鬼畜戦士ランス、ジョウト地方に立つ!   作:OTZ

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本編の八話と九話の間がメインの時間軸です。


番外編
つかの間の休息と虫取り大会


「フスベの一件の後、一切ランスたち一団の痕跡はカントー・ジョウト地方はじめ国内での活動は一切確認されなくなった。彼らは元の世界に還ったと判断し、今定例会を以て警戒態勢を解除したく思いますが、異議のある方は?」

 

 ランス達が元の世界に帰還して2週間後、ポケモンリーグでは定例の月例会が行われていた。月例会では理事長のワタルが議長を務め、ジョウト地方の全ジムリーダーが出席している。

 

「……」

 

 そのような中、アカネは珍しく静かに定例会の様子を見守っている。

 

「アカネさん、大丈夫ですか? 考え事をされてるみたいですけど……」

 

 隣に座っていたアサギシティのジムリーダー、ミカンが表情をうかがいながら言う。

 

「ん? ……ああ、堪忍なミカンちゃん。ちょっと思い出してもうたんや」

「短い間とはいえ、一緒にいたんですよね……。お察しします」

「おおきにな」

 

 アカネは静かに出された緑茶に口をつけた。

 

「騒がしかったけど、不思議な連中だったわね……」

 

 ミカンの隣に座っていたイブキは複雑な表情で振り返る。

 

「そうなんですか? 報告をみた限りだと正直物騒な方々という印象のほうが……」

「ま、ミカンちゃんからやとそうみえてもしゃーないか」

 

 アカネはふうとため息をつき、少々寂しげに言う。

 

「アカネさんが近すぎるのよ。情が湧いたのかもしれないけど、彼はこの世界に馴染まない存在なんだから……」

 

 そんな会話のなか、ワタルが注意の意味合いで視線を向け、女性陣は前を向いて沈黙した。

 

「……。さて、では次の議題に移ろう。次年度に予定されているイッシュリーグとの交流試合について」

 

 こうして、月例会は流れていき、リーグに日常が戻る。

 そして、散会すると、出入り口でツクシが遠慮がちに話しかけてきた。セキエイリーグの出入り口を目指しながら、ポツポツと会話をはじめる。

 

「あの……アカネさん、お疲れ様でした」

「ん。ツクシこそ。えー芝居やったで、ヤドンの井戸でのアレ。アカデミー賞もんや」

 

 アカネはいたずらっぽく笑いながら言う。ウルザが推測を立てていた通り、アカネがランス一行に接触したのはヤドンの井戸の事件を利用したアカネとツクシによる自作自演であった。

 

「からかわないでください。それに、結局僕、あの人の前でしどろもどろになって……」

「ウルザやろ? モノホンのサツやったらしーし、しゃーないで」

 

 アカネは軽く笑って、ツクシの失態を受け流した。

 

「そうだったんですか……道理で気迫があると……」

「あらゆる意味でウチらとは住む世界が違うんや。これでよかったんや、これで……」

 

 アカネは自らに言い聞かすようにこぼした。

 

「あの、それで……」

「ん?」

「その……えっと」

 

 アカネはしばらくツクシの所作の意味を考えていたが、やがてすぐに思い当たった。

 

「こ、これ、よかったら、一緒に」

 

 ツクシは一方的にアカネに一枚の紙を渡し、逃げるように去っていく。

 

「あ、ちょ、待ち……」

 

 しかし、ツクシはすでにセキエイリーグの出入り口に出てしまった。

 アカネは、押し付けられた紙を見てみる。それはコガネの映画館のチケットで、従前からアカネが見たいと言ってたものである。

 

「ふう……。全く相変わらずの純ちゃんやな……」

 

 アカネはチケットを眺めつつ、ついこの間、自身の家にあの一行を呼び寄せたときのことを思い起こす。

 

 

――

 

「うわー! ひっろーい!」

 

 コガネで夜を迎え、本人の招きによってアカネのマンションについた一行。リセットはリビングに着くなり、その広大さにまず感嘆を示した。

 

「ふん。俺様の城に比べれば犬小屋みたいなもんだが、それにしては大したものじゃないか。がははは」

「無茶言わんといてや。最近はコガネも地価上がりまくってて、ここでも結構きつい思いして買うたんやで。ハンザワはんがおらんかったらアカンかったかもしれへん……」

 

 アカネはふうとため息をつきながらリビングの中にあるキッチンにたこ焼きパーティーの為の食材を置いた。

 

「それにしても凄いわねこれ……。ジムリーダーってそんなにお給料いいの……? アカネちゃんって確かまだ未成年っていってたような」

 

 かなみの言うことももっともで、ここはいわゆるタワーマンションの高層階であり、200平米近い専有面積を持ち、8LDKで床暖房に完全オートロック、絢爛豪華なエントランスなど、学生が持つにはあまりにも度外れな規模であった。

 

「んーまあ、しょーみそのへんのあんちゃんよりはかなり稼いどるで。ウチ一応芸能人でもあるし、ジムリーダーになってからの蓄えもあるしでな。さすがにここ買うんわオトンの力もないと厳しかったけど……」

 

 アカネはにこやかに笑いながら、キッチンの収納からボウルや包丁などを取り出す。

 

「アカネさんには庶民的なイメージがあったのですが、結構裏切られましたね……」

 

 ウルザは苦笑いしながら答える。

 

「何言うとるんや。ウチも心は庶民やで庶民。オトンも今は府議会議員やけど、元は叩き上げのエンジニアやったからそーゆーことはウチのちっちゃいときから叩き込まれとるんや。どんなに偉なっても小市民の心を忘れたらあかんてな」

「にしてもここアカネちゃん一人で住んでるんでしょ? あんまりにも広すぎない?」

 

 かなみはリビングを物珍しそうに見回しながら言う。

 

