「そうですか。やはり、間違ってはいませんでしたか」
チョウジタウンの地下深くにあるアジトにおいて、最高幹部のアポロは脚を組みながら、幹部のランスに答えた。
「はっ。あの風貌、いけすかない性格、破廉恥極まりない言動、間違いありません、私が三年前に接触した奴らそのものです」
「どういうからくりなのか全く解せませんが……。とにかく彼らがまた、この地にもどってきたことは事実として認める他はないですね。まあ、正確にはもうひとり、少女がいるようですが……」
報告書を読みながら、アポロは冷静に結論づける。
「3年前の資料をあたりましたが、その一団の中に興味深い力を持つ女性がいたそうですね」
「はい。シィルと呼ばれていました。今回も、一行に加わっております」
「あれからすぐに去ってしまったので、我々には再度接触する機会すらありませんでしたが……、これは奇貨とみるべきかもしれませんね」
そう言って、静かにアポロはランスに視線を注いだ。
「至急、再度計画を立て、実行に移そうと考えます」
「彼が最近開発した追跡装置もその計画の役に立ちそうです。その支援もあおいでおきなさい」
「……はっ」
ランスは一瞬苦い表情を浮かべ、その方向へ向かっていった。
「さてと……」
立ち上がったアポロは背後へ振り返り、完成が間近となっている巨大な装置に目を向ける。
「サカキ様……。あともう少しです。サカキ様のご意思を、私の手で……!」
アポロは固く拳を握り、誓うように言った。
――
「せや。……、ウチはコガネシティのジムリーダー、アカネや。ポケモンリーグからの命令で、あんたらのこと、探ってたんや」
あまりにもきっぱりとした、その言葉に一同は驚きを隠せなかった。
「ほう……。そうか」
ランスはしげしげと、本来の姿になったアカネをいやらしい目で観察していた。
「なんや、怒らへんのか、ランス」
「俺様にはそんなもんどうでもいいからな。潜入だろうが探索だろうがハニートラップだろうが、かわいければそれでオッケーなのだ。がはははは」
ランスは全く気にしてない様子である。彼にとっては可愛い女の子が側にいればそれ以上のことはどうでもよかった。
「……そか」
アカネは豪快に笑うランスを見て、少しだけ視線を逸らした。
「アカネさん。正直に仰ってくださり、ありがとうございました。次に聞きたいことがあるのですが」
「リーグは何考えとるんかってことやろ。そんなんウチにはなーんもわからへん。理事ちょ……、ワタルはんからはとにかく、監視と報告せーいわれただけやからな」
アカネは先取りして答えつつ、シィルの用意したお茶に口をつけた。
「そうですか。とりあえずポケモンリーグは私達を少なくとも敵とはみていないということですね」
「フン。俺様のはちきれんばかりの威光にビビったんだな」
ランスはふんぞり返って、自らの存在を誇示した。
「おー。おとーさん、すごーい! さすがは世界そーとーだね!」
「いや、リセットちゃん……それは違うと思う……」
無邪気に持ち上げるリセットに、かなみは小さく突っ込んだ。
「それと、なぜ、ここで正体を明かそうと思われたんですか」
「一昨日ウチ脅しといてそれ言うん?」
アカネは朗らかに微笑みながら尋ねる。
「茶化さないでください」
「ふう……。これ以上隠してもしゃーない思うたからや。あんなたいぎぃな喋り方すんのもウチのガラちゃうからな。ここからは好きにさせてもらいまっせ」
「……。そういうことですか」
ウルザは少し腑に落ちない表情をしながらも、これ以上は聞き出せないと思ったのか、本題を切り出した。
「アカネさん。一つ、頼みを聞いていただいても良いですか」
「なんやねん」
「挑戦を、受けて頂けませんか。貴女に、3つ目のジムバッジをかけて、ポケモンバトルを申し込みます」
ウルザはモンスターボールを取り出し、静かに構えた。
「ふーん……。自信、あるんやね」
アカネは値踏みするような視線をウルザに投げかける。
「ええ」
「ウチもウルザがどんなもんか、気になってたとこやしな……。ええで。受けたげる。勝てたらこのレギュラーバッジ、もってってええよ」
アカネは懐からジムバッジを取り出す。それこそが彼女が正真正銘のジムリーダーであることの証であった。
「ありがとうございます。では……、少し場所を移しましょうか」
こうして一行は、テントから離れ、森の中の少し開けた草原に場所を移した。
