【悲報】マチアプしたら元親友のTS娘が来たんだが【結ホモ】 作:霧切キリコ
「おまえ…光か?」
「へ…?なんで、知って」
初対面で「おまえ」なんて失礼にも程があるが、彼女の反応から確信できた。
目の前の美女は、『あさ』さんは『浅野光』だ。
どうして地元から遠く離れたここにいるのか。
なんで「恋人なんていらないしそういうことも興味ない」なんて言ってたやつがマッチングアプリなんかやってるのか。
疑問が山ほど出てくるが、たまたま疎遠になった元親友とたまたまマッチするなんて神の悪戯のような偶然にとにかく俺は複雑な気持ちだった。
俺は喜んで良いのだろうか?
というか、ここからどうすれば良いんだ。
この気まずい雰囲気の中、先に沈黙を破ったのは光の方からだった。
「もしかして…涼太…?」
「ああ、久しぶりだな。光」
ようやく思い出してくれたようだった。
すっかり忘れてしまったのかとショックを受けたが、恐らく俺の容姿が以前とすっかり変わってしまったからだろう。
まだ信じられない、というような懐疑的な目で見てくるので一応予備として持っていた前の学生時代につけていた眼鏡をかけた。
「ほら、これ。俺が学生時代にかけてたやつ、覚えてない…かぶっ!?」
覚えてないか、と言い切る事はできなかった。
光が俺に無言で飛びついてきたからだ。
柑橘系の良い匂いがする、というか、懐かしい。
光がつけていた香水の匂いだったはずだ。
友人同士の再会のハグ、にしては少々激し過ぎる気もするが拒絶することはなかった。
顔を見た時は喜んでいいのか複雑な気持ちだったけど、やっぱり心に嘘はつけない。
何はともあれまた会えて嬉しい、それが俺の素直な気持ちだ。
光も俺の事を嫌っていなかったんだろう。
やっぱりあの時ちゃんと仲直りするべきだったんだな、と今になって後悔した。
何も言わずに好きにさせていると、光が自分の胸の中で震えているのがわかった。
「涼太…涼太…やっと会えた…!私、ずっと探してたんだよ!?同じ大学行ったらまた話せると思ったのにいきなり進路変えて東京に行っちゃって…それで…それで」
と思ったら大声で喚き出しはじめた。
どうやら極度の興奮状態にあるらしい。
そんな光の様子に何事かと、周りの人が集まってくるのがわかる。
「もう二度と会えないと思ってた…ひどいよ!勝手に遠くに行っちゃうなんて…!」
まずいな、このままだと俺が無理矢理美少女をナンパして強引にハグを迫って泣かせているやばいナンパ男だと思われて通報されそうだ。
俺は落ち着かせるように光の手を握ってから言った。
「と、とりあえず!
⭐︎★⭐︎★
「……」
「……ひぐっ…ぐす…」
案内された席に座った俺たちはとりあえずコーヒーを頼んで…光はというとずっと身体を震わせて泣いていた。
そんな光の様子に店員は俺の事を訝しむように見てきたが、とりあえず通報されるのは避けられそうだ。
聞きたいことは山ほどあるけど、こんな状態では会話できないな。
泣き止むのを待つことに決め、コーヒーを飲んだ。
…あっつ。
猫舌な俺がフーフーと冷ましつつコーヒーを飲み切ると、目の前から小さな笑い声が聞こえてきた。
「…ふふ、猫舌なの昔と変わんないね。涼太」
「…ようやく泣き止んだか、光」
気を取り直したように光もコーヒーを飲んだ。
光は昔から俺と違って熱いものもへっちゃらで、一気に飲み切ってしまう…が、今はお淑やかに音を立てずに上品に飲んでいる。
前みたいな豪快な飲み方をしてくれないのは少し寂しい。
昔は話し方や見た目、足を閉じて座るなど、最低限の女性としてのマナーは備わっているが、細かい部分ではやはり男らしい所が出てしまっていたというのに、今では全くそれを感じさせない。
もしかしたら光はもう完璧に「女」になってしまったのかもしれない。
俺が大学に入ってから色々変わったように、同じく光も。
「聞きたいこと。いっぱいあるんだけど…涼太もそうでしょ?どっちから話す?」
「あ、ああ…ごめん。そうだな…俺から話しても良いか?」
「うん、もちろん。さっき騒いじゃったお詫びに何でも答えるよっ」
「何でも…?わかった。そうだな…」
何から聞こうか、と考えながら光の姿を改めて見る。
俺も変わったかもしれないが、こいつもこいつで相当変わっている。
最後に会った頃は特に化粧なんてアイラインもズレていて、ファンデにムラがあってそこまで上手くなかったのに、今は凄く自然になっているし、ロングのストレートな黒髪は茶色に染まっていた。
ファッションだってそうだ、最初は肌を見せるのが恥ずかしがってロングスカートや夏でも長袖ばかりだったのに今では肩や腹を露出してミニスカートなんて履いている。
偶然ながら全て俺の好みに一致していて、俺『牧村涼太』の為に用意された人形のようだ。
女性の好みのタイプについて昔光と教え合ったのを思い出す。
しかし、まさか…な?