「ウチもいつかは結婚するかもしれへんし、大は小を兼ねるゆーやろ。それにウチ結構家に人呼ぶん好きやねん。あ、シィルちゃんシィルちゃん、悪いねんけど、そこの棚に小麦粉入っとるから出してくれへん?」

 

 アカネは買ってきた食材を慣れた手つきで包装を剥がしながら言う。

 

「は、はい……。これですか?」

 

 シィルは戸棚から1kgほどの量が入った小麦粉を取り出す。

 

「おーきにな。あ、ウルザ、冷蔵庫に卵と、二段目に紅生姜入っとるタッパーあるからそれ頼むわ」

「はい……。って、これだけごちゃついてるとどれがどれだかわからないんですが……」

 

 ウルザは大型の冷蔵庫を開けて、その中身に絶句した。

 

「えー……、もうしゃーないな、ウチが探すから、小麦粉と卵、量はかってそこのボウルにあけといてや。分量はそこにメモ貼っつけてある思うから」

 

 アカネはいそいそと冷蔵庫の前へ行き、ウルザをシンクへうながす。ウルザはうなずいて吊り下げてある計量カップをとってメモを見ながら手際よく作業を行い始めた。

 

「おい何してんだアカネちゃん。勝手に俺様のパーティーを雑用に使うな」

「なにいうてんねん。たこ焼きパーティーは皆で作るからたのしーいうたやろ?」

「フン。俺様は手伝わんからなそんなめんどくせーこと」

 

 ランスはふんぞり返って、ソファに腰おろした。

 

「じゃあ、おとーさん、あそぼー!」

 

 リセットはどこからか置いてあったオセロ盤を持ってきた。

 

「えー。全くめんどくせえな……」

 

 そんなことを言いながらランスは机に向かい、自分の白石を盤上に置き始める。

 

「……ね。私にもなにかやらしてよ」

 

 そんな二人を横目にしつつ、かなみが少し遠慮がちにアカネに尋ねる。

 

「あーじゃあせやな。たこ焼き器がそこにあるから、そこの机に置いといてくれへん? 終わったら、このタコてけとーに切っといて」

「う、うんわかった」

 

 こうしてランスとリセットを除くパーティーメンバーはたこ焼きづくりに勤しんでいた。

 

――

 

「おい、もうそろそろ回して良いんじゃないか」

「何アホなこというとんねん。まだ生地がゆるゆるやろ」

 

 とりあえず生地を作り終え、たこ焼き器に流し込んでいた。

 

「初めて作りましたけど……、匂いだけで結構食欲そそりますねぇ」

 

 シィルはたこ焼き器の上の生地を見ながら言う。

 

「せやろ? たこ焼きとお好み焼きはコガネ人のソウルフードやねんで」

「コパンドンさんから噂は聞いてましたけど、こういうものなのでしょうか」

 

 ウルザは思い出しながら言う。

 

「さーよう知らんけど……。ウチと同じような口調や文化なら、案外似通うところもあるかもしれへんな」

「一回会って話させてみたいわよね……。色々面白いことわかりそうだし」

 

 かなみはりんごジューズを飲みながら、少し楽しげに言った。

 

「面白そうではあるが、たぶんおっぱいでかいから目の敵にされるぞ、アカネちゃん」

 

 ランスはニヤニヤ笑いながら、千枚通しを持ってできかけのたこ焼きに触れようとする。

 

「もーそないなことばっかなんやから……。あーもうせやから、まだ早い言うてるやろ! たこ焼きはな、回すタイミングミスったらあっちゅーまにボロボロなるねんで!」

 

 アカネは思い切りランスの手を払った。その間にシィルが千枚通しで左隅のたこ焼きを回した。

 

「わっ……うまくできた……のでしょうか?」

 

 シィルの回したたこ焼きはうまく半回転し、焼き上がった半円の部分が姿を現していた。

 

「おー。ええやんシィルちゃん。いっぺんまわしたらちょっとずつそれつこうて焼いて形作ってくんやで」

「は、はい」

 

 シィルは指示通り、千枚通しを慎重かつ丁寧にたこ焼きに触れさせ、回していく。

 

「シィルお姉ちゃんすごーい! じゃあ私も……」

 

 シィルに触発されたリセットが真似してその上の生地を千枚通しで回そうとしたが、アカネが止めに入る。

 

「せやからそれはまだ早い言うてるやろ! せっかちなんは血筋なんか?」

 

 アカネは半分呆れた視線を父親であるランスに向ける。

 

「フン。無駄な時間を過ごすのは、英雄の性分にあわないのだがははは」

「血筋……でしょうね」

 

 ウルザは苦笑いしながらアカネに同調した。

 やがて、たこ焼きが焼き上がっていき、各々がそれぞれたこ焼きに舌鼓を打っていく。

 

「んっ、あっつ……でも、おいし」

 

 かなみは3つ目のたこ焼きを満足気に食べていた。

 

「旨いんわ分かるけど、あんませっついて食べるとさっきのランスみたいに舌焦がす羽目になるで」

「うるへー、なんらこのひへんふふは……」

 

 ランスは案の定急いで食べようとしたため、舌に大きい火傷を負った。シィルによって早めに水を飲んだが、しばらくは食べられそうになかった。

 

「う、うん。気をつける……はふはふ」

 

 そう言いながらかなみはソースを改めてかけて慎重に4つ目にかかった。

 

「なるほど……。コパンドンさんがよく所望されるわけですね」

 

 ウルザは2つ食べた後、お茶を飲みながら静かに感想を言う。

 

「せやろ? 世界が違うてもうまいもんはうまいわけや」

 

 アカネは無邪気に笑って見せる。そこはどこか誇らしげであった。リセットは黙々と、しかし幸せそうに食べている。

 

「では次の生地流し込んでも、宜しいでしょうか?」

 

 シィルは少し遠慮がちに、粉つぎを構えている。

 

「おーええでええで。シィルちゃんけっこーセンスあるかもしれへんわ」

「えへへ……ありがとうございます」

 

