悪魔の孫は時の王者となって世界最強 NEXT TIME 作:MTHR
トリステイン魔法学院。
数多くの貴族の子息が通うこの学校では、二年生に進級した生徒達による“使い魔召喚の儀式”が行われていた。その儀式は、二年次に進級する生徒達が使い魔を召喚、契約し、自身の魔法属性と専門課程を決める極めて重要な儀式なのである。
生徒達は既に多種多様な使い魔を召喚して契約を交わしており、サラマンダーやドラゴン、モグラやカエルといった使い魔達を愛で、親睦を深めている。
そんな神聖な儀式が行われる広場の中で、大きな爆発音が響き渡った。
非日常的な轟音と爆発を聞いても、生徒達は特に驚いた様子はない。寧ろ、面白がるように爆心地に注目していた。
そこでは、桃色の髪をした小柄な少女が、杖を握りしめながらワナワナと震え、爆心地からもくもくと立ち上る煙を睨み付けていた。
「流石はゼロのルイズ!サモン・サーヴァントすらまともに出来ないのかよ!」
「次召喚できるのか賭けてみようぜ!」
「誰も召喚できる方に賭けねーから、賭けになんねーよ……」
生徒達から嘲笑の声が響き渡る。
桃色の髪の少女──【ルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール】は、そんな嘲笑にグッと歯を食い縛りながらも、再び“サモン・サーヴァント”の呪文を唱えた。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!五つの力を司るペンタゴン!私は心より求め、訴えるわ!我が導きに応え──我の運命に従いし、使い魔を……召喚しなさい!」
呪文を唱え、ルイズは杖を振り下ろした。
そして、一際大きな爆発が起きた。
爆煙が周囲を包み込み、爆風が周囲に広がる。
ルイズは爆心地をジッと見つめていると、その中で動く影のようなものを見つけて、心を弾ませた。周りの生徒達も、その影に気づいてザワザワと騒ぎ出していると、その煙が薄れていき、その影の姿が露になったことで、ルイズの歓喜は一瞬にして無へと帰した。
「こ、これが私の使い魔……?」
そこに立っていたのは、人間だったのだ。
深い青色の特徴的な髪型をしており、水色の服を着ている、全体的に『青』が印象的な少年だった。
顔は整っているが、どちらかといえば童顔だろう。
右手には人差し指と中指にそれぞれ指輪を嵌めている。
かなり変わった格好をしているが、杖も持たず、マントも着込んでいないその服装は、ルイズを含め周りにいた生徒達は、彼がメイジではない──平民と判断するには十分だった。
「アンタ、誰よ?」
ルイズはその少年に声をかけると、辺りをキョロキョロと見渡していた少年はルイズの方に視線を向けた。
「おい、ゼロのルイズが人間を召喚したぜ!」
「しかも平民じゃん!ゼロのルイズにはお似合いだぜ!」
少年の答えを待たずして、周囲から嘲笑が聞こえてくる。
ルイズは途端に顔を真っ赤にし、剥げた頭をした中年の男に向かって叫んだ。
「ミスタ・コルベール!もう一度召喚の許可をお願いします!」
「残念だが、それは出来ない」
「でも、平民を使い魔にするなんて聞いたことありません!!」
「これは伝統なんだ、ミス・ヴァリエール。呼び出された以上、例外は認められない」
ルイズはがっくりと項垂れる。しかし、ここで契約しなければ自分は留年である。しばし悩んだあと、ルイズは顔を上げて使い魔の少年に歩み寄った。
一方、召喚された使い魔──入間は周囲を見渡して、状況を把握していようとしていたのだが、やはり見ただけでは有益な情報は得られず、腕を組んで首をかしげていた。
だが、この魔獣と少年少女がたむろするこの空気には見覚えがある。悪魔学校に入学してからすぐに行われた、“使い魔召喚の儀”と似た雰囲気なのだ。
「また違う世界?なんで五回も異世界に来ることになるのかなぁ……」
魔界とトータスで十分だったとに、と異世界召喚に恵まれたくもないのに恵まれている己のトラブル体質に、入間は溜め息を吐いた。
すると、先ほど入間に名前を尋ねたのに、答える間もなく剥げた頭をした中年と話し始めた桃色の髪の少女が、再び入間の前にやって来たのだ。少し遅めの成長期に入り、背が伸びつつある入間とは頭二つ分くらいの身長差がある。
