あー死ぬなこれ(諦め)   作:クイーンズの坊や

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胸の鼓動はドラムが如く

「はぁ……右を見ても左を見ても、どこを見ても問題が起きてるってのは大概終わってるよな」

 

 よぉ、諸君。前回と口調とかが違うって? そりゃあそうさ、スパイダーマンじゃないからな今は。オフだよオフ。あの口調は偽物の涙ぐましい努力なの。

 

 そんで、朝起きて住んでるボロアパートの窓から外を眺めるってのが俺の日課なんだが、このクソッタレ治安キヴォトスは朝だってのに少し耳を澄ませば銃声が聞こえ、少し目を凝らせば殴り合いの喧嘩が見える。

 

 まぁ、俺の住んでる場所がブラックマーケットって言うキヴォトスでも随一の治安の悪さを誇る場所ってのもあるんだがな。本当はミレニアム辺りに住みたかったんだけど戸籍と金が無かったからな……クソだぜクソ。まぁ一応、俺の名誉のために言うけどちゃんとしたスーパーヒーローらしい他の理由もあるぞ?

 

 あぁ、そういえばだがこの世界、大分法律が緩い。ってのも、この世界って全員が全員銃弾で撃たれてもグレネードを喰らっても中々死なないから暴力にだいぶ寛容なんだよな。

 

 そのせいもあってNYに居た頃に比べるとスパイダーマンとしての仕事になるラインがちょっと上がってる。具体的には盗み以上が俺が出張る範囲。

 

「さて、と」

 

 タバコを灰皿に押し付けて火を消して、今日の新聞を手に取る。ボロボロのソファに腰掛けて、ラジオのダイアルを回し周波数を小気味の良い音楽を流す適当な曲に合わせる。

 

 煙臭くなった口内をちょっとだけ温めたミルクで流したら、机に置いていた眼鏡を装着し新聞を開いて読み始める。当然、これも俺の日課だ。

 

「……」

 

 戸籍なんかの問題で未だにスマホも契約できない俺にとって、新聞は警察無線の次の次くらいに重要な情報源だ。最近ホットな話題だと”先生”に関する事とかな?

 

 あと、俺の仕事に関係しそうなことで言うと外せない話題と言えばコレ。

 

「”エデン条約”、進展があったのか」

 

 このキヴォトスには3大学園と呼ばれるデッカイ学園がある。その内の2校であるゲヘナ学園とトリニティ総合学園が「治安維持やらなんやらで協力しましょうね」というのがこのエデン条約。

 

 つまり2校が平和になる訳だね。この広いキヴォトスに俺は1人、少しでも俺以外がヴィラン……というか犯罪者に対応出来るのであれば、それで良い。あんまり俺1人で頑張っても過労死しちゃうしな。

 

「……ニュースはこんなもんかな」

 

 結局目ぼしいニュースはこれくらい。新聞を古紙を纏めて置いている場所に放り投げて、パパッと着替えを始める。もちろんヒーロースーツじゃないぞ? 普通にお出かけ用のオシャレな服さ。

 

 どんな服装かはブリーマグワイアって調べればわかると思う。ほら、俺の根っこは日本人の陰キャだから黒好きなんだよね。いやぁ、どんな世界も基本顔が良い男なピーター・パーカーで良かった、こんな服でも絵になる。

 

「っと、これも忘れちゃいけないな」

 

 服を着終わったら最後に自作のロボット頭を被る……え? なんでこんなのを被るかって?

 

 オーケー、理由を話そうじゃないか。

 

 どこから……そうだな、俺がこのキヴォトスに来てから……かれこれ3年。だが、俺と”先生”以外に一切人間の大人って存在を見たことも聞いたことも俺は無い。あくまで俺視点でだが、このキヴォトスに居る大人ってのは獣人か、今俺が扮したロボットだけ。

 

 んで、ここから本題。俺ってば覚悟決めた直後に何も考えずに、いつも通りのスーツでこのキヴォトスでもヒーロー活動始めちゃったんだよな。そのせいで、俺が人間の男ってのはまぁ簡単に、それも誰でも予想がつく訳よ。んで、人間の男は今の今まで俺しか居ない!