 シィルははにかんで、そのまま空いている穴に生地を流し込んでいった。

 こうしてたこ焼きパーティーは和やかに進んでいき、一行は緩やかにアカネの家での夜を過ごしていく。

 生地を使い切り、ランスとリセットとシィルに一番風呂を譲り、残った3人はテレビを見ながらパーティーの後片付けをしていた。

 

「あーそれにしてもおいしかった! 久々にゆっくりご飯食べれたかも」

 

 かなみは皿を洗いながら、上機嫌に話している。

 

「なんやねん、ヒワダでようさんごちそーしたやろ?」

 

 アカネはいたずらっぽく笑いながら、たこ焼き器のプレートに洗剤をつけていた。

 

「あ、あのときはホラ、あなたの意図が読めなくてそこにばかり気がいってたから……」

「ふふん。名演技やったろ?」

「潜入捜査官としては疑問符がつきますが、まあ意図が読めなかったと言う意味では……」

 

 ウルザは少し意地悪に評価して、マヨネーズやソースを冷蔵庫に戻していた。

 

「もープロは厳しいなあ……。しゃーないやろウチら別に特殊部隊やないねんで」

「そうよね……。アカネちゃんは元をたどればふつーの女の子だもんね……」

 

 かなみは少し寂しげに視線を流している。

 

「そのふつーの女の子にあない殺意もって迫るんやもんなー」

「うっ……まだ根に持ってるの。そこはほんとごめんって」

「ジョークやジョーク。隠しとったウチに責任あることやし」

 

 洗剤をつけおわったアカネはしばらくプレートを置いて、別の皿を洗いにかかる。

 

「次は三賢者の会議招集でエンジュシティに行くことで決しましたが、どれほどの距離があるんですか?」

 

 調味料を冷蔵庫に入れ終わったウルザは少し改まった様子で尋ねる。

 

「そない遠くはないで。リニアで一駅分しかないし……。途中に自然公園ゆーえースポットあるし、明日はそこ目指して歩くんがええやろね」

「情報誌に書いてありましたね。中々規模の大きい公園みたいですが、安らげそうなところです」

 

 ウルザは情報誌の特集を思い出しながら、気に入ったような表情で話す。

 

「ごっつい噴水やら、今の季節やとコスモス園とかが観物やね。ジョウトでは第一といっていい自然スポットやで。近くにはリゾートホテルが何軒かあるくらいやし」

「へー……、いいわね。私の居たリーザス王国の城下にも大きい公園あるけどあれくらいかしら」

 

 かなみがかつて仕えていたリア女王の居城である、リーザス城下にも複数の池や遊具などが整備されている大規模な公園が存在した。

 

「そこには前、使節としてついでに立ち寄ったくらいですが、情報誌を見た限りですと、あれより大きいかもしれませんね」

「想像もつかないわね……」

 

 かなみは遠い目をする。

 

「グリーンシティ構想やったかな。そーゆーのに則って、大都市のコガネとエンジュとの間にグリーンベルトっちゅう自然重視の地区つくろーいうことになって、開発が比較的進んどらんかったところに無理して作ったところやからな。規模はかなり大きいで」

「なるほどそういう背景があったわけですね……。行政に色々な思惑がからむのも、どの世界もかわらないみたいです」

 

 ウルザは食器を乾いた布巾で拭きながら答える。そうしていると、電子音が鳴り響いた。

 

「さて、ウチらもそろそろお風呂入ろか」

 

 アカネはたこ焼きのプレートを水洗いしながら話す。

 

「えっ……でもまだランスが」

「人呼ぶん好きいうたやろ。7,8人位呼ぶこともあるから、バスルーム2つあんねんこの家。ランスんとこよりはちーとちまいけど、邪魔されずに入れるで」

「ふふ……いつの間に用意されてたんですね。手際の宜しいことで」

 

 ウルザは手を布巾で拭きながら答える。

 

「ウチらってことは……一緒に入るの?」

 

 かなみは伺うように尋ねる。

 

「せやで? あかん?」

「うっ……。い、いや別に」

 

 かなみは二人の身体を一瞥して返した。

 

「一回ヒワダで入った仲やん。そない恥ずかしがることないやろ?」

「う……。まあ、確かにそうなんだけど、さ」

「あっ、もしかして身体のこと気にしてん? ぜーたくやなあ、かなみちゃんも十分ええ身体しとるで? スレンダーやし、その腕や足分けてもらいたいくらいや」

 

 アカネはパッとかなみの腕をつかみ、さすりながらながら言う。

 

「そ、そう……かな?」

「せやせや。ウチ、マネージャーからもうちょい腕の肉落とせ言われてんけど、どーもうまくいかんくて参ってんねん。なー、どうなったらこんなすらりとした腕や足になるん?」

 

 アカネは冗談交じりながらも、どこか切実さのこもった声で言う。

 

「……、アカネちゃんのその胸の秘訣、教えてくれたら考えてあげる」

 

 かなみは目の前を占める二つの双丘を見ながらぽつりと言った。

 

「へ? あー、やめとき、こればかりは遺伝子の法則や。諦めてや」

「もー、なによそれぇ……」

 

 かなみは呆れながらも、思わず笑ってしまった。

 

「あの、そろそろお風呂いかなくてよろしいんですか?」

 

 ウルザはそんな会話の間にお風呂セットを整えていた。

 

「ウルザもエロい身体してんねんなー……。しゃべりも立つし、頭ええし、ウチの事務所入ったら売れっ子間違いなしやで」

「そういう業界に入るには私は少し歳をとりすぎてますよ……。今年で25ですし私」

 

 ウルザはにこやかに笑いながら受け流す。

 

「えっ? そうなん? もう2,3下かと思うてたわ……」

「ウルザさん、髪型もだけど少し童顔だから……。立ち居振る舞い見てると、私も時折年齢錯覚しちゃうもん」

「そんなに持ち上げても、何もでませんよ?」

 

 ウルザは全く動じずに返す。

 

