの」
ワルドは苦笑しながらも応えた。
「いいさ、何も今返事をしてくれとは言わないよ。だけどこの旅が終われば、君の気持ちも僕に傾くさ」
そう言って、もう寝る時間となり、ワルドはルイズにキスをしようとしたが、ルイズは無意識にそれを拒否した。
ワルドは、それでも直ぐ優しく微笑んで、静かに灯りを消した。
翌朝、危険な任務の真っ最中であるにも関わらず、ミレディとチマの三人で“熱い夜”を過ごした入間。
浅い眠りから覚め、素早く身支度を終えると、未だに素っ裸で眠っているミレディとチマの姿を目にして欲情してしまったが、今はその時ではないと自信を宥め(尤も、任務中に諸事にふけってる時点で説得力皆無だが)、二人に変化魔術で適当な服を身に付けさせた。
その時、部屋の扉がノックされる。何のようかと入間がドアを開けてみると、そこにはワルドが立っていた。
「おはよう、使い魔君」
「……何か?」
本当にギリギリのタイミングとはいて、魔術が間に合ったことに安堵する入間。ミレディとチマのあられもない姿など、他の男に見せる筈もない。もしもワルドが来るのがもう少し早ければ、入間は確実にワルドの目を潰していただろう。
そんな事など知るよしもなく、ワルドは入間に話し掛けた。
「君は、伝説の使い魔『ガンダールヴ』だそうだね?」
「……その根拠は?」
入間はチラリと、手袋をつけた左手を見ながら問いかける。
気を引き締めるために着けているものだが、入間はワルドの前で手袋を外した覚えはないし、ルーンが刻まれた場所も教えていない。更に言えば、『ガンダールヴ』についてはルイズにも話していないのだ。
疑わし気な目を向ける入間に、ワルドは笑みを浮かべて答えた。
「任務の同行が決まった時、オスマン氏から聞いたのだよ。それに、僕は歴史を調べるのが趣味でね。ルーンの位置や君の話を聞いていくなかで、『ガンダールヴ』に辿り着いたんだよ」
一応、矛盾はない。入間は魔法学院全体には自分が貴族であるということを広めているが、魔界や人間界のようにインターネットのない世界では、その情報が王宮までは届いていなかった。つまり、王宮の者には入間は平民と思われたいたのだ。トリステインの未来をかけた任務に無力な平民を連れていくなどあり得ない為、彼がオスマンに入間の事を聞いているのも当然だろう。
「それで、本題は何ですか?」
「いや、かの“土くれ”を捕まえたという、君の実力が知りたくてね。一つ手合わせ願いたい」
そう言って、ワルドは好戦的な笑みを浮かべながら、杖を取り出した。対する入間は、ため息と共に答えた。
「生憎ですが、僕は力を誇示したいタイプじゃないし、戦いに餓えてるわけでもないんですよ。任務に関係の無い、意味もない戦いをする気はありません」
そう言って断ろうとする入間だが、ワルドは意見を変えることはなかった。
「おや、逃げるのかい?」
「逃げるとかじゃなくて、意味もない戦いをしたくないって」
「いいじゃん、やってあげても」
そこで、新たな声が乱入した。入間とワルドが目を向けると、そこにはいつの間にか目を覚ましていたミレディが、面白がるような笑みを浮かべてたっていた。
「イルくん、向こうはヤル気満々みたいだし~、ここはミレディさん達にカッコいいところ見せてほしいなぁ~?」
明らかに面白がっているミレディに、入間はジト目を向ける。案の定、ワルドは丁度良いと言わんばかりにミレディに便乗した。
「どうやら、君の恋人も期待してるようだね。どうだい?」
「……はぁ。仕方ないなぁ……」
「そうか。では30分後、中庭に来たまえ」
そう言うと、ワルドは踵を返して歩きだしていった。
その背中を見送った入間は、右腕に抱きついているミレディに再びジト目を向けながら、口を開いた。
「……それで?何で僕に結果が分かりきってる模擬戦なんてさせたの?」
「ん~?ミレディさんは本当にカッコいい所が見たいだけだよぉ~」
「(ハルケギニアの魔法の観察でもする気かな……)ミレディはやっぱりミレディだよ……」
「願ったりかなったりじゃねぇか相棒!この前は俺っちも殆んど出番なかったんだ!ここらで俺を使ってみようぜ!?なっ!?なっ!!」
「んむぅ……イルマ先輩……?」
入間が珍しくなにもかも諦めたような表情をすると、立て掛けていたデルフがカチカチと騒ぎ、ようやく目を覚ましたチマが、トロンとした目で首をかしげるのを見て、入間は思わず苦笑した。
次回予告
フーケ「素敵なバカンスをありがとう」
ユエ「あそこまでする必要あった?」
土くれのフーケ再来!
入間「態々僕を巻き込まないでよ」
EP15「アノマリーは止まらない」
感想、評価お待ちしております。