悪魔の孫は時の王者となって世界最強 NEXT TIME 作:MTHR
今回は原作から一番かけはなれたお話です。それでも良いと言うかたは、どうぞ!
双月が輝く空を飛行する、巨大な竜がいた。
全身が漆黒の鎧に包まれた鱗を持つ竜──“竜化”したティオは、背中に入間、ユエ、アメリ、シアを乗せ、シエスタを乗せた馬車が向かった先──モット伯の屋敷を目指していた。
屋敷に向かうのはこのメンバーのみ。他のメンバーは学院に残り、ルイズを誤魔化す役目を担ってくれている。因みに、デルフは必要なさそうなので置いてきている。
シエスタを迎えに来た時点でシエスタを取り返すことも出来たが、それでは根本的な解決にならない上に、学院で他所の貴族と騒ぎを起こせば入間達の立場が悪くなる。シエスタが出発した直後に学院を出るのも怪しまれる気がするので、少し遅い時間に出立することとなった。
だが、“導越の羅針盤”でシエスタの居場所は分かる。モット伯の屋敷は屋敷は学院から一時間程度の場所に建てられているらしいので、竜化したティオにかかれば5分もかからずに到着することが出来た。
屋敷が見えてくると、入間はティオの背中の上で立ち上がる。
「さっ、始めようか」
「んっ!」
「はいですぅ!」
「無論だ」
『承知したのじゃ!』
ユエとアメリとシアも同様に立ち上がり、ティオはモット伯の屋敷に向けて急降下した。
一方、モット伯の屋敷で、シエスタは悲しみに暮れていた。
彼女が着ているのは、モット伯爵の屋敷で支給される露出度の高いメイド服を着ていた。
「待たせてしまったな、シエスタ」
ノックもなしにドアを開けては言ってきたの中年の貴族は、シエスタを引き抜いた張本人であるシュール・ド・モットだ。モット伯は、シエスタを欲望に満ちた目で見つめ、下卑た笑みを浮かべた。
(イルマさん……)
その視線に気付いていたシエスタは、脳裏に一人の貴族を思い浮かべた。
遠い異国から来た貴族であり、叱責されていた自分を助けてくれた貴族──イルマ。
モット伯のように数多くの女を囲っている事に失望を覚えたが、こうしてモット伯の前に立ったことで、シエスタはイルマとモット伯の違いに気付くことが出来た。
他の貴族のように一切偉ぶることなく、平民にも対等に接してくれる入間。彼の恋人だと言う女達も、権力や魔法により無理矢理されているのではなく、心からイルマを愛しているのだと分かることが出来た。
その時、モット伯の手が、シエスタの肩に置かれた。
「ヒッ!」
身を強張らせるシエスタ。
モット伯がシエスタのメイド服に手を掛けようとした、その時だった。
屋敷全体を轟かせる轟音と地響きにより、モット伯とシエスタは思わずベッドから転がり落ちてしまった。更に続くように、爆音が響き渡る。
「な、何事だ!!?」
狼狽えるモット伯。その時、部屋の扉がドンドンと叩かれ、使用人の一人が部屋に飛び込んできた。
「伯爵様!大変です!!」
「何だ!?何があった!?」
使用人は狼狽えながら説明する。
突如、上空から巨大な竜が降りてきて、屋敷を襲い始めたらしい。更には竜の背中に乗っていた青い髪と衣服の男と、四人の女が次々と衛兵達を蹴散らしていっているらしい。
青い髪と衣服と聞いて、シエスタが目を見開いた。
「まさか、イルマさんが…!?」
シエスタのその呟きは、モット伯には聞こえていなかった。
「ええい!早く賊を始末せんか!!」
「し、しかし、賊は異常なまでに──グペッ!!?」
その時、その使用人の頭が破裂した。
脳髄や目玉を撒き散らし、床に血の池を作って倒れる使用人。
「きゃぁああああああっ!!!!」
シエスタが悲鳴を上げる。
モット伯はシエスタのように悲鳴こそ上げなかったが、スプラッタな光景に顔を青くして震えていると、絶命した使用人の側にいつの間にか、ハルケギニアでは見たこともない異形が立っていた。