――
少し冷たさを増した秋風をはらみながら、両者は少し離れて相対した。
そして、その対峙から少し離れて、ランスたちは流れでウルザの戦いを観戦することになる。
「そういえば……、ウルザさんのジム戦見るのって、はじめてよね」
「言われてみれば、そうですよね。いつの間にかバッジをとっていらっしゃる感じでした」
かなみはふと思い出して。シィルも気づいたように応じた。
「ちっ。ウルザちゃんも水臭いやつだ。それとも恥ずかしいのか?」
「……。多分ランスのせいだと思うけど」
かなみは小さく呟いたが、ランスの耳には届かなかった。
「ウルザさん……、すっごい真剣だね。ちょっとピリピリしてるかんじ」
リセットはまじまじと対峙するウルザを見ていた。
「そーだな。いつもあんな感じといえばそうかもしれんが……、おいかなみ、なんか知ってんじゃないのか」
「……。さあね。ウルザさんも、緊張してるんじゃないの」
バッジ三つになればトレーナーカードは正式な身分証となり、換金の制限がなくなり、財政問題が一気に解決する。しかし、そのことはランスには秘匿すべきことであった。
「ふーん。そうか」
ランスもそれで納得したのか、ウルザたちの方へ向き直った。
「ウチ、ジムリーダーになってから、何年か経つんやけど……、ジムの外で試合申し込まれたんわ初めてやわ。ちと緊張するな」
「そうなのですか……」
「ジムの外やから、リーグの決まりは適用されへんし、ウチも別に本気出してもええねんけど……」
アカネはにやりと笑いながらウルザに微笑む。
「……。やはり、あれが全力ではないのですね。ジムリーダーは」
ウルザもジムリーダーの役割は情報収集で得ていたため、その違和感は持っている。
「当たり前やろ。ひよひよに簡単にやられて、地域守れるわけやあらへん。ウチらジムリーダーはな。新人トレーナー、初周向けと、そうでないガチパーティーとでみんなわけてもっとるんやで」
「本気のパーティー……というと」
「せやなあ……。バッジ8枚とったばかりのトレーナーでもまだ足りひんくらいや」
ウルザはその言葉に固唾を飲んだ。
「流石にそれは……勘弁していただけませんか」
いくらなんでもバッジ8枚以上相当の本気でぶつかられては、自分のパーティーはひとたまりもない。そのことはウルザもよく承知していた。
「ハハ……。ジョークやジョーク。そんな意地悪するかいな。でも……、ウルザのパーティーも相当育っとるようやしな。ツクシからも聞いとるし、ウバメでも見たからな」
「ええ」
「手加減はしたげるけど……。ウチもジムリーダーや。舐められへん程度の力でいかせてもらうで。行けぇ! ピクシー!」
ピクシーは悠然とフィールドに立つ。
「行きなさい、ベイリーフ」
ベイリーフはピクシーを伺うようにして、前を見据えた。
「ピクシー! ちいさくなる!」
「……。マジカルリーフ!」
ちいさくなるを命令したのをみて、ウルザはマジカルリーフを命令する。遅滞を防ぐため、必中技を選択したのである。
「ちっ……けったいな技やな。ピクシー、短期決戦や! れいとうパンチ!」
ピクシーはベイリーフに向かって、氷塊と化した拳を見舞う。直撃し、3分の1ほどのダメージを受ける。
「ベイリーフ、リフレクター!」
ベイリーフはリフレクターを張り、れいとうパンチの弱体化をはかった。
「甘ちゃんやね、かわらわりや!」
しかし、その壁は先読みしているかのように、ピクシーによって粉々に破壊される。
ウルザはしばらく考えている。
「ピクシー、もう一度れいとうパンチ」
「戻って、ベイリーフ! 行って、マグマラシ!」
ベイリーフに当たる直前に。ウルザはポケモンを交代し、マグマラシに直撃する。不一致の上、半減のため大したダメージにはならない。
「ピクシー、メロメロや!」
ピクシーはマグマラシに誘惑のダンスをする。マグマラシはまんまとひっかかり、メロメロ状態になった。
「くっ……。小癪な手を」
「相手のポケモンにハニトラ仕掛けるんわ、ウチのポケモンのジョートー手段やで」
アカネはカラカラと笑って見せる。
「マグマラシ、かえんぐるま!」
マグマラシはぐっとこらえた表情になり、ピクシーにかえんぐるまを直撃させた。確実なダメージだが、まだ削り切るには至らない。
「ウルザさんのポケモンだけに……、割とストイックなのかしら……」
