天雨カナという存在について   作:BRだんちょ 

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いつの間にかお気に入り1000突破してました!ありがとうございます!
まあ最近は投稿する度にお気に入りが減るんですけどね


ようこそゲヘナマートへ

……なんか、空気が重い。

 

いつもの風紀委員室のはずなのに、どこか息が詰まる。

書類の山はいつも通り、私の机の上にちゃんと積まれてる。アコもいつも通り、ソファに座ってる。

 

「…………」

 

……見てる。

めちゃくちゃ見てる。ずっと。

 

(私……何かしたっけ?)

 

視線だけで圧をかけてくる感じ。じわじわと精神力を削ってくるタイプのやつ。

この前の旅行のときからちょっと様子おかしいとは思ってたけど、今朝のアコは完全に「なにかあった」顔してる。

 

しかも、怖いのは怒ってるとか泣いてるとかじゃなくて──やけに穏やかな笑顔で、じっとこっちを見てること。

 

(なにがあったんだろ……いや、聞くのはやめとこ)

 

こういう時は刺激しないのが一番。

……カナが何故か来てないのも気になるけど、それが関係してるのかどうかは、まだ分からない。

 

「……ちょっと見回り行ってくる」

 

そう言って、私は席を立った。

 

「お姉ちゃんを見かけたら教えてください」

 

アコの声が、すぐ背後からふわっと耳にかかる。近い。近すぎる。

 

「……っ!」

 

反射的に振り返ると、さっきまでソファにいたはずのアコが、いつの間にか私のすぐ後ろに立っていた。

 

(え、近ッ!! なんでそんなホラー演出みたいな距離で立ってんの!?)

 

思わず半歩後ずさったけど、気づかれたくなくて咄嗟に平静を装う。

 

「……え、ええ。見かけたらね」

 

なんとか答えて、私は風紀委員室を後にした。

背後に刺さるような視線を感じながら、ドアを閉める。

 

(……マジでなんだったのあれ)

 

思わず廊下でため息が漏れる。なんか、心臓に悪い朝ね……。

 

そんなことをぼんやり考えながら外に出たとき、不意に視界に入ったのは、赤と黒の妙に目立つ看板。

 

『ゲヘナマート』

 

(……え、こんなとこにコンビニなんてあったっけ?)

 

どこかで見たような気もするけど、確信が持てない。

妙な既視感に引っかかりながら、私はそのままふらっと自動ドアの前に立っていた。

 

(ま、いっか。飲み物でも買ってこ……)

 

ウィーン

 

ピロリロリロリ……

 

「いらっしゃいませー。ゲヘチキ揚げたてです。いかがでしょうか〜」

 

「カナ!?」

 

思わず声が裏返る。

 

レジカウンターの向こう、今日欠席だったはずのカナが、エプロン姿で立っていた。

 

「おや?ヒナさん。来たんですか」

 

「……あんた、ここで何してんのよ」

 

「見ての通りですよ。アルバイトというやつです」

 

カナは淡々といつものような調子で答える。

 

「カナがアルバイト……!? 意外ね」

 

正直、てっきり今日は寝てるかYouTubeでも見てるかだと思ってた。

 

「たまには社会経験でもしてみようかと思いまして」

 

「ふーん……まあ、いい心がけだけど」

 

私は棚からペットボトルのお茶を一本取り、ついでに揚げたてって言ってたゲヘチキなるものも手に取る。

 

「じゃあゲヘチキと、このお茶を買おうかしら」

 

「かしこまり!!」

 

なんでちょっと嬉しそうなのよ。

 

カナは無表情のまま、レジに商品を通す。

 

「──お会計、360円です。お支払い方法が現金か身体で選べますが──」

 

「誰が身体で払うのよ。現金に決まってるでしょ!」

 

「あとPAIPAIが使えますけど」

 

「おっさんみたいなギャグやめてくれる!?恥ずかしいから!」

 

「いやでもヒナさんのその胸に比べたら恥ずかしくは──」

 

「うっさいわよ。あんたも似たような胸でしょ!」

 

またこのやり取り……何回目よ。

 

「そういえば、当店に来られるのは初めてですよね」

 

「最初で最後よ」

 

「……当店の会員カードはお持ちですか?」

 

「持ってないわよ。初めてきたんだから」

 

「すぐに作れますけど作りますか?」

 

「いらない。なんか面倒くさそうだし」

 

その瞬間、カナの表情が一瞬だけ止まった。

無表情なはずなのに、空気が変わったのがわかる。なんか、スイッチが入った感じ。

 