「明らかに言われ慣れてる返し方やな……」

「ねー。ま、アカネちゃんが言える筋でもない気がするけど」

 

 そう言ってかなみもそそくさと自分の荷物に向かい、用意を始める。

 

「さて、はよ行かんとランス来てまうで、はよいこ」

 

 アカネも自身の着替えを取りに部屋へ向かっていく。

 こうして目論見通り、3人はランスとはすれ違わずに風呂場へ向かうことができた。

 

 

――

 

 翌日、コガネシティを出発した一行は35番道路を進み、自然公園の入口のあるゲートにたどりついた。

 

「ここが自然公園ですか」

 

 ゲートの窓には広大な自然公園が映っている。秋を迎え、色づいた木々が一行を出迎えるかのようにたたずんでいた。

 

「案内図見てるだけで本当に目を回しそう……。アカネちゃんが言った通り、かなり大きいところね」

 

 ゲートに貼られている案内図にはトイレや休憩所、くさむらのポイント、噴水の場所、季節ごとの花壇の場所などが図示されている。しかし、一目では入り切らない程度に巨大な案内図であり、それ自体が迷路に等しかった。

 

「ほーん。せやったか、今日は虫取り大会の日やったな……」

 

 アカネはゲートに時折通過する虫取り少年を見ながら言う。

 

「なにそれ?」

 

 かなみがアカネに尋ねる。

 

「時折開かれる大会でな。ポケモン使わずに指定された餌と、支給されるコンペボールだけでどれだけ価値のある虫ポケモンを捕まえられるかを競うっちゅーやつや」

「へー……」

 

 かなみがそう流していると、リセットがゲートの職員といつの間にか対峙していた。

 

「だからね、お嬢ちゃんの場合、おうちの人がいないと参加できないってきまりなんですよ」

「ぶー。私はもう十分おとななのにー」

「ははは……。いやでも君は明らかに小さいでしょう? くさむらに隠れて、ポケモンに襲われたりしたらいやでしょ?」

 

 ゲートの職員は噛んで含めるように説明するが、リセットは承知しそうになかった。

 

「なにしてんだあいつ。ちょっくら見に行ってくるか」

 

 ランスがカオスを構えながら職員の所へ向かおうとしたが、ウルザが手で制す。

 

「やめてください。ここは私と……、あとアカネさんもお願いできますか? 補足がいるかもしれないので」

 

 アカネはすぐに承諾し、2人で職員の所へ向かった。

 

「なるほど……。そういう事でしたか」

「ええ、春に死亡事故がありまして、それでこのように……」

 

 職員は申し訳なさ気な表情で説明する。トレーナーでない場合や、一定以下の身長や年齢の子どもはバッジ3枚以上を取得しているトレーナーの付き添いが必須となっている。

 

「つまり、ポケモン持っとる保護者が側にいてれば問題ないゆーことやろ? ウルザがついててやればええんちゃう?」

「私が、ですか……。アカネさんがついてらしたほうがよいのではないですか? 私では条件ギリギリですし」

「えー……、ウチ虫あんま得意やないねん……」

 

 アカネは興が乗らなそうな表情である。そうしていると、リセットはとてとてとアカネの直ぐ側に歩く。

 

「アカネおねーちゃん、お願い!」

 

 リセットは両手を合わせてアカネに頼み込む。

 

「えー……。なんでウチなん? ウルザのがえーやろ、ウチの何倍もしっかりしとるし、何よりリセットちゃんにとっては身内やろ?」

 

 リセットは少し周囲をみた後、アカネに耳を寄せさせて耳打ちをする。

 

「ウルザさんだときんちょーしちゃって……」

「あー……。それはまあなんや分かるかも……。えー、でもなぁ。ウチあんま虫は」

「ご指名ですよアカネさん。観念してください」

 

 ウルザはニコニコと笑いながら言う。

 

「ね? いいよね。じゃあおじさん! そーゆーことなので」

「……、よろしいんですか? アカネさん」

 

 ゲートの職員は少し不思議そうな表情で言う。ジムリーダーが見張りにつくことなどあまりないことなのだろう。

 

「あーもうわかったわかった。受ければええんやろ受ければ……」

 

 アカネは渋々リセットの横に立つ。

 

「了解しました。それじゃあお嬢ちゃん、これがコンペボールと、餌。今日の夕方5時に結果発表だからそれまでに出来るだけ得点の高いポケモンを捕まえてね。詳しいルール説明はこの紙に」

 

 リーグ職員はそれら一式の入ったプラスチックの手提げ袋をリセットに手渡す。

 

「わーい! アカネおねーちゃんだいすき!」

 

 リセットは袋を持ちながら、アカネの脚に抱きついた。アカネはやれやれとばかりに片手を額にやる。

 

「ちっ。17時までここに足止めかよ。退屈だし俺様も参加してやるか」

 

 ランスが首を回しながら話に参加してきた。

 

「これ、20歳未満が参加条件って書いてあるで?」

 

 アカネはルール説明のかかれたラミネート加工されている紙をみながらいう。

 

「あ? ……、ガキ優先かよつまんねーな」

 

 ランスはゲート職員のいるカウンターを蹴りながら悪態をついた。

 

「まあまあランス様……。がんばってね、リセットちゃん」

 

 シィルはランスをなだめながら、リセットに声をかけた。

 

「うん! ゆーしょーめざしてがんばる!」

 

 リセットは意気込むとともに、走ってゲートの外に出ていった。

 

――

 

 参加してから1時間経過した。

 リセットは最初はくさむらで探していたが、成果が上がらないことから森に入って、キョロキョロと注意深く観察し、そこのくさむらに入りながら熱心にポケモンをさがしている。

 

「ホンマ子どもはええなぁ。あない一所懸命になって……」

 

 アカネはそんな様子をくさむらの外から観察している。

 

「リセットちゃん、父親譲りのところあるから、こーいうのに目がないのよ」

 