その様を見てかなみはふと感想を漏らした。
「案外、持ち主にある程度似るということもあるかもしれませんね」
シィルはにこやかに笑いながらかなみに応じた。
「ふーん。ま、畜生がどう影響されようが、知ったことじゃないがな。ウルザちゃんは何にせよ俺様のものだし」
「……。はあ……。少しはこう、もっとなんかないの?」
ランスの軽口を流しつつ、かなみは再度戦場へ視線を戻した。
「戻って、マグマラシ! 行って、ベイリーフ! マジカルリーフ!」
再度ウルザはマグマラシを戻し、ベイリーフにマジカルリーフを指示する。
「れいとうパンチ!」
ベイリーフのマジカルリーフが先にピクシーに当たり、耐えきれずに沈黙した。
「チッ……。深緑が発動しおったか。まあええ、次がウチの切り札や! 行けぇ、ミルタンク!」
アカネの切り札、ミルタンクは堂々とした態度でベイリーフの前に姿を現した。
「ミルタンク! のしかかりや!」
「ベイリーフ! しびれごな!」
しびれごなは命中し、ミルタンクは麻痺状態となったが、ベイリーフはのしかかりの直撃をくらって倒れた。
「……。よく頑張りました。ベイリーフ。行って、マグマラシ! 煙幕!」
マグマラシは口から灰の塊を出し、ミルタンクの命中率を下げる。
「くっ……。ウチのころがる封じる気なんやろけど甘いで! ミルタンク! ころがるや!」
ミルタンクは即座に丸まり、マグマラシに向かって一直線にその巨体をぶつけた。効果は抜群で、一撃目とはいえ、軽くないダメージを受ける。
「マグマラシ、もう一度煙幕!」
再度、ミルタンクの視界が塞がれ、命中率は更に下がる。次もころがるが命中し、次も当たればマグマラシは確実に倒れるが、アカネには焦りの色が見え始めていた。
「っ……!」
「マグマラシ、かえんぐるま!」
機を得たとばかりに、ウルザはかえんぐるまをミルタンクに叩きつけた。ころがるのダメージによる猛火が加わり、3分の1ほど体力が削れた。
そして、ミルタンクの方は痺れが発動し、ころがるの効果が途切れた。
「マグマラシ、もう一度!」
再度のかえんぐるまはミルタンクの体力をさらに削る。しかし、ここでミルタンクはオボンの実を食べ、少し体力を回復させる。
「ミルタンク。ミルクのみや。……、そない簡単に負けるわけにはいかへんで」
ミルタンクは自身のミルクを飲んで体力を回復。かえんぐるまによるダメージを8割方回復させる。
「……。戻って、マグマラシ、行きなさい、アリゲイツ!」
アリゲイツは待っていたとばかりにフィールドに躍り出た。
「ミルタンク、メロメロや!」
しかし、命中率が下がっていることにより、メロメロはアリゲイツには効かなかった。
「当たらなければどうということは、ありませんね……! アリゲイツ! みずのはどう!」
アリゲイツのみずのはどうはミルタンクに直撃、そして運悪く、混乱状態となった。
煙幕によるステータス低下、麻痺、こんらんと手がほぼ封じられたアカネは、完全に万事休すとなる。
――
その後、アカネは粘り強く交代したマグマラシを倒すことに成功するも、アリゲイツを削り切ることは出来ず、敗北する。
「うわーーー!! 酷いわーーー!!」
ミルタンクが倒れ、モンスターボールに戻すや否や、泣き崩れてえんえんと声を枯らしていた。
「ふう……」
ウルザは泣いているアカネを見つつ、冷静にアリゲイツをボールに戻した。
「ちょっとちょっと! いいの? ずっと泣いてるけど」
心配に思ったのか、かなみが駆け寄ってきた。
「いいんですよ……。トレーナー情報誌で書かれている通りですね。バトルに負けると、こうしてずっと泣いてしまうんだそうです」
ウルザは小さな声でかなみに返す。
「そうなんだ……。普段あれだけ気が強くても、やっぱり女の子なのね……」
かなみは少しだけ親近感をもった、微笑ましい視線をアカネに送った。
「聞こえとるで! ぐすっ……。うう……。そら手加減するとは言うたけど、あないムキになって……、戦うことないやろ……うわーーーん!!」
アカネはぶりかえしたのか、まだ泣き続けている。
「うわっ……。ちょっとタチ悪いわねこれ……」
「しばらく泣かせてあげましょう。そうすればおさまるみたいですから」
ウルザは気心のしれた友人にでも接するかのような、薄い笑みを浮かべながら言う。
「あ、あの、大丈夫ですか」
シィルもアカネのもとに近づき、そっとハンカチを差し出す。