まるでザリガニのような、全身が黄金の骨格に覆われた人型の異形──【サブストワーム】は、唸り声のような声を上げながら、ゆっくりと部屋に足を踏み入れる。
更にその後ろから、緑色のゴテゴテとした蛹のような装甲が特徴の蟲のような異形──【ワーム・サナギ体】が、軽く十を越える数を引き連れて現れたのだ。
「く、来るな化け物ども!!」
モット伯は杖を握り呪文を唱えると、瞬間、備え付けられていた部屋中の花瓶の水が、まるで意思を持つようにワーム達に襲いかかった。モット伯はトライアングルクラスのメイジであり、その魔法は平民が受けてしまえば簡単に命を奪えるような強力な魔法だ。
しかし、モット伯は知らない。目の前にいるのは、人知を越えた化け物であることを。
『グルルルル……』
サブストワームが前に出て、モット伯の魔法に向けて右腕を振るう。それだけで、モット伯の魔法は弾き飛ばされてしまった。
信じられない光景に、腰を抜かして失禁するモット伯。その瞬間、サナギ体のワーム達が右手の鋭い爪を構え、モット伯に襲い掛かったのだ。
「ぎゃああああああっ!!!!」
モット伯は成す術なくワームの爪に喉笛を切られ、大量の血飛沫を上げながら断末魔の悲鳴を上げる。やがて血飛沫が収まると、モット伯はその場で仰向けに倒れ、ピクリとも動かなくなった。
「あ……あぁ……!」
シエスタはその光景を見て、もはや声を上げることも出来ない。
恐怖のあまり動くことも出来ずガクガクと震えていると、ワーム達はシエスタに狙いを定めた。サブストワームがゆっくりと歩き出すと、サナギ体のワーム達も追従する。
「嫌……嫌ッ!!」
人外の化け物達の殺意に足がすくんで逃げることも出来ないシエスタに、サブストワームが歩み寄り、右腕に備わった鋭利な爪を振り上げる。
死を覚悟したシエスタが目を瞑った、その時だった。
『ガッ!?』
金属音と共に、サブストワームの苦悶の声が聞こえた。
更に金属音とワームの悲鳴のような声を聞いて、シエスタは恐る恐る目を開ける。
そこでは、全身から火花を散らして狼狽えるワーム達と、そのワーム達に体当たりをして翻弄する、“黒くて小さいナニカ”がいた。
「鉄の…虫……?」
シエスタは目を凝らして、そのナニカの全容を何とかく確認すると、そう呟いた。
呟いた通り、ワーム達に体当たりを仕掛けているのは、黒い鉄製の体を持つ虫だったのだ。全体的に黒で差し色に赤い模様が入っており、Yの字に似た角は、カブトムシに似ていた。
そのカブトムシは、素早い動きで縦横無尽に飛び回りながら、ワームに体当たりを仕掛け続けている。しかし、ダメージにはなっていても撃破には至っておらず、ワーム達は徐々に前へと進んでいくと思われた、その時だった。
扉の向こうから、無数の光の弾が飛び、ワームの背中に直撃する。
「ジュウ」というエフェクトを放ちながら被弾したサナギ体ワームは悲鳴を上げ、緑色の炎を巻き上げながら爆発した。サブストワームは爆発こそしなかったが、身体から火花を散らして、部屋の端へと吹き飛ばされた。
黒いカブトムシはそれに気付くと、逃げるように何処かへと飛び去っていき、空中に出現した光の穴の中に飛び込んでいく。
サナギ体の爆発に怯えて頭を守るように抱えているシエスタの耳に、聞き馴染んだ人物の声が聞こえた。
「シエスタ!!」
その声に顔を上げるシエスタ。
そこには、黒い鎧に身を包み、時計の基盤のような仮面を被った人物が、部屋に飛び込んできたのだ。
時は遡る。
竜化したティオは、モット伯の屋敷に急降下し、轟音を響かせながら着地した。
屋敷の衛兵達が集まってくるが、その足はティオの姿を見た瞬間に止まり、手にしていた武器をバラバラと落としていく。
「グォオオオオオオッ!!」
ティオが咆哮を上げる。
それだけで、衛兵達の戦意は一瞬で喪失し、腰を抜かして失禁するものや、武器を放り出して逃げ出している者もいる。
『女子の敵を前にして、妾も苛立っておる。殺しはせぬが、八つ当たりさせてもらうぞ!!』