「……“面倒くさい”ですか」

 

「まあ、別にポイントとか興味ないし」

 

軽く流したつもりだったけど、カナはカウンター越しにじり……と、一歩前に出た。

 

「ヒナさん。ポイントカードを作るというのは、単なる買い物の延長ではありません」

 

「……なによ急に」

 

「それは、人生の投資です」

 

「でっかく出たわね!?」

 

カナはチラシを手に取ると、まるで神の啓示のように掲げて読み上げる。

 

「会員カードを作ると、ドリンクが無料で1本貰えるんです」

 

「しょぼ」

 

「そうですか?じゃあこちらのゲヘナポイントカードはいかがですか?」

 

「なにそれ」

 

すると、カナは一枚の銀色に輝くカードを取り出した。

 

「ゲヘナで事故や銃撃に巻き込まれることってよくありますよね?」

 

「まあ日常茶飯事ね」

 

「事故や銃撃に巻き込まれると、一ポイント貯まります」

 

「発想がゲヘナなのよ。で、そのポイントがどうしたの?」

 

「百ポイント貯めると、次回の銃撃時にドリンク一本無料です」

 

「ドリンクいらないから助けなさいよその時は!!」

 

「そしてなんと!会員様限定で、お弁当ご購入のお客様には、割り箸一本のところ二本サービスで──」

 

「いらない」

 

私は財布から1000円を取り出して突き出した。

 

「ほら、早く会計して」

 

「はい、1000円ちょうど──」

 

「ちょうどじゃないでしょ!お釣り寄越しなさい!!」

 

「……640円のお釣りになります。10円玉5枚でもいいですか?」

 

「だめ。足りないでしょ圧倒的に」

 

私はふぅっと大きく息を吐く。なんでこんな疲れてるの私。

 

「……もういい。カードは作らない」

 

「そうですか」

 

お釣りを受け取り、ようやく開放されたとホッとした瞬間。

 

(……あ)

 

(やば、化粧がちょっと……直した方がいいかも。先生に会うかもしれないし……)

 

「カナ、少しお手洗い借りていいかしら?」

 

「構いませんがレジ袋有料になりますけど」

 

「誰がレジ袋にするって言ったのよ!!違うから!!少し化粧直しするだけだから!!」

 

私は急いでお手洗いにいくと、鏡の前で息を整えながら、眉をひと撫で、リップを塗り直す。

 

(……よし、こんなもんでいいでしょ)

 

レジに戻ると、カナはまだ同じ姿勢で立っていた。例の無表情。……だけど、どこかちょっと考え込んでるようにも見える。

 

「カナ、後でちょっと話せる?」

 

「大丈夫ですよ。夜勤だったのでもう上がりですから」

 

「そう。じゃあ外で待ってるわ」

 

「はいー」

 

数分後、制服に着替えたカナがゲヘナマートから歩いてくる。

 

「お待たせしました〜」

 

「……夜勤明けなのに悪いわね」

 

「いえ、別にそんなキツくないですから」

 

店を出たカナと並んで歩きながら、私は腕を軽く組んで空を仰ぐ。

 

「で、カナがバイトってどういう風の吹き回しよ」

 

「いやあ……社会経験という名の“現実逃避”ですね」

 

「現実逃避?」

 

「ええ。アコから」

 

「……やっぱり」

 

いつものギャグ顔じゃなくて、ちょっとだけ真面目な横顔。

 

「先週の温泉旅行から、なんかおかしいですよね」

 

「うん……今朝なんてもう完全にホラーだったわよ。距離近いし、変に笑ってるし、首元に息かけてくるし」

 

「それはそれで羨ましい──」

 

「黙りなさい」

 

軽く肘で小突くと、カナは素直に黙った。

 

歩きながらゲヘナの街路を見回す。

朝早いのに生徒はちらほらいて、どこか日常的な喧騒が広がってる。

 

「……で、あんたの方は? アコと何かあったの?」

 

私は道の途中で歩調を合わせながら、なるべく自然な声で切り出す。さっきからカナの顔つきが少し気になっていた。いつもの軽薄なようで読めない感じじゃなくて、どこか少し疲れてる。

 

カナは手元のペットボトルを振りながら、すぐには答えなかった。

 

「……まあ、ありましたね。あった? うーん……まあ、そうですね」

 

なんだその煮え切らない反応。

 

「なにその曖昧な返し。あったの? なかったの? どっちよ」

 

「先週からずっと私の家にいるんですよ。アコが」

 

