ロゴス先生のちょっと(かなり?)変わった子育て方法 作:青瑠璃
それからというものの、ロゴスはヴェールを連れてあちこちで色んなことをしてくれた。
まずは久しぶりにロドスの甲板に積もった雪を、オフィスルームに呪術で運んできたこと。ヴェールと子どもたちは大いに喜んだようだが、事務員たちや後方支援部の人たちからは捕まらないロゴスに代わって私にグチグチと苦情を入れられた。
次にはソーンズの研究室に行っては服装の色が変わるという謎の発明品をロドスに振り撒いてもれなく私の防護服はピンク色になった。ソーンズは捕まえて甲板に吊るしたがロゴスが捕まらなかった。なんなら一緒にいるヴェールも捕まらない。ソーンズにどこに行ったか聞いてみると、
「アイツが纏っている呪術に弾く薬なら作れそうだ。それをロドス中に振り撒いたらいずれロゴスも見つかる。俺を解放してくれ」
と更なる問題を起こしそうだったので却下した。
それだけでなく、システムの中をも呪術で弄ってはクロージャやエンジニア部の人たちも困らせた。なんでもどのシステムを開いても音楽が鳴るロックを掛けたのだという。何故そのようなことをしたのか私にはさっぱり分からない。とにかくロゴスを捕まえなくては。
そんなある日、ヴェールを見かけたという報告が私の元に届いた。なんでも事情の知らないフロストリーフとヴァーミルが、ヴェールと共に絵本を読んでいたのだという。私はフロストリーフと連絡を取って執務室に連れて来て欲しいと頼んだ。フロストリーフは、スムーズにヴェールを執務室に連れて来た。
「この子どもを探していたのか?」
小さな羽角のある子どもを横にフロストリーフが執務室にやって来る。ヴェールは悪びれる様子なく私を見つめていた。
「そうなんだよ。ありがとう、フロストリーフ」
もう下がってもいいよ、と言ったが、フロストリーフは何か言いたげに目を逸らした。
「この子どもが何をしたかは分からないが、怒らないでやってくれ。この子どもは、文字が読めないみたいなんだ」
「……え?」
そうだったのか、と私はフロストリーフからヴェールへ目を向けた。ヴェールもようやく、怒られると思ったのか俯き始めた。
「ごめんなさい」
反省をしているヴェールに私は良心が痛んだ。この子どもに今から説教をしようとしていたんだっけ。私はうんうんと悩み、フロストリーフが執務室を出たあとに別のことをヴェールに聞いてみた。
「……君がロゴスの息子というのは、本当なのかい?」
ロゴスの息子なら、文字の読み書きが出来ないというのは違和感があり過ぎる。ロゴスは幼少期には文字の読み書きが出来ていたと彼自身から聞いていたし、六歳という肝心な年齢に、言葉を重んじるロゴスから文字の読み書きを学んでいないのはおかしい気がしたのだ。
「僕は……」
コンコン。
ヴェールが何か言いかけた時、扉をノックする音が。
こんな時に誰だろうと思いながらもどうぞと言うと、執務室に入ってきたのは……ロゴスだった。
「ここに我の息子がいると思っていたのだが……やはりいたのだな」
ロゴスは普段と変わらない様子で振る舞い、そこで立ち尽くしたままのヴェールを抱き上げた。
「ようやく出てきたか、ロゴス。みんなからものすごい量の苦情が出ているよ。説明と反省文を書いてもらいたいのだけど……」
「うむ、反省文は書こう」ロゴスはすぐに頷いた。「ところでドクター。我の息子のことを疑っている様子だったが、文字の読み書きについて聞いていたのか?」
「そうだけど……」
ロゴスがそう言い出した時点で既に察しがついていた。ロゴスにはもう、言い返せる何かを持っているのだ。
「ふむ、我の息子には実はサルカズ語しか教えていなくてな。……ヴェール、この文字なら読めるだろう?」
と言うなり、ロゴスは古そうな本をどこからともなく取り出してヴェールに渡した。私にはその表紙の文字が読めないが、それがサルカズ語であることは私でも分かった。
「お姫様と蓮のお話」
ヴェールは淀みなくその本に書かれているらしい題名を読み上げた。本当にそう書いてあるのか今すぐに確認は出来ないが、ロゴスがそう簡単に見抜ける嘘もつかないと思うので私はヴェールを疑うことを諦めた。
「分かったよ……私が悪かった。疑ってすまなかった、ヴェール、ロゴス」
「うむ」
私が謝ると、ヴェールはそれでもあまり表情は変えなかったが、ロゴスは満足したように頷いた。
「ではこれで失礼するぞ」
そうしてロゴスはヴェールを抱えたままさっさと執務室を出て行った。私に引き止める余裕も与えないまま、まるで嵐かのように。
「はぁ……苦情はまだ続くのかな」
私は余計な悩みに頭を痛めながら、もう見えなくなったロゴスの背中を見送った。