悪魔の孫は時の王者となって世界最強 NEXT TIME 作:MTHR
トールとのお買い物の翌日。
学校が終わり、サリバン邸に帰宅し入間は、自室のベッドの上で暇をもてあましていた。
「人が増えたからかなぁ……。こう何もない日になると、より一層静かに感じる」
ユエ達は愛娘のミュウに稽古をつけに行き、トールはレミアとオペラと共に買い物に行っている。サリバンは夕方まで学校で業務があるらしく、今はいない。普段がお祭り騒ぎのように騒がしい為に、こんなに静かなのは久しぶりだが、どうにも退屈だ。
シエスタやティファニアは家庭菜園にいるらしいので、そちらに行って手伝おうかと思っていると、リンゴーンと呼び鈴が鳴った。
サリバン邸の住人ならばやらない行為に、クララかアスモデウス辺りが遊びに来たのだろうと推測した入間は玄関に足を運び、ドアを開けるが、そこには誰もいなかった。
しかし、少し下に視線を下ろしてみると、そこには小さな影があった。
「……」
チマと並ぶくらいの小柄な体躯に、ピンクを基調とした民族衣装のような服を身に纏っている。先端が紫色に染まった白銀の髪を持ち、その頭には小さリボンを結んでいる。
何より目を引くのは、頭部から生えた上下に向かって伸びる2対の角と、臀部から生えた先端がボールのようになった尻尾だ。
見覚えのない少女に入間が首をかしげていると、呼び鈴の音を耳にしたシエスタとティファニアが玄関までやって来て、入間の後ろからヒョッコリと顔をだし、少女に視線を下ろした。
「あの、イルマさん?」
「その子は……?」
「……とりあえず、どうぞ」
どうすればいいのかも判断できず、入間は一先ず少女が何者なのかを聞くために少女を家に上げた。
少女は表情を動かさず、無言のままサリバン邸に足を踏み入れると、応接室まで少女を案内すると、ソファーに座った少女とテーブルを挟み、向かい合うようにして、入間はティファニアと共に対面のソファーに座った。
シエスタがテーブルの上に紅茶を置いているのを尻目に、入間は訝しげな視線を向けた。
(……それで、結局誰なの…?)
髪型といい背丈といい無表情な所いい、何処と無くチマを思い浮かべてしまいそうな雰囲気をした少女だが、ミュウの知り合いにこのような子がいた記憶はないし、悪魔学校でも見掛けたことがない。
「えっと……貴方、お名前は?」
すると、ティファニアが戸惑いがち少女に尋ねる。
少女はチラリとティファニアに視線を向けたあと、青い瞳を入間に向けると、口をへの字に曲げながら口を開いた。
「トール様と別れて」
「……………はっ?」
開口一番に意味不明なことを言われて、入間の脳内が処理に奔走する。訳が分からないと言わんばかりの表情で問いかけようとする。
「ん?何、トールの知り合いなの?それに、別れてってどういうこ」
「ええっ!?イルマさん、いつの間にトールさんもハーレムに加えてたんですか!?」
「シエスタァッ!?」
そばで控えていたシエスタがとんでもないことを口にした。自身がハーレム野郎で誤解されやすいのは前々から承知しているが、この期に及んで誤解を招くような発言をしたシエスタに思わず叫んでしまった。
「やっぱり…貴方が誑かした。身体で。寝取られ」
「いや、それ誤解……」
「スケコマシ!」
「スケコマシって……」
立ち上がりながら少女が吐いた言葉を否定できず、入間が口角をひきつらせていると、少女が入間に飛び掛かってきたかと思うと、小さな手を握り締め、ポカポカと入間の腹部を叩き始めた。
「わかれろー!かえせー!」
「ちょっ、痛くないけど止めて……」
ダメージはゼロだが、相手の見た目が幼い子どもである事と、何よりいきなり飛び掛かられたこともあり、入間は少女の攻撃をかわせず、ポスッと音を立てながらソファーに尻餅を着く。
