鬼畜戦士ランス、ジョウト地方に立つ!   作:OTZ

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本編
鬼畜戦士ランス、ジョウト地方に起つ!


 それはわずか一日のことであった。

 すべての建物は荒廃し、形だけを保っている。

 いや、それはまだマシな方であった、多くの建物は瓦礫の山と化し、そこここに残火が燻り、道だったところや建物の中には人やポケモンの死骸が山積している。

 

「おーい。ここにも人がいるぞ!」

 

 ガーディの探索により、また数人が瓦礫の下敷きになっているのが発覚し、ゴーリキーやハリテヤマなどの手により除去されていく。しかし、これらポケモンの力を借りても、この災害の被害把握すらどれほどの日数を要するかわからない。

 

「血液はまだか!? オピオイドや、ペニシリンも全然足りん!」

「はい。まだシンオウやホウエンからの医療追加支援が途中の道路でボトルネックを起こして、遅れてる状況でして……」

「くそっ……。何をやってるんだ……!」

 

 今日、ようやく到着したNGOや国際医療支援機関の職員たちもままならぬ状況に四苦八苦している。そうしている間にも命がまた一つ一つ、いや、千や万単位で失われていくというのに。

 

「リーダー! こっちに泥棒がいます! 早く捕まえてください」

 

 ジムリーダーのアカネは黙ってピクシーを出し、その方向に向かわせる。

 

「リーダー! 心斎橋付近でまた大規模な強盗事件です。地元警察より捜査協力要請が……」

「チッ……。次から次へと忙しないなぁホンマ」

 

 事件発生以来、ジムリーダーのアカネには休息の暇はなかった。

 

「ゴールドいうたっけ……。あれに少し任せすぎたかもしれへんな……」

 

 そう独り言を呟きながら、アカネは気を取り直してその方向に向かう。

 少し離れた西側の地区では、一人の青年が立ち尽くしていた。

 

「うせやろ……。こんな、こんなことがあっていいんか……」

 

 ポケモンのボックスシステムを作り上げた、マサキである。彼もこの災害で大きな被害を受け、システムの多くを失うことになった。

 

「みんな……みーんなきえてしもた……。どないすればええんやこれから。昨日まであんなうまくいってたゆーのに……」

 

 大量のデータを記録したサーバーやそれを動かすワークステーション、巨大な転送装置などは既に物言わぬ鉄くずとなってしまっている。マサキは地面を殴る他なかった。

 

 これが被害の中心となったコガネシティの有り様、いや、もはやジョウト地方中がこのような惨状に見舞われている。あの平穏は既に遠い過去のようなものになってしまった。

 

「……」

 

 一匹のポケモンが遥か離れた上空よりその有り様を深く見届け、一つの決意をこめたように、別の時空へ消えていく。

 

――未来を、変えるために

 

――

 

「っ……あれ? どこだここは……」

 

 一人の戦士――ランスが目を覚ます。周囲は洞窟であり、湿っぽい雰囲気と、薄暗い空間が彼の身を覆った。

 

「総統! 良かった……。ご無事だったんですね」

「おお。その声はウルザちゃんか。なあに俺様があの程度の攻撃でどうにかなるわけないだろ、がははは」

 

 ランスは声の主に対していつもどおりの高笑いをする。ランスたちは戦闘中、魔軍からの目眩ましを受け、そしてこの空間に飛ばされた。話しかけたのはウルザ・プラナアイス。ゼス王国四天王であり、現在は人類軍の総統付参謀であった。

 

「しかしどこなんだここは。見た所ダンジョンみたいだが……」

「どうやらそればかりじゃないみたいよ。ランス」

 

 ランスの背後にまた彼にとっては馴染み深い人物の声が響く。見当かなみ、ランスに仕える忍者である。

 

「かなみか。どういうことだ」

「私達は総統が気づかれる前に軽く周囲を偵察したのですが……。どうにも私達が居たところとは様相が異なるみたいなんです。モンスターはいるみたいなんですが、どれも私達の知るそれとは違うみたいで」

