悪魔の孫は時の王者となって世界最強 NEXT TIME 作:MTHR
トリステインの王宮は、プルドンネ街の突き当たりにあった。王宮の門の前には、当直の魔法衛士隊の隊員たちが、幻獣に跨り闊歩している。戦争が近いという噂が、二、三日前から街に流れ始めていた。隣国アルビオンを制圧した貴族派『レコン・キスタ』が、トリステインに侵攻してくるという噂だった。
よって、周りを守る衛士隊の空気は、ピリピリしたものになっている。王宮の上空は、幻獣、船を問わず飛行禁止令が出され、門をくぐる人物のチェックも激しかった。
いつもならなんなく通される仕立て屋や、出入りの菓子屋の主人までが門の前で呼び止められ、身体検査を受け、ディテクトマジックでメイジが化けていないか、『魅了』の魔法等で何者かに操られていないか、など、厳重な検査を受けた。
そんなときだったから、王宮の上に巨大な鉄の蛇があらわれたとき、警備の魔法衛士隊の隊員たちは色めきたった。
魔法衛士隊は三隊からなっている。三隊はローテーションを組んで、王宮の警護を司る。一隊が詰めている日は、他の隊は非番か訓練を行っている。今日の警護はマンティコア隊であった。マンティコアに騎乗したメイジたちは、王宮の上空にあらわれた鉄の蛇めがけていっせいに飛び上がる。牛のような頭を持つ鉄の蛇の上には幾人の影と、一匹の風竜と巨大モグラの姿があった
魔法衛士隊の隊員たちは、ここが現在飛行禁止であることを大声で告げたが、鉄の蛇に乗る面々は警告を無視して鉄の蛇から飛び出し、王宮の中庭へと着陸した。
マンティコアに跨った隊員たちは、着陸した風竜を取り囲んだ。腰からレイピアのような形状をした杖を引き抜き、一斉に掲げる。いつでも呪文が詠唱できるような態勢をとると、ごつい体にいかめしい髭面の隊長が、大声で怪しい侵入者たちに命令した。
「杖を捨てろ!」
一瞬、侵入者たちはむっとした表情を浮かべたが、彼らにたいして青い髪の小柄な少女が首を振って言った。
「宮廷」
一行はしかたないとばかりにその言葉に頷き、命令されたとおりに、杖を地面に捨てた。
「今現在、王宮の上空は飛行禁止だ。ふれを知らんのか?」
一人の、桃色がかったブロンドの髪の少女が毅然とした声で答えた。
「わたくしは、ヴァリエール公爵家三女、ルイズ・フランソワーズです。怪しいものじゃありません。陛下にお目通り願いたいわ」
隊長は口ひげをひねって、少女を見つめた。ラ・ヴァリエール公爵夫妻なら知っている。高名な貴族だ。
隊長は掲げた杖を下ろした。
「ラ・ヴァリエール公爵さまの三女とな」
「いかにも」
ルイズは、胸を張って隊長の目をまっすぐに見つめた。
「なるほど、見れば目元が母君そっくりだ。して、要件を伺おうか?」
「それは言えません。密命なのです」
「では殿下に取り次ぐわけにはいかぬ。要件も尋ねずに取り次いだ日にはこちらの首が飛ぶからな」
困った声で、隊長が言った時……。
宮殿の入り口から、鮮やかな紫のマントとローブを羽織った人物が、ひょっこりと顔を出した。中庭の真ん中で魔法衛士隊に囲まれたルイズの姿を見て、慌てて駆け寄ってくる。
「ルイズ!」
駆け寄るアンリエッタの姿を見て、ルイズの顔が、薔薇を撒き散らしたようにぱあっと輝いた。
「姫さま!」
二人は、一行と魔法衛士隊が見守る中、ひっしと抱き合った。
「ああ、無事に帰ってきたのね。うれしいわ。ルイズ、ルイズ・フランソワーズ……」
「姫さま……」
ルイズの目から、ぽろりと涙がこぼれた。
「件の手紙は、無事、このとおりでございます」
ルイズはシャツの胸ポケットから、そっと手紙を見せた。アンリエッタは大きく頷いて、ルイズの手をかたく握り締めた。
