天雨カナという存在について   作:BRだんちょ 

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布団の上の攻防戦

「ふぅ~~~~~~~~っ……」

 

思わず声が漏れた。いやもう、これは人間が出す声じゃなくて魂の叫びに近い。温泉すごすぎます……。

 

湯気がふわっと立ち上って、ほんのり硫黄の香りが鼻に抜ける。肩までお湯に沈めると、体の芯からほぐれていくのが分かる。

 

「はぁ〜最高すぎる……」

イオリも肩まで浸かりながら、子供みたいにパシャパシャお湯をかけて遊んでる。

 

「そういえばナチュラルに温泉に来ちゃいましたけどゲヘナの治安は大丈夫なんですかね?」

 

チナツの真面目な疑問に、ヒナ委員長はそっけなく答えた。

 

「知らないし知りたくない。きっと無事。そう思うことにする」

 

現実逃避がすぎる。

 

「そ、そうですね……」ってチナツも苦笑いしながら首まで沈んでるけど。

 

私はタオルを頭にのせて、ぼーっと天井の湯気を見上げた。

(……でも、やっぱりお姉ちゃんのこと考えちゃうんだよなぁ)

 

気がついたら口に出してた。

 

「……それにしてもお姉ちゃん、結局一人で入るって言って別行動だなんて……」

 

ヒナ委員長が小さく目を伏せる。

 

「……そうね。でも、反省しているわ。カナの意見を聞かずに話を進めるべきではなかったわね」

 

珍しく弱気なトーン。やっぱり気にしてるんだ。

私は慌てて言葉を継いだ。

 

「まあ……あれは仕方ないことだと思いますよ。拒絶反応示すほど温泉嫌がる人なんて普通いませんし」

 

「拒絶反応か……」

 

ヒナ委員長は湯気の奥を見つめて何かを考えてる。その横顔は、風紀委員長っていうより普通の女の子のそれで、少し興奮……じゃなくて、ちょっと胸がチクリとした。

 

───

 

「はぁ~~~~~……生き返りますね……」

私はのぼせそうになりながら目を細めた。いやほんとに天国。

 

「……温泉っていいですね。心臓に悪いことが色々あった気がしますけど、まあ、帳消しってことで」

 

チナツが優しく笑って、イオリは「一時的に、だけどな」ってぼそっとツッコミ。けど声の調子は柔らかくて、みんな少しだけ落ち着きを取り戻してた。

 

 

湯気の中で流れる静けさが、ようやく心を休めてくれた。

 

──────────

 

入浴後。

 

私たちが浴衣に着替えて部屋に戻ると──先に布団の上に倒れ込んでる影があった。

 

「……お姉ちゃん、もう寝てたんですか?」

 

声をかけても、お姉ちゃんは横目でちらっと見るだけ。スマホ片手に、もう片方にはお茶のペットボトル。天井を見つめてる顔は、温泉宿の空気に全然馴染んでなかった。

 

「ええ。皆さんが湯気に包まれて幸せそうなところを想像して、勝手に楽しんでました」

 

「それ全然楽しくないでしょ!」

 

でもお姉ちゃんは眉ひとつ動かさない。あの無表情、ほんと空気を凍らせる才能あると思う。

 

ヒナ委員長が黙ってその姿を見つめる。

 

(……ここで引いたらダメ。ちゃんとぶつからないと……)って顔して。

 

ヒナ委員長が浴衣の裾を整えて、一歩、また一歩……布団に寝転がるお姉ちゃんの横へ近づいていく。

(……おお、委員長が歩くたびに空気がピリピリする……こっちまで息が詰まる……!)