 偵察がてら自然公園を見回っていたかなみが水筒のお茶を飲みながら言った。

 

「せやなぁ……、普段あない天真爛漫でも、あの眼は確かにランス譲りやね。そいや、ランスたちはどないしてん?」

「ランスとシィルちゃんは自然公園の入口にいるわ。相変わらずランスが奥様や可愛い子に声かけるからシィルちゃんがなんとか止めてるけど……」

「はぁ……。まあなんとかなっとるならええか。それで、ウルザは?」

 

 かなみは静かに右方に指を差した。森の垣根の外にあるベンチで静かに読書していた。

 

「勉強熱心やなあ……。暇さえあればずっと本読んでへんかあの子」

「ウルザさんって元の世界では官僚のトップみたいな人だから……、せっかくだからと短い間にできるだけ吸収しておきたいみたい」

「この前、ウォーラーステインとかいう学者の本読んでたときはたまげたで。あんなんウチでも単位取るのに苦労したんに……」

 

 アカネは大学を思い出しながら少し苦い顔をしている。

 

「あーやっぱりこの世界の人でも大変なんだ……」

「当たり前や。今度レポート添削してもらおかな」

 

 アカネは講義で提出する、自分で作ったレポートを出しながら冗談めかして言う。

 

「そういえばアカネちゃんって、学校どうしてるの? 学校って出席しないとまずいんじゃないの?」

 

 かなみは全日制の初級学校しか出ていない。

 

「大学は別に毎講義出席せんでええねん。飯でも奢る引き換えに友達のノートやプリント借りりゃええし。それに、今期ウチ忙しいから履修登録しとる講義も少なめにおさえてるし、まあなんとかなるで……多分な」

「冷や汗かいてない……?」

「ちょいと必修が一個アカンかもしれんくてなー。来年はゼミ入らなあかんし、やっぱウルザにレポートみてもらわな」

 

 そんなことを話していると、リセットのいるあたりのくさむらが激しく動いた。

 

「いたた……。むー手ごわいなあ」

 

 リセットの眼の前にいる虫ポケモン、コンパンは臨戦態勢をとっていた。

 

「まほーは使っちゃダメなんだよね……多分」

 

 リセットはモンスターボールを持ちつつ、距離をうかがっている。

 

「そうだ、えさえさ……」

 

 リセットは支給された手提げ袋から餌を取り出し、一つを手にとってコンパンの前にさしだす。

 

「ほらー……、おいしーよー」

 

 リセットは慎重に距離を詰めながら、コンパンに近づいていく。

 

「……」

 

 コンパンも少しずつ餌につられて、その短い足をリセットの方に寄せはじめる。

 

「ほれほれー……。わーなんておいしそうなんだ……ろっ」

 

 リセットはとっさに餌を落とし、素早い動きでコンペボールを手にする。捕まえ方はなんとなく道中のトレーナーたちをみて、見様見真似だが知っている。

 

「えいっ!」

 

 リセットはコンペボールをコンパンに投げつけるが、それを察知して、ボールを頭突きで弾き飛ばしてしまった。コンパンは餌だけをちゃっかりつかんで逃げ出していく。

 

「むー……。これで4匹め。なんでうまくいかないの」

 

 リセットは草むらを見ながら頬を膨らましていた。

 少しいじけて、再び視線をあげると、コンパンは林の中に隠れたと思いきや、まだくさむらに身をうずめていた。どうやらまた餌をみつけたようである。

 

「! よーし……」

 

 リセットは最大限慎重にコンパンの背後をとって近づき、静かにコンペボールを投げつける。今度は油断していたのか、あっさりとボールの中に入った。

 

「や、やった! どきどき……」

 

 リセットにとっては四度目にしてはじめてボールの中におさめるのに成功した。そのため、それを固唾を飲んで見守っている。アカネやかなみも同様であった。

 ボールはニ度揺れたが、ボールから出てさっさと逃げてしまった。

 

「ぶー! なんで、なんでこうなるの」

「そんなに短気を起こしちゃダメだよ」

「えっ……?」

 

 そんな様子を、リセットの背後から見守り、声をかける少年が居た。

 リセットはとっさにふりかえる。

 

「虫ポケモンっていうのはとても繊細で、頭がいいんだ。だから、もっとじっとタイミングをうかがわないと、なかなかうまくいかないんだよ」

「あ……ツクシおにーちゃん!」

 

 現れたのはヒワダタウンのジムリーダー・ツクシであった。相変わらず虫取り網を持ち、自然公園を歩き回っている。

 

「覚えててくれてたんだ。えっと君は……」

 

 名乗られては居なかったため、ツクシはリセットの顔を見ながら考えている。

 

「リセット・カラー! おとーさんの娘なの!」

「おとーさんってもしかしてあの、ランスって人?」

 

 ツクシは膝を手にやりながら、リセットに視線を合わせる。

 

「うん!」

 

 リセットは嬉しそうに深くうなずく。ツクシは腑に落ちたようにうなずいた。

 

「ツクシやん。こないなところで何してん?」

 

 そんな様子をみていたアカネは、ツクシに朗らかに話しかける。

 

「アカネさん! 貴女こそ、どうしてここに……? 虫ポケモンは苦手なんじゃ」

 

 ツクシはアカネを見ると急いで身を正し、向き直る。

 

「保護者としてなりゆきでなー……」

「あ。ああ……そういうことですか。僕もこの大会に参加しているんです」

「これ明らかにアマチュアのキッズ向けの大会やろ? プロのツクシが参加してええん?」

 

 アカネは顎に手をやりながら純粋な疑問として尋ねる。

 

「時折、ガイドスタッフとして参加してほしいって頼まれているんです。あくまで捕まえないで、うまくいってない子に指導したりとか、逆にポケモンに乱暴しようとしてる子に注意したりとか」

