あー死ぬなこれ(諦め)   作:クイーンズの坊や

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Q.主人公、もしかしてMJとかハリーとかグウェンとかマイルズとかと関わらなかったのかな。なんかすっごい馴染んでるけど。

A.彼と親しい存在は全員死んだ(1話参照)


ファー・フロム・ホーム

「はぁ……はぁ……キリがないよこれじゃ」

 

 どれくらい倒したっけ。多分千は越えてると思うんだけど。いやはや、終わりが見えない。

 

「カレン、ナノマシンは……あと、どれくらい……?」

《現在損耗率41%です。戦い方に慣れてきましたね、損耗速度は下がりつつあります》

「褒めてくれてありがとう」

 

 残り6割切ったか。攻撃への転用は考えた方が良いかもしれない。そもそも金属と金属がぶつかり合うような高周波に弱いナノマシンだ、使うと決めた時点でそれなりの損耗は覚悟してたよ。

 

 とはいえ、まだ終わってもないのにここまで削れてるのは流石にキツい。

 

「これ、最初から減ってる……? むしろ、増えてるんじゃないの?」

《否定します。確かに増援は見られますが、それでも着実に減少しています》

「なるほど、そりゃいいね。5年後には殲滅できるかな?」

《否定します。このペースであれば61.6時間での殲滅が可能です》

 

 わーい、3日間不眠不休なら勝てるぞー! 全然、朗報じゃないね。あー俺にももっと派手なスパーパワーがあればなぁ……雷操ったりスーツからミサイル撃ったりしたいよ俺も。

 

 やっぱり適材適所ってのがあると思う。キャプテンアメリカとか俺とかホークアイはタイマン向けだよ。確かに俺もハルクにだって負けない怪力だけどさ……耐久力が彼に比べるとそんなに無いんだよね。

 

 現に今、足元に若干の血溜まりが出来てる。これ掃除大変だろうなぁ、清掃員の人ごめんなさい。

 

「てか、普通に割と失血もシャレにならないなこれ」

 

 若干フラついてるのは、多分疲労だけが原因じゃない。というかこれ下手したら常人の失血死ライン飛び越えてるな既に。ごめんね俺のスーパーパワー、さっき派手なのが欲しいとか言って。おかげで生きてます感謝してます。

 

「だから、もう少し頑張ってよ……!」

 

 ポケットの中にあった小さなチョコを口の中に放り込む。チョコに含まれる糖分とフェネチルアミンが脳の通労を多少は誤魔化してくれるはずだ。それに甘い物を食べたってだけでやる気も沸いてくる。

 

「ヒィーーフーーッ!!」

 

 声を出せ、テンション全力で上げてこう。全てで負けていたとしてもテンションだけは勝ってなきゃいけない。戦いは、ノリと勢いが良い方が勝つんだからさ。

 

 

 


 

 

 

 大量のチョコレートと鉄分サプリの空き瓶が部屋に散乱している。空気その物がアルコールになってしまったのかとすら思えるほどの濃い消毒液の匂いと、それの裏に僅かに香る血液の匂い。

 

 壁には血の手形がべったりと張り付き、床にはぽつぽつと血溜まりと血の足跡が固まりつつある。

 

 オンボロのテレビが雑音交じりにニュースを垂れ流し、風で白と赤の斑模様になってしまったカーテンが揺れる。

 

「知ってる天井だ……あー、しんど」

 

 そして真っ赤に染まった包帯を全身に張り付けた我らが主人公、ピーター・B・パーカーがベッドに沈みながら独り言ちていた。

 

「えっと、どうしてここに居るんだっけ……痛い」

 

 むくりとベッドから起き上がった彼は、全身を襲い続けている痛みに体を軋ませながらも周囲の惨状を確認する。すると朧気であった記憶が何となく思い出せてきた。

 

 結果から言えば、彼は数千ものカイザーPMCのロボット兵士と大量の兵器を撃退することに成功した。十数機の戦闘ヘリは巨大な蜘蛛の巣に捕らえられ、数十両の戦車はいくつかの鋼鉄製のミルフィーユになった。

 

