天雨カナという存在について   作:BRだんちょ 

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お姉ちゃん VTuber疑惑

一通りのドタバタが落ち着いたあと、部屋には再び静けさが戻っていた。

湯飲みの茶が冷めていく音や、障子の隙間を抜けていく夜風のざわめきだけが聞こえる。

どこか気の抜けた空気が漂い、全員が余韻にひたっているようだった。

 

私も畳の上にごろりと横になり、天井の木目をなんとなく目で追う。視界に映るだけの無機質な模様が、さっきまでの騒がしさを余計に遠くに感じさせた。

 

「……ふぅ、やっと落ち着きましたね」

 

チナツが湯飲みを丁寧に置き、静かに息を吐いた。

その横顔は相変わらず落ち着いているけれど、ほっとした表情がわずかに見えた。

 

「そうね……」

ヒナ委員長も、さっきまでの怒気を引きずったまま、それでも頷きを返す。

声にまだ刺が残っているのが逆に可笑しくて、私は少し笑いそうになった。

 

──その時だった。

 

「……ポチッ、ポチッ……」

 

妙に浮いた電子音が、しんとした部屋に混じる。

視線をそちらへ向けると、お姉ちゃんが布団に寝転がったまま、スマホを両手で抱え込み、画面をひたすらタップしていた。

 

「そりゃっ。よしっ……」

 

その表情は驚くほど真剣で、どこか戦場に立っているような迫力すらある。

 

「あれ? お姉ちゃん、またゲームですか?」

 

思わず問いかけると、お姉ちゃんは当然といった顔で頷いた。

 

「はい。最近ハマってるんですよ。スマホで出来るゲームはクオリティが高いですから」

 

その様子をじっと見ていたヒナ委員長が、ほんの少しだけ興味深そうに身を乗り出す。かわいいです。

 

「ふーん……まあ確かに最近のゲームって質がいいわよね」

 

「ヒナさんも興味ありますか?じゃあ、みんなで一緒にやりましょうよ。楽しいですよ」

 

お姉ちゃんは誘うように言うけれど、その声には変に自信が混じっていて嫌な予感しかしない。というか今までこの人と関わって嫌な予感がしなかったことなんて一回もない。

 

「カナにしては悪くない提案だな」

 

「たまにはいいかもしれないですね。カナさんがやってるゲームってなんですか?」

 

イオリとチナツは妙に乗り気。

そして、お姉ちゃんは胸を張り、誇らしげに答える。

 

「お〇がい社長です」

 

「誰がやるのよそんなゲーム」

 

ヒナ委員長の冷徹な一言がすぐさま飛んだ。

 

「広告詐欺のやつですよそれ!」

 

私も思わず叫んでしまった。

 

けれど当の本人は、全く動じる気配もない。

 

「いやだって始めて一週間でサーバー1位なれるらしくて」

 

「それが詐欺だって言ってるのよ! 実際は大量に課金しないとなれないんだから!」

 

「じゃあ課金してガ()()を引きたいので、この()()ージってとこをヒナ()()がタップしてください」

 

「『ちゃ』がうるさいわね!!ってか『ヒナちゃ』ってなによ!!」

 

ヒナ委員長の言う通り。もっとマシなゲームなんてそこら中にありますし。  

 

「やるなら他のゲームにしましょうよ。その隣に入ってるアプリはなんですか?」

 

「ラ〇トウォー」

 

「その隣は?」

 

「最強でん〇ん」

 

「その隣」

 

「ホワイトア〇トサバイバル」

 

「なんでそんな訳分かんないアプリばっか入ってるんですか」

 

思わず額を押さえる私をよそに、お姉ちゃんの表情はどこか得意げですらあった。

 

「全部広告がやかましいやつばっかじゃないですか」

 

「いやぁ……広告で出てくると、ついインストールしたくなるんですよ」

 

「お前、カモそのものだな」

イオリが冷ややかな目で吐き捨てる。

 

しかし、お姉ちゃんは悪びれもせず、むしろ自慢げにスマホを傾けた。

 

「でもどれもそれなりに楽しんでますよ? たとえばこの“キ〇コ伝説”なんて──」

 

そこに映っていたのは、謎のキノコ型キャラが大量に走り回るカオスな光景だった。

 

「……なにこれ」

あまりの意味不明さに、思わず声が漏れる。

 

「キノコを育てて、村を侵略していくゲームです。SSRキノコを手に入れると、胞子で相手の都市を制圧できるんですよ」

 