 

 淀みなく滔々と話す、ウルザの顔と周囲が照らされる。ランスの奴隷、シィル・プラインによる見える見えるという照明魔法だった。

 

「そうなんですよランス様! どれもどこか可愛らしさというか、そういうのがあって……」

 

 シィルの姿を見たランスは問答無用でシィルの頭を殴った。

 

「ひぃん!」

「この馬鹿者。主人を差し置いて勝手に離れるな」

「しょうがないじゃないの。洞窟で真っ暗で照明がないと何もわからないんだから……」

 

 かなみが横に入ってシィルをフォローした。

 

「ちっ。で、他になんか分かったことあったか? さっさと拠点に帰って汗ながしたいんだが」

「それなんですが、ここまで探索して魔物兵らしき姿はおろか、喊声や敵影すら見当たりません。少なくとも私達がいた敵地よりは、かなり離れた場所にいるのは間違いないと思います」

 

 ウルザは冷静に、しかしどこか困惑の混ざった表情で話す。

 

「どういうことだ……? 敵の魔法かなんかで全然関係ない所に飛ばされたのか?」

「分かりませんが。とにかく早く出口をみつける必要がありますね。戦況は予断を許しませんから」

 

 表情には出さないものの。ウルザの内心はかなり焦燥しているであろうことはこの場にいる全員が理解していた。

 

「これは直感……なんだけど」

「何だかなみ」

「ウルザさんやシィルちゃんとは別に色々偵察したけど、モンスターや時々出会う人を見るに、どうも私達のいた世界とは根底から何かが違う気がするのよ。あまり考えたくないんだけど……」

「―――異世界への転移。ですか?」

 

 かなみの言葉を遮るようにウルザが発言する。

 

「う……うん」

「そ、そんな……」

 

 あまりの事態にシィルは驚きを隠せない表情を浮かべる。薄暗い中でも分かる程度にはそれははっきりとしている。

 

「ミラクルがよく言ってたあれか? なんとかホラーがどうこうとか」

 

 ミラクルとは、ランスたちの世界にいた世界最高峰の魔法使いであり、多くの知識を有している尊大な女魔法使いである。

 

「彼女の話はなんどか伺いましたが、あの場合は高度な次元転移魔法を用いて門をくぐって転移する方式です。もし、かなみさんの言う通りだったとしても別のアプローチだと思いますが……」

「ま、ここでうだうだ言ってもしょうがねーや。とっとと出るぞこんな陰気臭い洞窟」

「あーん。待ってくださいランス様ぁ……」

 

 でたらめな方向に歩き出したランスの後に慌ててシィルは、みえるみえるの魔法で出した照明と共について行った。

 

「あーもうまた無計画に……。いいの? ウルザさん」

「……。総統はああいう人ですから。かなみさんもご存知でしょう?」

 

 ウルザはため息をつきながら、その後に続き、かなみも渋々移動を開始する。

 

「待ってランス! 歩くのはいいけど、出口のありそうな心当たりはいくつかあるからそれを……」

 

――

 

 洞窟を探索していると、シィルが少し離れた場所に気づく。

 

「あっ。誰か襲われていませんか……? あれ」

 

 シィルの向けた視線に一同が目を向ける。腹に月の輪の模様を持つ、大きなクマのような生物に一人の少女が相対している。

 

「ほう……。見たところ女の子っぽいな。チャーンス!」

 

 そう言ってランスは魔剣カオスを振りかざし、下心満載でそれに加勢しようとする。

 

「行って、マリル!」

 

 その光景に一同は釘付けになる。小さなボールからそれより何倍も体積がありそうな生物が、赤い光と共に飛び出したのである。

 

「な……なんだあれは。魔法か何かか?」

 

 さしものランスも飛び出すのを止めて、様子を伺う。

 