やはり、男の影響かなにかだろうか。
そう思うと、胸の奥がズキズキしてきた。
別に良いはずじゃないか、こいつに男がいたって。
それにもしかしたら女かもしれない、今は多様性だから。
でも、男女関係なくこいつが仲睦まじく俺の知らないやつの隣を歩いてるって考えると…あークソ。
モヤモヤを振り払うように頭を振ると、とりあえず今一番聞きたいことを聞いてみることにした。
「あー…とりあえず。じゃあ、なんでここにいるんだ?東京の大学に進学したわけじゃないんだろ?」
「うん、大学は地元の私立に進学したよ。今は休学中だけどね」
「休学中なのか…。でも近くに住んでるってメッセで言ってなかったか?」
「あー…うん、ちょっとこっちに用事があったから部屋を借りたの。だからしばらくは東京に住むかな」
「親は…って、いや。何でもない。そうか…暫くはこっちにいるのか」
住むほどの用事なんて見当も付かないが、きっと大事な用事なんだろう。
「じゃあ、なんでマッチングアプリなんか?」
「うっ…それは…うーん。暇だったから、誰かと遊びたいなーみたいな?」
「それって…火遊び…的な?」
「違うよ!別にそういうことじゃなくて…知り合いもいなくて寂しかったからここに住んでて詳しい人に色々案内してもらえたらなあって思っただけ!」
「…なるほど?」
どうにも色々と行動の矛盾が目立って嘘臭いが、ここに来たばかりだというのは本当そうだ。
「てか大事な用ってどんな」
「そんなことより!」
光はこの話題を変えるようにいきなり大きい声で俺の発言を掻き消してから話し始めた。
「とりあえずさ…仲直りってことでいいのかな?」
仲直り、その単語を聞いた瞬間に心臓がドキッと揺れた。
そうだった、あまりにも昔と変わらない自然な時間を過ごしてしまっていたせいで謝るのを忘れていた…いや、無意識に避けていたのかもしれない。
俺は光と喧嘩別れして、原因はどっちが悪いかは分からないとはいえ俺の方から連絡先も全部ブロックして逃げた癖に…本来なら一番最初に俺が言わなきゃダメな事だろう。
自分から言わなかったのは安っぽいプライドを守りたかったからか?情けないな、俺は。
でも同時にほっとした自分がいるのも事実だった、事あるごとに思い出してずっと引きずっていたから。
「仲直り…でいいなら、仲直りしたい。何も言わずに逃げて悪かった…ごめん」
「うん、それは普通に傷ついたからね?…まあ、良いよ。私も、悪かったし」
「光…」
「その代わり、もう二度と私の前から逃げないって約束して」
さっきの雰囲気とは打って変わって、真剣な表情で光がそう言うと、華奢な小指を差し出してきた。
「指切りげんまん」という事なのだろう、子供の頃散々したおまじないだ。
俺が逃げたことで、東京に行ったことを知った時光はその時どんな思いをしたのか…ハイライトのない瞳で、瞬きもせず小指を出したまま見つめてくる彼女を見ると少し分かった気がする。
もちろん、俺の方こそ彼女から逃げるつもりなんてさらさらない。
俺が小指を絡ませると、彼女は歌い始めた。
抑揚のない、ソプラノボイスで。
「ゆびきりげんまん、うそついたらー」
お前も歌え、というような目で見てくる。
流石にこの歳で指切りげんまんは恥ずかしいなと思いつつ仕方なくそれに続く。
「ゆびきりげんまん、うそついたらー…」
「はりせんぼん…のーます…」
彼女が続きを歌うたびに、なんだか身体に重くのしかかってくるような気分になる。
幽霊が肩にでも乗っかってるかのように、まるで憑かれたみたいだ。
「ゆび、きった!」
最後の言葉を発して小指を離すと、彼女の小指の感触がまだ残っているのを感じる。
糸にでも繋がれているように。
破る気もないが、約束を破ったらとんでもない事が起こる気がしてならない。
ただの
「もう私を裏切らないでね、涼太」
そう言った光の表情を俺はいつまでも忘れなかった。
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