左隣の左さん   作:シソーツョ・ジョシスキー

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#2 それでも女の子/通知表

私立北富樫高等学校は、比較的自由な校風の学校らしい。

男女共学。

遠方から上京した生徒の為の寮もあるとのこと。

通学勢である僕の実家からの距離は近く、チャリで10分くらいすれば着く。

偏差値は61と中々高いし、堅苦しい校則は無いときたから、僕は中学2年生の時から結構張り切って受験勉強したもんだ。

その甲斐あってか、入学してからは綺麗で大きな校舎とか、クソでかい桜の木が並ぶ並木道とか、教室の治安の良さとか、食堂のレベルの高さとかに感動して、過去の自分を随分褒めちぎった事を覚えている。

 

では学業の方は順調なのかと聞かれたら、実はそうでもない。

昔から現代文と世界史に強く、インターネットの『自信ニキたち』にも引けを取らないと自負しているが、その代償に理数系と英語がからっきし苦手で、アラビア数字とアルファベットを見る度に『おげげ〜』となってしまうのだ。

去年の成績は数学と英語が『2』とマジでギリギリ。

まさに『おげげ〜』である。

 

なので最近は放課後に残って自主勉している。

担任の川上先生(関西出身らしい)はそんな僕に対して『でもええんちゃう?』と関西弁になったSMAPみたいな事を言っているが、とりあえず『イイとこ』の大学まで行っときたい身としては、ここで学業に躓くと後々人生詰む可能性があるわけで、これでも段々焦り始めてている。

 

と言っても、まだケツにダイナマイト突っ込まれたくらい大焦りはしていない、これからコツコツと頑張ればいいだけだ。

 

2年生になってからは、放課後の自主勉以外にも、ちょっとした習慣が生まれた。

それは、左さんとおしゃべりする事だ。

左さんも、放課後は少し残って、でっけぇヘッドホンでなにやら音楽を聴きながら『資本論』を読んだり、新聞社への投書を書いているらしい(しかもイマドキ原稿用紙!)。

 

あまりにも思想が強すぎる。

 

だけども、ここまで来ると逆に関心が勝ってきて、僕はなんだか、この物静かで、だけど『どこか燃えている少女』に、興味津々になってきた。

 

4月の終わりが近づいてきた頃、僕が英語の宿題を必死こいて解いている時に、珍しく左さんから話しかけられた。

 

「そこ、don'tじゃなくてdoesn't」

 

「え?」

 

「三人称単数だから」

 

でっけぇヘッドホンを首にかけて、プリントに顔を覗かせながら、そう言ってくれた。

 

三人称単数。

つまり三単現のSってヤツか?

でもそれだったら『dosn't』になるよな。

なんで『e』君まで来てんの?誰だよコイツ呼んだの。

 

マズイ。よくわからん。

僕ってよくこの英語力で受験突破できたな。

逆にスゴイんじゃないか?

 

「よく使われるフレーズで『It doesn't matter』っていうのがあるから、それを覚えておくと分かりやすいわよ」

 

「それどういう意味?」

 

「そんなの関係ないって意味」

 

「小島よしお?」

 

「小島よしお」

 

小島よしお、通じるんかい。

 

まぁ、通じるか。有名な芸人だし。

 

今、ふと思ったが、僕はなんか、勝手に左さんに『こういう子なのかな』ってイメージを勝手に持っていたのかもしれない。

まだ知り合って1ヶ月も経っていないのに。

 

『資本論』なんて読んでるし、とっつきにくそうなオーラはあるけど、意外と普通の子なのかもしれない。

 

そういえば、左さんはいつもでっけぇヘッドホンをつけて本を読んでいる。

 

一体どんな音楽を聴くのだろう?

どうしよう、これで演説とかだったら。

逆に面白すぎてアリかもしれない。

 

「それ、何聴いてるの?」

 

内心では結構勇気を振り絞ったのだが、なるべくそれをおくびにも出さずに問いかけてみた。

左さんは首にかけたヘッドホンを触りながら、視線を本に戻してこう言った。

 

「セックス・ピストルズ」

 

………今、セックスって言った?

