天雨カナという存在について   作:BRだんちょ 

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そうだ!温泉旅行に行こう!

ドンッ!!

 

突然、ヒナ委員長が机を叩いて立ち上がった。

その迫力に教室の空気が一瞬で凍りつく。いや、私までビクッてなったし。

 

「温泉旅行に行くわよ!」

 

……はい???

 

いきなり高らかに宣言されたその言葉で、風紀委員会の空気が一気にひっくり返った。

 

「ヒナ委員長……!? 本当ですか!?」

「ええ……!?」

「温泉旅行……悪くないな!」

 

みんな一斉に顔を上げて、最初は驚いてたけど……すぐに笑顔。

いやそりゃそうか、“ご褒美イベント”みたいな響きだし。

 

「でも急ですね。何か理由でもあるんですか?」

 

チナツが首をかしげると、ヒナ委員長は腕を組んで真剣な顔。

 

「予算に余裕が出来たのもあるけど、最近ギスギスしてるから一回リフレッシュして結束を高めたいのよ。特にイオリとカナ。風紀委員のメンバー同士でブロックしてるんじゃないわよ」

 

「グフッ……」

 

お姉ちゃんが、吐血。いやなんで!?

 

「え?ブロック?」

 

イオリがきょとんとスマホを開いて──次の瞬間、絶叫。

 

「あれ!? 私いつの間にカナのことブロックしてたの!?!?」

 

「なるほど……イオリさんにとって私は、ブロックした記憶すら残らない存在ということですか……」

 

お姉ちゃんは天井を見上げながら、うつろな目。やめて、重い。

 

「ち、違う違う違う!!! これは誤操作!!!」

 

必死に言い訳するイオリ。だけど声が裏返ってる。

 

「……誤操作でブロック……? 私って反射的に切り捨てられる存在なんですか!?」

 

「違うってばぁぁぁ!!!」

 

(うん、これは温泉で解決する問題じゃない)

 

私がツッコむ前に、ヒナ委員長が深々とため息をついた。

 

「……ほら見なさい。こういうギスギスした空気があるから、温泉でリフレッシュする必要があるのよ」

 

「いやいやいや!! 温泉で解決する問題じゃないですよね!?」

 

私も思わず叫んだ。絶対余計こじれるやつだよこれ!

 

でもヒナ委員長はきっぱり言い切る。

 

「風紀委員はチームで動くの。お互いの心の距離を縮めるには、裸の付き合いが一番って先生が言ってた!」

 

「……あのドスケベ先生、何吹き込んでんですかぁぁぁ!!」

 

結局、全員で予定を確認したら──みんな即答でOK。

まあ、予定なんて誰も入れてなかったんだけど。

 

──ただ一人を除いて。

 

「私はやめておきます。楽しんできてくださいね」

 

「「「「…………」」」」

 

……お姉ちゃん。

 

顔も上げずにひらひら手を振って、教室を出ようとする。

その瞬間。

 

「……で、何があった?????」

 

ヒナ委員長の声が低く響いて、空気が凍った。

 

次の瞬間、お姉ちゃんは縄でぐるぐる巻きにされ、天井から吊るされていた。

 

「いやいやいや!? 行かないって言っただけでこの仕打ち!?」

 

必死にジタバタするお姉ちゃん。

でも……うん。普段の調子なら「アコと一緒に入れる〜」って騒ぐはずなんですけどね。

 

「まあ……確かにヒナさんの言ってることは正しいですよ」

 

「正しいのかよ」

 

イオリのツッコミを背に、お姉ちゃんが咳払いして神妙な顔。

 

「私にも……譲れない理由があるのです」

 

「理由?」

 

私が思わず聞き返すと──

 

「……私、温泉に行くと髪がふにゃふにゃになるんです」

 

「「「「しょうもなっ!!!」」」」

 

全員が揃って叫んだ。

 

「いやいやいや! そんなの誰でもなるから!」

 

ヒナ委員長が机を叩き割りそうな勢いで叫ぶ。

 

「でも私は本当に嫌なんです!ふにゃふにゃになった姿をアコに見られるなんて……!」

 

「心底どうでもいい!!」

 

次々にどうでもいい理由を並べ立てるお姉ちゃん。

 

温泉卵が嫌いとか、帯が苦しいとか……いやもう知らない!!