 

「カナ……その……ゆ、夕食、一緒に行かない?」

 

意を決した声。でも──返ってきたのは、やっぱり冷たい拒絶だった。

 

「めんどくさいです。床に置いといてください」

 

「バチあたりかお前!」

 

即座にイオリが即ツッコむ。さすがイオリ、反応が早い。場がちょっと和んだ気がする……いや、肝心のお姉ちゃんは相変わらず天井を見たまま動かないけど。

 

それでもヒナ委員長は引き下がらない。眉を寄せて、必死に食い下がる。

「……じゃあ、あとで一緒に散歩でもどう? 温泉街を回るのも楽しいわよ」

 

「ヒナさんと二人でですか?」

 

「そ、そうだけど」

 

「それはなんの罰ゲームですか?」

 

「誰が罰ゲームよ!!」

 

布団を叩く音が部屋に響く。いやもう委員長の声に怒気が混ざってるんですけど!?

 

「委員長!!落ち着いてください!冷静に冷静に!!」

 

私は慌てて両手を広げて間に割って入る。すると、ヒナ委員長は深呼吸をし、落ち着きを取り戻した。

 

「……じゃあ……一緒にトランプでもどう? ババ抜きとか……」

 

「ババなら目の前にいるじゃないですか」

 

「こいつやっぱぶっ殺──」

 

「委員長ストーーップ!!! ここで犯罪者にならないでください!!」

 

私は全力でヒナ委員長の腕をつかんで止める。委員長の額に青筋が浮かんでて怖すぎる。

 

「……あ、でも大富豪ならいいですよ。私が永遠に革命起こし続けて、全員平民のままで終わるやつ」

 

「そんな不正みたいなルールあるかぁ!!」

 

イオリが枕をぶん投げてお姉ちゃんに直撃。

 

チナツが苦笑して「……まあ、拗ね方がここまで徹底してると逆に感心しますね」とか言ってるけど、感心してる場合!? 私の胃はもう限界なんですけど!?

 

(((……こいつ、超めんどくせぇ……!!)))

 

全員の心がひとつになった瞬間だった。

 

それでもヒナ委員長は退かない。真剣な眼差しでお姉ちゃんを見据えて──。

 

「……いい? カナ。どんなにふざけても、私はあんたとちゃんと話すつもりだから」

 

その言葉に、布団に潜り込んでたお姉ちゃんの肩がピクリと揺れる。

 

「……話すって、何をですか。私が“場を乱す”存在だってことですか?」

 

声はふざけた調子を装ってるけど……奥に小さな棘が見える。

 

ヒナ委員長は唇を噛みしめ、視線を逸らさずに続けた。

 

「違う。……カナがいてくれるから、みんな助かってること。私がそれを、ちゃんと伝えられてなかっただけ」

 

「…………」

 

お姉ちゃんはスマホをぽとんと手から落として、また天井を見上げた。

 

「……ヒナさん、そういうこと言うと……私、めんどくさい女になりますよ」

 

「今でも十分めんどくさいって!」

 

(……ほんと、もう……お姉ちゃんは素直じゃないんだから……)

 

私はお姉ちゃんが一瞬だけ弱さを見せたのを逃さず、思い切って問いかけた。

 

「お姉ちゃん……やっぱり、私たちに言いたくないことがあるんですか?」

 

返ってきたのは、枕に顔を埋めたままのぼそっとした声。

 

「それはちょっとここでは申し上げられないですね」

 

「じゃあどこで申し上げるんだよ」

 

即ツッコミが出る。ほんと、こういうとこめんどくさい。

 

するとヒナ委員長が静かに言葉を重ねた。

 

「いいわ、無理に話す必要はないもの。誰だって知られたくない秘密の一つや二つくらいあるわ」

 

その言葉に部屋の空気が少し緩む。けど──お姉ちゃんの肩が小さく震えた。

(……やっぱり何かあるんだ。普通にふざけてるだけじゃない……)

 

「……ごめんなさい、カナ」

 

ヒナ委員長が真剣に言った。

 

「……え?」

 

お姉ちゃんが枕から片目だけ覗かせる。いつもの皮肉もない、不意を突かれた顔だった。

 