「やはり、あなたはわたくしの一番のお友達ですわ」
「もったいないお言葉です。姫さま」
しかし、一行の中にウェールズの姿が見えないことに気づいたアンリエッタは、顔を曇らせる。
「……ウェールズさまは、やはり父王に殉じたのですね」
ルイズは目をつむって、神妙に頷いた。
「……して、ワルド子爵は?姿が見えませんが。別行動をとっているのかしら?それとも……、まさか……、敵の手にかかって?そんな、あの子爵に限って、そんなはずは……」
ルイズの表情が曇る。入間が興味がなさそうにアンリエッタに告げた。
「彼は裏切り者だったんですよ」
「裏切り者?」
アンリエッタの顔に、陰がさした。そして、興味深そうにそんな自分たちを、魔法衛士隊の面々が見つめていることに気づき、アンリエッタは説明した。
「彼らは私の客人ですわ。隊長殿」
「さようですか」
アンリエッタの言葉で隊長は納得すると、隊員たちを促し、再び持ち場へと去っていった。
アンリエッタは再びルイズに向き直る。
「道中、何があったのですか?……とにかく、私の部屋でお話ししましょう。他の方々は別室を用意します。そこでお休みになってください」
キュルケ達、そしてユエ達を謁見待合室に残し、アンリエッタは入間とルイズを自分の居室に入れた。小さいながらも、精巧なレリーフがかたどられた椅子に座り、アンリエッタは机に肘をついた。
ルイズは、アンリエッタにことの次第を説明した。
道中、キュルケたちが合流したこと。
アルビオンへと向かう船に乗ったら、空賊に襲われたこと。
その空賊が、ウェールズ皇太子だったこと。
ウェールズ皇太子に亡命を勧めたが、断られたこと。
そして……、ワルドと結婚式を挙げるために、脱出船に乗らなかったこと。
結婚式の最中、ワルドが豹変し……、ウェールズを殺害し、ルイズが預かった手紙を奪い取ろうとしたこと……。
しかし、このように手紙は取り戻してきた。「レコン・キスタ」の野望……、ハルケギニアを統一し、エルフから聖地を取り戻すという大それた野望はつまずいたのだ。
しかし……、無事、トリステインの命綱であるゲルマニアとの同盟が守られたというのに、アンリエッタは悲嘆にくれた。
「あの子爵が裏切り者だったなんて……。まさか、魔法衛士隊に裏切り者がいるなんて……」
アンリエッタは、かつて自分がウェールズにしたためた手紙を見つめながら、はらはらと涙をこぼした。
「姫さま……」
ルイズが、そっとアンリエッタの手を握った。
「私が、ウェールズさまのお命を奪ったようなものだわ。裏切り者を使者に選ぶなんて、私はなんということを……あの方は、わたしの手紙をきちんと最後まで読んでくれたのかしら?ねえ、ルイズ」
ルイズは頷いた。
「はい、姫さま。ウェールズ皇太子は、姫殿下の手紙をお読みになりました」
「ならば、ウェールズ様は私を愛しておられなかったのね」
アンリエッタは、寂しげに首を振った。
「では、やはり……、皇太子に亡命をお勧めになったのですね?」
悲しげに手紙を見つめたまま、アンリエッタは頷いた。
ルイズは、ウェールズの言葉を思い出した。彼は頑なに「アンリエッタは私に亡命など勧めてはいない」と、否定した。やはりそれは、ルイズが思ったとおり嘘であったのだ。
「ええ。死んで欲しくなかったんだもの。愛していたのよ。私」
それからアンリエッタは、呆けた様子で呟いた。
「私より、名誉の方が大事だったのかしら」
そこで、入間がはじめて口を開いた。
「彼の真意なんて、会ったばかりの僕らに分かるわけない。けど強いて言うなら……貴方のため、じゃないですか?」
ぼんやりとした顔で、アンリエッタは入間の方を見た。
「私のために?」