「うっ……ひっく……おおきに」
アカネはハンカチを受け取り、あふれる涙を押さえる。少しずつおさまってきたようだ。
「ふう……でも、やったわね、ウルザさん」
「……ええ」
ウルザとかなみは笑い合って成果を分かち合った。目標のバッジ3枚に到達したのである。
それから数分して、ようやくアカネは落ち着いた。
「ふう……。すまへんかったな。取り乱して」
「いえ」
「それで……、まだなんかあるん?」
アカネはわざとすっとぼけたような表情をウルザに見せた。
「……。わざとやっておられるのですか?」
「おお怖……。じょーだんや。はい、レギュラーバッジ! これが欲しいんやろ!」
ウルザは3枚目となるレギュラーバッジを丁重に受け取った。
「ありがとうございます」
ウルザはバッジケースを取り出し、3枚目となるスペースにそれを埋める。
「ほー。こいつらがそのなんとかバッジってやつか。思ったより小洒落てんな」
「ジムバッジよ……。なんとかって言ってるほうがながいじゃない」
ぬうっと出てきたランスに対し、かなみは思わずツッコミを入れた。
「ふふ……。そうですね」
ウルザは微笑みながら、バッジケースの蓋を閉じ、カバンにしまう。
「はー。それにしても強いなぁウルザ……。トレーナーになって今日で何日目やっけ?」
「そうですね。かれこれ二週間くらいになりますか。ただ、これだけの速さは、オーキド博士の助けあってのことですから」
「へー……。いやでも。めっちゃすごいわホンマ。ウチもジムリーダーになってしばらく経つけど、こんな早うポケモンバトルに習熟した人、見たことないかもしれへん……」
アカネは半ば尊敬の眼差しでウルザを見ていた。
「たまたまですよ……。それに、ゆっくりやってる時間はないですから、無理もさせてますし」
「そういやあんま聞いてへんかったけど……、ウルザはその、ここに来る前何してる人やったん?」
「私、ですか? 今は、人類軍の総統付参謀ですよ」
「そして総統たる俺様の女だ! がはははは」
ランスの横槍に、ウルザはげんこつを以て応える。
「ふーん……。ウチも概要は聞いとるけど、さんぼーってあれやろ? 軍隊とかで作戦たてるえらい人やろ?」
「ええ。まあ」
「ひょえー……。生身の人間何十万人も指揮しとるような人じゃ、ウチみたいなんわ、そら勝てんわ……」
アカネは改めて自らの敗北を実感した。
「そんなことはないですよ。軍事作戦の立案や、兵站計画の作成などと、ポケモンバトルとでは似通うところもありますが、基本は別物ですから」
「そうなんか……。ま、そうゆーてくれるんなら、ウチも面目保てるけど」
ランスがまだ伸びているのを確認し、ウルザはアカネに耳打ちをする。
「その……。いきなりな話で悪いのですが、コガネシティに着きましたら、換金を行いたいんです」
「ん……。ああ、苦しいとか言うとったね。任しとき、ツテ頼って、2,3割増くらいで質屋でもなんでも買い取らせ……」
「いえ。売るものは決まっているんです」
ウルザは意を決して、今までリュックの奥深くに隠していたゴールドがたくさん入っている袋を掴みだし、アカネの前に見せた。
「わっ……えっ……!? もしかしてこれ全部……金貨!?」
アカネは見たこともないような量の金を見て、半ば浮足立っている。
「ええ、私達の世界の通貨でして……。純金として大変価値の高い金属として買い取っていただけると聞いております」
「う、うんそうやけど……。これはちょっと常軌を逸しとるで……」
アカネは完全に現実のこととはとらえられていないような、そんな顔をしている。
「今までは身分証なしで交換できる100万円で騙し騙しやってきたのですが、こうしてアカネさんからバッジをいただいて、トレーナーカードが身分証になりましたし、信頼できるところでまとまったお金を手に入れておきたいのです。コガネシティは経済に強い大都市と聞いております。アカネさんでしたらそういうところに心当たりがあるのではないかと」
「ふ、ふーん……そうなんか。まあそらいくつかはあんねんけどな……」
アカネは胸ポケットから電子手帳を取り出し、何軒か検索する。
「何か問題でも?」
「んー……。分かっとるとは思うけど、いくら身分証あるからってその量の金全部交換するのはリスキーすぎるで」
「ええ、存じております。とりあえずは1000万円くらいを」
「い。いっせんまん……」