「私もさっき偵察で見かけたんだけど……、どうもなんかああいう生き物が人間の身を常に守ってくれてるみたい」

「生き物……? モンスターだろあれ。魔物使いには見えねえし、だのにあんな風に命令してるってのか?」

 

 ランスにとっても、また一行にとっても信じられないことであった。

 

「私達は今その魔物と世界をかけた戦争をしているというのに……。かなみさんの言う通り、根本から価値観が違うと考えるべきかもしれませんね」

 

 ウルザはグローブを顎にあて、なんとか飲み込もうと努力している。ついさっきまで生死をかけて戦おうとしたモンスターと同じような生物が人間に使われているという事実が、追いつくまでには相応の時間がかかる。

 しばらく経過を観察していたが、どうにもあのマリルとよばれた小さなゴム毬のような生物では、あの巨熊相手には分が悪そうであった。5分も絶たずに満身創痍となっており、背後からでもその焦燥が手に取るように伝わる。

 

「ようし。ここで颯爽と俺様が助けに入れば、俺様の男気にメロメロになるに違いない! 下がってろお前ら! でりゃああああ」

 

 三人を置いてけぼりにして、ランスは助太刀に走り出してしまった。

 

「あーもうまた勝手に……」

「とりあえず様子を見ましょう。あの少女から色々聞きたいこともありますしね」

 

 かなみとは対照的にウルザは万一に備えてボウガンを番えながら、あくまで状況を静観している。シィルの方は照明役でどたばたとランスのすぐ背後に控える。

 ランスは飛び上がってクマに一太刀入れようとしたが、すぐにその巨大な手で弾かれる。

 

「おっと」

 

 ランスは受け身を取って衝撃を殺す。

 

「ラ、ランス様」

「黙ってろシィル。手出しはするなよ。その照明だけはちゃんと掲げてろ」

 

 シィルはこくこくと頷いて、魔力を出す手袋を再度しっかりとかざし、その光度を引き上げる。

 

「な……、何なんですかあなた達」

「ふっ。俺様は世界最強の人類総統のランス様だ! 君を助けに来た英雄――」

 

 少女の言葉に応えようとしている最中に、クマは再度ランスに攻撃を加えようと、拳をランスの身体に当てようとする。あまりの大きさと勢いに、触れる遥か前からランスの短髪がそよいだ。

 

「ふんっ!」

 

 ランスは即座に反応し、カオスでその攻撃を防ぐ。

 

「あっ……なんだこれ……。血が出ていないじゃないか!! おいこの駄剣が! きちんと仕事しやがれ」

「そんなこと言われてものぉ……。なんかこっちきてから知らん間にこんなことに」

 

 カオスは仕方がないだろとばかりにぼやく。クマに全く効いていないわけではなさそうで、衝撃分の痛みは伝わっているようだった。

 

「まさか……刃引きされていると……?」

 

 ウルザは即座に言葉の意味を察して、ボウガンにセットしている矢を確認する。なるほど鏃が潰されていた。

 

「ランスさん! これではあまりにも危険すぎます! ここは一旦」

 

 ウルザは普段の総統という二人称も忘れて、とっさに撤退を進言する。

 しかし、ランスは諦めない。

 

「ちっ……。ウルザちゃん。俺様を見くびるなよ。剣が使えねえくらいで、こいつを倒せねえとでも、思ってんのか……よ!」

 

 そう言ってランスはカオスを引き、剣を納めて今度は拳でクマと相対する。

 

「こうなったらステゴロでいくしかねえか。久々にいっちょ俺様のスーパーアッパーをくれてやる」

 

 ランスは即座に拳を作って、思い切り腹に拳を突き上げる。クマにはそれなりに効いているようで、やや身体がゆらめく。

 

「マリル! バブル光線よ!」

 

 その隙を見て取った少女は、即座にマリルに技を指示し、クマにダメージを与える。

 分が悪くなったと見たのか、クマはすごすごとランスたちの前から立ち去っていく。

 

