──東三局 終盤、緊迫の場
【点数状況】
マコト:33,800
イロハ:27,000
カナ:24,200
アコ:15,000
場はすでに緊迫の色を帯びていた。
点数だけ見れば、万魔殿チームが有利。だが一方、カナとアコ──通称“バカ姉妹コンビ”はといえば、その足並みは完全に乱れ、もはや味方同士で足を引っ張り合う地獄絵図と化していた。
そんな空気を断ち切るように──
「リーチだ!!」
突如として響いた鋭い声と、卓上を叩く音。
マコトが自信に満ちた表情でリーチを宣言した。
「!?」
「は、早くないですか!? まだ三巡目ですよ!?」
アコが驚愕の声を上げるが、マコトは微動だにしない。
その態度は、“万魔殿に情けなど存在しない”──まさにその哲学を体現していた。
「……あのタヌキ、本気ですね……」
アコが震えるように呟く。
一方、隣に座るカナはというと──どこ吹く風といった顔で手牌を眺めていた。
「まあまあ、焦ることはないでしょう」
カナはふわりと笑みを浮かべ、飄々とした口調で答える。
「三巡目リーチなんて、せいぜい安手でしょうし?」
そして、そのまま{四筒}を捨てた──
スッ…
「ロン」
──その瞬間、空気が凍りついた。
「えっ?」
カナが首を傾げる間もなく、マコトが静かに点棒を提示する。
「リーチ、一発、一盃口、清一色、赤ドラ、抜きドラ、裏ドラ1──三倍満、24,000点」
その宣言はあまりに自然で、あまりに重く、そして圧倒的だった。
ゴッッ
ジャラッと音を立てて、カナの点棒が一気に削ぎ落とされる。
気づけば彼女の点棒は、まさかの「200点」。
「お姉ちゃん!?」
アコが叫ぶ。だが、カナは反応しない。
「ちょっと!!何とか言って──」
「……どういう表情!???」
アコが卓を叩く。だが返ってきたのは、カナの虚ろな目だけだった。
「終わりますよ!? 本当にこのままだとお姉ちゃん引き抜かれますよ!? もはや養分ですからね!?」
カナは天を仰ぎながら、ぼそりと呟く。
「えええ……ウソ……三倍満って何……あれ美味しいの……?」
「頭が飛んでる!?いや点数も飛びそうですけども!!」
ヒナが顔を覆い、ホシノは実況を止めてカメラからそっと目を逸らす。
「うぅぅ……わたし……何もしてないのに……24,000点も……消えた……」
「“何もしてない”のが敗因なんですよ!!」
卓上には、乾いた風が吹いたような静寂が訪れる。
そして、その中央に座るのは──
点棒200点の女──天雨カナ。
その無表情は、すでに“感情”という概念から逸脱していた。
マコトは勝者としての誇りと余裕をたたえながら、腕を組んで言い放つ。
「ふぅ……買いかぶりすぎたか。ガッカリだぞ、天雨カナ」
カナは、ぱちぱちと瞬きをして、きょとんとした表情を返す。
「お前があの日、私に対し臆することなく強気に出てきたかと思えば……このザマだ」
その声には、勝者の余裕だけでなく、どこか落胆すら混じっていた。
「最初は少しだけ期待したさ。“天雨カナ”──妙に情報が伏せられた謎の生徒。だが──蓋を開けてみたら、空っぽの虚像。ギャグと間違いだけで構成された、どうしようもないお荷物」
カナは黙っていた。
何も言い返さず、ただ淡々と、卓を見つめている。
怒りも悔しさも、そこにはなかった。
感情すら希薄な、無風の平穏──それが彼女の“顔”だった。
そして、ついにぽつりと、呟く。
「はい……そうですね。私は──」
「なんで言い返さないんですか!!」
唐突な怒声が、静寂を破った。
カナの言葉を遮ったのは──アコだった。
彼女の声は震えていた。
怒りからか。悲しみからか。
あるいはその両方からか──その目には、はっきりと涙が浮かんでいた。
「なんでそんな顔するんですか……! なんで、“それでいい”みたいな顔するんですか!!」
卓を挟んで立ち上がるアコの姿に、誰もが動きを止めた。
アコの言葉には飾りも迷いもなかった。
ただ、まっすぐな想いだけが込められていた。
「お姉ちゃんのこと、いつも馬鹿だって思ってるし、どうしようもないって呆れたことも何度もありますよ!」
「でも……っ」
声が震えた。
張りつめた感情の糸が、今にも切れそうだった。
「私は……お姉ちゃんが本気出したら、誰にも負けないって信じてましたよ……! 勝てる根拠なんてないけど、それでも“お姉ちゃんだから”って信じてたんです……!」
アコの目から、涙が一筋、頬をつたった。
その言葉に、誰もが言葉を失った。
イロハも、ヒナも、ホシノも──
そして、あのマコトですら、その叫びから目を逸らすことはできなかった。
カナだけが、静かに、ぽつりと呟いた。
「……アコ、泣いてるの?」
その一言に、アコは怒り混じりの涙声で即座に返す。
「泣いてますよ!! 見てわからないんですかこの涙は!? 感情なさすぎですか!?
