記憶なき少女は戦場にて   作:ヨリヨリ

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フェイズシフトダウン

 

 

 

 

薄暗い作戦室。

壁に映し出された戦域マップが、淡い青光を放つ。

 

ノーマは、その片隅に立っていた。

ヘルメットを小脇に抱え、バイザーの奥の瞳は動かず、ただひとつの姿を見つめている。

 

――キラ・ヤマト。

 

彼が静かに、だが迷いのない手つきで、パイロットスーツのジッパーを最後まで引き上げた。

 

「ほう……やっとやる気になったって事か? その恰好は」

 

ムウ・ラ・フラガの軽い声に、キラは顔を上げる。

ほんの少しだけ、彼の表情が強く見えた気がした。

 

「大尉が言ったんでしょ。今この船を守れるのは、僕とノーマと、あなたしかいないって……」

 

言いながら、彼はノーマのほうを見た。

目が合う。だが、彼女は何も言わず、ただ静かに頷いた。

 

「戦いたい訳じゃない。でも……僕はこの船を守りたい。みんな乗ってるんですから」

 

言葉に、偽りはなかった。

震えていた心が、ゆっくりと剣に変わっていくのが分かる。

 

ノーマは胸の奥で何かがあたたかく灯るのを感じた。

 

「俺達だってそうさ」

ムウが肩をすくめるように笑う。

 

「意味もなく戦いたがる奴なんて、そうはいない。戦わなきゃ、守れねえから戦うんだよ」

 

キラが、うなずいた。

それは少年の決意だった。戦士のものではない。だが――確かな意志だった。

 

(――強いね)

 

ノーマは、ふとそう思った。

彼の背に、もう誰かの影を重ねてはいなかった。

 

「じゃあ、作戦を説明するぞ」

 

ムウが言い、部屋の中央へ歩を進める。

その声が響く中で、ノーマはひとつ、深く息を吐いた。

 

(守る。……キラも、この船も)

 

 

 

艦内アナウンスが冷ややかに響く。

 

『ローラシア級、後方九十に接近』

 

警報灯の赤が交互に点滅する格納庫内。

ノーマは無言のまま、ホワイト・ゼロのコックピットへと歩を進めていた。

 

(――また、始まる)

 

階段を二段飛ばしで駆け上がる。ヘルメットの中、鼓動の音だけがやけに大きく響く。

そのとき、声がした。

 

「ノーマ!」

 

振り返れば、そこにキラ・ヤマトの姿。

 

「気をつけて」

 

その言葉は、とても短くて、とてもまっすぐだった。

 

ノーマは足を止め、わずかに微笑む。

そして一言だけ返す。

 

「キラもね」

 

次の瞬間には、彼女の身体はすでにコックピットの中へと吸い込まれていた。

パネルが点灯し、起動シーケンスが始まる。

 

(……今度こそ、誰も失わない)

 

画面が開いた瞬間、艦が大きく震えた。

発砲の衝撃。アークエンジェルのローエングリンが発射されたのだ。

 

通信が開く。

 

『こちらムウ。隠密ルートから前衛艦を叩く。ケツは頼んだぜ!』

 

「ムウが前を討つ間、私とキラで、後方の艦を守る」

 

ノーマは静かに呟く。

目を閉じて、再び開く。

 

そのとき、彼女の中に迷いはなかった。

 

すでにストライクは発進していた。

その背中を追うように、ホワイト・ゼロのモニターに新たな映像が入る。

 

《ノーマさん!よろしくお願いします!》

 

通信先に映ったのは、戦闘管制を任されたミリアリア・ハウ。

不安と、それでも任務を全うしようとする気概が、その目にあった。

 

「……こっちこそ、よろしく」

 

ノーマがそう返すと同時に、管制室からの声が届く。

 

『メビウス・ゼロ、ノーマ機、リニアカタパルトへ。発進用意』

 

格納ハッチが開く。空間が呼吸を始める。

 

発進音が鳴る。

 

「ピッ、ピッ、ピッ、……ピップー」

 

――戦場が、手を広げて待っている。

 

「ホワイト・ゼロ、出ます」

 

静かな宣言と共に、機体はケーブルを引きちぎり、闇の中へと飛び立った。

 

その機体の影は、音もなく宇宙へと溶けていった。

アークエンジェルの艦体を離れたホワイト・ゼロが、戦場の宙域に踊り出る。

 

 

モニターに映し出されたのは――三機のG。

デュエル、バスター、ブリッツ。いずれもザフトが奪取したG兵器。アークエンジェルを標的に、鋭い軌道で迫り来る。

ノーマ・レギオは即座に通信を開いた。

 

