次の日の朝。
私はお姉ちゃんの家の玄関前で、何度目か分からないインターホンを鳴らしていた。
「お姉ちゃんー! 朝ですよ!! 起きてください!」
……沈黙。
「……起きないと、もう二度と口ききませんからね!」
そう言った瞬間、ガチャリとドアが開いた。
寝癖で鳥の巣みたいな頭をしたお姉ちゃんが、ぼんやりと立っている。
「おはようございますアコ……クソみたいな朝ですね……」
「おはようございます。……やっぱり聞こえてたんじゃないですか」
「いや卑怯でしょ……あんなこと言われたら飛び起きますよ……。お尻まだ痛いし……。というか今何時……?」
「4時30分です」
「アコ……私が言うのもアレですけど……頭おかしいんですか?」
「今日は早めに集合って言いましたよね」
「7時30分って聞きましたが……今は……?」
「4時30分です」
「鬼ですか」
お姉ちゃんは額を押さえてよろよろと立ち上がる。髪は逆立ち、パジャマは片方ずり落ち……この世のものとは思えない格好だった。
「準備に時間かかるって自分で言ってたじゃないですか」
「それは普通の時間に起きた場合です……。アコ、人間は深夜に起こされるとIQが下がるんですよ……」
「下がるほどIQないじゃないですか」
「朝から罵倒される私の気持ちって……」
お姉ちゃんは廊下にへたり込み、「朝は弱いんですよ……」と呟く。
私はため息をつきつつ手を差し伸べる。
「立って、準備してください」
渋々立ち上がったお姉ちゃんはふらふらしながら脱衣所へ。顔を洗い、寝癖を直し、制服に着替えて戻ってきた。
少しはマシになった姿に、私はふと思っていた疑問を口にする。
「……お姉ちゃん。その腕章、なんですか?」
「腕章……?」
お姉ちゃんが自分の左腕を見下ろす。そこにはいつも付けている黒い布。
「ああ……これですか」
「はい。ずっと付けてるので気になってました」
「……なんでしょうか。これ」
「え……意味もなくつけてるんですか?」
「……分かりません。あまり思い出したくないような……」
指先で布を撫でるお姉ちゃんの表情は、少し曇っていた。
普通の布に見えるのに、どこか“異質”で……見ている私の方が不安になる。
「……ああ、言いたくなければ大丈夫です。朝ごはん作りますから──」
立ち上がろうとした私を、お姉ちゃんが呼び止める。
「ううん、アコ。ただ……思い出せないだけ。もし、私が思い出したら真っ先にアコに伝える」
その言葉に、私は思わず目を見開いた。
……ほんの少しだけ、胸が熱くなる。
「……それ、ちょっと嬉しいです」
「え?」
「私はお姉ちゃんの全部を知りたいわけじゃありません。けど、何かを思い出したとき、最初に私に話してほしい……そんな関係でいたいんです」
「……アコ」
お姉ちゃんの表情が、どこかあたたかいものに変わっていた。
その瞬間、私の胸の奥もじんわりと熱くなる。
やっぱり、どれだけ面倒でも……この人を放っておくなんてできない。
何かを思い出すのは、きっと怖いことだ。
過去に何があったのか、あの腕章の意味も──思い出せば、お姉ちゃんが崩れてしまうかもしれない。
でも。
「……アコがいれば、それでいい」
その一言に、私は思わず固まった。
なんですかその台詞。今の言い方、完全に“告白”じゃないですか。
「は、はいはい……ありがとうございます。それじゃ、朝ごはん食べて早く行きますよ」
必死に平静を装って、ぷいと顔を背ける。
……これ以上顔を見ていたら、きっと赤面がばれる。
足取りが早まったのは、ただの偶然じゃない。
背後でお姉ちゃんが「……なんか急にそっけなくなった……?」なんて呟いてるのが聞こえたけど、振り返る余裕なんてない。
⸻
なんとか平常心を保ちながら用意した“朝ごはん”を、テーブルに並べる。
「はいお姉ちゃん。カップ麺です」
コトンと置かれた白い容器。割り箸を添えて、一息。
これでいい。朝の準備にそんなに時間をかけられないし、味は保証済み。
「わーいカップ麺だー……?」
あからさまに声のトーンが揺れるお姉ちゃん。
いや、そんなに“困惑顔”されても……。
(……カップ麺でそこまで迷う必要あります?)
首をかしげながら見ていると、案の定ぼそぼそ言い出す。
「……カップ麺、ありがたいんですけど……もうちょっとこう、朝っぽい食卓に憧れてたというか……焼き魚と卵焼き、みたいな……」
うん、知ってた。絶対言うと思った。
「そう思うなら、明日から冷蔵庫に食材を入れてください」
バッサリ切り捨てる。
だってそうでしょ。口だけで何も準備してないの、丸わかりなんだから。
「……はい……すみません……」
しょんぼり肩を落としながら、麺をすすり始めるお姉ちゃん。
ずるっと啜って、もぐもぐ……。
(さて、どんな感想が来るか……)
「美味しいですか?」
さりげなく問いかける。私は鍋の湯に視線を落としながらも、耳はお姉ちゃんの反応に全集中していた。
「中の下、いや下の上です」
──ぶっ殺すぞ。
いや、落ち着け私。冷静になれ。
客観的なコメント、だと思ってるんだろう。でも、これは……
「それ、私が作ったんですけどね……」
思わず、静かな声が漏れた。
「──えっ」
お姉ちゃんの手が止まり、顔が硬直する。
湯気の向こうで、まるで雷に撃たれたみたいに目を見開いてる。
(……え、そこまで……?)
「これを……アコが……?」
「はい。お湯を沸かして蓋を開けて混ぜました」
なんてことのない、ただの手順。
でも──私がやった、というだけで意味が変わるんだろう。
次の瞬間。
「いやいやそれ早く言ってくださいよ心の準備できてなかったんですが!? こんなに優しい塩気あります!? スープが柔らかいのになんでこんなに芯が通ってるの!? えっ待って、今まで食べてきたカップ麺って何!? ただのインスタントじゃない、これは感情のスープ! 思いやりと誠実さで煮込まれた“人を救う味噌”! 麺はね、ちょっと伸びかけの絶妙な柔らかさなんだけど、それが逆に“全部を受け入れてくれる包容力”みたいで、私みたいなダメ人間でも愛されていいんだって錯覚するくらい優しいの! そしてわかめ、わかめよ……この歯ごたえはもうわかめじゃない、人格だよ!? 笑ってるアコが、なにも言わずに見守ってくれる感じがするの! この一杯にアコの気配が全部入ってるの、ていうかこれはアコそのものじゃない!? 食べた瞬間から口の中にアコがいる、アコがしゃべってる、アコの考えが染み込んでくる、そういう味!! これを朝から出してくるってもうプロポーズだし、姉妹の壁なんて超えて宇宙行っちゃいま──」
「嘘です。それ先生に貰いました」
「ドブみたいな味ですねこれ」
今後はどんな話がみたい?
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ブルアカ本編のストーリーに介入
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ギャグ路線で暴走
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アコとカナの百合展開
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カナの空白の10年間