「ふーん……。でもそんなんで満足できるん?」

「虫ポケモンを通じてポケモンに興味をもったり、トレーナーが増えることは良いことですから、それに僕はあくまで範囲内のポケモンをつかまえないだけで、別の目的もあるんです」

 

 ツクシは少しだけ真面目な表情になった。

 

「別の目的……? なんやそれ、めずらしーポケモンでもおるんか?」

「そうなんです! この森の南西部に、メラルバっていうウルガモスの進化前のポケモンがいるっていう噂があって、ここ数ヶ月はそれ目当てに」

「ウルガモス……? あれ確かイッシュのポケモンやろ? なんでこないなとこにおんねん」

「どうもイッシュから、アサギの港に荷下ろししたコンテナより逃げ出した個体がいるみたいで、それがここにたどりついて巣を作っているという話なんですよ」

 

 ツクシはイキイキとした調子で話す。それなりの確信があるようだ。

 

「その子、どんな子なの?」

 

 リセットが興味を持って、ツクシを見上げる。

 

「図鑑の写真しかないんだけど……、こういう子なんだ」

 

 ツクシは大きめの電子辞書を取り出し、リセットの前に画面を見せる。

 

「わ……。ちょっとこわいけど、しんぴてき? かも……」

「虫ポケモンではかなり珍しい、ほのおタイプももっているポケモンで、鱗粉に発火させる性質を持っているっていうから、是非この眼で見てみたくて……、でもなかなか見つからないんだ」

 

 ツクシは少々残念そうな声でいう。

 

「おもしろそう! ねね、ツクシおにーちゃん私もそれ、てつだっていい?」

「え……。いっとくけどこれ虫取り大会のエリア外のポケモンだから、捕まえても無効だよ?」

「いいの! 私もみてみたい」

 

 リセットにとってもはや虫取り大会の成否はどうでもいいようであった。

 

「そっか……。まあアカネさんもいるし、大丈夫か。じゃあ手伝ってくれる?」

「え、なんでぇウチも頭数に入ってんねん」

「保護者じゃないんですか?」

 

 ツクシは純粋な眼で尋ねる。

 

「うっ……。まあせやねんけど……」

「じゃあ問題ないですよね。じゃ、行こうかリセットちゃん、足気をつけてね」

「うん!」

 

 リセットとツクシは、悠々と森の深い方向へ歩いていった。

 

「はぁ……普段主張せえへんくせにこーゆーときは割と強引やもんなぁ」

 

 アカネは頭を抱えている。

 

「あはは……。んーじゃあ私はとりあえずウルザさんと、あと一応ランスにこのこと伝えにいくわ」

「え? かなみちゃんも行ってまうん?」

 

 アカネは縋るような眼をかなみにむける。

 

「いやだってエリア外に出るんでしょ? 遅くなるかもしれないし……」

「そんな殺生な……」

「あーもう涙ぐまないで……。わかった、伝えたらそれとなく後ろからついていってあげるから」

 

 かなみは仕方がないとばかりにアカネの肩を叩き、励ます。

 

「うっ……。約束やで、破ったら今度たこ焼きパーティーやるとき、かなみちゃんの分だけ、タコやのうてわさび詰めたるからな!」

 

 アカネはそんな捨て台詞を吐いて、渋々二人の後をついていった。

 

「わさびって……、あーでも確かに嫌かも……」

 

 そんなことを言いながら、かなみは風のように消えていく。

 

――

 

 ツクシたち3人と、すこし後ろからかなみ含めた4人は森の奥に入っていく。

 日が傾きはじめてようやく推測している地点に到達し、ツクシは手に地図を広げていた。

 

「このエリアにいるはずなんだ」

「おー……結構広い」

 

 ツクシの背中にのって、肩越しにリセットはツクシがあらかじめつけていた円の部分に注目する。

 

「なーもう引き返さへん? もう4つくらい虫に食われてんで。秋やっちゅうのに……」

「アカネさんそれもう5回目くらいですよ……」

「だってこない歩くなんてきーてへんもん」

 

 アカネは道中時折恨み言をいいながら、渋々ついてきていた。

 

「ふう……。でもまいったなあ。ここが入口なのに……。まずどこ進もうかな」

「じゃあ、ここにいこー!」

 

 リセットは自身の立っている赤い地点から、デタラメな方向に指をさす。

 

「えっ? でもここは岩がちのところで虫ポケモンがあまりいるとは思えないけど……」

 

 ツクシはリセットに懐疑の視線を向ける。

 

「その子、めずらしーんでしょ? ありきたりなところにはいないのかも」

「なるほど……たしかにミノムッチみたいに環境に合わせて、岩場に適応している虫ポケモンもいるし……、その視点はアリだね。そっちいってみようか」

 

 ツクシは地図をショルダーバッグにしまい、リセットに提案する。

 

「うん!」

 

 こうして二人はまたアカネを置いていくように先に歩いていく。

 

「あの二人……、いいコンビね」

 

 かなみは木の枝の上から、ぽつりと呟いた。

 

「はぁ……。どっちもガキやからなあ……」

「リセットちゃんにとっては、手近なお兄ちゃんなのかもね。ほら、ランスって基本男よせつけないから」

「あーそか……。異性で頼れんのがランス以外にようおらへんのやな」

 

 アカネは水筒のお茶を飲んで一息つき、少しずつ歩いて後を追っていく。

 

「でも、ランスってその……やりまくってんねやろ? 他に兄弟おるんちゃうん?」

「上に二人、ダークランスと乱義っていうお兄ちゃんはいるはいるけど、ちょっと事情があってほとんど会えてないみたい。あとの兄弟はリセットちゃんより年下だし……」

「ふーん……ヘンテコな名前やけど、そうなんか」

 

 アカネは少しリセットに同情のような感情がわきつつ、歩みを進めていった。

 

――

 

 夕暮れがいよいよ本格的な夜になろうとしていた頃、四人は目標地点の近くまできていた。ツクシはバタフリーを出し、フラッシュで先行させている。                                                                                                                                                                                                                                                               

 