「皇太子がトリステインに亡命したら、反乱勢が攻め入る格好の口実を与える事になりますからね」
「ウェールズさまが亡命しようがしまいが、攻めてくる時は攻めよせてくるでしょう。攻めぬ時には沈黙を保つでしょう。個人の存在だけで、戦は発生するものではありませんわ」
アンリエッタは深いため息をつくと、窓の外を見やった。
「勇敢に戦って死んだ。僕が言えるのはそれだけですね」
寂しそうに、アンリエッタは微笑んだ。薔薇のように綺麗な王女がそうしていると、空気まで沈うつに淀むようだった。
アンリエッタは美しい彫刻が施された、大理石削りだしのテーブルに肘をつき、悲しげに問うた。
「勇敢に戦い、勇敢に死んでいく。殿方の特権ですわね。残された女は、どうすれば良いのでしょうか」
「姫さま……。私がもっと強く、ウェールズ皇太子を説得していれば……」
アンリエッタは立ち上がり、申し訳なさそうにそう呟くルイズの手を握った。
「いいのよ、ルイズ。あなたは立派にお役目通り、手紙を取り戻してきたのです。あなたが気にする必要はどこにもないのよ。それに私は亡命を勧めて欲しいなんて、あなたに言ったわけではないのですから」
それからアンリエッタは、にっこりと笑った。
「私の婚姻を妨げようとする暗躍は未然に防がれたのです。わが国はゲルマニアと無事同盟を結ぶことができるでしょう。そうすれば、簡単にアルビオンも攻めてくるわけにはいきません。危機は去ったのですよ、ルイズ・フランソワーズ」
アンリエッタは努めて明るい声を出して言った。
ルイズはポケットから、アンリエッタにもらった水のルビーを取り出した。
「姫さま、これ、お返しします」
アンリエッタは首を振った。
「それはあなたが持っていなさいな。せめてものお礼です」
「こんな高価な品をいただくわけにはいきませんわ」
「忠誠には、報いるところがなければなりません。いいから、とっておきなさいな」
ルイズは頷くと、それを指にはめた。
その様子を見て、入間は王子の指から抜き取った指輪のことを思い出した。宝物庫に入ったそれを取り出すと、アンリエッタに手渡した。
アンリエッタはその指輪を受け取ると、目を大きく見開いた。
「これは、風のルビーではありませんか。ウェールズ皇太子から、預かってきたのですか」
実際には死んだウェールズの指から勝手に抜き去って持ち返ったものなの物だが、流石に死んだ恋人から追い剥ぎをしたとは言えず、入間は無言を貫く。
アンリエッタは風のルビーを指に通した。ウェールズがはめていたものなので、アンリエッタの指にはゆるゆるだったが……、小さくアンリエッタが呪文を呟くと、指輪のリングの部分が窄まり、薬指にぴたりとおさまった。
アンリエッタは、風のルビーを愛おしそうになでた。それから入間の方を向いて、はにかんだような笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。優しい使い魔さん」
寂しく、悲しい笑みだったが、入間に対する感謝の念がこもった笑みだった。入間はそれを一瞥すると、もう興味はないというように踵を返して歩き出す。
アンリエッタはその背中を見送りながら、指に光る風のルビーを見つめながら言った。
「あの人は、勇敢に死んでいったと言いました。ならば、私は……、勇敢に生きてみようと思います」
王宮から魔法学院に戻った入間は、校舎の屋根の上に腰を下ろしながら、手に持っていた二つのアイテムを眺めていた。
「スーパー戦隊になれる武器と指輪……ミュウのレンジャーキーと同じようなものなのかな」