「キラ、イージスをお願い。他は……私が抑える」

 

冷静で、揺るぎない声。だが、その内には焦りがあった。

ホワイト・ゼロから、八基のガンバレルが一斉に射出される。

それらは宙に螺旋を描きながら、正確無比なオールレンジ攻撃を展開。デュエルの左腕装甲に、バスターの右膝に、ブリッツの頭部センサーに、複数の射線が襲いかかる。

 

だが――

 

「っく……フェイズシフト装甲……!」

 

赤いバイザー越しに、ノーマの瞳が苦々しく細まる。

モビルスーツ同士の決定的な優劣を分ける装甲システム。フェイズシフト装甲は、実弾の直撃を電気的に中和し、機体を機能停止に追い込むことすら困難にする。

 

(……機体の撃破は困難。なら――)

 

ノーマの視線が、3機のGの頭部カメラとコックピットブロックに集中する。

 

「センサーと……中の“判断力”を潰す」

 

ホワイト・ゼロのガンバレルが、新たな軌道を描く。今度は各機の頭部へと集中するように。

一方、アークエンジェルからも援護射撃が行われていた。艦首から放たれるミサイル、加えて新設されたCIWS「コリントス」も射角を開いて弾幕を張る。

だがノーマは眉をひそめた。

 

「……やりにくい」

 

敵味方の射線が交錯する戦場。味方の弾幕すら、彼女にとっては“雑音”に過ぎなかった。

 

そのときだった。

 

デュエルが、急激な姿勢制御を行い、戦線を離脱する。

 

「っ――!」

 

モニターに映ったその機影は、まっすぐにストライクへと向かっていた。

 

「キラッ!」

 

ノーマはすぐにガンバレルを回頭させ、デュエルに向けて飛ばす。しかしその軌道に、バスターの榴弾が割り込み、ブリッツがビームクローで妨害する。

 

「邪魔……!」

 

牙のような攻撃に阻まれながら、ノーマの機体が火線の間をかいくぐる。

視界の端で、アークエンジェルのCIWS・イーゲルシュテルンが火を噴き、かろうじて彼女の援護を行っているのが見えた。

 

そして――

 

キラのストライクが、デュエルに向けてビームを連射する。

 

「まずい……!」

 

ノーマの口から、無意識のうちに声が漏れる。

 

(……あれじゃ、エネルギーが……)

 

地球連合のG兵器は、エネルギーパック式を採用している。戦闘中の無駄撃ちは、機体の行動時間を著しく削る。

いまのキラに、それを自覚する余裕があるか――。

 

「キラ、落ち着いて。射線、読みすぎないで」

 

ノーマは静かに、だが真っ直ぐに通信を開いた。

その声に応えるように、ストライクの連射が止まる。戦場が、わずかに冷静を取り戻す。

 

(守る。絶対に――)

 

白い悪魔と呼ばれた少女の、冷たくも静かな闘志が、戦場の中心で燃えていた。

 

バスターの主砲がアークエンジェルを狙い、火線が走ろうとした、その瞬間だった。

爆光と共に、ホワイト・ゼロのガンバレルの一基が割り込むようにその射線へ飛び込み、爆ぜた。

 

「まだ七基……大丈夫」

 

ノーマの声は、ひどく静かだった。

その直後、アークエンジェルからの砲撃支援がぴたりと止む。

かわりに、まるで先回りして道を譲るかのように、ノーマの射線を開けるような援護へと変わっていた。

 

「……ムルタ」

 

誰よりも、彼女の癖を知っている者。信頼など口にしない、それでも――通じ合っている者の動き。

ノーマは唇を引き結ぶと、機体を前へと押し出した。

 

「まずは、この二機を片付ける」

 

コックピット、センサー部――殺しはしない。だが、戦場から退けるためには徹底的に狙うべき“急所”がある。

放たれた八方向からのガンバレル攻撃。リニアガンの連射。

ブリッツのステルスも、バスターの遠距離火力も通じない。

 

「なにっ……!?」「あの動き、なんだ!?」

 

敵機が対応する前に、ホワイト・ゼロはすでに次の手を打っていた。

だが――次の瞬間、ブリッツとバスターが動く。ノーマを無視し、ストライクへと機体を反転させた。

 

「……キラを、先に潰す気!?」

 

その判断に、ノーマの眼が細まる。

ストライクは、今やイージスとデュエルの攻撃に対応するので精一杯だった。

 

「間に合わない……!」

 