「あーあやっぱこんな時間になってもうた……。ホンマにおるんか?」

「歩きながら資料読んだところですけど、どうやらウルガモスもメラルバも、石造りや砂っぽい遺跡にいるんだそうです。もしかしたらそういうところに好んで巣を作っているのかも」

 

 ツクシは少しだけ期待をもった眼で話す。

 

「ほーん。リセットちゃんの勘があたってるかもしれへんゆーことか」

「へへへ」

 

 リセットは地面を歩きながらはにかんでいる。全く疲れを知らないようだ。

 そうしているとアカネのポケギアに電話がかかってきた。相手はウルザのようである。

 

「なんやねんウルザ」

「もう大分日が暮れましたが大丈夫ですか? こちらは既に自然公園の東側にある宿をとりましたが……」

 

 電話の先のウルザは心配そうな声でいう。

 

「大丈夫やて。もうすぐ見つかるらしいからとっとと捕まえるなりなんなりしてすぐ帰るで」

「そうですか……。なるだけ早く帰ってくださいね。ランスさん、表には出しませんけど、かなり心配してらっしゃいますから、特にリセットちゃんについて」

「そうなんか……」

 

 そんな会話をしていると、シィルの喘ぐような声に混じってランスの声が遠くから飛んできた。

 

「おい! 相手はアカネちゃんか? ちょっと電話貸せ」

「駄目ですって。ツクシさんに罵詈雑言を言うつもりでしょう。魂胆はわかってますからね」

「うっ……。い、いや違う、俺様はあくまでリーダーとしてだな、ぎゃっ」

 

 頭を砕くような鈍い音が聞こえた後、ウルザの声が戻った。

 

「……、騒がしいみたいやな」

「ええ、まあ。そういうことなので、出来るだけ早くお願いしますね、本当に」

「善処するわ。後で宿の住所、メールで頼むわ」

 

 そう言ってアカネは通話終了のボタンを押し、通信を切った。

 

「ウルザさんから?」

 

 かなみがアカネに尋ねる。

 

「せやで。ツクシ」

 

 アカネはツクシに目を向ける。

 

「はい?」

「できるだけはよみつけんと、ランスに殺されるで。リセットちゃん誑かしてる思われとる」

「ええ……なんでそうなるんですか」

 

 ツクシは困惑した表情を見せる。

 

「もー。おとーさんってばなんでそんなこと。おにーちゃん心配しないで。おとーさんなら私がちゃんとせつめいするから!」

「あはは……。ありがと」

 

 ツクシは力なく礼を言う。

 

「あっ、あそこなんか光ってへんか?」

 

 アカネが遠くに見える赤い光に注目した。

 

「本当だ、行ってみよう!」「ごーごー!」

 

 ツクシとリセットは一も二もなく走り出し、その目標に向かった。

 

――

 

 光の地点にたどりつくと、そこには一匹の白いモフモフとした毛と、五本の燃えるような触覚を持つ小さな生物が平らな岩の上に居た。周りは岩肌が露出し、ところどころに草が生えている程度の荒涼とした平原である。

 

「ま、間違いない……これは、メラルバ!」

 

 ツクシは電子辞書と実態を見ながらそう断定した。

 

「わあ……。こうしてみるとちょっとかわいいかも……」

 

 リセットは思ったより小さなポケモンをみて率直な感想を漏らした。

 

「よ、ようし。じゃあ早速……、行け、アーマルド!」

 

 ツクシはアーマルドを繰り出した。メラルバはそれに気づいて威嚇するかのように羽をはためかせ、地面に弱く火をつける。

 

「なるほど……確かに本当に鱗粉にそういう性質があるみたいだ。感動するなあ、こうして身近にみられるだなんて」

「なあ、感動してばっかじゃアカンのちゃう? かなり攻撃的やで」

 

 アカネの指示でツクシは我に返り、指示を出す。

 

「アーマルド! 岩なだれだ!」

 

 アーマルドは大量の岩をメラルバ目掛けて降り注がせる。

 四倍弱点のメラルバにはひとたまりもなく、一撃で沈黙する。

 

「よし、このまま」

 

 ツクシはモンスターボールを構え、捕まえようとするが、奥から更に大きな叫び声が響く。

 洞窟より出てきたそれは、このメラルバの成体であるかのように大きく、メラルバの触覚がそのまま翅として浮遊していた。

 

「あ、あれが……ウルガモスか」

 

 ツクシは再度図鑑をみながら、照合する。

 

「もしかして……、あの子の……おかーさん?」

「でも、このまま、引き下がれないっ! アーマルド! ストーンエッジ!」

 

 アーマルドは今度は尖った岩をそのまま、ウルガモスにぶつけようとしたが、難なく回避される。

 ウルガモスは逆に、メラルバを庇うように間に入り、そのままアーマルドに火炎放射をぶつけた。

 等倍のため、そこまでダメージは受けなかったが、レベルが高いのか軽いダメージではない。

 

「くっ……。一筋縄じゃいかない……かっ」

「……」

 

 リセットはその様子をハラハラした様子でしばらく注目していた。

 

――

 

 それから10分ほど経過し、アーマルドは倒され、かわって今度はカイロスを繰り出した。

 しかし戦況は思わしくなく、ツクシは追い詰められていた。

 

「あーもう……しゃーないな。ウチが手伝……」

 

 アカネがモンスターボールを構え、手伝おうとした瞬間、リセットがいつの間にかツクシの足元についていた。

 

「ねえ……。ツクシおにーちゃん」

「な、何? リセットちゃん」

 

 少し余裕のない表情を、ツクシは足元のリセットに向けた。

 

「やめて……あげない? かわいそーだよ」

「えっ……でっ、でも、このポケモンはすごく貴重で、僕の研究にも」

「でも……、このおかーさんあんなに必死になって、あの子まもってるんだよ?」

 