「あ、逃げるなこの野郎! 俺様の経験値となりやがれ!!」

 

 ランスは怒って追いかけようとしたが、その肩に小さな手が乗った。

 

「あの……ありがとう、ございました。なんてお礼を言ったらいいか」

 

 ランスはすぐに視線と思考を切り替えて少女の方に目をやる。

 

「がはははは。俺様にかかってはどうということはない……わ……」

 

 ランスは少女の容姿をくまなくチェックすると、その歯切れが悪くなっていく。

 様子をみてすかさずウルザが話に入った。

 

「ご無事で何よりでした。私、ランスさんの仲間の一人です……、ところでお聞きしたいのですが、この場所について教えては頂けないでしょうか? 何分、初めて来るところで道に迷ってしまいまして……」

 

 ウルザは少女にお辞儀をして、丁重に尋ねる。

 少女はタウンマップを取り出しながら、快活に説明し始めた。

 

「ここはくらやみの洞穴。ジョウト地方の南東の方向にある、この山がちになっている所ですよ。私がいるのはこの、すぐ南にある29番道路やワカバタウンに抜けていく方向です」

 

 ウルザをはじめ、すぐ後ろに来ていたかなみやシィルにとっては衝撃的な情報であった。ここが異世界ということがほとんど確定したためだ。

 

「そ……そう、ですか」

 

 あまりのことにさしものウルザも次の言葉が継げなくなっていた。不審に思った少女が顔を覗き込んで、話しかける。

 

「どうしました?」

「いえ……。大したことではないですよ。えっと……、それで私達はなんとか外に出たいんですけど、一番近い出口に出るにはどのようにいけば……」

 

 なんとか気を持ち直してウルザはつとめて冷静に尋ねる。

 

「そうですね……。出れないことはないと思いますけど、初めて来た人にはちょっと難しいかもしれません。結構奥深いですからここ」

「それでも構いません。どうか道筋を」

「うーん……。あ、そうだ、別に歩かなくても出られる方法ありますよ」

 

 そう言って少女は、一本のロープを取り出す。

 

「それは?」

「何って、あなぬけの紐ですよ。私もそろそろ引き返そうと思っていましたし、一緒に出ませんか?」

「えっとつまり……、その紐を使えば出口に出られるってことかしら……?」

 

 今まで口を閉ざしていたかなみがなんとか咀嚼して尋ねる。

 

「そうです。こーやって皆さんの足を囲えば、紐の長さ分の人たちを一気に出口まで転送できるんです」

 

 少女は指でジェスチャーしながら用法を説明する。

 

「へー……帰り木みたいなものだけど、すごい便利。私の道具としても使えそう……」

 

 かなみは深く感心している。

 

「あっ、私はワカバ側から入ったので46番道路の南側に出ると思いますけど、それで大丈夫ですか?」

「は、はい問題ありませんよ」

 

 そういうわけで、あなぬけの紐を使い、5人は洞窟の外へ出た。

 

―46番道路―

 

 外は快晴であり、煌々とした日差しがランスたちを照らす。

 

「わあ……本当に出れるんですね」

 

 シィルはみえるみえるの魔法を解きながら、感心したように言った。

 

「ええ……そうですよ」

 

 少女はやや怪訝な表情で4人の格好を見る。明らかに奇異であることがこの陽光の下では白日に晒される。

 少女は一度咳払いする。

 

「リングマから助けていただき本当にありがとうございました。ジムに報告しなきゃいけないので、それじゃあ、私はここで失礼します」

 

 少女は一気に距離を引き、すぐに立ち去りたいかのような口調で言った。

 

「待ってください……。その、地図。私達にも分けていただくことはできませんか?」

 

 ウルザは少女を呼び止めて尋ねる。少し少女は考えて答える。

 

「いいですよ。予備に2,3個もってますし、一つくらいなら」

 

 と、少女はタウンマップを手渡した。

 