ティオは簡易の魔法で火を放つ。ティオにとっては手加減増し増しもいいところなのだが、魔法も使えない衛兵達にとってはひと溜まりもない。炎が地面に直撃して起きる爆発に、屋敷はあっという間に阿鼻叫喚と化した。
「……やっぱり、一人でもよかったかもね」
「……ん。過剰戦力」
「まぁいいんじゃないですか?多い方が早く終わりますし」
「だが、こうも圧倒的だと、まるで弱いもの苛めのようではないか?」
更にそこから、ティオの背中から入間、ユエ、シア、アメリが降りてきて、適当な攻撃で衛兵達を蹴散らしていくが、あまりの戦力差に、やはり五人も必要なかったのではないかと思う。
だが、次の瞬間に現れたその存在に、彼等は目を見開いて、その考えを吹き飛ばした。
『『『『グギャギャギャギャッ!!』』』』
「ヒッ!?な、何だコイツら……がはっ!!?」
「ぎゃあっ!!?」
屋敷のあちこちから、緑色の化け物が現れ、次々と衛兵や使用人達を襲い始めたのだ。
「コイツら……!?」
「ワームだと!?何故この世界に!?」
ユエとアメリが、その姿を見て声を上げた。
【ワーム】、それはかつて『カブトの世界』に存在した地球外生命体だ。外見や服装、更には記憶までコピーできるという超高度な擬態能力を持ち、オリジナルの人間を殺して成り代わりながら社会に紛れ、人々を脅かしてきた怪物である。
だが当然、この世界にワーム存在しない。宇宙からワームを運んでくる隕石が落ちてきたという話も、入間達が調べた歴史書の中にはなかった筈だ。
自分達を標的にしたワーム達を簡単に蹴散らしていく入間達。サナギ体のワームは、腕っぷしが強い一般人でも対抗できるレベルである。例え何体来ようと、入間達が負ける道理はどこにもない。
その時、ワームの何体かが、モット伯の屋敷の扉を蹴り破って侵入していくのを見て、入間は血相を変えた。
「屋敷にはシエスタが…!」
モット伯や屋敷の人間がどうなろうが知ったことではなかったが、今屋敷にはシエスタもいる。だとすれば、ここでウジャウジャと沸いて出てくるサナギ体に構ってる暇などない。
「…入間、行って」
「ここは任せて、入間さんは行ってください!」
「安心しろ、我々もすぐにそっちへ行く」
「このような蟲如き、妾達の足止めにもならぬ!!」
「ありがとう!」
ユエ、シア、アメリ、そして人の姿に戻ったティオにこの場を任せた入間は、“ジクウドライバー”を取り出し、腰に当てた。ベルトから伸びた帯が腰に巻き付き、ジクウドライバーがベルトとしてセットされる。
“ジオウライドウォッチ”を取り出した入間は、ライドウォッチのベゼルを回すと、ライドオンスターターを押した。
ジクウドライバーのロックをはずすと、入間の背後に巨大な時計が現れる。
入間は右手を腰に添え、左腕を反時計回りに回してから手首を捻り、あの言葉を叫んだ。
「変身!」
ジクウドライバーを回転させると、ベルトを中心に、世界が回転する。
そして、王が凱旋する。
時計の針が10時10分を指し、時計の文字盤に『ライダー』の文字が出現し、入間の周りを無数の金属製腕時計のバンドの輪の様なエフェクトが回転しスーツを装着。
背後の『ライダー』の文字が文字盤から飛び出して顔にセットされることで、変身が完了する。
「行くよ…!」
最高最善の魔王──仮面ライダージオウへと変身した入間は、迫り来るワームを“ジカンギレード・ケンモード”で蹴散らすと、モット伯の屋敷へと乗り込んだ。
そして、場面はモット伯の部屋に戻る。
屯していたワームを“スレスレ撃ち”で全滅させ、サブストワームを吹き飛ばしたジオウは、早急にシエスタの元に駆け寄ろうとすると、背後から何が飛びかかってきた。
「邪魔!!」
当然、事前に察知していたジオウは回し蹴りでそいつを蹴り飛ばす。
ジオウがその襲ってきた相手の全容を確認すると、触手が飛び出した目や口が不気味なカタツムリのような姿をした【コキリアワーム】が腹部をおさえていた。