あまりにも途方もない金額だからか、アカネはしばらく呆然としている。
「あの、アカネさん?」
「ああうん。……、ホンマにそんなに必要なんか? 1000万円いうたらそのへんのにーちゃんの年収なんか余裕でぶち抜く額やぞ?」
「総統……、ランスさんを見ているでしょう? あの方がいる限り、予備費は大いにこしたことはないんです」
アカネは伸びた状態から回復し、シィルに相変わらず意地悪をしているランスを見る。
「ああ……。うん、まあ確かにそうかもしれへんな……。ヒワダで散財してくれた額もえらいことなってたし」
「やはりそうなのですね……。おいくらですか? 極力この世界で迷惑はかけたくないので、換金が済んだらお支払いしますけど」
ウルザは忘れまいとメモ帳を用意する。
「ああ。ええてええて。どーにか経費で落ちてくれたし……」
「しかしそういう訳にも……」
「ジムリーダーも挑戦者にジムの設備ぶっ壊されたり、ジムトレーナーのやらかしの尻拭いしたりで色々あんねん。せやからこの程度の出費、珍しいことやないから、気ぃせんといて」
アカネは朗らかに笑いながら、この話を済ませようとする。ウルザもそこまで言うならと話を切り替える。
「それで、どうでしょうか」
「正味言うとやな。コガネは経済やカネ勘定にかけてはタマムシや、ヤマブキにも負けへんくらいの力はあんねん。でも、その分、ロケット団はじめ裏社会の影響力も強おてな……。そのへんの店でそんな額取引した言うたら、街から出る前に餌食にされてもおかしないで、鴨が葱を背負って来るみたいなもんやからな」
アカネは顎に手を当てながらながら言う、
「そうですか……。面倒は避けたいですね」
ロケット団が仮に襲いかかったところでどうにかできる自信はあったが、それ以上に余計な面倒を起こしたくはなかった。
「ま、ウチに任しとき。ウチの叔父さんがそういう貴金属の鑑定所やっとって、オトンとも付き合い深うて、信頼できるところやからそこに話通しとくわ」
「ありがとうございます」
ウルザは深々と頭を下げる。
「あとはせやなー……。これは興味本位で聞くんやけど、ウルザたちって今その金貨何枚もっとるん?」
「私と、ランスさんと……、あとかなみさんなどの分もふくめて3200枚くらいでしょうか」
「……は? え???」
アカネは目を見開き、瞬かせる。
「どうされましたか?」
「ああゴメンな……。あんまりにも現実離れしとって……、それ仮に全部同じ純度の純金やったら、万どころやないで、全部合わせたら数億円レベルや。そない大量の金貨持ち歩くなんて危なすぎるで、命いくつあっても足らへん」
アカネはつとめて冷静に説明する。
「そうですね……。ではどうしましょうか」
「そうやなあ……。とりあえず銀行口座と、貸金庫を借りるのが手っ取り早いやね。ジョウト中に支店がある銀行紹介したるから、とりあえずコガネで申し込んで、キャッシュカードとかはエンジュなりチョウジなりの支店で受け取るのがええ思うで」
「銀行ですか。確かにそうですね……」
「ま、とりあえずはコガネについてからの話や。その金貨袋、盗まれんよう大事にしまっとき」
アカネは強い視線でウルザに命じる。言われるまでもないとばかりに、ウルザは再びリュックの底に沈める。
「おう、なんだ、女二人でひそひそ内緒話しやがって」
話がまとまったところでランスが入ってきた。
「……。経済感覚に明るい人は、どの世界にもいるものだなと思っていたところです」
ウルザはぽつりとランスに呟いた。
「え? なになに? そっちにもウチらみたいな人種いてんの?」
アカネは興味津々にウルザに近づく。
「おー……そういや、アカネちゃんは、コパンドンに喋り方そっくりだな。思い出すわ」
アカネの横顔を見ながら、ランスは相変わらず朗らかな顔をしながら話す。
「コパンドン?」
「私達の世界で最大の資産家です。自由都市地帯というところで、国一つを買い切って、コパ帝国という自分の街をつくり、私達の戦争においても多大な経済的貢献をされているんですよ」
「へー! そないな人おるんか……、ちょっと親近感わくなぁ」
アカネは片手を胸にあてて、見たこともないその人物に少しばかりの憧憬の念を抱くような表情をした。
「そしてそいつも俺様の女なのだ! アカネちゃんと違って少し年かさで胸はぺったんこで、カネにはがめついが、俺様の言うことには逆らえんかわいい女だぞ、がはははは」
