天雨カナという存在について   作:BRだんちょ 

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通知334件、お姉ちゃんは今日も元気です

朝の光がゲヘナの街並みをぼんやり照らしていた。

そんな中、私はお姉ちゃんの背中を見つけた。相変わらず無言で通学路を歩いている。落書きとゴミと騒がしさに満ちた道の中で、お姉ちゃんだけが浮いて見えた。背筋はまっすぐで、歩き方まで整っていて……正直、目立ちすぎる。

 

しかも制服も独自仕様、鞄すらない。完全に手ぶらで登校なんて、ゲヘナじゃまず見かけない。

 

「──あっ、いたっ!!」

 

私は小走りで駆け寄って、そのまま勢いよくお姉ちゃんの腕にしがみついた。

 

「わっ……アコですか。おはようございます」

 

「おはようございます……じゃないですよ!!なんですか昨日のモモトークは!」

 

眉間にしわを寄せて怒鳴る私を見て、お姉ちゃんは目を瞬かせる。

 

「えっと……ちゃんと見てくれたんですね」

 

「ええ!お陰で寝不足ですよ!なんですか通知334件って!やりすぎですから!!」

 

「ごめん……なさい」

 

しゅん……と肩を落とすお姉ちゃん。あまりにも素直すぎて、私は思わず言葉を飲み込んでしまった。

 

「っ……!」

 

ずるい。そんな顔されたら強く出られないじゃない。

仕方なくため息をついて、小声で言う。

 

「とにかく!今後のやり取りは必要最低限でお願いします」

 

「……わかりました」

 

お姉ちゃんは素直に頷いたけど、横顔はちょっと不満そう。

 

「……“最低限”というのは、たとえばアコが寝たかどうか、朝ごはんを食べたか、転倒していないか、今日の空模様がアコに似ているかどうか……」

 

「違います違います違います違います違います!!!」

 

私の全力否定が通学路に響き、近くのカラスがバサッと飛び立った。

 

「モモトークってもっとこう……必要なことだけ送るものなんですよ!“明日は集合場所に8時です”とか“ノート貸してください”とか!!」

 

「……わかりました。では、次からは“集合時間に空がアコに似ていた”とだけ……」

 

「もういいです!!!ってかなんで毎回空と私を重ねるんですか!?」

 

思わず両手で顔を覆ってうずくまる私。その横で、お姉ちゃんは何がいけなかったのか分かっていない顔をしている。

 

「アコ……ぴえん?」

 

「微妙に古いネットスラング使わないでください!!」

 

本当にもう……でも、嫌いじゃない。

私はこっそり横目でお姉ちゃんの顔を覗き見た。相変わらず表情は薄いけど、どこか穏やかで、嘘がない。ただひたすら純粋なんだ。

 

(黙っていれば……美人なんですけどね……)

 

心の中だけで毒を吐く。

 

「そういえば、昨日から気になっていたんですが……お姉ちゃんの銃はどこにあるんですか?」

 

「銃……?持ってないですよ」

 

「はぁ!?!?」

 

思わず大声を上げた。周囲の数人がチラッと振り返る。

 

「改めて……周りを見て思いましたが、ここではアコの言うように銃を持ち歩くのが主流なのですね」

 

「“ここでは”って……キヴォトスで手ぶらなんてまずいませんよ!?特にゲヘナは治安悪いんですから!」

 

「……そうですか。物騒な世の中ですね」

 

いや他人事みたいに言われても……。その口調が妙に真面目だから、逆に説得力あるのが余計に腹立つ。

 

「本当に何も持たなくていいんですか?自分の身を守るのに必要ですよ?銃撃に巻き込まれたらどうするんですか」

 

「……撃たなくても、終わらせる方法はたくさんありますから」

 

「……え?」

 

「銃に頼らない世界も、私は知ってる」

 

その言葉は、妙に重かった。強がりなんかじゃない。……そう思えた。

 

 

そんな会話を交わしたあと、校門をくぐったとたん、空気がザワザワし始めた。

 

「あの人……転校生かな……?」

 

「えっ、なにあの人……すっごい美人……」

 

「行政官と一緒にいる人って……もうそういう関係……?え、尊い」

 

まるで波紋のように、声と視線が広がっていく。

私は肩をビクッと震わせた。

 

「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!なんかすごいことになってますよ!?見られまくってるし、噂されてるし、変なこと言われてるし!」

 

「……“尊い”とは、“尊敬すべき”という意味ですね?」

 

「そ、そういう意味じゃないんですよ!最近の生徒がよく使うやつです!多分あっち系の意味で言われてます!」

 

お姉ちゃんは視線なんか気にも留めず、首を少しかしげる。

 

「……美人って言ってましたね。あれは、私のこと……ですか?」

 

「えっ……ま、まあ、そうじゃないですか?黙ってたら美人ですし……」

 

「ん……」

 

考えるように口元に指を添えるお姉ちゃん。真面目すぎる顔が逆にズルい。

 

「アコ。美人とは“他人の価値観による美の指標”だと思いますが、あなたの価値観ではどうですか?」

 

「え、今の流れで私が評価するんですか!?朝から急に哲学って……!」

 

「率直にお願いします」

 

「えー……そ、それはまぁ……お姉ちゃんは……綺麗ですよ……」

 

しぶしぶ言うと、お姉ちゃんは小さく微笑んだ。

 

「……アコの方が綺麗ですよ」

 

「な……っ!?!?!?そ、そそそそんなセリフ、どこで覚えたんですかああああっ!?!?!?」

 

私は飛びのいて、人差し指を突きつける。

 

「?」

 

「ホントにもう……!私は行きます!お姉ちゃん、やることないなら風紀委員会にでも見学に来てください!」

 

「……うん、また後で」

 

ふっと微笑むお姉ちゃんに、私はまた顔を赤らめながら足早に立ち去った。

 

 

(なにが「アコの方が綺麗ですよ」ですか……!あれ、絶対どこかで聞きかじっただけに決まってます!)

 

ロッカーをバタンと閉め、私は歩き出す。

 

「おはようございます、行政官」

 

「あ、おはようございます」

 

後輩たちの明るい声に、私は慌てて笑顔を作った。

 

「なんか今日は朝から顔赤くないですか?」

 

「そ、そうですか!?気のせいです!」

 

(……お願いですから誰もさっきの会話を聞いてませんように……)

 

心の中で祈りながら、教室へ足を進める。

 

 

その頃。お姉ちゃんは昇降口の掲示板に目を止めていた。

 

「……“生徒会主催・新入生自己紹介シート”……?」

 

・名前

・所属委員会

・得意科目

・趣味

・ひとこと

 

スラスラと書き込むお姉ちゃんの姿を、生徒たちがぽかんと見つめていた。

 

【名前】天雨カナ

【所属委員会】招待制かと思っていたのですが、違いましたか?

【得意科目】哲学、意味論、自習(※教科外)

【趣味】アコに関する観察と記録

【ひとこと】“自己紹介”とは、過去に囚われる行為でもあります。

 私は私ですが、明日には別の意味を持つかもしれません。

 なお、アコは今日も可愛いです

 

──昼休み、私の耳にはこの“自己紹介シート”の噂が、しっかり届いてくることになるのだった。

 

今後はどんな話がみたい?

  • ブルアカ本編のストーリーに介入
  • ギャグ路線で暴走
  • アコとカナの百合展開
  • カナの空白の10年間
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