「無理に温泉に連れてきたこと。理由も聞かずに決めつけたこと。委員長としての立場ばかりで……あんたの気持ちを軽く見てた」

 

その声音は低いけど、嘘のない響きだった。私もイオリもチナツも思わず黙る。

お姉ちゃんは顔をそらして、枕で隠しながらぼそっとつぶやいた。

 

「……謝るのは、私の方ですよ。全部ふざけて誤魔化して、意地悪なことばっかり言って……」

 

「お、お姉ちゃんが素直に……!」

 

思わず声が漏れる。奇跡を見た気分だ。

ヒナ委員長も驚いた顔をしたけど、すぐにふっと笑った。

 

「……いいのよ。誰だって素直になれない時くらいあるわ。私だってそうだから」

 

「……ヒナさんが?」

 

お姉ちゃんが半信半疑でちらっと見る。

 

「ええ。委員長って肩書き背負ってるけど、本当は不安だし、強がってるだけ。だから……今日くらい、素直になろうって思ったの」

 

まっすぐな言葉に、お姉ちゃんはしばらく固まったまま。やがて小さく笑って、枕を抱えたまま呟いた。

 

「……なんですかそれ。ヒナさんらしくないですね」

 

「でしょ? でも、らしくなくてもいい時もあるのよ」

 

「……ふぅん。ヒナさんも人間なんですね」

 

肩をすくめるお姉ちゃん。声はぶっきらぼうだけど、ほんの少し照れてるのが分かる。

 

「最初から人間よ。完璧じゃないもの」

 

ヒナ委員長が柔らかく笑う。その雰囲気に、お姉ちゃんもわざと大きな欠伸で誤魔化した。

 

「……はぁ……そんなこと言われたら、私も少しは歩み寄らないといけなくなるじゃないですか」

 

「それでいいのよ」

 

ヒナ委員長がくすりと笑うと、お姉ちゃんは布団から上体を起こしてスマホを放り投げた。その顔は拗ねてるようで、でもどこか柔らかかった。

 

「……でも、まあ。今日は特別に、素直にしてあげます」

 

「ほ、ほんとに!? お姉ちゃんが素直だなんて奇跡ですよ!」

思わず声が弾む。

 

「うるさいですよアコ。調子に乗ってるとそのおっぱいを揉みしだきますよ?」

 

「なんでそうなるんですか!? 脅し方が最低です!!」

 

慌てて胸を押さえる私。

 

「……結局めんどくさいのは変わってないな」

 

イオリが呆れ声で吐き捨てる。

 

チナツも苦笑しつつ「でも、少しだけ素直になったんですから、大きな進歩ですよ」とフォロー。

 

ヒナ委員長はそんな空気を見て、安心したように微笑んだ。

 

「ふふ……でも、やっぱりカナはカナね」

 

「……褒めてるんですか、それ?」

 

じと目で睨むお姉ちゃん。でももう拗ねた空気はだいぶ和らいでた。

 

「もちろんよ。一緒にいると安心するもの」

 

ヒナ委員長の真っ直ぐな言葉に、お姉ちゃんは一瞬だけ固まり、そして真っ赤になって枕で顔を隠した。

 

「……へ、へぇ……そんなふうに思ってたんですか……」

 

その姿があまりにも可愛くて、私は思わず叫んでしまった。

 

「お姉ちゃん、今ちょっと照れてましたね!? 絶対可愛い顔してましたね!!」

 

「言ったはずです。揉みしだくと……!」

 

「冗談ですってばーー!!」

 

部屋は一気に笑いに包まれる。

──結局、夕食は思ってた以上に賑やかで、ちゃんと“風紀委員会”らしい温かさに戻っていた。

 

今後はどんな話がみたい?

  • ブルアカ本編のストーリーに介入
  • ギャグ路線で暴走
  • アコとカナの百合展開
  • カナの空白の10年間
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