理。 作:オバヨしか勝たん
――この世界はクソばっかりだ。
それが俺――ヤン・レヴァンドフスキの、二十年という短い人生において悟った一つの結論である。
幼い頃に両親は死んだ。なにも円満で、平穏で、満ち足りていたなんてことは一切ない。たしかに、何も知らなかった俺個人に限っては、その時までは、充足感に溢れた生であったと思う。決して裕福ではなかった。貴族や王族のように、欲するところを尽く得られるわけでも到底ない。
だけれど。
明確に、絶対に、疑念の余地なく、俺は。
幸せだった。
「ヤン!マリア!帰ったぞー!」
「おかえりなさい、父さん!」
「今日は早かったのね?」
「ああ、早いうちに獣を仕留められたからな。今日は久々に肉だぞ!喜べヤン!」
P国、レヴァンドゥフ村。なんてことはない、家族の日常だ。
狩猟と農業で食いつなぐ、一般的な農村の生活。貧乏であることは特段気にしていない。なぜならそれは、神が定めた俺の運命だからだ。
この天命を全うし、天国に行く。両親、特に父から口を酸っぱくして言われ続けた教義であるが、それはそれとして、この人生に小さな幸せを感じることは悪では無いだろう。
そう、たとえば――
「父さん!今日も一緒に星、見るよね!」
「ん、あぁ、そうだな。腹を満たしたら行くか」
――星を見ること。
あとになって、それは天文と呼ばれるれっきとした学問であったと知るのだが、幼い子供には綺麗な星空を眺めるというだけで楽しかった。
星はなぜ光っているのか。どれくらいこの地と離れているのか。なぜ毎日少しずつ動くのか。
それは子供が持つには分不相応で、しかしある種当然ともいえる、知りたいという無邪気な心。
ラベンダーの咲き乱れるこの丘で、幾度となく父に、時には母に質問してきた。二人は常に困っていた。天文学を学んできた訳でもないのだ、至極真っ当な反応だろう。
それでも、なら家庭教師を雇うか?などと言い出すもので。生活を切り詰めるくらいならいい、俺は今のままでも充分だと何度か伝えたこともあった。
母は、星にそれほど強い関心がある訳ではなく、どちらかというとラベンダーに心惹かれていた。鮮やかな紫色とどこか落ち着く心地好い芳香。
この丘という空間は、いつも幸せに満ちていた。
「どうもー、こんばんは」
いやぁ、こーんな夜遅くに申し訳ない。
更に続く言葉によって、普遍的で、偏在的で、充足的な安寧は、突如終わりを迎える。
「異端審問官の、ノヴァクです」
結局、両親は冤罪だったらしい。特になんの学もなく、生まれてこの方村から出たこともなかったのだから、当然だ。
毎晩のように星を眺める俺たちを不審に思った他の村民による通報。
――たったそれだけで?
あの頃は無知であったが、我々家族は余所者だったらしい。元々両親は別の村に住んでいたのを、ここレヴァンドゥフ村に拠点を移したんだとか。
閉鎖的で、保守的で、慣習に安住する者など一定数いる。そしてそれに迫害される者もまた然り。
運悪く目を付けられ。
運悪く疑われた罪が天文に関することで。
運悪く当時の司教はそれを強く断罪していて。
最終的に、他でもない彼が来た。
「運悪く?いやぁーそれは良くない表現だね。ヤン君、っていったかな、君は今何歳だい?」
「……八歳」
「ん〜、さすがに大丈夫かぁ。あの異常者よりも若いし……」
小さく呟くように、思案しながら洩らしたその声はよく聞き取れなかったが、殺され、地獄に行くことはないのだと悟った。
彼は言った。疑わしきは罰せよ、と。神が創ったこの世界を破壊する異端思想も、それに付随してその可能性のある者も、等しく悪である、と。
――たったそれだけで?
運に、良いも悪いもない。運命とは、そう決まっているからだ。定められているからだ。ただ息子の頼みを聞き、一緒になって星を眺めていただけの両親が異端研究をしていると疑われ、冤罪でありながらその生に幕を閉じたことも、運命だったからか?
それなら仕方がないと、諦め、悟ることは不可能だった。幼い心でその諦観を認めるなんて出来ず、両親がこの世の全てだった俺にはC教への信仰心も薄かったのもある。
ただ、単純に。飾らずに。
両親の死をもって、残ったものが星とラベンダーだけになり、気軽に腐り始めた俺の心を端的に言い表すのであれば。
――運命なんて、クソ喰らえ。
「あ、えっと……俺、今、文字習ってて。日記みたいなもの、なんだけど……」
俺の人生は、二度目の転機を迎えた。
遅ばせながらチ。のアニメを一気見して、オバヨに脳を焼かれた衝動に従い、ひっっっさびさに文を書きました。
リハビリも兼ねているので短いです。
需要があれば続かせたい。。