ホワイト・ゼロは推進器を最大出力にし、強引に接近を仕掛ける。

ガンバレル七基と機体本体から、リニアガンによる集中砲火が放たれる。

 

フェイズシフト装甲に実弾は通らない――それは百も承知だ。

だが、鬱陶しいと思わせれば、それでいい。狙いを逸らせば、それで――

 

「こっちを見ろ」

 

ノーマの瞳が、光の奥で鋭く光る。

 

 

 

 

アークエンジェル・ブリッジ――。

ムルタ・アズラエルが扉をくぐると、艦内はすでに臨戦態勢だった。

目の前の主モニターに、ストライクとホワイト・ゼロが出撃する姿が映し出されている。

 

「……さぁ、こんな戦闘、さっさと終わらせて戻ってきてくださいよ」

 

誰に言うでもなく、祈るように呟いた。

だが、その言葉が終わる間もなく――

 

「後方より接近する熱源、距離67、MSです!」

チャンドラの声が、ブリッジに緊張を走らせる。

 

「来たわね……!」

マリュー・ラミアスが短く息を呑む。

 

「対MS戦闘用意! ミサイル発射管13番から24番、コリントス装填!」

ナタル・バジルールの号令が飛ぶ。

艦内が一気に熱を帯びた。

 

「リニアキャノン、バリアント両舷起動! 目標データ入力、急げ!」

 

「機種特定――これは……! Xナンバー、デュエル、バスター、ブリッツです!」

 

「なにを!?」

「えっ!?」

マリューとナタルの声が重なる。

艦内がざわめいた。

 

「奪ったGを、すべて投入してきたというの……?」

マリューの呟きに、ナタルが小さくため息をついた。

 

モニターの中では、迫る三機のガンダムを、ホワイト・ゼロが単独で迎え撃っていた。

 

「敵MS散開!」

 

「迎撃開始! CIC、何しているの!」

マリューの声が鋭く響く。

 

「レーザー照準、いいか!?」

「はい!」

 

「ミサイル発射管13番から18番、撃てぇ!」

「7番から12番、スレッジハマー装填、19番から24番、コリントス、撃てぇ!」

 

だが――その弾幕は、明らかにズレていた。

機体の軌道を阻むような射線。

ガンバレルを封じ、味方すら巻き込むそれは、援護などではなかった。

 

アズラエルは、唇を噛みしめた。

 

「彼女を殺すつもりですか!!」

 

怒声と共に、アズラエルは前へ踏み出した。

 

「アズラエル議長! どういうおつもりですか!」

ナタルが顔をしかめて言い返す。

 

「それはこちらの台詞です!!」

 

声がぶつかる。

だが、彼は怯まなかった。

 

「もう一度言います。彼女を殺すつもりですか?」

 

ナタルは息を飲む。

 

「我々はホワイト・ゼロの援護を――」

 

「援護になっちゃあいないッ!!」

アズラエルが遮った。

怒りではない。だが、それは確かな苛立ちと焦りに満ちていた。

 

「イーゲルシュテルンを展開してください! 底部です、彼女の旋回空間が制限されています!」

 

ナタルが驚いたようにこちらを見る。

 

「……ホワイト・ゼロの運用パターン、あなたが?」

 

「覚えていますとも。誰より近くで、彼女の背中を見てきましたから」

 

アズラエルは、ただ静かに言い放った。

 

(今ここで、僕が何をできるのか……それは一つしかない)

 

指示を出し、動かし、支えること。

――あの日、彼女が言ったように。

 

「……援護を、彼女のために」

 

モニターの中で、ホワイト・ゼロが旋回する。

その動きが、今ようやく――自由を得た。

 

アズラエルは拳を握り、祈るように視線を送った。

 

「行け、ノーマ……君なら、切り抜けられる」

 

その想いは、艦の轟音の中、静かに熱を帯びていた。

 

 

 

 

背後から迫る警報音に、キラ・ヤマトは息を呑んだ。

 

――デュエル。X102。

 

モニターに映るのは、灰色の装甲をまとったMS。迫ってくるのは、ただの敵じゃない。

その直前、通信が割り込むように入る。

 

「何をモタモタやっている、アスラン!」

 

イザーク・ジュールの、苛立ちを隠さない声が飛び込んできた。

 

「イザークか!」

 

キラの目の前で、イージスの機体が振り返る。

 

(――アスラン…!)