 兵士も戦闘開始時から半分近くまで数を減らされ、撤退時もまさに敗走といった感じであった。

 

「……俺は勝ったんだな」

 

 感慨深さに彼がそう呟くのも無理は無い。今の今まで基本スーパーヴィラン相手のタイマンか、精々が数十人の強盗やらとの戦闘経験しか彼には無かったのだ。それが数段飛ばしで軍隊と戦闘を繰り広げ、その上で自身の目標を完遂したのだからそりゃあ彼だってちょっと感慨深く呟きたくもなる。

 

「まぁ、相当重症まで行ったらしいけど……」

 

 血でピッタリと体に張り付いた包帯がパリパリと彼の体から剥がされる。多少の傷跡こそあるが、ナノマシンと自身の体に備わったスーパーパワーのおかげで表面的な傷はすでに治っていそうだ。

 

「……ん?」

 

 ここで彼は違和感を覚えた。改めて自分の家の中を見渡し、見えない部分は記憶を掘り起こす。そうして彼は確信する。

 

「あれ? 俺の家にこんなに包帯って無かった気が――」

 

 普段からスーパーパワー任せで傷を治していた彼に、これだけの量の包帯を買い溜めする習慣は無い。となれば自分で買って帰った可能性もなくはないが……それ以上に、第三者の関与が疑われる。

 

「あっ……」

 

 ゴトンと何かが落ちる音。彼が音の方向に視線を向けると、呆然とワカモ(違和感の答え)が立ち尽くしていた。

 

 彼女の足元には見覚えのないタオルと包帯が入った洗面器が転がっている。

 

「なるほど……ハハッ、どうやら俺は命を救われたらしい」

「あぇ、え、あ……生きて……!?」

 

 ポロポロと目から涙をこぼすワカモ、目の周囲のメイクが乱れていることから恐らくこれ以前にかなり泣いている。これは流石に感謝しなきゃいけないなと彼は笑う。

 

 そんな彼の様子を見て、未だに現実を飲み込めていないワカモがドタバタと体勢を崩しながらも駆け寄り、彼の体の様子を確かめる。

 

「ピーターだ」

「え……?」

 

 ワタワタとしているワカモに彼は初めて名乗る。

 

「俺の名前だよ、言ってなかったろ? 命の恩人様に名乗らないのも失礼だ」

「ピーター……様?」

 

 様と呼ばれ、彼は若干嫌な顔をする。

 

「……ちょっと様は良いかな、気軽にピーターとでも呼んでく――うお」

「い」

 

 急に彼の頭がワカモに抱き寄せられる。普通にボロボロの体にキヴォトス人のフィジカルは大変ヤバい。現にギリギリと音が鳴っている。

 

「生きてて良かったですぅぅぅぅうううううう!!!!」

「ごめんワカモちょっと離してちょ、これ死ぬ痛い痛い痛い痛い!!」

 

 

 


 

 

 

「落ち着いたか?」

「はい……すいませんでした……」

 

 おやまぁ随分としおらしくなりやがって。

 

 まさか命の恩人に殺されかけるとは思わなかった――思わなかったよほんと。うん、ちょっと過去に心当たりがあった気がしたけど一旦忘れとく。

 

 全身の包帯は粗方剥がして体は拭いた。痛みこそするが出血等の外傷は全部治っているようだ。我ながらキッショイ体してんな。

 

「んじゃまぁ、改めて……手当をしてくれてありがとう。お前は命の恩人だ」

「いえ、私は何も……指示されたことをしただけですし」

 

 ワカモの言葉にちょっとした引っ掛かりを覚える。指示されたこと、ねぇ。

 

「……一体、誰の指示に従ったんだ?」

 

 この家には俺とワカモしか居なかったはずだ。だって俺こっちの世界に友人どころか知り合いすら居ないしそもそも作ってないから。だっていうのに指示を受けただなんて……もしかして死にかけの俺が何か指示出したのか? …………割と合点が行くな。

 

「えっと……」

「いやすまん、たぶん俺だ――」

「あ、いえ違います」

「おっとぉ……?」

 

 俺じゃないん?? ちょっとホラーになって来たか。

 