「ありがとうございます」

 

 ウルザの礼もきかないうちに少女は、一行の前から姿を消した。

 

「はっ。どこだここは、いつの間に俺様はこんなところに」

 

 ランスは今まで硬直していたのか、急に意識を取り戻してキョロキョロと周囲を見渡す。

 

「あの人に助けてもらったのよ。聞いてなかったの?」

 

 既に森に小さく消えようとしている少女を指さしながら、かなみは呆れたようにランスに言う。

 

「そうか……そうだったのか。いやしかし、俺様がわざわざ据え膳を食べなかったとは、あの女の子、なかなかやるな……」

「いや、単にランスの好みに……まあいいか。珍しく平穏に終わったわけだし」

 

 かなみは突っ込むのを止めてウルザに視線を戻した。

 

「そうですね……。しかし、どうしたものでしょうか、これから」

 

 ウルザは先の針路を全く見定められずに居た。

 

「ふーむ……。どうやら魔軍どもが居ないのは確かみたいだな」

 

 ランスはゆっくりと周囲を見て判断する。

 

「そうですね。なんというかのどかで……、うとうとしちゃいそうです。ひぃん!」

 

 またもシィルはランスに頭を殴られる。

 

「脳天気な事言うんじゃない! おい、ウルザちゃんその地図見せろ」

 

 ランスはウルザから強引にタウンマップをひったくるように取り、乱雑に広げる。

 

「これが俺らのいるところだってのか? 全然見覚えね―ぞこんなの……」

「どうやらそう見たいですね……。とにかく、全く知らない世界に移ってしまったことは間違いのない事実として受け止める他ないです」

 

 ウルザは少し辛さの混じった声でランスに言う。

 

「そうか……。ま、とりあえず宿だ。宿を探そう」

「宿と言われても、恐らくゴールドはここでは使えませんよ? 私達は文無し同然の状況です」

「んなもん出してみなきゃわかんねーだろ。通じなきゃ脅すまでだ」

 

 ランスはあくまで尊大かつ強気に言う。

 

「私達は今、あまりにもこの世界のことを知らなすぎます。このマップを見た限りだと……、ワカバタウンというところが近そうなので、そこで情報収集を行うのが良策に思います」

「そんなちんたらやってる場合じゃねーだろ。状況分かってんだろ? ウルザちゃん」

 

 ランスはやや不機嫌に腕を組みながらウルザに尋ねる。

 

「うん……。ランスの肩持つわけじゃないけど、私も早く元の世界に帰るべきだと思う。そのためには一刻も早く、原因を突き止めなきゃ」

 

 かなみはやや強い視線でウルザを見る。かなみは昨年、リーザス王国のリア女王専属から、ランス専属の忍者となり、従前の頃のような対立関係ではなく、恋人の一人となっている。

 

「……。気持ちはわかりますし、私も早く帰るべきだとは思います。しかし、方法が今のところ全くわからない以上、今は地道にやるしかないと」

 

 ウルザは少しだけ語気を強めて二人に対して諫言のように言う。

 

「ま、とりあえず町に行くのは悪くねーな。汗も流したいところだし」

 

 ウルザはしばらく考えた後、ふうとため息をつく。

 

「分かりました。……、かなみさん。少し宜しいですか?」

「え? ……、いいです、けど」

 

 暫くの間、かなみとウルザはランスたちから離れて話し込んでいる。

 

「なんだウルザちゃん俺様に隠れてあんなヒソヒソと……」

「まあまあランス様。ウルザさんにもなにかお考えがあるのだと思いますよ」

 

 シィルはとりあえずランスをなだめようとカバンから魔法瓶を取り出し。お茶を用意する。

 

「ん……。ふー……生き返る」

 

 お茶を飲みながら、のどかな秋の日差しにランスは一時の安らぎを得る。

 しばらくすると、かなみは風のようにいなくなり、ウルザだけが帰ってきた。

 