「怖っ!! なんでそんな世界征服系ばっかやってるんですか!!」

 

叫ぶ私の隣で、チナツは眼鏡を押し上げながら静かに頷いた。

 

「……このラインナップ、ある意味カナさんらしいです」

 

「らしいで片付けないでください!」

 

ヒナ委員長は額に手を当て、じっとお姉ちゃんのスマホ画面を睨んでいた。

 

「……アンタね。旅行先でカタツムリだのキノコだの育ててどうするのよ。もっと普通に楽しそうなゲームはないわけ?」

 

「普通って何ですか。普通に一週間でサーバー1位取れるゲームのことですか?」

 

「それ詐欺だって言ってんの!!!」

 

お姉ちゃんは小首をかしげ、まるで心底不思議そうな顔をする。

 

「じゃあ……普通のゲームって、何ですか?」

 

「えぇ……」

逆に問い返され、私は言葉に詰まった。

 

「王道なのはパ〇ドラとかモ〇ストとかじゃないんですか?」

 

なんとか答えると、お姉ちゃんは「ふむ」と真剣に頷いた。

 

「じゃあこの魔剣〇説とか」

 

「消しちまえそんなの。周りでやってる奴見たことないぞ」

イオリが一刀両断し、部屋の空気が再びため息に包まれる。

 

……お姉ちゃんバカだなぁ。

 

「……じゃあ、なにを入れればいいんですか。私なりに厳選してるんですけど」

 

「どこが厳選よ!」

 

「詐欺アプリと世界征服シミュレーションばっかじゃないですか!」

 

「でも、全部ちゃんとプレイしてるんですよ。SSRキノコだって二体いますし」

 

「その自慢はなんなの!?」

 

「……まあ、せっかくなら有名どころを試してみてもいいかもしれませんね。安心感がありますし」

 

チナツが穏やかな口調でそう提案すると、私はすぐさま身を起こして頷いた。

 

「そうですよ!こっちの王道の方をやりましょう!」

 

パ〇ドラやモ〇ストといったタイトルなら、誰でも知っているし。

 

「パ〇ドラとかモ〇ストとかなら、みんなでマルチプレイできるじゃないですか!」

 

私の言葉に、お姉ちゃんは「ふーむ」と顎に手を当てて考え込んだ。普段なら軽く流すのに、妙に真剣な仕草が逆に怪しい。

 

「でも……広告に“今なら無料で十連ガチャ”って書いてなかったですよ?」

 

「そこ基準にすんな。絶対3000連ガチャ無料とかいうクソみたいな広告に引っかかってるでしょ」

 

イオリが冷ややかに突っ込む。鋭い声にお姉ちゃんはきょとんと目を丸くし、次の瞬間には曖昧に視線を泳がせた。

 

「……え?」

 

「……あ、やっぱ引っかかってたのね」

ヒナ委員長が額を押さえ、深々とため息を吐く。

 

「いやでも本当に回せたんですよ? 3000連!」

 

お姉ちゃんはむしろ胸を張り、誇らしげに声を張り上げた。

 

「はぁ!? 本当に!?」

思わず私も食いついてしまう。

 

「はい。ただし……」

 

「ただし?」

 

「出てくるのは全部“ノーマルスライム”でした」

 

「学習しろよお前」

イオリの冷静な突っ込みが部屋に落ちた。

 

場の空気が呆れに包まれる中、ふと私はお姉ちゃんのスマホ画面に目を留めた。

そこには、見覚えのないアプリアイコンがいくつも並んでいる。

 

「ん? お姉ちゃん、このアプリはなんですか?」

 

「これはVアイドルという……いわゆるVTuberが沢山見れるアプリですね。可愛い人が沢山いて癒されます」

 

悪びれる様子もなく説明するお姉ちゃん。画面を傾けて見せられると、そこにはアイドル風のキャラが配信中の姿を並べていた。

 

「へぇ〜……ふーん……」

最初は無難に相槌を打った私だったが、スクロールするうちにさらに妙なアプリを見つけてしまう。

 

「ん? ちょっと待って……」

 

私は身を乗り出し、指で画面をスライドさせる。

 

「このアプリはなんですか?」

 

「ああ、それは動画編集アプリですよ」

 

「VTuberやってます?」

「VTuberやってないですよ」

 

質問を投げても、返ってくるのは即答の否定。しかし、その様子が逆に怪しい。

 

