私は、お姉ちゃんを連れて家電量販店へ向かっていた。
今日の目的はひとつ──スマートフォンの購入。
というのも──
「ねえお姉ちゃん……さすがに“モモトーク”を知らないのはヤバいですよ……」
歩きながら、つい呆れ顔で言ってしまう。
お姉ちゃんは真顔で首をかしげた。
「モモ……トーク? 桃の精霊との会話術とか?」
「本気で言ってるなら、最早すごいですよ。尊敬の域ですらあります」
げんなりしつつも、私は説明を続けた。
「そうじゃなくて!スマートフォンのことです!そのガラケーじゃ、私と今後やり取りするのに不便なんですから……!」
「スマートフォン……なるほど、そういう物があるんですね」
返ってきたのは、感心とも驚きともつかない反応。
「ほら、買いに行きますよ!」
私はもう反論を諦めて、お姉ちゃんの手を引いて量販店の中へ足を踏み入れた。
⸻
煌びやかな照明の下、整然と並ぶスマートフォンたち。
どれも画面がピカピカと光って、まるで近未来の玩具みたい。
……だけど。
「ここが“スマホ”を入手できる武器庫ですか」
お姉ちゃんが真顔で口にしたその一言に、私の頭の血管がピキッと音を立てる。
「武器じゃありません!!とりあえず静かにしててください!!」
「……」
あっさり黙ったお姉ちゃんを連れて、私はスマホ売り場へ向かった。
ずらりと並ぶ最新機種を前にして、商品棚を指差しながら説明する。
「どの機種がいいとか……あぁ、多分分からないですよね。私のおすすめはコレです。カラーも豊富ですし、操作性もいいので──」
「アコ、私あれがいい」
「え?どれですか?」
「この……白くてキモい鳥のようなデザインのやつが気に入りました」
(※ピンク、ギラギラ、ペロロが無数に散りばめられたインパクト大なスマホケース)
「……そうですね、別のにしましょうね」
私は即座にお姉ちゃんの視線を遮るように立ち塞がった。
「えっ、なぜ?」
「いいから。これとかどうですか?」
「……薄くて……キラキラしてます」
「少し持ってみたらどうですか?自分の手に馴染む機種を選ぶのも大事ですよ」
お姉ちゃんは言われたとおり、目の前のスマホ見本をそっと手に取った。
が──
「……ボタンがないんですが……」
「……本当にスマホ見るの初めてなんですね。画面をタッチするんですよ!ほら、タッチしてみてください」
「……」ツン
次の瞬間。
バキィィィィィン!!!
軽く触れただけのはずのスマホの画面に、容赦のない亀裂が走った。
画面は貫通し、奥の基盤まで見える。
「んなあああにしてるんですかあっ!??」
私の絶叫が、家電量販店の静寂を切り裂いた。
周囲の客たちが一斉に振り向く中、お姉ちゃんは割れたスマホをじっと見つめて首をかしげる。
「……壊れた、みたいですね」
「見たら分かります!!なんでタッチしただけで破壊してるんですか!?」
「……むずかしい……」
「何が!?なにが難しいんですか!!」
『お客様!?大丈夫ですか!?』
慌てて駆け寄ってきた店員に、私は頭を下げながらひたすら平謝りした。
「も、申し訳ありません!直ぐに弁償しますので……!」
⸻
なんとか場を収めた私は、もはや選ぶ余裕すらなく、棚から適当にスマホを選び出す。
「ほら、もう恥ずかしいのでこれにしましょう!これ!!」
「アコがそう言うなら……」
⸻
『では、お会計が……25万円になります』
レジに立った店員が、淡々と告げる。
「はぁ……まあ機種を一つ壊してしまいましたし……仕方ないですよね……」
私はため息をつきながら、渋々財布を取り出そうとする。
その横で──
「じゃあ……これで、お願いします」
お姉ちゃんが、自分のポケットから無造作に札束を取り出した。
「!?!?!?」
私が絶句する中、店員は平然と会計を進めていく。
『はい、25万円丁度お預かりします。お買い上げ、ありがとうございました』
店員がレジにお辞儀をして下がっていくのを見届けたあと、私は固まったまま、お姉ちゃんにゆっくりと向き直った。
「…………」
「……?」
「……お姉ちゃん、今の……」
「はい?」
「……なんですか今の、札束」
「お金です」
「そうじゃなくて!!!」
再び私の怒声が店外まで響いた。