「おい、かなみをどうしたんだ、ウルザちゃん」

「タウンマップを持たせて、先にあのワカバタウンという所に偵察に行って頂きました」

「いやかなみは一応俺様専属の忍者なんだが」

 

 ランスの不満をよそに、ウルザは更に続ける。

 

「私達はとりあえず、あそこにある建物に入りたいと思います。どうやらあそこはゲートと呼ばれる要所に設けられている施設で、通行管理兼、休息所として色々な情報が仕入れられるようですから」

 

 ウルザはやや離れた所に薄く見える、中規模くらいの建物に目をやった。

 

「それつまり関所ってことだろ? 通行料とか取られんじゃね―のか」

「タウンマップを見た限りではそんな事は書いてなかったですが……、ないとは確かにいいきれませんね」

 

 ウルザはおとがいに手を当てながら、ランスの懸念に同意する。ランスたちの世界では通行料も立派な収入源である。しかし、なんとなく彼女はそんなことはないだろうという直感のようなものを持ち始めているようだ。

 

「まあいいか……。要求されたらぶっ殺すか犯してわからせりゃいい話だし。とりあえず行こうぜ」

「先に行ってください。私は少し……やりたいことがありますので」

「なんだ。オナニーか? 欲求不満なら俺様が……」

 

 ランスは下卑た視線をウルザに送る。ウルザはしばらく考えた後に、返答する。

 

「せっかくですから、魔力を収集できないかと思って、その供給源をたどるアイテムを使って軽く探索しようと思ってるんですが……、付き合われますか?」

「ちっ。つまらん。行くぞシィル」

 

 ランスはシィルを連れてゲートの方向へ向かっていった。二人がある程度距離を開けたのを確認すると、ウルザは近場の森に入り、周囲に誰も居ないことを確認して、彼女は戦闘服にあるベルトを解除し、服を脱ぎ始めた。

 

―ゲート―

 

 とりあえずランスとシィルがゲートに入ると。そこには10人程度の様々な年齢層の男女がまばらに居た。

 

「ふむ……。ここがゲートとやらか。思ったよりしっかりした場所だな」

「そうですね……。外装も見たことない素材で出来ていましたし、中も思った以上に綺麗です」

 

 ランスとシィルはまず第一印象を言う。ゲートの中は清潔であり、ほどほどの生活感があった。

 

「さてとどうすっかな。ウルザちゃんが来るまでこうしてボーっとしてんのもつまらんし……」

 

 ランスは手近にあったソファにどっかりと座る。シィルはご自由にお取りくださいと掛かれているラックから、一枚のパンフレットを抜き取る。

 

「ランス様、どうやらこの本に色々と情報が載っているみたいですよ」

 

 表紙とパラパラと内容を確認してシィルはランスに言う。

 

「ふーん。どれどれ……」

 

 ランスはシィルからパンフレットを奪い取り、脚を組みながら中身を読み始める。シィルは覗き込むように隣に座った。

 

「なんか訳のわかんねー文ばっかだな……。頭がクラクラしそうだ」

「えっと……、ウルザさんの言う通り、ワカバタウン? というところが一番近いのは間違いないみたいですね。小さなところですが、とてものんびりできそうなところですぅ」

 

 3ページ目あたりに書かれていたワカバタウンの紹介文と、全体を占める大きな自然の豊かさを強調した写真が、シィルにその印象を大きくつけた。

 

「こんな小さい町で、情報収集なんかできんのかねえ……。そこらの自由都市よりもちっさいんじゃねえか?」

「でもランス様。人口を見ると8万5000人とそこそこの規模ですよ」

「あ? ……、こんな建物ばっかでどうやってそんなに人住まわせてんだ。インチキじゃねえのか」

 

 写真には郊外にある、平屋建ての建物ばかりが写真として掲載されている。

 

「流石にそんなことはないと思いますけど……」

 

 ランスは退屈そうにさらに何枚かパラパラとページをめくる。

 