 

「つまり、温泉旅行は私にとって極めて不健康であり──」

 

「──強制連行決定!!!」

 

ヒナ委員長が宣言。チナツと私で縄ごとお姉ちゃんを抱える。

 

「アコォォ!あなたまで裏切るんですかぁぁ!!」

 

「ごめんお姉ちゃん!でも一緒に行きましょう!」

 

「絶対嫌だぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

お姉ちゃんの絶叫が、学園中に響き渡った。

 

翌日──。

 

宙吊りのまま風紀委員室から連行されたお姉ちゃんは、私やチナツに荷物をスーツケースへ詰め込まれながらも、最後まで抵抗を続けていた。

……いや、抵抗っていうより、もはや悪あがきですねこれ。

 

「私は行きません!! これは風紀委員の黒歴史になりますよ!? 未来の議事録に“温泉旅行強制連行事件”ってしっかり記録されますからね!?」

 

「そんな議事録は存在しないわよ!!」

 

ヒナ委員長が即バッサリ。

ていうか“温泉旅行強制連行事件”って字面、笑っちゃうからやめてほしい。

 

「嫌ァァァァアッ!!!!温泉嫌だあああ!!!!」

 

「注射されたくない子供か!!!」

 

イオリのツッコミも刺さる。私も同意。

 

でも──ヒナ委員長の表情が、ふと曇った。

 

(あれ……?)

 

確かにお姉ちゃん、ふざけてるようで声の奥に“ガチの拒絶”が混じってる。

髪がふにゃふにゃだの温泉卵が嫌いだの、そんなふざけた理由じゃごまかせない何かを感じる。

 

「……ねえ、カナ。アンタ、なにか隠してない?」

 

「な、なにも隠してませんよ?」

 

「今の、100点満点中5点の演技よ」

 

……ですよね。

お姉ちゃん、演技下手なんだから。

 

「お姉ちゃん……ほんとに、ただ温泉卵が嫌いなだけ?」

 

私が問いかけると、一瞬だけ言葉に詰まったお姉ちゃん。

でもすぐにヘラヘラ笑って誤魔化す。

 

「そ、そうですとも! 私は温泉卵が嫌いで、浴衣の帯が苦しくて、髪がふにゃふにゃになるから絶対に行きたくないんです!!」

 

「理由のしょうもなさだけは本物ね……」

 

結局、荷造りは全部終わってて、お姉ちゃんは縄を解かれるなり──両脇をがっちり挟まれて貸切バスに押し込まれた。

 

バスの中。お菓子で盛り上がる私たちの横で、お姉ちゃんだけがシートに沈んで無言。

……やっぱりテンションおかしい。

 

「……大きなお餅と……まな板……」

 

小声でぶつぶつ言ったと思ったら、ヒナ委員長とチナツの胸を見比べてるこのおバカ。ヒナ委員長の胸を見て露骨にテンション落ちてるし。

 

「誰がまな板ですって?」

 

「すいません、訂正します。どちらかというと洗濯板でした」

 

「殺すわよ? カナも同じような胸でしょうが」

 

「そうですね……だからこそ、私は……こんな場所にいちゃいけないんです……」

 

「急に悟るな!!!!」

 

イオリの声が響き、私は頭抱えた。……マジでめんどくさい。

 

バスが走り出して数分。

お菓子を回して盛り上がるイオリやチナツ、そしてヒナ委員長の横で──お姉ちゃんだけはずっと無言。腕組んで窓の外をじっと眺めてる。

 

(……いや、重役出勤の政治家か何かですか)

 

明らかに空気が違うのに、当の本人は全く気にしてない顔。

 

「……そんなに嫌だったの? 温泉旅行」

 

ヒナ委員長が声をかけると、お姉ちゃんは小さく首を振る。

 

「旅行は……嫌いじゃないんです。ただ……温泉だけは……」

 

ぽつりと落ちる声。

(え、思ったより深刻そうじゃん……)

 

