──昼休み。
私は風紀委員会の教室で書類をまとめていた。すると、息を切らした後輩がバンッと駆け込んできた。
「行政官っ……!あの……自己紹介シート、見ましたか……!?」
「自己紹介シート……?あぁ、今朝の提出分ですか。なにか──」
言いかけた瞬間、嫌な予感が頭の奥にズギュンと突き刺さった。
「……もしかして、お姉ちゃんの?」
後輩は無言でこくり。
私はペンを放り投げ、小走りで昇降口の掲示板へ。
そして──目に入ったのは。
【趣味:アコに関する観察と記録】
【ひとこと:なお、アコは今日も可愛いです】
「何やってるんですかあああああああああああっっ!!!!!!!」
私の絶叫で、廊下の喧騒がピタッと止まった。
掲示板の前にいた生徒が飛び退き、私は目を見開いたまま紙を凝視する。
(ダメですこれ……思ってた3倍はヤバいやつです……!!)
背後から突き刺さる視線とヒソヒソ声。
「観察と記録って……なにそれ恋……?」
「“今日も可愛い”って……やば……」
うううっ、消えたい。
──その時、背後から声。
「……アコ、来ていたんですね」
「うわああああああっ!!!???」
振り返ると、噂の張本人──お姉ちゃんがまっすぐな目で立っていた。
「お姉ちゃん!?!?!?なんで堂々と立ってるんですか!?」
「……自己紹介とは、存在証明ですから。堂々とするのが礼儀だと……」
「いやそういう問題じゃなくて!!!」
私は思わず頭を抱える。
「お願いですから、“観察と記録”のくだりは削除してください!!」
「それは困ります。毎日書いてるので」
「記録!?いつの間に!?やめてください気持ち悪いです!!」
「……“気持ち悪い”という表現は感情的すぎますね。“過度な執着を覚える”とか、“プライバシーの侵犯の恐れがある”とか──」
「そういうとこですよ!!!」
「……ふむ。では言い直します。“アコは今日も、過度な可愛さを備えています”」
「なんで自分の都合のいい方向に変換するんですかあああああ!!!」
私はシートを剥がし取り、顔を真っ赤にしながらお姉ちゃんを引きずって教室まで連行した。
⸻
「もう……!今日も問題ばかり起こすなんて……」
「アコの喜ばせ方が分からなくて……」
「気持ちは嬉しいですが、ほどほどにしてください!……というかお姉ちゃん、お昼まだですよね?よかったら一緒にどうですか?私の分も──」
「お昼はもう済ませました」
「え?はやいですね。何食べたんです?」
「これ」
お姉ちゃんがポケットから出したのは銀色のケース。中には錠剤が整然と並んでいた。
「え?薬……?体調悪いんですか?」
「私の食事ですよ」
「えっと……すいません、訳が分からないんですけど」
「これ一粒で必要な栄養素は全て取れます。一日三粒で十分です」
「……それ、一日三粒で?」
「はい。味はしませんがお腹も減りません。優秀です」
「……でも、おいしくないですよね?」
「味は、必要ですか?」
「必要ですっ!!」
私は思わず机を叩いて立ち上がった。
「だって!美味しいもの食べてる時って、ちょっと幸せな気持ちになるじゃないですか。そういうの、大事です!」
「幸せ……」
お姉ちゃんは、まるで初めて聞いたように目を細めた。
「その発想はありませんでした。私の食事は“命を繋ぐ工程”なので……」
「怖いこと言わないでください!昔は一緒におやつとか食べてたじゃないですか!どんな十年過ごしたらそんなことになるんですか……」
私は眉をひそめて、お弁当からウインナーを一本つまみ上げた。
「ほら、食べてください。美味しいですから」
「……錠剤以外を口に運ぶのは抵抗が……」
「うるさいですよ!私が作ったんですから美味しいに決まってます!」
そのまま口に押し込んでやった。
ぱくっ。もぐ、もぐ……。
「…………」
お姉ちゃんの目がふるえ、そして──
「……あっ」
ぽろりと涙が落ちた。
「なんで泣くんですか!?まずかったんですか!?」
「いえ……味覚の刺激と共に……何かこう……記憶の断片が……遠い日のぬくもりが……」
「壮大な回想に使わないでください!普通のウインナーです!!」
「でも……確かに……温かいですね」
「朝作ったんで冷めてますよ!……もう、そうなると思って、お姉ちゃん用のお弁当も作ってあります!」
私は包みを差し出す。お姉ちゃんは宝物みたいに両手で受け取った。
「アコ……ありがとうございます。食事とは……いいものですね」
「今更ですか!!」
「アコ、私もアコみたいに料理ができるようになりたいです」
「興味湧くスピード早すぎでは?」
「今度は私が作ります!」