「わあ。かわいい……」

 

 シィルのその言葉にランスは読み進める手を止めた。『29番道路のポケモンたち』と題されたコーナーであった。

 

「さっきのあのでけークマの仲間か? よわっちそうだな……」

 

 オタチと紹介されているその立ち姿と、生態を写した何枚かの写真にシィルは完全に目を奪われていた。

 

「ほう、だがこいつはちょっと強そうだな……。なになに、ヨルノズクっていうのか」

 

 ランスはオタチと同じページで紹介されている、その生物のコーナーに注目する。

 

「なんだかとても不思議な……賢そうな目をしたとりさんですね」

「ほう、僅かな光で暗闇でもまるで昼間のように行動できる……か。こいつがいれば照明いらずかもしれんな」

 

 ランスは更に興味を持ってその生態の文を読んでいる。

 

「あくまでそのとりさんにとってであって、人間には関係ないと思うんですけど……ひぃん!」

 

 またシィルはランスに頭を叩かれた。

 

「うるさい。余計な事を言うな」

 

 それからもしばらく、そのパンフレットで時間を潰した。

 

――

 

 30分ほどして、二人はパンフレットをすべて読み終えてしまう。

 

「ふう……。ったく、久々に文書なんか読んだから肩こっちまったぜ。シィル!」

「は、はい。もみもみ……」

 

 シィルは即座にランスの肩を揉む。

 

「ちょっといいかい?」

 

 しばらくすると、二人の前に、一人の人物が目の前に立つ。青い縦長の帽子と、きっちりした制服を着た男性である。

 

「は、はい。なんでしょうか」

「君たち見かけない顔だけど……、何しているの? ここで」

「あ? カンケーねえだろ」

 

 ランスはあからさまに不快を示した態度を、その男に取った。

 

「うーん……。なにか身分証明になるもの持ってないかな? トレーナーカードとか……」

「なんで貴様ごときにそんなものを見せてやらにゃならんのだ」

「いや職務なんだけど……」

 

 男は見開き式の警察手帳を取り出し、身分を証明する。

 

「ラ、ランス様ぁ……」

 

 シィルはおどおどと、ランスの顔を見ている。

 

「ああお嬢ちゃん。そんな怖がらなくていいから。僕はただ、君たちがなにをしているか知りたいだけなんだ」

 

 まだ少しは話しが通じそうだと思ったのか、警官はシィルに話しかける。

 

「そ、そうですよね」

「なんだ貴様。誰の断りがあって俺様の奴隷を口説いているんだ」

 

 ランスはカオスの柄を握って牽制する。

 

「奴隷……? 何を言ってるんだ君は」

 

 警官はその言葉に明らかに眉をひくつかせている。

 

「これは俺様の奴隷だ。見てわからないのかこのボンクラ」

「……。本気で言ってるなら君を逮捕しなきゃいけないね。逮捕・監禁罪ってしってるかい?」

 

 警官はボールと警棒を構え、ランスに一歩も引かずに対峙する。

 

「お待ち下さい!」

 

 この深刻な状況に、凛とした声が間に入る。アイスフレーム時代の茶色のジャケットに白いロングスカートの私服に着替えたウルザであった。

 

「君は、この男の仲間かい? ちょうどいい、一緒に事情を……」

「ええ、私の連れではありますけど……。申し訳ありません、警察の方を前に、尊大な態度を取って、私はこういう者です」

 

 ウルザは半分賭けだとばかりに自身の職員証を取り出し、警官に提示する。

 

「捜査官かい……? いやでもそんな様式は見たことないけど」

 

 ウルザは職員証をポケットにしまい、再度説明を試みる。

 

「最近出来た国家の身分証です。把握していなくても仕方がないと思いますが」

「うーん……、そうか」

 

 警官はウルザの全く動じず、そのしっかりしてそうな容姿をみてとりあえずは信用することにしたらしい。

 