え、マジで?

セックス……って、あのセックスすか?

 

「下品な名前なのは否定しないけど、そういう顔されたら、こう……クるものがあるわね」

 

「え!ごめん!」

 

ここで瞬発的に謝れるのが僕だ。

この特技で僕は幾つもの修羅場を潜り抜けてきた。

正道瞬発力チャンネルを開設できるほどだ(?)

 

「別にいいの、言葉、選ぶべきだったかも」

 

……そう言って、左さんは初めてシュンとした顔をした。

正直、いつもの仮面みたいな無表情で、軽く流されると思っていたから、僕はさっき彼女が言った内容よりも、その暗い表情に『食らって』しまった。

 

女の子に、こんな表情をさせてしまった。

これでは中谷家の末代までの恥である。

だから、ここで件の音楽について話を振ることにした。

 

「ちょっと気になる、聴いてもいい?」

 

左さんは一瞬キョトン(かわいい)として、それからヘッドホンを手渡してくれた。

まだ温もりがあって、ちょっとだけドキッとしたが、そんな青春の象徴みたいなトキメキは、彼女が曲を再生すると同時にブッ飛ばされた。

 

まず、ギターが鳴った。

いや、鳴り響いた。

 

音質はよく無い。

悪いと言ってもいい。

ヘッドホンはピカピカで、見た感じ安物ではない。

つまり、これが『普通』なんだろう。

この曲はこれが『普通』なんだ。

 

荒くて暴れるようなギターも、あんまり聴こえないベースも、シンプルすぎるドラムも、怒鳴るような歌声も。

 

このバンドにとっては、これが『普通』なんだ。

 

思えば僕は、今までどんな音楽を聴いてきたのだろう。

音楽は聴いてきた。

きっと、自分が思っているよりも聴いている。

 

なのに何故だろうか?

僕はこういった音楽を初めて聴いた気がする。

こんな、あらゆるものが『剥き出し』な音楽を。

 

この曲は英語で歌われている。

だから、意味は全く分からない。

でも、何かに『ブチギレている』気がした。

このバンドは、何かに怒っているんだ。

 

左さんが、勝手に音量を上げ始めた。

荒れ狂うギターと、テクニックもクソもない歌声が、耳の中を掻き乱して、鼓膜をブン殴ってくる。

 

そうして、耳障りなキンキン音(これはハウリングと言うらしい)を残しながら、曲は終わった。

 

「……………どう?」

 

小首を傾げて、ちょっとだけ不安そうな左さんが、反応を待っている。

最後のちょっとした悪戯には驚かされた。

でもそれ以上に驚いた事もあった。

 

「最高かも」

 

この曲が、あまりにも最高だった事だ。

 

「なら良かった」

 

今度はふわりと微笑んでくれた。

 

だからドキッとして、そのままあんまり何も言えなくて、ただそっとヘッドホンを返してから、僕は自主勉を切り上げた。

リュックに筆記用具をぶち込んで、チャリの鍵をイジりながら廊下を歩き、動画サイトの検索履歴に『セックス・ピストルズ』と打ち込んで、そのままにして、家路に着いた。

 

ふと、チャリに乗る前に、ただなんとなくポケットを弄ると、中からあり得ないくらい絡まった安物のイヤホンが出てきた。

数分格闘して解いたイヤホンは、やっぱり安っぽかったが、それでもいいと思った。

 

そうして、(ホントはダメだけど)僕の帰り道は少しだけ愉快になった。

 

 

 

 

令和⚪︎年度

1年3組 中谷正道

 

教科評定
国語総合4
世界史・日本史4
数学I・A2
化学・生物基礎3
英語2
音楽3
美術3
家庭科3
保健体育3

 