「面倒な……ッ!?」
ジオウがジカンギレードを構えた瞬間、立ち上がったコキリアワームが姿を消し、同時にジオウの身体に痛みが走る。床を転がったジオウは周囲を警戒しながらジカンギレードを構える。
「“クロックアップ”するんだよね……面倒な……!」
ワームの特殊能力の一つ“クロックアップ”。それは時間の流れに干渉する高速移動を越えた高速移動だ。いかに直感が優れ、仮面ライダーの力で感覚が寄り鋭くなっていたとしても、クロックアップの速度を捉えることはジオウでも不可能だ。
「やっぱりこれを……ッ!!」
“カブトライドウォッチ”を取り出したジオウがそのウォッチを使おうとした時、ジオウは部屋の端で、いつの間にか復活したサブストワームがシエスタに迫っていることに気付いた。直ぐ様助けに向かおうとするが、そこへコキリアワームが再びクロックアップを使用して襲ってくることで、ジオウは足を止めてしまう。
そして、サブストワームがシエスタに向けて爪を振り上げる。もはやこれまでだと悟ったシエスタは、悲鳴を上げた。
「嫌ぁッ!!!」
その時、不思議なことが起こった。
シエスタの体から、緑色の光が溢れだし、それが津波のように部屋全体に広がったのだ。サブストワームはその光に襲われると、抵抗も虚しく爆発を起こし、絶命してしまう。
そして、ジオウを襲っていたコキリアワームも、その衝撃波に動きを止めるのを見て、ジオウはジカンギレードにカブトウォッチを装填する。
刀身にタキオン粒子を纏わせ、倒れるコキリアワームを一閃する。コキリアワームは、緑色の爆発を起こして塵も残さず消滅した。
剣を下ろしたジオウは、光を放ち続けるシエスタに目を向け、変身を解く。
「「「入間(さん)!!」」」
「ご主人様!」
そこへ、外でワームを殲滅したユエ達が、部屋の中に入り込んでくる。彼女達も、屋敷の外からでも異常を感じ取ったらしく、真剣な表情だった。
入間は自信に問題は無いことを伝え、簡単に状況を説明すると、一同は光を放つシエスタに目を向ける。
そして、光が収まり、その先にあったものを見て、入間達は目を見開いた。
「あれって……!」
「そっか……違和感の正体はこれだったんだ……!」
その視線の先にいたのは、異形だった。
女性らしい体つきに、黄緑色の体。背中から生えたカゲロウのような特徴を持った二対の翅。
その存在の名を、入間はポツリと口にした。
「ネイティブ……!」
その存在──【シシーラワーム】は、呆然とした様子で、自身の体を見て、狼狽えた。
『…ッ!?こ、これ……私……!?あ……あぁ……っ!!』
シシーラワームの姿が、シエスタに変わる。そしてシエスタは、フラリと体を傾け、床に倒れた。入間達が慌てて駆け寄ってシエスタの状態を確認する。その結果、気絶していただけだと分かると、入間は安堵のため息を吐いた。
「…それにしても、これは完全に予想外だったな」
「……ん。どうする?」
アメリとユエの言葉に、入間はシエスタをお姫様抱っこで抱え上げると、屋敷の外へと向かって歩きだした。
「……帰ろっか」
その言葉に、ユエ達は呆れたように笑ったのだった。
雲が余裕で隣にあるような大空。
竜化したティオの背中に乗って、入間達は態々高度の高い雲の隣まで上昇することで、ゆっくりと学院を目指していたのだ。
そしてティオの背中の上では、入間は気絶したシエスタを支え、ユエがシエスタに向け何らかの魔法を使っている姿を、アメリとシアが見守っている。
「……ん。これで大丈夫。もう変身する事はない」
変成魔法を使い、シエスタの変身能力やネイティブの力を封じたユエがそう言うと、入間は安心したように頷いた。
ワームやネイティブは、人の姿と記憶をコピーできる能力を持つが、希に自分が人間に擬態した事を自覚していない者がいる事もある。自分の姿を見て気絶したことから、シエスタは自覚がないタイプなのだろう。
