再会は突然に
──10年前
「ねえ、お姉ちゃん。これ見て!」
幼い私が小さな手で差し出したのは、星の形をしている“つもり”の、つたない折り紙の飾りだった。紙の角は少しよれていて、形も歪んでいたけれど──それでも私は自信満々だった。
だって、それをお姉ちゃんに見せたかったから。
「……うん。すごくよくできてる」
そう言って微笑んだお姉ちゃんの顔を、私は今でもはっきりと覚えている。
私のお姉ちゃん──天雨カナは、優しくて、強くて、温かくて、頭も良くて……私の、誰よりも大きな憧れだった。
私たちは、いつも一緒にいた。些細なことでケンカもしたし、おやつを巡って本気の争奪戦を繰り広げたこともある。でも、どんな夜も、朝になればまた笑って隣にいてくれた。
……だからこそ。
あの日、突然お姉ちゃんがいなくなったことが、どうしても理解できなかった。
何も言わずに。
何の前触れもなく。
まるで──世界から、ふっと消えてしまったみたいに。
「……お姉ちゃん?」
呼びかけても返事はなかった。
リビングには一緒に遊んだぬいぐるみが転がっていて、机の上には昨日まで使っていたノートがそのまま残っていた。けれど、そこにお姉ちゃんの姿だけがなかった。
どこへ行ったのか。
なぜ突然姿を消したのか。
どうして私に、何も言ってくれなかったのか。
答えはずっと、わからないまま。
時だけが、何事もなかったかのように静かに過ぎていった。
──そして、現在。ゲヘナ学園。
「アコ、今日転校してくる生徒だけど、あなたのお姉さんらしいわよ」
「へぇ……そうなんです……か!?!?」
平穏だった朝は、委員長の一言で一瞬にして崩壊した。
えっ?今“姉”って言った? いやいや、まさか──あの、10年間も行方不明だった“姉”が!?
「えっ、いや、ちょっと待ってくださいヒナ委員長。私、姉なんて──」
「戸籍上は確認済みよ。天雨カナ。年齢も一致してるし……10年前に行方不明になったって記録もある」
「それ、転校より先に警察に行った方がいいのでは……?」
「私に言わないで」
あっさりと突きつけられた“事実”に、私の頭は完全に追いつけなかった。心臓の音だけが無駄に大きく鳴っていた。
「……あの、いや、だからって……なんで今ゲヘナに!?」
「さあ?」
まるで他人事のように答えるヒナ委員長は、いつも通り机の書類を整理していた。その冷静さが逆に不安を煽る。
「意味がわかりません!なんで今さら姉の名前が出てくるんですか!無理無理無理!無理です!!取り消しましょう今すぐ!!」
「無理」
即答だった。救いはないらしい。
お昼のチャイムが鳴るころ、私の心の中は混乱と動揺でごった返していた。
「はぁ……本当に何考えてるんですかあの人……今さら会って、どんな顔をすれば……でも、早く会いたいような……会いたくないような……」
そんな葛藤の真っ只中──
ツン、ツン。
「んぁ……?」
誰かが、私の頬を突いてきた。
「……久しぶり、アコ」
その声を聞いた瞬間、時が止まった。
そこに立っていたのは──10年前とほとんど変わらない。いや、少し背が伸びて、少しだけ大人びた“姉”の姿だった。
あまりにも自然すぎて、思わず変な声が出た。
「ひゃああっ!?!?」
反射的に叫んでしまった。これは夢? 現実? えっ、どっち?
──殴って確認してもいいですか?
「お……」
「お?」
いやいやいや!ダメだ私!ここで殴ったらきっと取り返しがつかなくなる!理性!冷静!沈着冷静!落ち着くんだ私!!
