あー死ぬなこれ(諦め)   作:クイーンズの坊や

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主人公の境遇について、この話に記載しているにも関わらず「本編に書いていないのに感想欄で作者がネタバレするな」との批評を頂きましたので、誰でもわかりやすいように改定しました。ダイチ3様ありがとうございます。(2025年7月10日)


偽物の隣人の日常

 オーケー、じゃあ説明しよう。

 

 お――僕はしがない一般人。放射性のクモに噛まれた時から――今まで5年間。ここ、学園都市キヴォトスでたった一人の――スパイダーマンだ。

 

 なんて、言ってみたかっただけだ。あー分かったわかった、ちゃんと説明するよ悪かった。

 

 おほんっ! オーケー、じゃあもう一度、今度はちゃんと説明しよう。

 

 俺の名前はピーター・ベンジャミン・パーカー……ただのしがない転生者で、高校時代に放射性のクモに噛まれた時から今まで2年間、そしてこのクソッタレキヴォトスに来てから3年間。世界にたった一人だけのスパイダーマンさ。

 

 後は解るだろ? こんな生まれも力も名前も――何もかもが借り物な、クソッタレ偽物の俺にだって、メイ叔母さんやベン叔父さんが居たさ。

 

 そして、借り物の運命通り2人を失った。今でも2人の事は夢見るさ。もちろん2人だけじゃない、俺と親しかった皆の事だって夢に見る。

 

 ……クソッタレなことに、コミックや映画で何度も見たスパイダーマンの運命(カノン・イベント)に、俺は勝てなかった。くたばれスタン・リーと思った回数は両手足じゃ足りない。

 

 そんな俺だけど、さっきも言った通り3年前に異世界転移ってのを経験した。シニスター・シックスをはじめとしたヴィランが溢れる我が生まれの地ニューヨークから、天使に見せかけた悪魔ばっかりのこのキヴォトスへとやって来たんだ。

 

 誰もが俺の事、スパイダーマンの事を知らない世界。そんな場所に来てしまった俺は、これ幸いにとスパイダーマンを引退しようと考えた。だけど、そんな時にベン叔父さんの言葉を思い出したんだ。

 

 大いなる力には、大いなる責任が伴う。

 

 俺は偽物だ。本物のピーター・パーカーみたいな勇気や正義感がある訳じゃない。スパイダーマン稼業だって元はと言えば得た力に溺れたのが始まりみたいなもんだ。

 

 だけど、そんな俺の事を愛してくれたベン叔父さんやメイ叔母さんの事は裏切れなかった。

 

 だから今日も俺は――

 

「やっほー、そのヘルメットイカすね。流行ってるの?」

 

 スパイダーマンとしてヒーロー活動ってワケさ。

 

「なっ!? スパイダ――」

「ごめんね! 急いでるんだ!」

 

 ヘルメットの少女を思いっきり(NYの頃基準で)蹴り飛ばす。彼女達は俺の世界に居たスーパーヴィランと同じくらいには丈夫だから、ちょっと強めに殴らなきゃいけない。いたいけな女子を殴るってのはちょっとキツいけど……まぁ、5年間もスーパーヒーローやってればだいぶ慣れた。

 

 ノックアウトした少女はウェブでしっかりそこら辺に貼り付けておく。

 

「はい、お兄さん。これ返すよ」

「あ、あぁ。ありがとうスパイダーマン」

「どういたしまして、それじゃあ僕急いでるから警察への通報よろしくね!」

 

 ウェブシューターの引き金を引いて、飛び出したウェブを引っ張り空へと跳び上がる。

 

 さて、当然だけどこの学園都市キヴォトスにも警察は居る。ただ学園都市というだけあって、警察官も今しがたノックアウトしたひったくり犯と同じように少女だ。正直なところ、NY市警と違ってちょっと頼りない。

 

 実際、今向かってる強盗の現場だって警察が苦労してそうな感じだったから向かってる訳だし。警察無線の盗聴はスパイダーマンの嗜みってね。

 

「スパイダーマン! 写真撮ってー!」

「ごめんねー! ちょっと急いでるからまた今度ー!!」

 

 振り子の頂点に達したら握っていたウェブを離して、別のビルにウェブを発射する。ブランコをこぐように体の動きで慣性を付け、始点よりも終点が高くなるような振り子運動を行う。