 リセットが目を向けた先には、あくまで雛を守ろうとする、ウルガモスの健気な姿があった。メラルバの横に浮かび、翅で包み込むように守っている。

 

「そうだけど……。でも」

「せやなぁ。研究に使うんやったら何も捕まえへんでもええやん。ツクシが足繁くここ通えばええんやし」

「うっ……確かに、手持ちは傷ついてるし……。一応全力のパーティつれてきてるのに」

 

 わずか10分でツクシのパーティは一匹が倒れ、もう一匹も劣勢な状態である。如何に全力とは言え、このまま押し切れるか、ツクシの中でも悩みが生じ始めているような視線を、ウルガモスに向けている。

 

「……ねえ、おにーちゃん」

 

 ツクシはしばらく逡巡した後、黙ってカイロスを戻した。そして、生身のまま、ウルガモスに近づき、餌を渡したり、翅を防護手袋ごしにさわるなど、しばらくコミュニケーションをとっていた。

 

「なにしてるの……あれ?」

 

 かなみがアカネに尋ねる。

 

「ウソかホンマかわからんけど、ツクシは虫ポケモンと心通わせられる言うんや。テレパシーみたいなんやのうて、あくまで非言語コミュニケーションと呼ばれるやつやろけどな、ああいう」

 

 アカネはツクシの挙動に目を向けさせる。

 しばらくして、ツクシが3人のもとへ還ってきた。

 

「なんとか話はまとまった。ありがとう、リセットちゃん」

「えっ?」

「正直、捕まえることしか頭になかったから……。トレーナーの外の視点からじゃないと、見えないこともあるんだってよくわかったんだ。感謝してるよ」

 

 ツクシは屈んで、リセットに視線を合わせ、手を握って、謝意を示す。リセットは意味を完全に理解したようではなかったが、とりあえずほっとした笑顔を浮かべている。

 

「で、結局どうするん?」

「地点はもうポケギアに登録したから、時々ここに様子を見にいくことにしました。捕まえることは諦めたけど、それでも興味深い対象なので」

 

 ツクシはそれなりに満足げな表情を浮かべている。

 

「ふーん。まあええんと違う? 話し合ってテーマ掘り下げんのも、ツクシらしくてええ思うわ」

「そ……それはどうも。ありがとうございます」

 

 ツクシは少し照れながら、アカネに頭を下げる。

 

「僕はもうしばらく、ここで観察続けるので、皆さんはお帰りになって構いませんよ」

「えーでも私も……」

 

 リセットも残りたそうな表情をしたが、アカネが間に入る。

 

「あーかーん。オトンが心配しよるやろ。これ以上連れ回しとったら、明日にはツクシの首ないなるかもしれへんで」

 

 アカネは軽く笑いながら、ツクシに言う。

 

「やめてくださいよ……縁起でもない」

「でも、どうやって帰るの? 多分距離を考えると、このまま歩いてウルザさんの宿までいったら朝になるわよ?」

「えー。そんなん参るわあ。もう一歩も動けへんねん……」

 

 アカネはヘロヘロと地面に座りこんだ。

 

「バタフリー、おいで」

 

 ツクシは照明代わりにしていたバタフリーを呼び寄せる。そしてアカネから宿の住所を聞き出し、地図を覚えさせた。

 

「バタフリーを貸しますので、テレポートでそこに行ってください。宿の前につくと思うので」

「ホンマに! さっすがツクシ頼りになるわー」

 

 アカネは思わずツクシに抱きつく。豊満な胸がツクシの顔を柔らかく包み、彼の頬を紅潮させる。

 

「や、やめてください……。皆さん、本当にありがとうございました。感謝してもしきれません」

「んーん。私も、ツクシおにーちゃんと一緒にぼーけんできてたのしかった!」

 

 リセットも相変わらず笑みを浮かべて、ツクシに礼を言う。こうして一行はバタフリーによって宿の近くにまで転送され、無事合流を果たした。

 ランスはツクシを殺しに行くと息巻いたが、リセットとウルザによって制裁され、翌日にはすっかり忘れていた。

 

――

 

「ふっ……」

 

 アカネはツクシに押し付けられたチケットを持ったまま、しばらくそんなことを回想し、すこし寂しげに笑う。

 

「あれ、アカネさん。まだおかえりじゃなかったんですか?」

 

 少しそうしてたそがれていると、ミカンが後ろから話しかけてきた。

 

「ん? ああ、ちょっと、思い出してもうてな……」

 

 アカネはチケットを財布にしまう。そして、思い出したかのように、バタフリーの入っているモンスターボールを取り出す。

 

「なんですか、それ?」

「忘れもんや……。映画見るとき、返してやらなな」

 

 アカネはモンスターボールをカバンに戻し、出入り口に向かってミカンとともに歩き始める。

 

「映画? 何を見に行くんですか?」

「ん、これやこれ」

 

 アカネはツクシより渡されたチケットを、ミカンに見せる。

 

「あーこれ私も見たかったんです! 一緒に行ってもいいですか?」

「堪忍なミカンちゃん。これはもう先約がおるねん」

「えっ、誰とですか?」

 

 ミカンは興味津々にアカネに尋ねる。

 

「ん? ツクシやけど?」

「ツクシさんとですか……。お二人、仲いいですものね」

「ま、一応隣町やしな、親善を深めるのも悪ないやろ?」

 

 アカネはニコニコと、ミカンに言う。

 

「ええ……。いいと思いますけど……?」

「なんや、思う所あるんか?」

 

 アカネはミカンの態度にひっかかり、尋ねる。

 

「いえ……気のせいかもしれませんが、前よりツクシさんについて話すときの印象変わったような気がして。なにかあったんですか?」

「ふ、ミカンちゃんもツクシと負けず劣らず子どもやからなー。詳しくはまだ話せへんよ」

「もーなんですかまた子ども扱いして……」

 

 そんな会話をかわしながら、二人はポケモンリーグの出入り口に向かっていく。

 

―おわり―

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