「けど、まさかこの人がその……なんでしたっけ?ネイ…」
「ネイティブだ」
『カブトの世界に存在した地球外生命体じゃな。ワームとはまた別種じゃったか……』
怪人の知識も網羅した思慮深いティオが、竜化状態のまま呟く。
ネイティブとは、ワームと同じくカブトの世界の怪人である。人間社会に溶け込んでひっそりと暮らしている者もいれば、全人類をネイティブに変えて地球を侵略しようとした者もいるような二面性を持つ宇宙人だ。ワームに酷似しているがワームとは敵対関係であり、ネイティブはワームに狙われることもあったらしい。
これを考えると、あのワーム達は最初からシエスタを狙っていたのだろう。モット伯達はその犠牲という事だ。生前にやっていた事が事なので、欠片も同情などしないが。
だが同時に、何故シエスタがネイティブになったのかの謎が現れる。カブトの世界で起きたように、後天的にネイティブになった可能性もあるが、だとすればそれをしたネイティブは何処から来たのか?
「それに、ネイティブならもっと早く気付けたと思うんだけどな……」
大迷宮の偽物すら見抜けた入間である。自分の感覚が絶対とは言わないが、超常的なものを察知する感覚に長けた入間があれだけ接していたのなら気付いてもよかったのに気付けなかったのは、ネイティブの気配が余りにも薄かったからだ。恐らくワームと出会ったことでその力が覚醒したのかもしれないが……入間がシエスタから感じていたのは、殆んど人間の気配だった。
「……まさかとは思うけど、
かなり突拍子もないが、『カブトの世界』のシシーラワームとは、人間に擬態したネイティブから誕生した存在だ。そうだとすればネイティブの気配が極端に薄かったのも、あり得なくはないかもしれない。
「だが、もしもそうだとするとこの世界にもネイティブが何体か潜んでいる事になりませんか?世界の壁を越えられる魔法の使い手は、魔界だけでなく仮面ライダーの世界にも干渉できるのですか?」
シアは、シエスタのルーツとなったネイティブが、入間と同じように召喚でハルケギニアに来たと考えたらしい。だが、そうだとすると、使い魔となったネイティブが、何故平民との子供を作ったのかが謎だ。人間に擬態したいたなら、人間の使い魔である入間は前代未聞ということではなくなるし、ネイティブの姿なら、この世界には存在しない全く新種の亜人として少しは記録が残っていそうなのに、それがないのだ。
『……うぅむ…もしかすると、召喚以外にも、この世界から抜け出す方法があるのかもしれんのぅ』
「っ!それだ!!」
ティオの推測に、入間はピカッと頭の電球が光った。
あくまでも仮説に過ぎないが、ティオの推測はかなり説得力がある。そして、もしもこの世界と別の世界を繋げる道のような物があるのなら、自前の力やユエ達の力でも世界から抜け出せなくなった入間はそれを介して別の世界へと行き、魔界に帰れるかもしれない。
「う、う~ん……」
「あっ、起きた」
「ふぇ?い、イルマ……さん?」
その時、入間の腕のなかにいたシエスタが目を覚ました。
入間は腕のなかにいるシエスタを覗き込むと、シエスタは目を白黒させて辺りを見渡す。
そして、自分が遥か上空に滞空するドラゴンの背中にいると気付くと、途端に声を荒げた。
「えっ、えぇええええっ!!?こ、ここ何処ですか!?それにっ、このドラゴンって!?」
「あー、シエスタ。取りあえず少し落ち着いてね。この竜は……」
『うむ。このような反応をされるのは久しぶりじゃな』
「しゃっ、喋った!!?」
混乱するシエスタに、入間は精神安定の魔術で落ち着かせると、入間達は正直に、ティオが竜に変身する事の出きる種族なのだと明かした。
「ミ、ミス・クラルスは……韻竜だったのですね」
「……韻竜?」
「この世界の希少な竜だね。変化の先住魔法で人間になれるらしいよ」