「ねぇアンタ、今すぐその場で屈みなさい」
「えっ?何で?さっき名前尋ねてきたかと思ったら、屈めって……流石に意味が分からないよ?というか、ここは何処?」
「いいから屈みなさいって言ってるのよ!!」
「なんなのさ……はい、これでいいの?」
呆れたような口調で視線を合わせる入間だが、ちゃんと警戒はしている。魔術は放てるし、武器はいつでも召喚して手に取れる。
見ず知らずの、しかも異世界召喚された自分が立っている場所にいた人間なのだ。自身の召喚と無関係と考えるのは楽観的すぎる。例え目の前の少女や周りの人間が攻撃を仕掛けてきたとしても、入間は一切動揺すること無く冷静に対処できるし、至近距離にいるルイズなら一瞬で首を撥ね飛ばせるだろう。
「アンタ、感謝しなさいよね。貴族にこんな事されるなんて、本当は一生無いんだから……」
そんな事は知らないルイズは、杖を振りかざし、呪文を唱え始めた。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
言葉を言い終えると、ルイズは入間と唇を重ね合わせた。
「……ッ!?行きなり何するの!!」
入間は眼を見開いて、ルイズを突っ放した。
いつ敵が襲ってきても言いように警戒していたのに、まさかキスされるなんて思いもしないだろう。しかし、九人いる恋人の中の誰かなら兎も角、見ず知らずの女に唇を奪われた入間の心象は最悪以外の何物でもない。今にも吐きそうである。
その時、入間の左手が熱を帯びる。この程度の熱で慌てるような柔な精神はしていないが、突然の事に訝しそうに左手を見ると、そこには左手の甲に、奇妙な刺青が現れていた。
「ふむ、随分と珍しいルーンだな」
入間の手の甲を観察していた剥げた頭の男──【コルベール】が、入間の左手に刻まれた刺青をスケッチする。やがて書き終えると、未だにどよめきが上がっている周囲に向かっていった。
「では、これにて、春の召喚の儀は全員終了となります。各自、学院に戻るように」
そう言うなや否や周囲の子供たちは杖を取り出し、何か短く唱えるとふわりと宙に浮き、そのまま上へと飛んでいった。
「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」
「あいつ“フライ”はおろか、“レビテーション”さえまともにできないんだぜ!」
そんなことを口々に言いながら、少年少女は何処かへと飛び去っていく。
(『召喚の儀』……それに、さっきから聞こえる『使い魔』って単語……これは、そういうことなのかな?)
そんな中、入間は空へと飛び去っていった生徒達を見送りながら、自身の身に起きた出来事に辺りをつけた。即ち、自分は使い魔として召喚されてしまったのだと。
自分も、恩師である【ナベリウス・カルエゴ】を意図せずに使い魔にしてしまい、契約解除をしようとしても、使い魔形態のカルエゴの姿を気に入っているオペラや
そこで、入間は自身を召喚したと思われる少女──ルイズが、他の生徒達のように飛び立つ様子もなく、ジッとその場に立っている事に気づいた。
「君は飛ばないの?」
「う、うるさいわね!!私がどうしようと私の勝手でしょ!!あんたなんかに指図されるいわれなんかないんだから!!」
尋ねてみたら、ものすごい剣幕で返されてしまった。
何故そんな顔をするのかよく分からない入間だが、恐らく彼女は飛行系の魔法が苦手なのだろうと判断すると、懐からタンポポの意匠が施された錠前を取り出し、それを解錠して放り投げる。
するとあら不思議、投げられた錠前が質量保存の法則を無視するように大きくなり、やがてタンポポの意匠が施されたエアバイクとなって、入間とルイズの前に浮遊した。
「ッ!?な、な、何よこれ!?」
ルイズはそれを見て慌て始める。無理もないだろう。この世界にはバイクや機械の類いは存在しない上に、錠前が突然大きくなって変形したというのだ。
「ダンデライナー。まぁ、この世界の文明レベルに合わせると、空を飛ぶ鉄の馬車、って感じかな?」
“ダンデライナー”。
種子を風にのせて飛ばすタンポポのように浮遊することが可能なエアバイク型のロックビークルの一種だ。
入間はルイズを抱えるようにしてダンデライナーに飛び乗ると、自身の背中にルイズを座らせ、念のためにとヘルメットを被らせる。