 

 しかもこのキヴォトスって学園都市の技術はアメコミ世界も真っ青な高水準。であれば、あっという間に声紋とかで俺だって特定出来ちまうって訳だ。

 

 生憎、俺は自分がスーパーヒーローだって知って貰いたい訳じゃない。だってスーパーヒーローは謎の存在って設定が崩れるからな。まぁ、1人バレてる相手居るけど。

 

 てなわけで(ま、バレてるのは置いておいて)、ここでさっき言ってたスーパーヒーローらしいブラックマーケットに住んでる理由が出て来る。

 

 単純明快。俺とスパイダーマンが結びつく情報が減らせるから。それがもう1つの理由であり、俺がロボットに変装している理由。納得したか? したなら良い。

 

「ふぅ……あー、あー」

 

 変声機は上手く動作している。一気にロボットらしい声になった。

 

 鏡を見れば、イケてるロボット一般市民がそこには居た。ダンスでも踊れば様になるんだろうが……流石にブリーマグワイア過ぎるからナシだな。

 

 

 


 

 

 

「ふふふふ、お邪魔しております」

「」

 

 外出を終えて家に帰ると、黒セーラー狐耳JKが料理をしていました。

 

「事案!!」

 

 驚くほど事案!! JJJに報道で殺される!!

 

「私、18歳だからセーフかと」

「アウト! アウトだからな!?」

 

 舐めるなよアメリカを!! マジで過敏なんだぞその辺!! ほんとに!!

 

「ったくもーマジで。どうして俺に付き纏うんだ……! 最近来てなかったろ!!」

「あら、私は別にいいんですよ? かつての様に暴れても」

「……あーはいはい俺が悪かったよ。いつもありがとうございますー」

 

 完全降伏の構えだ。それ言われると弱い。

 

 狐坂ワカモ。七囚人――シニスターシックス的なヤツの1人に数えられる激ヤバヴィラン……のはずなんだけど、何故か俺の家に入り浸ってる。マジで世間にバレたら普通に終わり案件なので早々に止めて欲しいが、交換条件として暴れるのを控えてくれてるから……うん、どうしようもないんだよな。

 

 俺としても彼女と戦うのはすっごく嫌だ。だって強い。あと部下の使い方がすっごい上手い。キングピンとかにも見習ってほしいよね。多分だけど彼女は自分の力に驕らず、自分が敵わない存在への対策もしっかり考えてるタイプ。

 

「はぁ……」

 

 厄介。本当に厄介。ああいうカリスマとか権力がある上に驕ってないヴィランって本当にヤバいんだよな。

 

 その上、当然の様に俺がスパイダーマンだと知っている。彼女にバレたのもあってしっかり対策するようになったんだよな。

 

「ふふふふふ」

「何を笑ってんだ」

「いいえ、ただ私の事を考えて居る様でしたのでそれが嬉しく」

「……はぁ、マグニートーのヘルメットが欲しくなる」

 

 心を読まないで欲しい。ヴィランじゃなくてスーパーヴィランって言う方が正しいかもな。プロフェッサーXとは会った事無いけど、こんな感じなんだろうか。絶対違うね断言するわ(自己解決)。

 

「まぁ、難しく考えるのは後にして……冷める前に夕食としませんか?」

「………………わかった」

「渋々」

「そらそうだろ……せめてもの抵抗だ、どうせまた材料自腹で済まそうとしてるんだろ。金渡す」

(お金を渡すのも大概外聞が悪い気がするのですが……)

 

 何やら微妙な表情をしている。こっちがしたいわその表情。何が悲しくてJKに飯作って貰わなきゃいけないんだ。もう大人だぞ俺。精神年齢だけで言えばもう還暦……還暦!? 俺還暦なの!?!?!?!?

 

 ……よし、忘れよう。俺はピチピチ20代のピーター・B・パーカーだ。そうに違いない。

 

 被っていたロボット頭をヤケクソ気味に投げ捨てて、大人しく食卓へとつく。そして手と手を合わせる。

 

「いただきまーす!!」

「この切り替えの早さ、でんでん太鼓でももう少し遅いですよ」

 

 知るか。あー日本食うめぇ。NYじゃ食えなかった味。キヴォトス最高や(ヤケクソ)。

 

 米うめぇ! 米うめぇ!! 味海苔と一緒に食いたくなるが今の体はクイーンズ生まれのアメリカ人だから、残念ながら海苔は消化できない。残念でならないな。

 

