補習授業部──。
その名前だけ聞けば聞こえは柔らかいが、実態はもっと重い。
落第に片足を突っ込んだ生徒をかき集め、半ば強制的に学力を引き上げるための特例部隊。
教室の空気は妙に生ぬるく、どこか“諦念”の香りが混ざっていた。
黒板の端には粉の白さが残り、窓際には少し場違いなほど明るい日差しが差し込んでいる。
その静けさの中で、五つの名前だけがやけに鮮明だった。
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『阿慈谷ヒフミ』
おどおどした肩越しに、控えめな雰囲気がにじみ出ている。
ノートは几帳面で、字もきれい。
──それなのに補習。理由は単純明快、“ペロロのライブに行くために試験をすっぽかした”一点のみ。
この部屋でいちばんまともな人材と言って差し支えない。
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『白州アズサ』
新しく転校してきたばかりの生徒。
学習意欲は高いが、前の学校との授業進度が噛み合わず、試験で大きく転んだらしい。
静かで落ち着いた瞳が印象的だが、補習対象なのは紛れもない事実だ。
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『浦和ハナコ』
歩く18禁。
説明は……まあ、これ以上いらないだろう。
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『下江コハル』
正義実現委員会所属。
しかし実態は、単純に“馬鹿”。
その“馬鹿”すら自己申告ではなく、周知の事実という点が悲しいところである。
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そして──
黒板の最後に書かれた名前。
『羽沼カナ』
………………
一文字一文字が、そこだけ別のフォントに見えるほど“異物感”を放っていた。
四人の視線が、ゆっくりと横一列に揃ってカナへ向く。
静かで、重く、深い沈黙。
カナは椅子に沈み込み、両手で顔を覆った。
(なぜ私はここにいる!?!?)
心の悲鳴とは裏腹に、教室は穏やかすぎるほど静かだった。
外から鳥の声すら聞こえてくる。
カナは小刻みに頭を抱えながら、必死に思考を整えようとする。
(……落ち着け……落ち着け私……
まず状況を整理しよう……)
深呼吸ひとつ。
今日に限って肺がいつもより忙しい。
四人は息を飲んだままカナの様子を見守っている。
まるで新種の珍獣でも観察するかのように。
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(1. ティーパーティーに呼ばれた理由)
脳裏に蘇るのは、つい数時間前の“白い世界”。
──白いテラス
──白いティーセット
──白い制服
──そして、白い笑みを浮かべるナギサ
完璧な調和。優雅な空気。
そこに飛び込んできたのは、太陽みたいに明るいピンク髪──ミカ。
だが、その裏には目だけが笑っていない“猛獣”の気配。
そして自分がナギサさんに吐いた、意味深っぽい謎セリフ。
『ティーパーティーの皆さんが、私を“調べたい”という意図は……もう十分分かりました』
(…………)
(あの時の私は……何を気取ってたんですかね……??)
調子に乗ってめっちゃイキってた私自身を殴りたい。
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(2. そして最大の原因)
ミカの顔。
ピンク色の髪。
太陽みたいな笑顔。
──その瞬間の自分の不用意な口。
『ああ、ゴリラもケーキとか好むんですね』
(…………死刑でしょ)
(いや、仕方ない。仕方ないんです。あの人、手首掴んできた時の握力……普通に指落ちるかと思いましたし……)
カナがひとりで心の中で土下座していると、
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ヒフミが、小鹿みたいな慎重さで声をかけてきた。
「あ、あの……カナさん?」
カナは苦しげに顔を上げる。
「……なんでしょうか」
ヒフミは指を突き合わせ、恐る恐る尋ねた。
「きょ、今日……転校してきたばかり……ですよね……?」
「はい」
「なのに……なんで補習授業部に……?」
(私も聞きたいですよ)
心の叫びは届かない。
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カナは深く息を吸い、腹を括るように視線を四人へ向けた。
「……思いますよね?」
「……はい」
ヒフミはコクリと頷く。
カナは静かに告げる。
「……私が“ピンクゴリラにケンカを売り”……
さらに“意味深っぽいセリフを適当に吐きながらイキってしまった結果”……」
「ちょっと何言ってるのか分からないですね」
ヒフミは本気で戸惑っていた。
そのタイミングで、コハルが鼻で笑った。
「あはは!
前の学校で成績悪かっただけでしょ!