「ちょっと!ご主人様に何をして……」
「悪いけど、僕は君から色々聞きたいことがあるんだ。こっちでいく方がよっぽど速いからね。それと、口を閉じないと舌を噛むよ?」
「な、何を……って、ひゃぁあああああっ!!??」
ルイズの返事を待たずして、入間はダンデライナーを発進させる。方角は恐らく、飛んでいった生徒達を追った先にあるだろう。
時速100キロを優に越える飛行速度に、入間の背中にいたルイズは悲鳴を上げながら反射的に入間の腰にしがみつき、ダンデライナーはあっという間に、先行した生徒達を追い抜いていった。
「お、おい!なんだよ今の鉄の塊は!?」
「てか、今のってたのゼロのルイズじゃないか!?」
後ろからそんな声が聞こえてくるが、入間は一切無視して、視界の先にある大きな建物に向けて、ダンデライナーの速度を上げていった。
夜空に浮かぶ二色の月を見て、入間は溜め息を吐いた。
あの後、ダンデライナーの乗り心地についてギャーギャーと喚き散らすルイズに辟易しながらも、入間はルイズの部屋にやって来た。
そして、ルイズからある程度自分に起きた出来事を説明してもらっていた。
曰く、ここはトリステインと呼ばれる国に設立されたトリステイン魔法学院というメイジを育てる施設であること。
曰く、メイジは二年に進級すると自身の一生のパートナーおなる使い魔を呼び出す“サモン・サーヴァント”を行わなければならず、それによって呼び出された入間は問答無用でルイズの使い魔にならなければならないのだという。
「気に入らないなら、僕と契約しなければよかったんじゃないかな?」
「仕方無いじゃない。そういう決まりなんだもの。私だってアンタなんか呼び出すとは思っても見なかったんだから」
「元の場所に戻したり、契約解除とか出来ないの?」
「無理ね。一度呼び出された使い魔はもう戻せないし、契約は解除できないわ」
話を総合すると、召喚されてキスされるまでは入間は正式な使い魔ではなかったということだ。それなら、最初に首を撥ね飛ばしていればよかったと後悔した。
とはいえ、説明された内容は全てルイズの事情であり、入間は使い魔になったとしても、この世界に永住する気はない。悪魔が使役する使い魔ですら、契約を解除できる期間や、普段は好きに生活して、必要時に呼び出せるというシステムがあるのだ。ルイズが自分の事を使い魔にしたのはブーメランのために責める気はないが、人を勝手に召喚しておいて一生返せないなんて無責任かつ勝手な相手に従う気はない。
(ただ一つ、彼女が僕を呼び出したことが気掛かりなんだよなぁ)
先程、さりげなくルイズに「悪魔とかいる?」と聞いてみたが、ルイズはいるわけないじゃないとバカを見るような眼で答えた。つまり、悪魔はこの世界では迷信とされている存在であると見て間違いない。なんらかの宗教団体や、歴史の裏の部分を知った一部の上位の貴族からはそうでないと思われているかもしれないが、少なくとも誰もが悪魔や魔界の存在を知っているという事はなさそうだった。
だがそうなると、ルイズは特別な儀式をしたわけでも、悪魔召喚を行ったわけでもないのに、魔界から入間を召喚したということになる。
入間の知る限り、人の身でありながら異世界に干渉できるなんて芸当が出来るのは【門矢士】【海東大樹】【鳴滝】くらいしか知らない。それ以外なら、【葛葉紘太】や【浮世英寿】のような本物の神、それから似非とはいえ紛いなりにも自分を神と称していた【エヒトルジュエ】くらいだ。だが、ルイズは明らかに今挙げた面々に比べれば、月とすっぽんと言っても過言ではない。
だというのに、ルイズは魔界から入間を召喚した。大分疑わしいが、入間は人間であり悪魔ではないが、異世界に干渉して生き物を呼び込めたのだ。“サモン・サーヴァント”で呼び出せる使い魔がハルケギニアの生物限定なのだとすると、悪魔召喚をしたわけでもないのに、魔界から入間を召喚したルイズの異常性がより際立ってくる。
(多分、シアと似たタイプなのかもね)
かつて、ある兎人族にはあり得ない魔力を持ち、特殊な固有魔法を使える以外、ただ驚異を前に逃げ回るしか出来なかった頃のシアを思い出す。恐らくルイズも、この世界においては例外的な存在なのだろうが、その力を使いこなせない、もしくは自覚すらしていないのだろう。