「……温泉だけは、ダメなんです」

 

「なんでよ。温泉に何されたのよアンタ」

 

ヒナ委員長が怪訝そうに眉をひそめると、お姉ちゃんはうつむいて答えた。

 

「その……素肌を見られることに、抵抗があって……」

 

私は息をのむ。胸がちくりと痛んだ。

 

「え……お姉ちゃん、もしかして……過去に何かあったの……?」

 

チナツまで神妙な顔になって、場の空気が重くなる。

 

……で、次の瞬間。

 

「はい。肩のホクロの数を数えられるのがイヤなんです」

 

「しょうもなッ!!!」

 

全員の声がシンクロした。私も叫んだ。

 

「誰が数えるんだよそんなの!!」

 

「だって!! 温泉って暇じゃないですか! 絶対“あれ?カナの肩のホクロ、3個じゃなくて4個だったっけ?”とか言われますって!!」

 

「言わねえよ!!!」

 

もはやシリアスの死骸です。

 

ヒナ委員長は額を押さえて深くため息をつく。

 

「……他にもあるんでしょ。しょうもない理由が」

 

観念したのか、お姉ちゃんは指を一本ずつ立てはじめた。

 

「ひとつ。洗い場のイスが低すぎて、私の威厳が失われる」

 

「知らねぇよ!!!」

 

「ふたつ。脱衣所で“意外と痩せてるんですね”って言われたら、微妙に傷つく」

 

「繊細か!!!」

 

「みっつ。牛乳を飲むと絶対ヒゲができる。アコに見せられない」

 

「小学生か!!!」

 

……ほんと、しょうもない。いや、ここまでくると芸術的なくらいしょうもない。

 

「……分かりました。温泉には入ります。でも……私一人で入らせてください」

 

急に真剣な顔になってそう言うお姉ちゃん。

その空気に、一瞬私も飲まれそうになる。

 

「え? 一人で?」

 

イオリが眉をひそめる中、お姉ちゃんは堂々と背筋を伸ばして言い切った。

 

「はい。皆さんが入り終わった後に、私が最後に入ります。ですので、別々にお願いします」

 

……どんだけ嫌なんですかこの人。

 

ヒナ委員長は腕を組んで、じっと考え込む。やがて──

 

「……まぁ、どうしても嫌だって言うなら、一人で入ってもいいわよ」

 

「!!?」

 

お姉ちゃんの目がギラギラに輝いた。

 

「い、いいんですか!? 本当に!?」

 

「うるさいわね……。別にアンタの裸に、そこまで価値なんてないでしょ」

 

「さらっと酷いこと言いましたよね!?」

 

シートに沈むお姉ちゃんを見て、私は半分呆れつつもクスッと笑ってしまった。

 

でも──すぐにヒナ委員長の人差し指が突き出される。

 

「ただし、条件があるわ」

 

「じょ、条件……?」

 

お姉ちゃんの顔がひきつる。

 

「温泉は一人で入ってもいい。でも、その代わり──食事や他のイベントには、ちゃんと参加すること」

 

「……っ」

 

お姉ちゃんの肩が震えた。

(あ、図星。どうせ食事も適当に逃げようとしてたんでしょ)

 

「楽しむ時は全員で一緒。それが“仲間”ってものでしょ?」

 

その言葉に、空気がピシッと引き締まる。

 

お姉ちゃんはしばらく窓の外を見ていたけど……やがて観念したようにため息を吐いた。

 

「……それなら大丈夫です。問題ありません」

 

「よろしい」

 

満足そうに頷くヒナ委員長。

私はホッと胸をなで下ろす。

 

「よかったですね、お姉ちゃん」

 

安心混じりに言うと、お姉ちゃんはニヤリと振り返った。

 

「アコの裸を見る絶好の機会を逃すのは心苦しいのですが我慢してくださいね」

 

「なんで私が我慢する立場なんですか」

 

……はぁ。やっぱりバカですねお姉ちゃん。

 

今後はどんな話がみたい?

  • ブルアカ本編のストーリーに介入
  • ギャグ路線で暴走
  • アコとカナの百合展開
  • カナの空白の10年間
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