ティファニアとシエスタがそれを止めるべきかとオロオロし出した時、応接室の扉がガチャッと開かれた。
「……入間、ただいま」
「ただいまなのー!」
「ただいま戻りましたー」
そこからヒョッコリと姿を表したのは、最悪な事にユエとミュウ、そしてトールだった。
3人は、銀髪と小柄な少女に抱きつかれ(ように見える)、すぐそばで(入間を少女から引き剥がそうとして)入間の腕をつかみ、豊満な胸を押し付けているティファニアとシエスタの姿が目に写った。
「ふ、り、ん、で、す、かァァァァッ!!!!??」
「シエスタ、ティファニア……本妻の不在を狙うとはいい度胸。塵も残さない」
「むー!テファお姉ちゃんもシエスタお姉ちゃんもその子もズルいの!ミュウもパパにぎゅーするぅ~!」
全身から理解したくない力を放出させて牙と爪を剥き出しにさせるトールに、真っ黒なオーラを解き放つユエ。
同じような声を持つ二人の真っ黒なオーラに当てられて冷や汗が止まらない入間に、今度はミュウまでもが入間に抱きついた。
二人から発せられたオーラが更に大きくなった、その時だった。
「あ…トール様ぁ」
「……あれ?貴方、カンナ…」
その時、銀髪の少女が振り返り、トールをその青い瞳に納めると、トールの邪気が収まった。
「この子の名前はカンナカムイ。私の知人です」
「やっぱりかぁ」
ソファーに座り直したトールは、自身のとなりでチョコンと座る銀髪の少女──【カンナカムイ】を入間達に紹介する。対面のソファーに座る入間の右隣にはユエとティファニアが、左隣にはシエスタが座っている。因みに、ミュウは入間の膝の上だ。
「トール様が行方不明になって、探してた」
「行方不明?トール、そう言うのはちゃんと報告しないと」
「サーセン……それにしても、よくここが分かりましたね。この世界までは特定できても、手懸かりはなかった筈ですが……」
ガックリと肩を落としたトールの問いかけに、カンナはふるふると首を振った。
「昨日、トール様のブレス見た。魔力感じた」
「あ……」
「トールって迂闊だよね」
トールの表情が「しまった」という言葉を表に出す。昨日、厨房を破壊したあのブレスが、自身の位置を特定させてしまったのだろう。
「トール様、なんでそんな格好してる?私と一緒に帰ろう。トール様が必要……」
ピクリとも動かなかった眉を八の字に曲げてすがるような目でトールを見上げるカンナ。その視線を向けられたトールはわずかに言い淀むが、決然とした表情で首を振った。
「…私は帰れません」
「そんな…どうして?」
「それは……入間さんを愛しているからです!!」
思いっきり名指しされた入間は、予想通りと言うべきかシリアスブレイカーというべきか分からないトールの言葉に大きくため息を吐く。
「いや、そこは真面目な理由を」
「「「「……!」」」」
「そこの四人、その『わかる』っていう顔をして頷くのは止めてくれない?」
入間と同じソファーに座るユエ、シエスタ、ティファニア、ミュウがトールの言葉に力強くうんうんと頷くことにツッコミを入れていると、カンナが頬を膨らませた。
「やっぱり!」
「えっ!?」
「バザールでデートしてるの見た!子どもを連れて手を繋いで……変態!!」
「デートって……」
「えへへへ……」
「照れないでよトール!!」
顔を赤くしているトールに入間のツッコミが炸裂すると、カンナの瞳が険しくなる。
「こうなったら、お前を殺してでも…!」
「!」
入間の表情が引き締まる。比較対照がトールしかいないのだが、トールの世界に置けるドラゴンはティオをも凌駕する力を有している。見た目の年齢からトール程の力は無さそうだが、恐らくは生身では敵わない力を持っているかもしれない。
ユエ達も入間を守ろうと立ち上がろうとするが、カンナの方が早かった。
「死ねぇ!!!」
カンナの拳が振り下ろされる!