「取り敢えず、使い魔の使命を教えておいてあげるわ」
すると、ルイズが突然口を開いてきた。
「まず、使い魔は主人の目となり、耳となる能力が与えられるのよ」
「……なにも感じないね」
「じゃ、じゃあ次よ。使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。例えば秘薬とか」
「この辺りの土地のことなんか知らないよ」
「堂々と言うな!!」
入間の何とも思ってなさそうな言葉に、期待していなかったとはいえ、改めて現実を思い知らされたルイズは力無くガックリとうなだれた。
「もういいわ…。それで最後に使い魔はね、主人を守る存在でもあるのよ。これが一番大事!」
そう言ったルイズは、一度入間に視線を向ける。
そこそこ筋肉はついているが、細目の体。
愛嬌のある童顔に、少しだけキリッとした眼。
全体的に、無害そうなオーラを纏っている。
「でも、それも無理そうだから、アンタにできそうなことをやらせるわね。掃除、洗濯、その他雑用!」
(何を見て判断したのやら……)
実際には、入間にその気があれば、ルイズを含め召喚の儀が行われた場所にいたコルベールや生徒達(使い魔を含め)なら、変身せずとも瞬きする間に皆殺しに出来る。だが、相応の戦闘経験を持つものなら兎も角、ただの学生でしかないルイズにそれを察するのは酷な話だ。
更に言えば、確かにこの世界においては何の地位もないが、入間は魔界では貴族と言うことになっている。しかもかなり名門の。サリバンとの血縁はないのだが、立場上はそういうことになっているのだ。
まぁ、入間は別にこの世界で名を上げるつもりも暴れるつもりもないので、魔界なら兎も角、見ず知らずの世界でどう評価されようとどうでもよかった。
(もう、なんでこんなヤツ召喚しちゃったのかな……)
一方で、ルイズは心の中でため息をついていた。
ルイズとしては、ドラゴンやサラマンダーとまでらいかずとも、猫やフクロウのような何かしらの動物でもよかった。のにそれが人間の平民だったという現実に落胆するしかない。
そして大きな溜め息を吐くと、ルイズは入間の前で突然制服を脱ぎ出したのだ。
「何してるの?」
入間はルイズに背中を向けながら尋ねた。
これがトータスに召喚される前なら赤面して慌てていたかもしれないが、ユエ達のような恋人と日々熱い夜を過ごしている入間には、全裸なら兎も角、初対面で何の感情も抱いていないルイズが下着姿になっても一切反応することはない。だからと言って見るつもりもないが、流石にこれは常識を疑う。
「何?着替えてるだけじゃない?」
ルイズは当然というように答える。どうやら、この使い魔の少年が恥ずかしがっていると解釈したようだ。
「もう一つ分かった事がある……この国の令嬢は痴女ってことがね」
「っ!失礼ね!使い魔に見られても恥ずかしくないだけよ!!」
最後に皮肉を述べた入間に向かって、顔を真っ赤にしたルイズは、自身が先ほど脱いだ服やら下着やら投げつけた。
「それ洗っておいてね。あっ、言っとくけどアンタは床よ」
そう残してベッドに潜り込むと、余程疲れたのだろう、そのままスヤスヤと寝息とたて始めた。
しばらく様子を見てみて、ルイズが熟睡していると確信した入間は窓を開け、身軽な動きで中庭に降り立つと、芝生を踏みしめながら歩き出す。
「イル坊、面倒なことになったな」
すると、入間の隣に、一つ目の黒い魔人が現れた。悪食の指輪の精にして入間の唯一無二の相棒、【アリクレッド】だ。
アリクレッドの言っていることが召喚の事だと思ったのか、入間は目の前に向かって手を突き出すと、そこに銀色に揺らめくオーロラが現れた。
「なんて事ないよ。こうやって帰れば良いんだし」
そう、入間が中庭に出てきたのは特別な理由はない。ただ元の世界に帰ろうとしただけだ。
入間がルイズの使い魔になったからとて、それに従うつもりはない。このオーロラカーテンを潜って魔界に帰ってしまえば、ルイズにはもう入間を追いかける術はないだろう。
カルエゴは言っていた、『使い魔に信頼が重要なのは喰い殺されない為だ』と。
本当の信頼がなければ、例え主人が安全でも、周りに危害が及ぼされるのが使い魔だ。だからこそ魔界では、使い魔と向き合い、お互いを知ることから始めるのだ。
だが、ルイズはどうだ?