「なんでそんな普通にポケットから25万円出てくるんですか!?」
「……退職金……かな?」
「んなわけないでしょ!!」
⸻
ようやく落ち着きを取り戻した私は、帰り道でぽつりと呟いた。
「……でも、なんでそんな大金を……スマホ買うの初めてなんですよね?」
「はい。だけど……アコとの連絡手段って考えたら、安いものです」
その一言に、私は足がぴたりと止まった。
お姉ちゃんの顔を見上げると、そこにはいつもと変わらない無表情──けれど、ほんの少しだけ柔らかくなった目元があった。
「……っ!」
私は小さく息をのんで、ぎこちなく笑って話題をそらす。
「そ、そうです!モモトークの設定をしますよ!ほら、スマホ貸してください!」
「?」
お姉ちゃんは素直にスマホを差し出した。
「ほら、アプリが入りました。これで使えますよ」
私は慣れた手つきで設定を終え、スマホをお姉ちゃんに返す。
「おお……」パシャッ
「不意に撮るのやめてくれません?」
「アコ、私のモモトークのアイコン、これにします」
「それインカメですから、私写ってませんよ」
「?????」
⸻
そんなやり取りが続く中、日はゆっくりと傾いていった。
「アコ……この“スマホ”という兵器、意外と気に入りました」
「だから兵器じゃないんですって!!!」
「アコに選んでもらったスマホ、大事に飾ります」
「使ってください!!」
──こうして、お姉ちゃんの携帯はついにガラケーからスマホへと進化した。
普段は感情が読みづらいお姉ちゃんだけど、私との連絡がとれるようになったことで、その瞳の奥がほんの少しだけ緩んでいるようにも見えた。
街の灯がポツポツと灯りはじめ、空はオレンジから群青へと変わろうとしていた。
そこで、お姉ちゃんがふと立ち止まる。
「……私の家、こっちですので」
「え?学校の寮とかじゃないんですか?」
「うん。アコ、今日はありがとう。また明日」
「……えっと……はい」
私は小さく手を振って、お姉ちゃんと別れた。
⸻
家までの帰り道、私は一人になったことで、ようやく深く息を吐く。
「……はぁ~、変な一日でした……」
制服のままベッドに倒れ込み、天井をぼんやりと見上げながら呟いた。
「お姉ちゃん、10年であんなに変わるかな……?」
昔はもっと、普通の子だった気がする。……いや、普通だったかどうかはさておき、今みたいに“ズレてる”感じではなかった。
それでも――
不思議と、心は軽かった。
疲れてるのに、嫌じゃない。
むしろ、少しだけ楽しかったとさえ思えてしまう。
その時だった。
ピコン
「ん?」
スマホの通知がなる。
「なっ……!??」
カナ:
「アコ、今日の空はアコに似ていました。
……よく見たら違いました。」
カナ:
「アコ、さっき道に落ちていた葉っぱがハート型でした。
縁起がいいので拾って保管してあります。燃やしてもよいですか?」
カナ:
「アコ、ペロロというキモい鳥のフィギュアを買いました。
食卓に置くとアコが見守ってくれる気がして落ち着きます」
カナ:
「アコ、モモトークというのは“アコにいつでも話しかけていい”魔法の道具ですね。理解しました。では……」
カナ:
「今、ペットボトルのキャップを開けました」
「開けたら少しこぼれました」
「こぼれた跡がペロロに似ています」
「アコ、見に来ませんか」
「お姉ちゃん…………!!!!」
私は天を仰いだ。
疲労はピーク、でも怒るより先に、最早笑いが込み上げてくる。
そして――ついに、叫ぶ。
「うるさいんですよ─────っ!!!!」
夜の静寂に、その声が響き渡った
今後はどんな話がみたい?
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ブルアカ本編のストーリーに介入
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ギャグ路線で暴走
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アコとカナの百合展開
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カナの空白の10年間