「ああ……、やっぱそこにいきつくんや……」
アカネはふうと息をついてうなだれる。ランスという人間のことを大分理解したようである。
「それで、アカネさん、これからはどうされるのですか」
「ん? せやな……。厚かましい思うかもしれへんけど、ロケット団を倒そーいう意思はウチも変わらへんし、ランスさえ、ええんやったら、及ばずながらこの世界の案内人として、パーティにいさせておってほしいんやけど」
「いいぞ」
「えっ……ホンマに?」
先ほど気にしないと言っていたとは言え、改めて聞くとやはり意外なものであった。
「本当もなにも。かわいい女の子が俺様にホレてついてくるなら、拒む理由なんかなんもないからな」
「うっ……、別にウチはそんなホレたとかゆーわけちゃうねんけど……」
アカネの心中は複雑であった。
「ま、なんでもいいや。そのかわり、いつかはヤラせろよな、がはははは」
「ふーん。意外、その場でおっぱじめてもおかしくないと思ってたのに……」
かなみは少しだけランスを違った眼で見ている。
「俺様は大人だからな。いつでも落とせる女にはがっついたりしないのだ」
「ランス様……」
シィルのその目には、絶対にろくなことを企んでいないことを示唆するような。確信めいたものがあった。
「なあ。なんかすごく勘違いしてへん……?」
アカネはランスを指さしながらウルザに耳打ちをする。
「……。抜けるなら今のうちですよ。これは忠告です」
――
「って、なにウチのテントに入って襲っとるんやーーー!!」
「がははは、いつかは、というのは、今日も含むのだよ、アカネ君」
気取ったセリフを吐きながら、ランスは寝ていたアカネに覆いかぶさり、豊満な胸を揉みしだいている。
ウルザが3枚目のバッジを獲得し、アカネの正式加入が決まった夜、ランスはアカネが張っているテントに夜這いをかけていた。
「や、やめてや! ウ、ウチまだランスに……」
「おー? 恥ずかしがってるのか? 世間なれしてるような面していて、案外不慣れだったりするのか?」
「うっ……」
黙っているアカネに、ランスは更に下腹部に手を這わせる。
「答えんか」
「っ……。そないなことランスに関係あらへんやろ」
アカネは顔を赤くしながら、ランスから視線をそらす。
「ほほーまさか図星かー?」
ランスはアカネのシャツのボタンをあけ、下着越しに手をしのばせた。
「んっ……!」
アカネはピクンと鈍く身体を跳ねさせる。
「おー。中々初々しい反応……。もしかして……処女か?」
「っ……! わ、悪いんか」
「いんや。ちょっと意外に思ったからな……、遊んでそうだし」
これはアケミとして扮装していたころから持っていた、ランスの直感だった。
「っ……。ウチ、ジムリーダーやからな。高校や大学に男友達はおっても、一線越えようとしてくれる肝の据わっとる奴おらんねん」
アカネは寂しげな目を浮かべている。
「ふーん。どいつもこいつも玉無しだな。こんなとびきり上玉がいるっていうのに」
そう言いながら構わずランスはもう片方の手を空いている胸の方にやった。
「おおー……。この大きさ、揉み心地。うむ、中々立派なおっぱいだ。太鼓判をくれてやろう」
「くっ……そんな言われても……んっ、嬉しないわ」
「俺様はざっと一万人以上の女を抱いてるんだぞ、もっと喜べ」
ランスは一層、揉む強さを上げる。
「またそないなこといって……」
アカネは息を上げながら精一杯の抵抗のセリフを言う。
「いやーほんとに吸い付くような肌だし、エロいし、言うことないぞ」
「……な、なあ。ランス」
「んー?」
「ホ……、ホンマにするん……?」
アカネは熱っぽい息と声で、恐る恐る尋ねる。
「アホか。ここまで来て引き下がるようなインポ野郎じゃないんだぞ」
「うっ……。そ、それだけは堪忍してくれへん? ほ、他のことやったらなんでもしたるから」
アカネは懇願するような視線と、拝むような手つきでランスに頼み込んだ。
「ほー。なんでもって俺様のハイパー兵器を色々な手で奉仕するとかか?」
「う、うん……」
アカネは更に赤くなりながらうなずく。
「なんでそんなに本番を嫌がるのだ」
「え、えっとな……ツ、ツクシおったやん?」
「誰だそいつ」
ランスはにべもなく返した。素で忘れているようだ。
「えーもう忘れたんか……。ほら、ヒワダにおった、あの華奢なかんじの……」