半ばヤケクソなツッコミが飛ぶが、カナはただ黙ってその言葉を受け止める。感情を見せず、しかしほんのわずかに目を細め、手の中に握りしめた点棒をじっと見つめた。
それはたったの二本──合計で200点。
だが、その仕草には迷いも焦りもなかった。ただ静かに、自分の中で“何か”を確かめるように、そっと息を吸い込む。
「……最初から負ける気なんてサラサラありませんよ。準備は……もう、終わりましたから」
その言葉は、誰に向けたものでもなかった。
だが、隣にいたアコの瞳が驚きに揺れる。
「え……?」
カナの呟きが空気に溶けた直後、向かいに座るマコトが鼻で笑った。
「ふん、負け惜しみか? たった200点で何ができる。この局がオーラスだというのに、ここから逆転勝ちできるとでも?」
勝者としての余裕──あるいは、傲慢。
その声には、明らかな“油断”が混じっていた。
だが、カナの表情は変わらない。
次の瞬間、小さく、だが確かに──口角が持ち上がった。
「できますよ。ていうか、します」
その一言で、卓の空気が変わった。
まるで温度が下がったかのような静寂。
アコは一瞬、息を呑んだ。
(……お姉ちゃん……今の顔……)
いつものようにバカを装っていた姉ではなかった。
そこにいたのは、まるで理不尽と論理の狭間を操る支配者そのものだった。
「最も効率よく、理不尽に勝ってしまいますが……お互い様ですよね?」
挑発的な一言に、マコトの眉がピクリと動く。
「随分と自信があるようだな? 引くに引けなくなったか?」
マコトは冷静を装いながらも、内心にわずかなざわめきを感じ取っていた。
カナはゆっくりと顔を上げる。その目に宿った光は、迷いを知らなかった。
「自信……とは少し違いますね。既に決まったことなので」
「……は?」
──東四局、オーラス。
親番はイロハ。最後の局が始まる。
イロハから配られた牌を見て、カナはただ一言も発さず、静かに牌を取る。
だがその瞬間、隣のアコが息を呑んだ。
(……お姉ちゃん……!?)
アコの手配は──異常だった。
明らかに不自然なほど整っている。
まるで、誰かが“最初から役満の構成になるように”意図したかのような完璧な配牌だった。
──いや、それはマコトも同じだった。
(クク……やはりハッタリかと思いきや……これは……!)
{白白發發發中中中──}
あと一枚「白」を引けばテンパイ、役満「大三元」は目前。
マコトの口元に、不敵な笑みが浮かぶ。
そして次のツモ番、カナは手牌からスッと一枚を抜き取り、無言で卓に置く。
─{─白}
「ポン!」
マコトが叫ぶ。まさに待ち構えていた瞬間だった。
「キキッ!次のツモ番で私の勝ちだ!!」
高らかに勝利宣言を放ちつつ、{一筒を}勢いよく捨てる。
だが──その直後。
「「ロン」」
二重の声が、重なるように卓に響き渡った。
マコトの目が見開かれる。周囲の空気が一瞬にして凍りつく。
カナとアコが、静かに、同時に牌を倒した。
──アコの手牌:
{一万一万一万一筒九筒九筒九筒一索一索一索九索九索九索一筒}
清老頭・四暗刻単騎──三倍役満
──カナの手牌:
{四筒四筒四筒七筒七筒七筒六索六索六索七索七索七索一筒一筒}
四暗刻単騎──二倍役満
「「「「!?!?」」」」
驚愕がその場を包み込む。
「だ……ダブロン……しかも……どっちも役満……???」
マコトの顔から血の気が引き、青ざめたまま額に冷や汗を浮かべる。
「はい、160000点、支払いですね。点棒……あるんですか?」
カナはにこりと、無邪気な笑顔で問いかけた。
マコト→-126200点
マコトは怒りに震えながら、声を絞り出す。
「ふ……ふざけるな……ッ! こんな手、ありえない……ッ! イロハ!」
「いや、私に言われても……」
「こんな……! イカサマだ!! そうだろう!?」
その瞬間、カナが静かに答える。
「それが何か。……あそこのローカルルールに書いてありますよ。“バレないイカサマはイカサマではない”って」
「ぐぐ……ぐ……!!!!」
マコトが立ち上がろうとした瞬間──
「「ストップ」」
ヒナとホシノが、寸分の隙もない動きで卓の間に割って入る。
音すら止んだような静けさの中、ヒナが冷たい目で言い放った。
「みっともないわよ。あなた達が仕組んだルールに則った結果がこれ。負けを認めなさい」
「これはもう認めるしかないんじゃないかな? ルールを無視するのはおじさんも感心しないな〜」
ホシノのいつもの軽口にも、どこか鋭い刃が含まれていた。
しばしの沈黙の後──
「……わかった……! 認めよう……天雨カナ……!! 勝負はお前たちの勝ちだ……」
ギリッと奥歯を噛み締めながら、マコトが言う。
「だが!!教えろ!!最後……何をした!!」
その問いに、カナはふわりと微笑んだ。
「教えてあげてもいいですが……その原因を考えた方が、次に繋がると思いますよ」
誰にも真似できない“読み”と“仕込み”。
無邪気なその笑顔の裏には、底知れぬ圧が滲んでいた。
卓に残された者たちは、誰も言葉を発せなかった。
ただ一人、バカの仮面を脱いだカナだけが──静かに笑っていた。
今後はどんな話がみたい?
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ブルアカ本編のストーリーに介入
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ギャグ路線で暴走
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アコとカナの百合展開
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カナの空白の10年間