「今はオフとして友人の旅に連れ添っているという形ですが、今後よく言って効かせますので、とりあえず今日のところは引き下がってはいただけないでしょうか」

「しかしねえ……。彼女が彼の奴隷だっていうのはこちらとしても放ってはおけないんですよ。奴隷は国際条約で禁止されていますし、事実関係は把握しておかないと」

 

 警官はシィルを見ながら言う。少し考えたウルザはランスより少し警官を遠ざけ、聞こえないくらいの距離まで開けてから再度説明を再開する。

 

「その……実はあれは”プレイ”なんですよ。そういう」

「はい?」

「彼と彼女は恋人の関係でして……。でも、彼、ランスさんは素直に彼女への想いを認めたがらないんです。だからランスさんは奴隷と照れ隠しで」

 

 ウルザは決して嘘は言っていない。

 

「そう。なんです……か」

 

 警官はあまりにも信じられないといった表情をウルザに見せる。

 

「如何に警察とはいえ、個人の恋愛関係に首は突っ込めないはずですよね?」

「いやまあ確かにそうなんですが……」

 

 警官はしばらくウルザと、離れた二人の表情を確認し、考え込む。

 

「誤解を生むような発言だったことは確かですし、今後はしないようよく言って聞かせますから」

「……。分かりました。今日のところは引き下がります。ですが、既にインカムで記録しているので、照会はかけさせてもらいますよ」

 

 そう言って、警官は帽子を目深に被り直して、ウルザの元から去っていった。ウルザはほっと胸をなでおろす。ゆっくりとウルザはランスたちのところへ戻った。

 

「ちっ。ようやく引き下がったか」

「総統。この件でここは私達の世界よりも高度な、法治こ……、いえ、厳格な警察の捜査網が張られていることが明白になりました。軽挙はくれぐれも謹んでください」

 

 ウルザは厳しい視線をランスに向ける。

 

「けっ。知ったことか。あんな奴、俺様がボコれば済むことだったのに余計なことを……」

「もし総統でも、私達のいずれかでも拘禁されれば、帰還が著しく遅れます。それでもよいのですか。あなたは世界総統なんですよ」

 

 ウルザはつとめて冷静に警告を続ける。

 

「ちっ……。わかったわかったほんのすこーーーーーしだけ頭の隅に置いといてやる。だが、俺様は俺様だからな。忘れるなよ、ウルザちゃん」

 

 ランスはさらさら守る気などないが、とりあえずはそう宣言する。ウルザは見透かしているかのようにため息をつき、本題に入る。

 

「とりあえずこの服装に着替えて、総統たちに話しかける前に軽く情報収集を行いました」

 

 ウルザはソファの前にある丸い机の側にある椅子に座り、メモ書きを見せる。

 

「あの洞窟で会ったり、道中みつけたいくつかの生物はポケットモンスターと呼ばれる生物だそうです。それで、ポケモンを使役するのがトレーナー、すなわちポケモントレーナーと呼ばれて……」

 

 それから数分ほどウルザの説明が続き、概略を二人は把握した。

 

「で、これからどうするっていうんだ。ワカバってとこに向かうのか?」

「そうですね。かなみさんもそこの入口で待機するよう言ってありますし……、あの方策がうまくいっていればいいのですが」

 

 ウルザは眉間に少し皺を寄せて、やや思案を深める表情をする。

 

「方策ってなんですか?」

 

 シィルがウルザに尋ねる。

 

「いえ……。まあ、着けばわかりますよ」

「ようし、じゃあとりあえずその町にいくぞ。ついてこい」

 

 ランスはすっくと立ち上がって、ずんずんと29番道路側への出口に向かう。

 

「本当に大丈夫なんでしょうか……」

「気持ちは分かりますが……。とにかく、行ってみるしかありません。ここにいても仕方ありませんし」

 

 そう言ってウルザとシィルもランスの後に続く。

 ランスたちの冒険はまだはじまったばかりであった。

 

―つづく―

 

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