「先週から???」

 

思わず声が裏返った。思ってた以上にヘビーだった。

 

「はい。片時も離れようとしないんですよ。まあ、私としては悪い気はしないのですが……でも……」

 

言い淀むその声には、妙な含みがある。

 

「……でも?」

 

「……ちょっと、限度を超えてる気がしなくもないですね」

 

カナの口調は穏やかだったけど、その目元にはわずかにクマができていた。やっぱり疲れてる。

 

「朝起きたら枕元にいるとか、お風呂から出たらドアの前で待機してるとか……」

 

「それ、監視されてるじゃないのよ」

 

私の声も思わず低くなる。

 

「風呂入ってる時も、ドア越しに“お姉ちゃん溺れてないですか?”って1分ごとに聞いてきます」

 

「こっっわ……」

 

思わず足を止めてカナの顔を見たけど、当の本人は平然としていた。というか、どこか呆れたような顔すらしてる。

 

「ヒナさんも感じてると思いますけど……最近のアコって、ちょっと過剰じゃないですか」

 

「うん。私もなんとなく……ううん、明確に“異常”って感じてるわ」

 

思い返せば、旅行のときもなんとなく空気が違った。

私は、どこかで “甘え”とか “姉への執着” みたいな、微笑ましい範囲って片付けてた。

 

「でも、よくよく考えたら……そっちの方が自然なのかもね」

 

「……と、言いますと?」

 

カナが小首を傾げる。

 

「だってアコ、10年もカナと離れてたんでしょ?」

 

その言葉に、カナは小さく息を呑んだ。

 

「アコの話では……カナがいつの間にかどこかに行って行方不明って……そりゃ、考えてみれば、愛する家族が10年間音信不通だったのに、帰ってきたんだからもう二度と離れたくないって思うのは、普通のことよね」

 

私の口から出たのは、ただの推論。けれど、それは確信にも近かった。

 

「……カナに何があったのかは知らないけどさ。アコに、少しは説明とかしたの?」

 

そう問うと、カナは足を止め、下を向いたまま黙り込んだ。

 

「……してないのね」

 

私が静かに言うと、カナは小さく頷いた。

 

「その反動よ。カナがまたどこかにいなくなっちゃうんじゃないか、って思いが積もりに積もって、旅行中に爆発しちゃったのよ」

 

「話したら……アコに嫌われる気がするんです」

 

「嫌われる?」

 

なんでよ、と自然に口が動いた。

 

「それは……私が帰れなかった理由が、アコの想像とあまりにもかけ離れてるからです」

 

自嘲気味な笑みを浮かべるその横顔は、まるで何かを諦めてるみたいに見えた。

 

「……人は見かけによらないわね」

 

「どういうことです?」

 

「バカだけど、バカじゃないってことよ」

 

カナはその言葉に、ふっと目を細めた。

 

「それ、褒められてるんですか?」

 

「皮肉よ」

 

「でしょうね」

 

それでも、その顔は少しだけ安心したような、そんな笑みだった。

 

しばらくの沈黙。私たちは校舎の裏を抜けるように、ゆっくり歩き続ける。

 

やがてカナが一歩前に出て、ふっと立ち止まった。

 

「でも、原因は私だけではないとは思いますけどね」

 

「ん?」

 

「アコのクソデカ感情はヒナさんに対して向けられてるんじゃないですか?」

 

「なんでよ」

 

「この前言われましたもん。“もし、万が一、ヒナ委員長に何かしたらその手を切り落としますからね”って」

 

「おっかないわ」

 

本当に、刃物とか隠し持ってないでしょうね……?

 

「まあ、単なる憶測でしかありませんけど……一回精神科でも連れていきますか」

 

「精神科って……アコが大人しく行くとは思えないけど?」

 

「私に作戦があるんです」

 

「作戦?」

 

カナがクスッと笑う。なにやらろくでもない予感しかしない。

 

「……具体的には、まだ秘密です。でも成功率は80%くらいですね」

 

「へえ。……で、その20%の方に転がったら?」

 

「多分私が入院します」

 

「ダメじゃん」

 

やれやれ、と私は呆れたように息を吐く。けどその横で、カナはまるで楽しんでいるようだった。

 

不安も、怖さも、全部冗談に変えて、軽口で包んで――それが、あの子の“生き方”なんだろうなって思った。

今後はどんな話がみたい?

  • ブルアカ本編のストーリーに介入
  • ギャグ路線で暴走
  • アコとカナの百合展開
  • カナの空白の10年間
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