「えっとその、ピーターさm……さんのスーツ? の指示に従ったんです」

「……マジ?」

 

 俺、カレンそんな機能つけてない。え、やだ怖い。ちょっと怖すぎる。

 

 技術者的に結構な恐怖現象で泣きそう。どうしてバグ無しで動くんだよこのコードで(トラウマ)。

 

「うん、ちょっと怖くなってきたから話題変えよう」

「あ、はい」

 

 とはいえ別の話題……話題か。

 

 ふと横を見れば窓に俺が映っている。なんつーか、死にかけたせいかちょっとセンチメンタルな気分なんだよな、自分語りしたい気分。

 

 ワカモには悪いけど、オジサンの自分語りに付き合ってもらうとするか。

 

「俺の昔話を、しても良いか?」

「え!? ぜ、是非!」

「すっごい食いつく……ま、話し甲斐があるってもんか」

 

 あまりにも目がキラキラしてるもんだから、ちょっとオジサンの習性が暴れ出した。元気な若者にご飯奢るのと武勇伝聞かせるのがオジサンの習性だから仕方が無い。

 

 てなわけで、そこからはオジサンの自分語りタイムだ。キヴォトスに来てからはどこぞのデップーみたいな感じで、読者に語りかけるノリをたまにしながら自分語り欲を抑制していたからか、それはもうアホ程自分語りした。

 

 こんだけ自分語りした後はだいたい一人で反省会するけど……まぁ、今くらいはちょっと気持ち良くなったって良いだろ。頑張ったからな。

 

 話ながら思う。偽物の癖に、随分と遠く(ファー・フロム・ホーム)まで来たなと。あぁ、距離的な話じゃないぞ? 心理的な距離の話さ。

 

 スーパーパワーで不良ボコボコにして金ぶんどって、違法格闘技の試合を荒らして金ぶんどって……そんなヴィランじゃねぇのって素行してたのに、そっから今じゃ無償でヒーロー活動だもんな。偽物の癖に随分と良い人になったよ俺も。

 

 ……冷静に考えると大いなる力に溺れてた俺が底辺過ぎただけな気がするけど。まぁ、結果論結果論。

 

「それでまぁ、あとはお前も知ってるだろ? こっちに来てから割とすぐ俺に付き纏うようになったんだからさ」

「まぁはい……でもその、情報量が多くてちょっと咀嚼の時間が欲しいです……」

 

 ワカモの頭上に疑問符が浮かんでいるのが見える気がする。

 

 まぁ、俺のヒーロー人生ほぼ全部語ったからそりゃ情報量はヤバいだろう。内容の濃さで言えば……スパイダーマン1~3とアメスパ1~2をギュッとした感じだからな。映像にすれば10時間は行くであろう内容を30分くらいで話したワケで……情報量の多さも濃度も凄いぞ。

 

 ファスト映画でもここまでファストじゃないだろうってくらいファスト。

 

「てか、疑ったりはしないんだな。放射性の蜘蛛に噛まれたところから後全部結構バカらしい話だと思ったけど」

「それほぼ全部じゃありません……? まぁ、嘘をついていない事はなんとなく解りますし……貴方の行動を見ていればなんとなく、解りますとも」

「……うっわ、ちょっとこそばゆい」

 

 真っ直ぐな目でそう言われますとね、俺はちょっとこそばゆいですよ。無償云々って言っても結局は自己満足の打算でのヒーロー活動だから、そんなに綺麗なもんじゃないよ俺。

 

 でもまぁ、今回くらいは良い気分で終わったって神様も許してくれるだろう……俺が無事に帰宅出来てるって事は事態はある程度丸く収まっただろうし。

 

「っと……」

 

 思ったよりも疲れがたまってるっぽいな。一瞬クラッと来た。

 

「すまん、もうひと眠りすることにする。そうだな、あー……ほれ」

 

 眠気が一気に増して視界がぼやけてきた。急いで近くのテーブルに置いてあった財布を手に取りワカモに投げ渡す。

 

「包帯代とかはそっから抜き取っててくれ――」

「え、あいや、そこまでの物では――も、もう寝付いてらっしゃる……!?」

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