魔獣と人間では捉え方が違うのもあるが、貴族と平民等という地位の違い程度で使い魔を判断し、半ば奴隷のような扱いをして当然と思い込む。
こんなものに、信頼なんてある筈がない。
だからこそ、入間はこの世界から離れるのに何の未練もない。ルイズは眠っている力を目覚めさせれば大きく化ける可能性がありそうだが、それを手伝う気もないし、興味もない。
「いや、そうじゃなくてだな……」
入間が、オーロラカーテンに足を踏み入れようとした時、
「お前今、この世界から出られねぇぞ」
「え?何を言っアババババババババババババババババババババッ!!!!??」
銀色のオーロラに触れた瞬間、入間の体に凄まじい電流が走ったことで、入間の帰還は呆気なく失敗することとなった。
三十分後。
「世界の壁を、越えられない……!?」
ギャグ漫画みたいにアフロヘアーとなった入間は、自身の手の平を見つめながら呟いた。
概念魔法を手に入れ、世界をも越える力を手に入れた入間。多用しているわけではないが、自分の故郷に帰る程度ならば造作もない筈なのに、それが出来ないのだ。向こうから何かを呼び寄せることすら不可能である。
「多分、こいつが原因だよ」
アリクレッドが示したのは、左手に刻まれた奇妙な刺青だった。
ルイズの説明では、たしかこれは“ルーン”と呼ばれており、使い魔の証だと言う。
「確かに、魔力を感じるけど……なんでこれが原因だって分かったの?」
「俺ちんとお前は一心同体なんだぜ?オメーの体の異常なんて、直ぐに分かるよ。あれだけ時間もあったし、探るのも簡単だったぜ」
「そっか……ごめんね。それで、どうなってるの?」
「んもぉ~!本っっ当にイル坊はこのアリさんがいなくちゃダメなんだからなぁ~~!!」
得意気な表情で、何故か博士のコスプレをしているアリクレッドを見て、入間は苦笑い。だが、魔界に帰る手段を失った入間にとって、何時でも側にいてくれるアリクレッドの存在は、やはり入間にとっては何よりもありがたかった。
「見たところ、コイツは呼び出した使い魔を従順にさせる効果がある。だが、イル坊のルーンはかなり強力な魔法だな。従順にさせるのに加えて、『特典』をくれる特別製だ。けど、今コイツは従順にさせる力と特典も、別の事に全力を注いでいるんだよ。それが……」
「世界を越える力の、阻害……」
入間はルーンを睨み付ける。
アリクレッドはそれに頷きながら、ルーンをチョンチョンと指差しながら口を開く。
「コイツは一種の“洗脳”だ。けど、イル坊は
つまり、ルイズを守るために入間を従順にさせられないのなら、嫌でもルイズの側にいてルイズを守らせようとしているのだろう。
「このルーンの魔力、吸い尽くせたり出来る?」
「正直、かなり難しいな。一生の使い魔として契約するだけあって、かなり濃い契約だ。その手の類いは内側から解錠するには時間が掛かるのよ。下手すりゃ何年もかかる。それに、俺ちん達はこの世界についてなにも知らないんだぜ?無理矢理剥がしたら、どうなるのか検討もつかねぇ」
慎重にやれば時間が掛かり、無理に解除すればどんなリスクがあるか計り知れない。この場合、前者を取るしかない事に入間は溜め息を吐いた。
トータスでの旅を終えて、平穏な日々に戻った筈なのに、たったの三ヶ月でお別れとなってしまったのだ。それでも、トータスの時のように、この世界にとどまる理由があれば入間の心証も違っていただろう。
だが、この世界には、魔界に及ぼす害悪もない。
大切に繋がるものもなければ、大切だと思える相手もいない。
だからこそ、入間はこの世界で生きることを消して受け入れない。使い魔も契約も関係ない。
入間の居場所は、帰る場所は、大切な場所、魔界の、サリバン達の元だけなのだから。
「アリさん、僕は絶対に……魔界に帰るよ」
「……お前なら、そう言うと思ったよ。相棒」
決意を新たに、アリクレッドが指輪に戻り、入間はルイズの部屋に戻ると、壁にもたれ掛かるようにして座り込んだ。
人間界で14年間サバイバルしていたり、奈落で野宿していた時に比べれば、雨風凌げて多少なりとも安全性が確保されているのなら、床であっても普通に眠れる。
(しばらく、ここで生活するしかないね。取り敢えず、世界の壁を越えられなくても、連絡なら出来る筈だし……)
ファイズフォンXを取り出した。
時を越えた通話が可能なこの携帯は、入間の改造によって異世界であっても連絡が可能だ。残してきてしまった家族に自分の無事を伝え、願わくば、自分を見つけ出してもらうために、簡単な説明分を打ち込んだあと……入間は最後に、ある一文を打ち込んでから、メールを送信した。
『また会おうね♪』
非常事態とは思えない一言だが、それは絶対に帰ってくると言う宣言でもあった。下手に強い言葉より、こういった言葉の方が良い。
入間は満足げな笑みを浮かべてからファイズフォンXをしまうと、今度こそ眠りについた。
次回予告
入間「やっぱり夢じゃないよね」
シエスタ「私はシエスタと申します」
使い魔生活、スタート!
キュルケ「流石はゼロのルイズね」
ルイズ「ちょっと失敗したみたいね」
入間「成る程。だからゼロなんだね」
EP03「ゼロと使い魔と爆発魔法」
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