「あー。あの男女みたいなやつか。それがどうした」
「じ。実はな、こ、この任務終わったら、ツ……ツクシがまだ童貞で、女の子と付き合ったこともないいうから……その」
アカネは先の言葉につまり、ランスから目を逸らした。
「筆下ろしでもしてやるとかいったのか」
「ア、アホ! 誰がそこまで……。その、デートしてあげるって約束したんや。だからそれまではその……」
アカネは訴えるような、潤んだ眼でランスを見つめる。
「ふーん。清らかなお姉さんでいたいってわけか」
「そ。そうなんや! せ、せやから」
ランスは少しだけ考えるフリをした後、
「ダメだ。俺様の眼に止まったからにはそんなことは許さーん!! 俺様がアカネちゃんの最初の男であり、最後の男だ。わかったか?」
「うっ……うううう……」
「だいたい、俺様がどんな男かある程度分かった上でこの任務受けたんだろ? ウルザちゃんはそういってだぞ」
推察の範囲ではあったが、既にランスはウルザからその旨の報告は聞いていた。
「せ、せやけど……で、でも……」
「そのうえでそんな約束するなんてアカネちゃんは意地悪なやつだなー。もしかして俺様に抱かれたくないばっかりに適当なこと言ってんじゃないのか?」
「そ……、そんなわけないやろ! ウ、ウチかてコガネの女や! そんくらい腹くくっとるわ!」
「じゃあ文句はないな。いただきまーす」
ランスは胸に這わせた手をゆっくりと下腹部、そして局部へと這わせていく。
「え、ちょっ。ああ……」
――
「んっ……」
翌朝、アカネは目を覚ました。すぐ横にはランスが裸になったまま幸せそうに寝息をかいていた。
「……。人の気もしらんでよう寝とるわ」
アカネはリュックから着替えを出して、下着を替え、Tシャツを袖に通した。
「ホンマにしちゃったんやなウチ……。どないしよ」
ふと目にしたテントの床代わりに敷いていた段ボールに残る赤いシミが、昨晩の出来事を現実であると雄弁に語っていた。
「ガハハー。遂にケイブリスをやったぞー……。シィル、拍手が足りんぞー……」
そんな寝言を言いながら、ランスは寝返りを打った。
「……。風邪、ひくで」
そう言ってアカネはランスがすっかり剥がしてしまったシーツを、肩まで覆い直した。
朝食の香りと、顔を洗うために、服装をとりあえず整えたアカネはテントのファスナーを引いて外に出る。
昨夜していた焚き火の近くまで来たアカネは複雑な表情で、ゆっくりと歩いていた。
他の女性陣たちは既に起きており、シィルの朝食作りの手伝いなどをして時間を過ごしている。
「ねー、アカネおねーちゃん。どーしたのそんな顔して」
リセットは無邪気にアカネの近くに寄る。
「ん……。ああ。なんでもあらへんよ」
「おはよう。……あっ、そういえば、早朝ランスのテント様子見に行ったときいなかったけど」
かなみはアカネにまさかといった視線を合わせる。
「っ……。そーや。お察しの通りや、かなみちゃん。ウチも、あんたらのお仲間や」
アカネは半ば開き直ったかのように、かなみに対する。
「ああ……そっか」
かなみが複雑な表情でがっくりとうなだれる。側で朝食の支度を進めていたシィルは聞こえてないふりをしながらも。同じような表情をしていた。
「……。やはり、そうなってしまいましたか」
仮にもポケモンリーグの、ジムリーダーという重責にある女性を抱いた。その事実だけでウルザにとっては頭痛の種であった。
「そーいうことや、ウルザ。竿姉妹として、今後ともに宜しゅうな」
「パパイアさんみたいなことおっしゃらないでください……」
「は? 誰やパパイアて」
「いえ……。今後とも、何かとお世話になるでしょうが、よろしくお願いします。アカネさん」
秋の涼やかな朝、ゼスに残してきた元四天王の顔を浮かべながら、ウルザはアカネに手を差し出し、アカネもそれに応じた。
「そのついでに一つ聞いてええか」
「なんでしょうか」
「ランスが寝言で言うてたんやけど……。ケイブリスってなんや?」
その言葉にウルザは一瞬表情を硬くし、平静になって答えた。他のメンツも少しだけ反応している。
「……。私たちが元の世界で相対してる、敵の首領です」
「ああ。そうなんや……。普段戦争のことなんか口にもせえへんくせに……」
アカネはランスが眠っているテントの方を向く。少しだけ今までとは違った感情を乗せたようだった。