【評価のコメント】

•国語総合

知識・技能は良好。文学作品への関心が高く、自身の考えをまとめる力もある。

語彙と表現に独自性があり、読む側を惹きつける。授業中の集中度にムラあり。

•世界史・日本史

関心・意欲が非常に高く、発展的な質問も多い。授業外でも知識を深めている様子が見られる。

定期考査では安定して高得点を維持。

•数学Ⅰ・A

基礎の理解にやや課題がある。課題提出は遅れがちだが、質問対応時の姿勢は素直。

復習を重ねれば伸びしろあり。

•化学基礎・生物基礎

理論分野よりも身近な題材(進化、生態系など)に対して理解が深い。

数値計算や化学式に対しては苦手意識が強い。

•英語(コミュ英語・表現)

発音や文法の基礎定着に課題あり。授業内では発言が少なく、練習量も不足気味。

ただし視覚的な教材には興味を示す場面もある。

•音楽

リズム感・表現力は平均的だが、歌詞への理解が深く、意欲も高い。

授業外で音楽に関する会話を持つ場面が多い。

•美術/家庭科

作業には丁寧に取り組んでいる。創造力に個性が見られるが、詰めの甘さもある。

グループ活動では場を和ませる存在。

•保健体育

実技では種目により得手不得手が見られる。協調性はあり、積極的に取り組む姿勢も見られた。

 

▽学年末・担任総評(宮田賢治)

 

真面目で勤勉な性格で、クラス内では良好な人間関係を築いています。

教員との距離も近く、目上の方にも臆さない人懐っこさがあり、周囲の雰囲気を明るくする社交性があります。

得意科目での伸びが顕著で、特に世界史や国語では独自の視点から発言する場面も多く、思考力の深さが見られます。

一方で、英語・数学を中心に基礎力の定着が課題であり、継続的な復習が求められます。

自主的に学習する姿勢も芽生えており、今後の伸びが期待されます。

 

 

令和⚪︎年度

1年1組 左紅音

 

教科評定
国語総合5
世界史・日本史5
数学I・A5
化学・生物基礎5
英語5
音楽5
美術4
家庭科4
保健体育3

 

【評価のコメント】

・国語総合

文章読解力、論理的思考力に優れ、自らの意見を明確に表現できる。記述式では非常に高い水準にある。

・世界史・日本史

知識量・整理力ともに学年上位。時事問題との関連を自発的に考察する力がある。

提出物も常に早く、内容も充実。

・数学Ⅰ・A

計算過程に不安定さは見られるが、反復学習により得点を安定させている。理論の把握には時間をかけて取り組む姿勢がある。

・英語(コミュ英語・表現)

読解・語彙力ともに高く、作文にも説得力がある。正確な英文構成力あり。

文法問題では常に高得点。スピーチ・朗読に苦手意識を持つが内容の質は高い。

•化学基礎・生物基礎

知識量・論理的思考能力共に高水準。特に生物学に明るく、記述問題では深く鋭い考察を書く事ができる。

・音楽/美術/家庭科

創造活動よりも理論的理解に強みがある。感情表現を伴う実技に苦手傾向。提出物・課題は非常に丁寧。

・保健体育

実技種目への参加が消極的で、グループ活動にも積極性が見られにくい。記録面では平均程度。

 

▽学年末・担任総評(清水香織)

 

学業に対する姿勢が非常に真摯で、全体として高い成績を維持しており、模範的な特待生と言えます。

授業中の発言は少ないものの、理解度が高く、提出物や小テストの完成度も常に高水準です。

学力的には本校でも上位に位置しており、将来を見据えた安定した成長が期待されます。

ですが、社交的な性格でないが為に、周囲との交流が希薄になっているので、クラスメイトに対して積極性を持つことが今後の課題となっています。

寮生活では室内の整理整頓を欠かさず行っており、共用キッチンを利用して自炊をして健康的な食生活を心掛けているようで、彼女の自立心の高さが伺えます。

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