ただ馬鹿なだけじゃん!」
その一言で、空気がわずかに動く。
カナはゆっくりそちらを向き、丁寧な微笑みを浮かべた。
「……なるほど。そういう考え方なんですね、コハルさん」
「えっ? な、なに?」
「“勉強ができない=馬鹿”。
そういう認識をお持ちなんですね?」
「そ、そりゃまあ……ある程度は?」
「そうですか」
カナは優雅に頷くと、あっさり言った。
「じゃあ──あなたは、どうしてここに?」
「えっ?」
「あなたの学力不振は、誰のせいなんですか?」
一瞬、風も音も止まった気がした。
コハルは口をパクパクさせる。
「え、いや……えっと……」
「前の学校でも、転校でもありませんよね。
“自分自身の問題”ですよね?」
「っ……!」
カナは優しい声のまま、淡々と続ける。
「私は今日転校してきたばかりで、色々と誤解を生む行動をしてしまいました。そこは反省しています」
ヒフミが息を呑む。
「でも、“勉強できない=馬鹿”と一括りにするのは……
あまり賢いやり方とは思えません」
淡々とした口調なのに、刃のように鋭い。
「……!」
「だって、そう言った瞬間に──
あなた自身にも、その言葉が突き刺さりますから。
このメンバーの中で一番学力低そうですし」
「ぎゃあああああああ!!」
コハルが机に突っ伏して発狂した。
「うるさいわよ!!
一番馬鹿なのは私じゃなくてハナコでしょ!?
この前のテストだって二点だったじゃん!!」
ハナコはあっさり返す。
「あら、コハルさんも十点とかでしたし、あまり差は無いと思いますけど」
「私は正義実現委員会で忙しいの!!授業に出られない日が多いだけで!!」
「言い訳乙です」
「なんなのよさっきからぁぁ!!」
その時、アズサが静かに手を挙げた。
「カナの言う通りだ。
授業に出られないのは他の正義実現委員会も同じ。
けれど、補習に呼ばれてるのは……コハルだけだ」
「うぅ……っ」
さらに追い打ちをかけるように、ハナコがニコニコしながら言った。
「つまりアズサちゃんの言いたいことは〜、
“コハルちゃんが圧倒的にバカ”ってことですね〜?」
「まあ、否定はできない。悲しい現実だ」
「うるさいなぁ!?そんな事言ったらみんな同じじゃん!!私がバカなら全員バカよ!!」
「あはは……それは、えっと……」
「……そういう乱暴な“巻き込み型の理屈”はやめた方がいいですよ」
「はあ!?なにそれ!!」
「だって今の言い方だと、
“自分がバカなのは認める。でも巻き添えがほしいから全員バカ扱いする”
っていう、とても分かりやすい迷走にしか見えませんから」
「ぐっ……!」
カナはサラッと言葉を続ける。
「それに、自分より上に見える人まで“バカ”と言うのは、結局自分の立場を下げるだけです。コハルさんの場合、ただでさえ低いのに」
「なんでそんなに刺してくるのよあんたぁぁぁ!!」
コハルは涙目になりながら机に沈んだ。
カナは淡々と、むしろ申し訳なさそうな声音で言葉を継いだ。
「まあ、コハルさんの言うように、私もバカです。同じバカ同士……がんばりましょう」
「慰めてる感出してるけど失礼の上乗せだからねそれ!?」
机に額を押しつけてジタバタ暴れながら、コハルは涙目でカナを睨む。
「なんで“同じバカ同士”みたいな空気で仲間ヅラしてくるの!?
あんた今日来たばっかりでしょーーー!!」
「そうですね。でも、事実は事実ですから」
カナはまるで天気の話でもするみたいに、平然とした声で返す。
その態度が火に油を注いでいると全員が理解したが、
“本人だけがまったく気づいていない”というのがこの状況の地獄みたいな面白さだった。
「だ、だいたい……っ!
初日から補習授業部送りになるやつなんてあんたくらいなんだから!!」
コハルは涙目で吠える。
だが、カナは視線をずらしながら、淡々と答えた。
「……それは、まあ……そうですが」
「“そうですが”じゃないのよ!!反省の色薄すぎ!!」
コハルの悲鳴が響く中、
カナは首を傾けて淡々と真理を述べる。
「でも、今日からここにいるということは……
つまり私は“あなたたちと同じ側”なんですよね?」
「同じ側って言うなぁぁぁ!!」
「コハル、残念だが今のカナの方が論理的だ」
「アズサも敵ぃぃ!!」
そしてハナコはというと──
なぜかじっとカナを見つめて、ふっと優しく笑った。
「カナさんって……面白いですね〜」
「面白い……ですか?」
「はい。たぶん、頭の良さの方向がちょっと違うタイプって感じです。ほら、例えるならコハルちゃんに◆※◎△■×★◇▽● ■■◇◇※※◆◆◎◎」
「ハ、ハナコ!?エッチなのは駄目!!死刑!!」
「?ヒフミ、なんで急に耳を塞ぐんだ?」
「アズサちゃんは絶対聞いちゃダメです!!カナさんは……!」
「…………???」
(((そもそも言葉の意味を知らない……?)))
今後はどんな話がみたい?
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ブルアカ本編のストーリーに介入
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ギャグ路線で暴走
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アコとカナの百合展開
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カナの空白の10年間