 

胸の奥が締めつけられる。

 

「X102……デュエル。じゃあ、これも……!」

 

そう呟くと、キラはビームライフルを強く握った。

けれどその手は、わずかに震えていた。

 

同時刻――

ホワイト・ゼロが、戦っていた。あのノーマが。

バスター、ブリッツ、そして今は……ディアッカとニコルが彼女を狙っている。

アークエンジェルからの援護が入ったが、それでもなお二機の攻撃は止まない。

 

「くそっ、邪魔しやがって……!」

 

モニター越しに聞こえた、ディアッカの舌打ち。敵の声。

でも、それ以上に響いたのは――

 

「ノーマ……!!」

 

その名を口にしたとたん、何かが溢れた。

焦り。怒り。無力感。

全部が混ざって、キラの指が引き金を引いていた。

 

「クソッ、クソッ……!」

 

「クソぉぉぉっ!!」

 

引いた、というよりも叩きつけるように。

撃ちまくるビーム。

けれど、狙いは定まらない。

 

(どうしてだ……なんで……!)

 

エネルギーがみるみるうちに減っていく。

それでも引くことができない。

 

「そんな戦い方で、当たるわけがない……!」

 

イザークのデュエルが、鋭く接近してくる。

ビームサーベルを抜き、ストライクの間合いに飛び込む寸前――

 

『――キラ、落ち着いて』

 

ノーマの声だった。

静かに、けれど真っ直ぐに響く。

 

『射線、読みすぎないで。感覚で撃って』

 

その一言が、キラの胸のどこかを撃ち抜いた。

 

(……そうだ)

 

(彼女は、今も――あの二機と戦ってるんだ)

 

「……わかってるよ、ノーマ……!」

 

呼吸を深く整える。

肩に入っていた力を抜き、両手で再びライフルを構え直す。

次の瞬間――

 

一射、二射、三射。

ストライクの放った光が、デュエルの装甲をかすめるように掠め、死角を突く。

 

「チィッ……!」

 

イザークの苛立つ声が漏れる。

キラの視界に、ノーマのホワイト・ゼロがちらりと映る。

あの小さな機体が、ガンバレルを展開しながらも、なお二機を抑え込んでいる。

 

(あの子は……ひとりで)

 

撃ち続けなければ。

僕が撃たなきゃ、意味がない。

キラは、トリガーに指をかけたまま思った。

 

――これは、彼女の戦いでもある。

 

――そして、自分の戦いでもある。

 

守りたいものがある。

ただ、それだけが――今のキラを動かしていた。

 

 

 

アークエンジェル・ブリッジ――

戦闘配置に就いたクルーたちの間に、緊迫した空気が張り詰めていた。

 

「フラガ大尉より入電、作戦成功! これより帰投するとのことです!」

 

チャンドラの報告に、マリューの目が鋭くなる。

 

「ストライク、ホワイト・ゼロ――ローエングリンの射線上から離れて!」

 

ナタルがすかさず追い打ちをかけるように指示を飛ばす。

 

「主砲開口――ローエングリン、照準完了!」

 

「今よ――撃て!」

 

艦首に設けられたローエングリン発射口が機械音を響かせて開き、光の奔流が溜められていく。

その時――

 

「今だ……!」

 

ノーマの声が、戦場を貫く。

ホワイト・ゼロが滑るように加速。

照準を定めたのは、三機のGのうち――バスターのコックピット。

 

リニアガンと、残存するガンバレルからの一斉射撃。

フェイズシフト装甲には届かない。

だが――あの一瞬、撃ち込むべき“急所”がある。

 

「キラ! 離れて!」

 

ストライクが、一気に推力を上げてアスランたちの包囲から抜ける。

その背を、イージスのアームが掠める。

 

直後――

 

「ローエングリン、発射!!」

 

アークエンジェルの主砲が、白光の奔流を解き放った。

空間が焼け、震え、爆音と共に敵影をのみ込んでいく。

 

『ストライクへ帰艦信号発信。アークエンジェルは最大戦速でアルテミスへ向かいます』

 

ブリッジからの通信が届く。

だが――

 

「……フェイズシフトが、切れた!?」

 

キラのストライクが、艦へ戻る途中で動きを鈍らせる。

装甲の色が沈み、警告音が艦内に響いた。

 

「キラ!」

 

ノーマが叫び、ホワイト・ゼロが反転する。

その瞬間――

 

「うおおおぉぉ!!」

 

デュエルが、エネルギー切れのストライクへビームサーベルを構えて迫っていた。

ノーマは、咄嗟にガンバレルの一基を――デュエルにぶつけた。

爆炎がはじける。視界が一瞬、白く染まる。

 

「やめろ……!」

 