 ……クソッタレ。

 

 あぁ、↑のクソッタレは海苔が消化できない事へのクソッタレじゃないぞ。この首のムズムズに対する、心の底からクソッタレだ。くたばれスタンリー。

 

「すまん、飯は冷蔵庫にでも入れててくれ」

 

 椅子から立ち上がり、スーツの上に着ていたシャツやズボンを脱ぐ。そしてマスクを被る……そうすれば、休日の牧師からスーパーヒーローに早変わりだ。

 

「はぁ……難儀なモノですね」

「俺はスーパーヒーローだから、しょうがないさ」

 

 思考が俺からスパイダーマンへと切り替わった。首のムズムズに従うと、大体ここから2㎞くらい先で何かか起こったに違いない。ここまで強いムズムズなんだから、きっと素敵なことになってる。

 

「それじゃあ、行って来るね」

「はい、いってらっしゃいませ」

 

 目の前にビルがあるせいで何も見えない窓。そこから身を乗り出してウェブを発射。跳び下りてスイングを開始する。狭い路地裏からってのはスパイダーマンの伝統だ。

 

「はぁ、全く。退屈しなくて助かるね」

 

 NYもあんまり退屈はしなかったけど、キヴォトスはそれ以上。上には上がある――いや、下には下があるってのは本当らしい。あんまり嬉しくない。

 

「まぁ、俺がこの道を選んじゃったせいなんだけどね。スーパーヒーロー最高」

 

 2分もせずに現場が見える。暴走する大型トラックが数台……徒党を組んでる。その徒党の中心には現金輸送車。

 

 どこの世界でも犯罪者がすることってのは変わらないねぇ。もっとバラエティがあっても良いと思うんだけど。そこら辺ヴィランはどう考えてるんだろう。

 

「ま、アメコミ野郎の俺が言うのもおかしな話かもね」

「うわぁ!?」

 

 最後尾の大型トラックのバンパーに着地した。そして素早くそこら辺の工事現場から拝借したダクトテープを、大型トラックのフロントガラスにクロスするように貼り付ける。イメージとしては台風対策のアレね。

 

「ちょッ! 前が見えな――ガっ!?」

「ちょっとだけ、失礼するよ!」

 

 本気の殴り。フロントガラスを粉砕する。そしてそのまま運転手の素敵なヘルメットを掴んで軽くシェイクする。これでしばらくはノックアウト。ウェブで運転席に拘束して、ちょっと足に失礼してブレーキを踏ませる。

 

 必要な行動だからセクハラとかで訴えないでくれると嬉しいなぁ。

 

「さて、次だ」

 

 ウェブを使って跳躍し、別のトラックへと飛び移る。

 

 自分がこういうので早々死なないって解ってても、やっぱり怖い。ドラムみたいに鼓動が高鳴る。

 

「あぁ、全く本当に……退屈しないね!」

 

 

 


 

 

 

 愛と一口に言っても、家族愛や友愛、親愛と様々な種類がある。

 

 であれば、恋にも種類があるのだろうか。

 

「やはり、”先生”(あなた様)とは違う」

 

 初めて彼と――スパイダーマンと出会った時に感じた胸の高鳴りと、”先生”と出会った時に感じた胸の高鳴り。それぞれが確かに違った。

 

「スパイダーマン……」

 

 彼自身の名前を、まだ私は知らない。流石に本名が蜘蛛男だなんて珍妙な名前ではないだろうし。

 

 彼とこうして会うようになってからしばらく。いつだって彼との時間は逸る心を表すかのような鼓動と共にある。ドラムロールのようなその鼓動が心地悪いと言えば、嘘になる。

 

「……さて、片付けますか」

 

 とりあえず、この鼓動の違いについて疑問はいつかの私に任せてしまいましょう。今は片付けの方が重要ですから。

 

 彼の言っていたように料理にはラップをして冷蔵庫に入っていて貰おう。

 

 そう思い食卓を見れば、いつの間にやら封筒が置かれている。

 

「これは……あぁ、律儀ですねぇ」

 

 あんなに捻くれてるというのに、しっかりこうして忘れず材料費を置いていく辺り本当に律儀な人だ。私、厚意は無碍にしない主義ですからこれは受け取っておきましょう。ついでに可愛らしい文字が書かれたこの封筒も、しっかりと保管です。

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