コガネシティジムリーダーのアカネが、正式にパーティに加わった。
―コガネシティ 入口―
その日の昼頃、一行はようやくコガネシティに到着した。遠くからみるだけで圧倒された摩天楼が、すぐ側にランスたちの前にたちはだかる。
「どーや! ここがジョウト一の大都会! コガネシティや!」
ついてそうそう、見るものを威圧するかのような建物群を前にアカネは自信満々に啖呵を切ってみせた。
「おー……。すげえ……」
ランスはさすがにあんぐりと口を開けるしかなかった。直ぐ側には幹線道路を占拠する大量のトラックや乗用車、昼休憩の為に行き交うサラリーマンやキャリアウーマン、学生たち、それに従うポケモンなどが一斉に昼食や、打ち合わせ、その他諸々に向けて活動を開始していた。
「人口は確かコガネの中核都市圏だけで1200万人でしたか……。これだけで私の生まれ故郷であるゼス王国の半分に匹敵すると思うととんでもないですね……」
「リーザスだってこれには遥かに及ばないわよ……。リア様が見たらなんていうか……」
かなみやウルザはそれぞれの国から比較し、その歴然たる差に畏怖している。
「ああ……きっと腰抜かすだろうな……。すぐに意地はって元に戻るだろうが」
ランスはあの高慢をそのまま絵に描いたような、リーザス王国の女王を思い浮かべながら、少し笑っていた。
「リア様ですか……。リーザスも、ゼスも……大丈夫なんでしょうか今頃……」
シィルはふとその名前を聞いて、国を思っていた。
「……。やめましょう。今は眼の前のことに集中すべきです」
ウルザは短く答えて、シィルに自制を求める。それは自身への言い聞かせでもある。
「さてと、とりあえずはポケセンいこか?」
「え、ええ。そうですね。他にも済ませなければならないこともありますし……」
「よーし。じゃあ行くぞお前ら。大都市だろうがなんだろうが、俺様のしったことではないわ」
ランスはずんずんと先頭を切り、アカネのガイドを聞きながらポケモンセンターへ歩いていった。
―ポケモンセンター 出入り口―
「さてと、まずはどうしましょうか」
「せやなー……。換金の前にまず、銀行口座作ったほうがええね。そのほうが手間が省けるし……」
ランスたちをとりあえずポケモンセンターにとどめる事に成功したウルザとアカネは今後の指針を相談していた。
「とりあえず……。そうですね、アカネさんが一押ししているここなどは如何でしょうか?」
事前にアカネが作成していたリストから、一つをウルザはピックアップする。
「せやな。そこは預金の金利も高いし、支店の数も申し分ないし……」
「しかしやはりコガネはすごいですね……。銀行がこれほどたくさん」
「せやねん。お江戸の昔から、銀を取り扱うのはうちらコガネの領分やったし、その関連でこれだけの基盤が整っとるんや……」
アカネの説明に納得しかけていると、凛とした声が、横から入った。
「フフ……。しかし、それより上の金を扱ったのは、政治の中心である江戸……、すなわちタマムシと、ヤマブキでしてよ?」
「えっ?」
その声に反応し、二人はリストを映していた端末から、その和装の女性に目を向ける。
「お久しぶりですわね。アカネさん……。コガネを贔屓してらっしゃるのは、相変わらずのご様子。地元愛が強くて宜しい限りですわ」
「エ……エリカ!」
「えっ……? お知り合い、なのですか」
ウルザは対抗心を少し含んでいる目をしているアカネに尋ねる。
「せやで……。カントー地方、タマムシシティの……、すなわち首都の片割れである街のジムリーダーや」
そんな紹介もそこそこに、エリカは静かにウルザの手を取った。
「ウルザ……さん。お久しぶりです。まさかまたお会いできるだなんて……、感激しますわ」
「えっ……?」
全く見覚えのない女性からのその言葉に、ウルザは大きく動揺した。
「へっ!? 知り合いだったんか……? ウルザ」
「えっ。えっと……」
「3年前にあなたに対してトレーナーとしての手ほどきや、この世界で生きる上での心構えなど……、お教えした事を覚えてはおりませんか?」
エリカは切実な表情で、ウルザに訴えかける。ウルザは、3年前というワードでようやくとっかかりを得る。
「す、すみません。エ……、エリカさん。私、あのときの転移のショックで、その時の記憶が……」
オーキドのときと同じ手を使うしかない。そうウルザは心に決めたのだった。
―つづく―