その手にあるのは、フーケから奪い取った銀のガンレッドソードと、バトルジャパンの姿が描かれた金色の指輪があった。なのは、フェイト、ヴィヴィオの三人がこれと同じものを使っていたが、状況が状況だけに調べられなかった。
しかし、これは仮面ライダーとは無縁の力であることはわかる。数あるライダーの歴史の中で幾度も共闘した【スーパー戦隊】の力なのだろう。それならば、入間が知らないなも無理はない。
「調べようにも、地球の本棚には限界があるしなぁ」
情報戦チートに思える“地球の本棚”だが、実は入間が使う場合はかなり制約が多い。
まず、異世界の情報は閲覧できないこと。地球の本棚はあくまでも地球という無限のデータベースにリンクする力であり、トータスやハルケギニア、そして魔界のような地球とは全く異なる世界の情報にはアクセスできない。
そして、入間の地球の本棚は『ライダーが存在する世界の地球』の情報しか閲覧できない。誰かの個人情報や企業の重大秘密、更には昭和ライダーから令和ライダーまでの仮面ライダーの情報は毎秒ごとに更新される地球の本棚だが、仮面ライダーが存在しない世界の存在であるスーパー戦隊の情報は地球の本棚には殆んど入ってこない。唯一完全にその歴史を把握してるのはライドウォッチとして所持している【騎士竜戦隊リュウソウジャー】だけであり、それ以外で入間が知るスーパー戦隊の情報は【秘密戦隊ゴレンジャー】から、仮面ライダーセイバーと共闘した【機界戦隊ゼンカイジャー】の名前と能力くらいなのだ。
「……そういえば、フェイトさんとヴィヴィオが変身したのって、僕の知らない戦隊だったよね」
高町ヴィヴィオが変身したクワガタの戦士と、フェイト・T・ハラオウンが変身した顔にタイヤの着いた戦士の姿を思い出すと、恐らくこの短剣と指輪はゼンカイジャーの後に生まれたスーパー戦隊のアイテムなのだろう。
「それをフーケに渡せたとなると……かなり不味いね」
仮面ライダーの敵ならば一通り特性はと理解してるし、対処法もある。いざとなれば地球の本棚で調べることもできるが、スーパー戦隊の敵となるとそうも行かない。リュウソウジャーの敵である【ドルイドン】の情報しかない状態で、今この世界で暗躍している組織と事を荒立てるのは得策ではない。
「だとすると、ミュウの方にも対策を立てないとなぁ」
ミュウが変身するゴーカイレッドは、ディケイドのようにあらゆるスーパー戦隊に変身する能力を持つ。
ミュウが所持する“レンジャーキー”は、あらゆる仮面ライダーとスーパー戦隊の力を扱う【仮面戦隊ゴライダー】の持つスーパー戦隊の力を結晶化させた物だ。故に、ミュウは【秘密戦隊ゴレンジャー】から【宇宙戦隊キュウレンジャー】のレンジャーキーを所持しており、並大抵の相手に負けることはないだろう。
入間を筆頭に、ユエやアメリ達もミュウの戦闘方面の育成にも力を入れている。しかし、ミュウは5歳だ。経験も実力も、何もかもが半端だ。雑魚ならばいくらいても平気かもしれないが、一級の相手を、しかもレミアやティファニアのような守るものが近くにいる状況に、ミュウが対応できるとは思えない。
(正直、レミアはともかく、あのティファニアの事はかなりどうでもいいんだけど……ミュウもあの子の事気に入ってるみたいだしなぁ。やっぱり、誰かを向こうに送るしかないかぁ)
ミュウとレミアをこちらで保護できれば良かったが、ティファニアや孤児達を放っておけないと言われれば、現状の入間には彼女達の面倒を見られる余裕はない。ならば、幾人かの戦力をミュウ達の所に送り込み、守りを固めるしかないだろう。
そう考えると、行動は早い。
入間は即座に念話を発動させ、ユエ達に連絡を取った。
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