「じゃあこのアプリは?」

「ああ、それは“配信サムネ作成メーカー”ですよ」

 

「VTuberやってます?」

「VTuberやってないですよ」

 

……いや完全に怪しい。

 

「このアプリはなんですか?」

 

「ああ、それは“ボイスチェンジャーPRO”ですよ」

 

「VTuberやってます?」

「VTuberやってないですよ」

 

………………

 

「……このアプリはなんですか?」

 

「ああ、それは“コメントビューアー”と言って、視聴者のコメントを読みやすく──」

 

「やってますよね!???」

「やってません!!!」

 

お姉ちゃんは必死に否定し、スマホを抱きしめて布団の上を転げ回る。

 

私は鋭く睨みつけた。

 

「じゃあなんで配信者が使うアプリばっか入ってるんですか!?」

 

「配信の切り抜きですよ!!」

 

「嘘つけ!!それならボイスチェンジャーいらないでしょ!!!」

 

追及に追及を重ねると、お姉ちゃんは一瞬口ごもり、苦しい言い訳をひねり出した。

 

「……あれは……声真似の練習用です」

 

「誰の声真似!?」

 

「人気の猫型ロボットとか……」

 

「嘘が下手すぎる!!!」

 

「お姉ちゃんの猿真似なんて需要どこにもないですよ!」

 

「誰が猿真似ですか失礼な!」

 

ヒナ委員長も腕を組んでにらみつける。

 

「隠しても無駄よ。VTuberやってるなら正直に言いなさい」

 

「だからやってませんってば!!!」

 

お姉ちゃんは布団の上でジタバタしながら、子どもみたいに必死に否定し続ける。

 

その時だった。

スマホの画面がふっと明るくなり、通知が表示された。

 

──《現在3500人の視聴者が待機中です》

 

「………………」

 

空気が一気に凍りついた。チナツは眼鏡の奥で目を細め、ヒナ委員長はゆっくりと腕を組み直す。

 

「……これはもう、言い逃れできませんね」

 

「やっぱりVTuberやってるじゃない」

 

二人の視線に、お姉ちゃんは狼狽しながらも必死に首を振った。

 

「ち、違います!!これは、その……!自動で流れる広告みたいな……!!」

 

「3500人が待機する広告があるわけないですよね!?」

 

私が叫ぶと、さらに空気がピリついた。

 

「ち、違うんですってば!!」

 

お姉ちゃんは布団に潜り込み、声だけを張り上げる。

 

「お姉ちゃん!別に怒ってるわけじゃないんですから!名前くらい教えてくださいよー!」

 

必死に布団をめくろうとする私に、全力で拒む声が返る。

 

「やめてください! 絶対に言いませんから!」

 

「じゃあやっぱりやってるんじゃないですか!!」

 

「やってませんってばぁぁぁ!!!」

 

押し問答は果てしなく続いたが、お姉ちゃんは最後まで頑なに口を割らなかった。

3500人待機の通知を見られても、怪しいアプリの山を突きつけられても、ひたすら「やってない」の一点張りだ。

 

「わ、私は温泉にいくので!!それでは!!!」

 

「あっ!!ズルいですよお姉ちゃん!!」

 

そう叫ぶ私を置き去りに、お姉ちゃんは脱兎のごとく飛び出していった。

障子がバタンと閉じ、部屋にはまた奇妙な静けさが戻る。

 

「……逃げたわね。別にやってても不思議じゃなかったけど」

ヒナ委員長がため息をつく。

 

「まあ、あれだけ証拠がそろってるのに否定し続けるなんて……逆に確定だと思いますけど」

 

チナツは冷静にそうまとめる。

 

「いや、あれはもう黒だろ。というか3500人待機中って相当だぞ」

 

イオリが枕に顔を押しつけながら冷ややかに言った。

確かに3500人待機中って普通に凄いのでは?

 

私は布団に戻り、天井を見上げる。

胸の内にわだかまるものが消えず、思わず小さく呟いた。

 

「……お姉ちゃんがVTuberだったなんて……まさか……」

 

呟いたものの、結局真相は闇の中だ。

 

その後、お姉ちゃんは温泉から戻ってきても「やってない」の一点張りで、誰が何を言ってもはぐらかし続けていた。

 

 

今後はどんな話がみたい?

  • ブルアカ本編のストーリーに介入
  • ギャグ路線で暴走
  • アコとカナの百合展開
  • カナの空白の10年間
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