紫龍のひーろーあかでみあ? 作:セカイノハンブン
雄英高校は、ヒーロー科。
倍率300倍を潜り抜けて入学を果たした生徒たちは、一癖も二癖もある。
「…………はぁ」
騒がしい教室内の四列ある内の窓側から数えて、二列目の一番後ろの席で紫尾竜一は頬杖をついてため息を吐き出していた。
彼が目をそむけた方向、騒がし男子が二人いる。
一人は眼鏡をかけた真面目そうな男子生徒。もう一人は、爆発したようなツンツンヘアーの男子生徒だ。
「君!机に足を乗せるんじゃない!歴代の先輩方や、机の製作者の方々に申し訳ないとは思わないのか!?」
「思わねーよ。てめー、何処中だよ。この端役が!」
「端や……!?ぼ、俺は聡明中出身だ!」
「ハッ!坊ちゃん中学じゃねぇか!潰し甲斐が有りそうだなァ、オイッ!」
「潰し……!?口が悪いな君は!?」
騒がしい。
真面目な眼鏡の彼もそうだが、爆発頭の彼も彼で性格の悪さが言葉から滲んでいる。
前者は兎も角、後者とはお近づきになりたくない。竜一は、意識を切り離すようにして目を閉じた。
だが、
「やっほー!紫尾君!君も、やっぱり合格してたんだ!」
肩が叩かれ目を開けた。
視界に入ってきたのは宙に浮かんだ女子制服。
「……葉隠さんか。おはよう。合格して何よりだな」
「ありがと!いやー、それにしても同じクラス何て縁があると思わない?」
「…………まあ、確かに?」
竜一は頷く。
入試の際に出会った透明の少女と、改めて合格した後のクラス分けで出会ったのだから。中々に運命を感じるボーイミーツガール。
尤も、その当人である竜一のテンションは地の底を舐めるような低空飛行を更新し続けているのだが。
恐らく、やる気の無さという点を比べれば彼はこの学校内で一位を獲得できるだろう。
葉隠に言葉を返しながら、何故だか黒い感情を感じる視線を黙殺していた竜一はふと気づく。
(誰………いや、
教壇の上に何か居た。
寝袋を着た直立不動のナニカだ。その存在感に、竜一は面食らう。
同時に違和感を覚えた。
何故、この人数が居て気付いた様子がないのか。思い至るとすれば、意図的に気配を消しているであろう可能性。
そこに竜一が思い至った所で、目つきの悪い淀んだ目が彼の視線とぶつかった。
(意図的か)
僅かにニヒルな笑みを浮かべ、しかしその笑みをを一瞬で消した。
「友達ごっこがしたいのなら、他所の行け。ここはヒーロー科だぞ」
低い声に、騒がしかった教室が鎮まる。
元々チャイムが近かった事も相まって、既に生徒の大半が席についていた事も手伝い、残りの騒がしかった面々も慌ただしく空いた席に座る。
静かになった教室。そこに、男の低い声が響いた。
「はい、皆が静かになるまでの8秒かかりました。君達は、合理性に欠けるね」
そう言いながら寝袋から出てきたのは、ボサボサの黒髪に上下黒の服。首周りに何重にもダボついた布を巻いた不審者だ。
「担任の相澤消太だ。よろしくね」
まさかの担任だった。
生徒たちの驚きは、しかし担任にとってはどうでも良い事であるらしい。
教卓の上に取り出すのは一組の衣類。
「これ着て、グラウンドに集合ね」
最初の
@*@
「「「個性把握テスト!?」」」
雄英高校の体操服に着替えて、グラウンドに集められた1年A組の生徒たち。
そこで担任の相澤に告げられたのは、予想外の言葉だった。
「入学式は!?ガイダンスは!?」
「ヒーローになるなら、そんな悠長なことは言ってらんないよ。時間は有限、削れる部分は削っていくのが合理的だ」
生徒の言葉に応える相澤の言葉に、僅かに竜一の尻尾が揺れた。
ただ、それに気付く者は居ない。
「雄英は、自由な校風が売り文句。そしてそれは、生徒だけでなく先生側にも適用される」
言葉を紡ぎながら、相澤は端末をポケットから取り出した。