 

 スパイダーマンと言えばって感じだよね、このスイング。

 

 さっきのひったくりを磔にした場所から大体20ブロック……あぁ、道路を20個超えたくらいって事ね? それくらいの距離をパパッとスイングで進んできてようやく強盗事件の現場に来れた。

 

 とりあえず近くのビルの上から俯瞰して観察する。現場はコンビニで犯人は5人、人質が8人かな? その周囲をパトカーを盾に警官の子達が包囲していると。

 

 なるほど、NYでよく見る何ともありふれた感じの強盗事件。じゃあさっさと終わらせよう。

 

 ビルから飛び降りる。少女達の体が丈夫だって言ったけど俺もかなり大概なのはそうなんだよな。

 

 落下中にビルの半ばくらいにウェブを発射し、もう片方のウェブを強盗の一人にくっつける。

 

「うわぁぁぁああああ!?」

 

 そしたら両方のウェブをくっつけて、強盗犯の宙吊りが1つ完成ってね。

 

 さて、これで視線誘導は完了だ。

 

「さっきも思ったけどそのヘルメットやっぱり流行ってるの?」

「うわ!? なんだお前ぎゃッ!!」

 

 音を極力立てないようにして強盗犯達の背後に着地して話しかける。吊り上げられた仲間に目を向けていた強盗犯は俺に気付いていなかったようだ。

 

 だからこうして振り返った瞬間顔面にパンチを叩き込む。この場面を見られたら、女の子相手に酷い事をするなってMJに怒られちゃいそうだ。

 

「ッ! スパイダーマン!!」

「あぁ、俺の事知ってくれてるんだね。なら大人しく捕まってくれたりは――」

「誰がするか!!」

 

 首の後ろのムズムズに従って体を逸らす。その直後、すぐ近くで銃弾の風切り音が聞こえて肝が冷える。

 

「オーケー、なら実力行使と行こう」

「グべっ!?」

「うグぅッ!?」

 

 そこらの2人にウェブを発射し、ぶつけ合う。

 

「クソッタレ!!」

「女の子がそんな口きいたらダメだよ!」

 

 最後の一人にもウェブを発射して銃を奪い取り、そのまま蹴り飛ばしてからウェブで拘束。はい、終わり。

 

 それじゃあ、人質の人達の拘束を解こうかな。このくらいのロープなら……うん、引き千切れる。スーパーパワー様様だね。

 

「ふぅ……」

「あ、ありがとうスパイダーマン」

「ありがとう!」

 

 いやぁ、NYでもキヴォトスでも人質の人達がこうして感謝してくれるのは嬉しいね。2つの世界で数少ない変わらない事柄だ。

 

 ロープを千切ろうとして力を込めていると、首の後ろが少しだけムズムズし始める。それと同時に背後からの金属音が複数。

 

 あぁ、うん……そうだね、言い忘れてた。

 

「マスクを取り、手を上げ、ゆっくりと振り向け!!」

「あーもしかして俺に言ってる……?」

「当たり前だろう!」

 

 俺、こっちの世界の警察にはどうやら好かれて無いんだ。悲しいことにね。

 

「はいはい、先に人質の人達を解放してから――」

「は、早くしろ!!」

「――ねっ!」

 

 人質の人達を縛り付けていたロープが千切れる。後ろの警官の子達が身動ぎする音が聞こえたけどちょっと過敏過ぎないかな? 正直俺の身体能力君達とそんなに大差ないと思うんだけど。

 

「はーい、この通り両手を上げますよお巡りさん」

「手を上げる前にマスクを取れ!」

「やだ、お巡りさんったら積極的……お兄さんそういう破廉恥なのは良くないと思うよ?」

「あ、え!? 違っそういうのじゃない!!」

「それなら良かった……それじゃあ!」

 

 なんて言いながら上げた両腕からウェブを発射して、そのままウェブを引っ張り飛び上がる。スーパーパワー様々だよ本当にね。

 

「っ待て!!」

「ごめんねお巡りさん! 写真ならいつでも撮るから!」

 

 軽口を投げかけて、スイングで現場から離れる。

 

 見ての通りのクソッタレな治安の世界だけど、これが俺の日常だ。どう? 中々悪くないと思うんだけど……悪い? そっか……まぁ、なんにせよ、これが俺の日常さ!!

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