イージスが再び、捕縛用アームを展開しストライクを拘束。

 

「キラァァ!!」

 

ノーマの声が響く。

ホワイト・ゼロが割り込もうとするが――

バスターとブリッツがその前に立ちはだかる。

 

「邪魔だぁぁ!!」

ノーマは、怒りに任せるように、残る二基のガンバレルを二機に突撃させた。

轟音。火花。一瞬の爆光。

 

そして――

 

「ノーマ、今だ!」

 

メビウス・ゼロのフラガ大尉が、ホワイト・ゼロの支援に割り込む。

その手には、巨大なリニアガン。

ホワイト・ゼロとメビウス・ゼロの一斉砲撃が、

イージスを正面から撃ち抜いた。

 

捕縛アームが弾け飛び――

 

「キラッ! 今だ!!」

 

ストライクが振り返り、ブリッジからの帰艦信号に応答する。

――だが。

 

『ストライク、装備の換装が必要です! ランチャーストライカー、射出準備!』

 

「えっ!?」キラが困惑する。

 

そこへ再び、ムウの通信が飛んだ。

 

『後ろにもまだでっかいのが居るんだぞ! 早く換装しろ、キラァァァ!!』

 

キラが――うなずいた。

アークエンジェルのカタパルトから、ランチャーストライカーが射出される。

艦とMSが、共に次の戦いの準備を進めていた。

 

そして、その影で――ノーマのホワイト・ゼロはなお、戦場に立っていた。

その瞳は、確かに……“命を守るための戦い”を選び続けていた。

 

 

「ストライクの換装の時間を稼ぐぞ!」

 

ムウ・ラ・フラガの声が戦場に響く。

先行していたメビウス・ゼロが、逆噴射で軌道を修正しつつ反転。敵機を引きつけようとする。

 

「わかってる」

 

ノーマ・レギオのホワイト・ゼロもまた、同時に加速。

残るガンバレルを母艦に回収し、リニアガンを構えて加勢に入る。

イージスが距離を詰め、再度ストライクを狙う。

その射線上に、ホワイト・ゼロが割って入った。

 

「来させない」

 

ノーマの瞳が鋭く光り、実弾が一斉に放たれる。

弾幕は完全に牽制用、だがフェイズシフト装甲といえど視界封じには有効だった。

 

――だが。

ブリッツのクローが、斜め後方から襲いかかる。

即座にムウのガンバレルが展開され、爆発的に割り込んだ。

 

「おっと、こっちも来たか! 援護よろしく、ノーマ!」

 

「了解」

 

短い言葉に、強い信頼が滲んでいた。

二機の高速機動機が、ストライクを中心に防衛網を形成する。

 

一方、アークエンジェル――

 

「ストライク、ランチャーストライカー接続完了まで――あと12秒!」

 

CICの報告が響く。

 

「時間がない、急いで!」

 

ナタルの声がブリッジに重なる。

その時――

ノーマの意識に、ズキリと走る頭痛。

 

(また……っ!?)

 

思考が揺れる。身体の動きが一瞬遅れる。

その隙――

デュエルが、ミサイルを肩部から発射。狙いは、まだ換装中のストライク。

 

「しまっ……!」

 

ノーマがガンバレルを動かそうとした瞬間――

 

ドォン――ッ!!

爆煙が広がる。

ノーマの目が見開かれる。叫ぼうとした、その時――

 

――ビーム。

爆炎の中心から、ストライクのランチャーパックが展開され、砲口が光った。

 

「ランチャーストライク、装備完了!」

 

CICの叫びが重なる。

デュエルがとっさに回避するも、肩部が焼かれ、煙を上げての後退を余儀なくされた。

 

「チィッ、あの野郎!」

 

イザークの怒声が宙に響く。

 

「援護、完了……!」

 

ノーマが、小さく息を吐いた。

ストライクが立ち上がる。

その背には――友達を守る意志が、しっかりと宿っていた。

 

直後、戦況が変わる。

 

『各機、敵部隊が撤退を開始――』

 

反転していくイージス。ブリッツとバスターも後に続き、スラスターの光を曳きながら離脱していく。

 

「逃がすか……!」

 

ノーマが追おうとするが――

 

「ノーマ、深追いするな!」

ムウの静止の声が入る。

 

アークエンジェルはすでに進路をアルテミスへ向け、最大戦速で移動を始めていた。

ザフトは退いた。だが、戦いは――終わってはいない。

コックピットに沈むノーマの視線が震えていた。

 

(……また、あの感覚……)

 

だが、それに囚われる時間はない。

 

 

 

 

 

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