『うむ、妾の本来の姿は竜ではなく人の姿なのじゃが……出来れば会ってみたいものじゃな』
実は、割りと近くにその韻竜がいるのだが、それには気付かない入間達。
するとシエスタは、自身が気を失う前の光景を思い出した。見るのもおぞましい見たことのない化物に、同じ様な姿に変貌した自分の姿が脳裏に浮かび、シエスタは怯えたように手のひらを見つめた。
「あの……私……」
その目には、明らかに恐怖があった。
無理もない。自分が化物だったなんて話は、常人には到底受け入れがたい話だろう。
「……君は人間だよ」
「えっ?」
「君は怪物なんかじゃない、ただの人間だよ。自分がどんな存在であったとしても……自分にとって大切な場所にいたいと思っているなら、そこにいるべきだよ」
実際、ユエが変成魔法を使ってネイティブとしての能力を完全に封じ込めたので、もうシエスタはただの人間と変わらないだろう。
それに、入間自身も、魔界の秩序を乱す存在でありながら、人間であることを隠して魔界に居続けている。だからこそ、たとえシエスタがネイティブであったとしても、自分がいたいと思う場所にいるべきだと、入間はそう思っていた。
彼女を慰める意味を込めてシエスタの背中を擦ってやると、何故かシエスタは頬を赤くした。
「あの……どうして、イルマさんは私を……?」
おずおずと、シエスタが入間に尋ねる。その顔を見て、ユエ、シア、アメリがピクッと反応したが、入間はそれに気付かぬまま、入間は何でもないように答えた。
「僕は…自分のやりたい事をしただけ。君を助けたいって思った……それだけだよ」
本当の事だ。
入間は全てを救うなんて大事を口にはしない。このハルケギニアにおいて、何よりも優先するのは自分と恋人達だ。時には見捨てるし、己の幸せの邪魔となるならば殺すことだって厭わない。だが、人を救わない訳ではない。自分に余裕があって、助けても良いと思えるなら、入間は出きる限りは人を助ける。
「ありがとうございます、イルマさ……あっ!」
「別に、普通で良いよ。ミスタなんて、実は結構気持ち悪かったし」
敬称をつけるのを忘れてしまっていたが、入間としてはそっちの呼び方の方が慣れないため、そっちで良いと簡単に答えた。
「……また増えた」
「まぁ、自分の純潔を奪われそうになったのを助けられて、弱ってたところに優しく励まされれば、仕方もないが……」
「やっぱり入間さんは女誑しですぅ。これで10人目ですよ?入間さんなら何人いても良いですけど……」
『うむ。流石は“悪魔堕としのイルマ”と呼ばれたご主人様じゃ。ちょっと目を離した隙にまた女子を惚れさせるとは……英雄色を好むとはまさにこのk』
「喧しい!もう学院に戻るよ!」
『あひぃいいいいんっ♡』
背後でそんな会話をしていたユエ達。
入間はティオだけ何だかすごく不愉快なことを言っていた気がするので、ティオの頭をグリグリと踏みつけると、ティオはたちまち嬉しそうな艶声を上げた。
変態ドラゴンの気持ち悪い喘ぎ声を響かせながら、一同は魔法学院へと戻っていった。
(それにしても……)
(あのワームは、何処から来たんだろう……)
ワーム達の狙いがシエスタだったのは間違いないだろうが、人間に擬態して社会に潜伏いる様子もなければ、前々からこの世界にいた様子もなかった。
まるでこの世界に突然現れたように、ワーム達の登場は唐突な物だった。
(この世界に……何かが起きようとしてるの?)
かつてトータスで激戦を繰り広げたバダンのような存在がこの世界に潜んでいるのかもしれない……。
そんな不安が、入間の中で渦巻いていた。
次回予告
ミレディ「でっかいゴーレムだねぇ~」
チマ「破壊の剣?」
盗賊土くれのフーケ、現る!
オスマン「フーケを捕まえて、名を上げようと思う貴族はおらんのか!」
愛子「貴方達はそれでも教師ですか!!」
ルイズ「私が行きます!!」
EP10「thiefを追跡せよ!」
感想、評価お待ちしております。