「お姉ちゃんのバカ!!!せっかくの感動の再会が台無しです!!」
「……え、感動の再会の方がよかったですか?」
「いや今の流れでそこ拾わなくていいです!」
会話のテンポも昔のまま。10年の空白なんて、なかったみたいに。
「……アコ、少し大きくなった?」
「身長の話ですよね!? ちょっとどころじゃないくらい成長してますけど!? ていうか私もう高校生ですよ!? あと今の視線どこ見てました!?」
「……風邪ひきそう」
「ぶっ飛ばしますよ!?」
──とは言いつつも。
私の心の中では、まだ現実味がなかった。けれど。
お姉ちゃんが本当に戻ってきた──その事実だけが、じわじわと胸の奥に広がっていった。
「ってか、どうやってここに入ってきたんですか? 今は私しかいないからいいですけど、委員長たちが戻ってきたら──」
「アコの気配がしたから」
「え、怖っ」
さらっとストーカー発言。聞かなかったことにしよう。
「それで……どうして戻ってきたんですか?」
「ん……転校」
「いや、それは知ってます。理由です、理由」
「……アコがいるから」
「えっ」
その言葉は、あまりにもまっすぐで──だからこそ、簡単に胸に刺さった。
「アコが……ゲヘナにいるって聞きましたから」
「な、なんでそんな……顔して言うんですか……!」
「事実ですから」
「ずるい!!ずるいですよそれは!!」
そのとき、教室の扉が開いた。
「……騒がしいと思ったら、やっぱりアコだったのね」
「えっ、あれ? アコちゃん、その人って……」
「もしかして例の……!」
ヒナ委員長、イオリ、そしてチナツが帰ってきた。
最悪のタイミングだ。
「あ、委員長……それにイオリとチナツも…… ちょっと今、再会ドラマ的なものがですね……」
「天雨カナです。妹のアコをよろしくお願いします」
「いきなりソレぇぇぇ!?!?」
先手を取られた!なんかズルくない!? 紹介の仕方も雑すぎる!!
「初めまして。ゲヘナ風紀委員会の委員長、空崎ヒナよ。カナ……って言ったわよね。これからよろしく」
あれ……委員長、笑ってる?なんで?
「え、まさか風紀委員会に入るつもりですか?」
「……いえ、それはやめておきます。あまり近づきすぎてアコに嫌われるのはイヤですから」
「えっ、今さら!?どの口が言ってるんですか!?すでに十分距離感バグってますからね!?」
「……アコ、怒った?」
「怒ってますよ!!心の準備ってものがあるでしょ!? 突然現れて、平然として、10年分の距離をいきなりゼロにしないでください!!」
「……じゃあ、半径30cm以内に入るのは我慢します」
「それでも近いです!!ってか、10年間も連絡しないで何してたんですか! 今の時代モモトークとか連絡手段ありますよね?」
「……なんですかそれ。携帯は持ってますけど、そんな機能ありませんし……」
「いや何年前のガラケー使ってるんですか!?」
このやり取りを聞いていたイオリが、お姉ちゃんに近づきながら笑う。
「……ふーん、アコちゃんにお姉さんがいたなんて知らなかったな〜。見た目はそっくりとまではいかないけど、言い合ってる姿は姉妹って感じ」
「あ、分かりますか?」
誰も止められない。
「とにかく……!!このままじゃ不便なので今からスマホ買いに行きます!! ヒナ委員長!少しお姉ちゃんと街に行ってきますね?」
「ええ、構わないわ」
「ほら、お姉ちゃん……! 行きますよ!」
「アコ……手、繋ぐ?」
「繋ぎません!! 早く!!」
私はお姉ちゃんの手を掴んで、そのまま走るように教室を飛び出した。
──こうして、10年ぶりに再会した“ちょっとズレた”お姉ちゃんとの、奇妙でにぎやかな学園生活が始まった。
そして私は、まだ知らなかった。
この再会が、ただの日常に留まらず──想像もできない物語の始まりになることを。
今後はどんな話がみたい?
-
ブルアカ本編のストーリーに介入
-
ギャグ路線で暴走
-
アコとカナの百合展開
-
カナの空白の10年間