……しかし、響くのはポカポカという緩い打撃音と、入間の腹部に走るこそばゆい感覚だけ。
(ステータスプレートで表すと大体80~100前後くらいあるみたいだけど……)
耐性は低いが、それでもライドウォッチや神代魔法習得の影響で人間の数倍近い耐久力を持つようになった入間の防御力を突破するには至らなかったようだ。
入間達が拍子抜けしていると、カンナが拳を止めてハァハァと息を切らす。数秒の内に復活して「んにぃー!」という可愛らしい声を上げて入間を殴るが、やはり微動だにしない。
再び息を切らしたカンナに、トールが首を傾げる。
「カンナ。貴方、何だかずいぶん非力になってません?」
「はぁ、はぁ……この世界、マナはあるけど何だか合わない。トール様が異常」
「……ん。確かに、トールの魔力と私達が使う魔力は微妙に質が違う。だから、取り込んだマナがカンナの力になってくれてない」
「成る程、花にお水じゃなくてジュースを上げるみたいな感じかぁ」
「イルマさん、その例えはあってるんでしょうか……?」
魔法のスペシャリストのユエの考察を意訳した入間の言葉にシエスタが首を傾げていると、ティファニアは心配そうな顔をしながら、息を切らしたカンナに問い掛けた。
「ねぇ、カンナちゃん。もしかして貴方……帰れなくなったの?」
「ッ!!」
ギクリ、とカンナの表情が固くなる。
「そ、そんな事ない……」
「それじゃあ、カンナちゃん行くとこありますか?なの」
「ッ!!」
再びカンナの表情が固まる。
「カンナ、何か企んでるなら正直に言ってください。ただでさえ障害が多いんですから、入間さんを狙ってるなら諦め」
「ややこしくなるからトールは少し静かにしててね」
トールに釘を刺しつつ、入間はカンナに視線を向けると、カンナは観念したように、肩を落としながら答えた。
「実は……」
「悪戯して追放された?」
「カンナは悪戯好きですからね」
訝しげな入間の声が応接室に響く。
「反省するまで帰れないでしょうね。私が戻してあげても無駄です」
「う~~……」
トールの呆れたような声に、目に涙を浮かべたカンナの声をあげる。
その姿を見て、しばらく考え込んだ入間は、膝を折り曲げてカンナと目線を合わせると、口を開いた。
「カンナちゃん……行くところないなら、僕のウチに来る?」
その言葉に、カンナの目が丸くなる。ユエ達の視線が入間に集まる中、カンナはいち早く立ち直り、キッと入間を睨み付けた。
「に…人間や悪魔なんか信じない!何か企んでる!利用しようとしてる!……!」
その時、入間の手がカンナの頭の上にポフッと優しく置かれた。
「間違ってはないね。僕は基本的に自分本意の考えしかできない。だから、トールの友達を見捨てたくないし、困ってる子どもを放り出すような奴になりたくない。結局、自分のエゴなんだよ」
だから、と言葉を綴ると、入間は目を細めて、カンナの銀色の髪を優しく撫でる。
「カンナちゃん、信頼も信用もしなくていい。ここにいよう?」
その言葉を耳にしたカンナの瞳に、ジワリと涙が浮かび上がる。
「……うん」
服の袖で涙をぬぐうカンナの頭を優しく撫で続ける入間の姿を愛おしげに見つめていたトールは、自身のすぐ隣で微笑ましそうな笑みを浮かべているユエにチラリと視線を向けると、尻尾を動かしてチョンチョンとユエの背中を小突いた。
「…ユエ」
「ん?」
「私、入間さんが何でこんなに愛されてるのか……分かった気がしますよ」
「……んっ」
トールの言葉に、ユエは心の底から嬉しそうな表情でコクリと頷いた。
その日、サリバン邸にまた新たなドラゴンが住み着くようになった。
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