画面へと目を落として操作しながら、話は続く。
「ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50メートル走、持久走、握力、反復横跳び、長座体前屈、上体起こし。中学の頃からやってるだろ?個性禁止の体力テストだ。個性は千差万別であり、出る杭を疎む日本人らしい観点から行われてるが、非合理的だ。この辺りは、文科省の怠慢だな」
中々に過激な事を言う相澤。
一応の擁護をするなら、個性の中には周囲への被害が押さえきれないようなモノも存在しており、それが年齢の行かない子供であっても脅威的なのだ。それこそ、そこら辺の中学や小学校の教員程度では止められない可能性も高い。
かといって、プロヒーローを雇おうにも個性には相性がある。金もかかる。
例えば、地面に潜るプロヒーローが。空を自在に飛び回れる個性を持つ子供の対応は難しいだろう。逆もまた然り。
その他にも、他の子の個性で怪我をした、と親が殴り込んでくる可能性もある。或いは、普段から個性を使わないように鬱屈とストレスを溜めた子が個性を用いたテストの結果悪い方向に爆発する可能性も否めない。
解決策としては、全国一律の個性あり体力テストを広い会場で行う事。こうすれば、プロヒーローなども一つのイベントとして招集しやすくなる。国主導なら予算も取りやすい。
閑話休題
「入試の一位は……爆豪だったか。お前、中学の時のソフトボール投げの記録は?」
「……67m」
「なら、今回は個性ありでやってみろ。そこに描いた円から出なきゃ何をしても良い。思いっきりな」
相澤から手渡される、ボール型の測定器。コレを受け取って、爆豪勝己は円の中へと足を向けた。
少しの間を挟んで、振り被る。
「んじゃ…………死ねェッ!!!」
掛け声はどうかと思われるが、振り抜かれると同時に彼の掌が爆発した。
これにより、ボールは凄まじい速度で空の彼方へとかっ飛ばされていく。それこそ、個性無しの体力測定では決してお目にかかれないものだろう。
同時に、相澤の操作する端末に記録が表示される。
――――爆豪勝己 705.2m
人力で出せる記録ではない。しかし、コレこそが超常的な個性という力の証明でもある。
個性を存分に使って記録を出せる。参考記録とはいえ、目に見える形で示される事によって生徒たちは沸き立った。
「まず、自分の最大値を知る事。それが、ヒーローとしての素地を形成する上で一番合理的なもんだ」
「705mってマジかよ!」」
「スゲーな!個性思いっきり使えるだからよ!流石、ヒーロー科」
「面白そうだな!」
騒ぐ生徒たちに、相澤の目がスッと細まる。
「面白そう、か。ヒーローになる為の三年間、そんな腹積もりで過ごすつもりか?」
低い声が、沸き立つ子供たちのはしゃぎっぷりに冷や水を浴びせかけた。
固まった彼らに、相澤は告げる。
「よし、トータル成績最下位緯の者は見込みなしと判断して――――除籍処分としよう」
「「「はぁああああああ!?」」」
悪魔の所業だ。だが、ある種のこの発言は相澤からすれば慈悲である。
「何を驚いてる。ヒーローの活動は、
厳しい言葉ではあるが、同時に空気が引き締まる。
彼らは学生だ。しかし同時に、市民を助けるヒーローの卵でもある。
つまり、助けられる側ではなく助ける側。頼る側ではなく頼られる側。
寄りかかられる若木であろうとも、確かに支えられなければそれはヒーローという存在を揺らがせてしまう。
「“Plus Ultra”――――良い受難を。ヒーローを志すのなら、乗り越えてみせろ」
「「「はいっ!!!」」」
良い返事だ。皆が大なり小なり、その目に熱い炎を灯している。
何故なら彼らはヒーロー科。ヒーローになる為に狭き門を潜り抜けてきたのだから。
「…………」