「食べられるもの作ってくださいね?」
──昼休み後、風紀委員会室。
お弁当を食べ終えたお姉ちゃんが、空になった箸箱を丁寧に拭いていた。私はコップを片手に、ふと思いついて声をかける。
「……ところでお姉ちゃん」
「なんでしょう。次は“間食”という儀式ですか?」
「違います!お昼の後はちゃんとお仕事です!」
「……なるほど。食後の運動、つまり“狩り”ですね?」
「どんな学園観ですか!?」
私は椅子から立ち上がり、軽く胸を張った。
「お姉ちゃん、せっかく来たんですから──今日は風紀委員会の仕事、体験していきませんか?」
「風紀を……乱す体験?」
「頭大丈夫ですか?」
額を押さえてため息。ほんと、この人と会話してると寿命縮む……。
「いいですか、体験するのは“乱す”側じゃなくて“守る”側です。守る。わかりますね?」
「……理解しました。“秩序を観測する”側ですね」
「観測って言い方がすでにあやしい!!」
そう突っ込んだところで、扉が開いてヒナ委員長が帰ってきた。書類を片手に、少し疲れた顔。
「……ふぅ……少し外回りが長引い──あ、アコ、それにカナも。どうかした?」
「今からお姉ちゃんに風紀委員会の仕事を体験してもらおうと思っていたんです」
私が明るく報告すると、委員長は一瞬だけ目を見開いたが、すぐに冷静な顔に戻った。
「そうね……興味があるなら構わないわ。見学だけでも十分よ。アコのサポートがあれば問題ないでしょうし」
「はい。がんばルビィ」
「なんで今ふざけたんですか?」
「……心配だから私も着いていくわ」
え、ヒナ委員長直々!? ちょっと笑顔引きつったんですけど!?
「まぁ……確かにヒナ委員長がいれば、多少のやらかしは大丈夫だと思いますが……」
ちらっと横を見る。お姉ちゃんは無表情なのに、やる気だけは妙に全開。
(……いや、不安しかない……!)
「──じゃあ今回は、風紀委員として“軽い揉め事の仲裁”でもやってもらいましょうか」
「任されました。誰一人生きて返しません」
「え?日本語通じてます?」
「?」
「違いますからね!?仲裁です!あくまで平和的解決です!血が流れたりしたら即刻クビですからね!!」
「まあアコがそう言うなら……今回だけですよ」
「ぶっ飛ばしますよ?」
委員長がため息をついてる。ごもっともです。
「……ほんとに大丈夫かしら……」
「ヒナ委員長、お姉ちゃんを信じてください。なんだかんだでこの人、やるときはやるんですから」
「やらなくていい方向にやりそうだから心配してるのよ」
はい、正論。
⸻
──数分後。
腕章をつけて校舎裏へ行くと、二人の女生徒がスタンプ帳を巡って睨み合っていた。
「だからあんたが勝手に使ったんでしょ!?私のスタンプ帳!」
「え!?使ってないって言ってるじゃん!そっちが疑ってかかってきたんでしょ!?」
「あー……ありがちなトラブル……」
私はお姉ちゃんを一歩前に押し出す。
「じゃ、お姉ちゃん。まずは声をかけて落ち着かせてください。優しく、丁寧に、ね?」
「任されました」
お姉ちゃんは静かに二人の間に割って入った。
「……揉めるのはよくないことです。話し合いで解決しましょう」
真っ直ぐに二人を見つめて──
「感情とは、存在の乱反射。怒りをぶつけ合うより、あなたがた自身の“内なる真実”に目を──」
「は!?なにこの人!?」
「なに勝手にスピリチュアル入ってきてんの!?黙ってて!」
お姉ちゃん、逆効果ですから!?
「二人とも、互いを理解する気持ちが足りないのです。“観察”が必要です。まずはお互いの一日の行動を記録して──」
「は!?うるせえよ!こいつが悪いって言ってんだろ!」
「あぁ!?やんのかコラァ!!」
──ガシャッ!
銃が出た。二人同時に。
「……」
お姉ちゃん、固まってる!?
──バンッ!
「うわ!?撃った!?撃ったよね今!?」
「安全装置外してんじゃねぇぞテメェ!!」
銃声が響き、生徒たちが逃げ惑う。花瓶は粉々、非常ベルは鳴り響き、煙が立ちこめる。
その混乱の中で──お姉ちゃんはそっと後ずさり、青ざめた顔で全力ダッシュ。
私とヒナ委員長のところに戻ってきて、一言。
「すみません警察呼んでもらっていいですか?」
「なにやってきたんですかああああああああっっ!!!!!!」
もう無理ですこの人。胃が死ぬ。
今後はどんな話がみたい?
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ブルアカ本編のストーリーに介入
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ギャグ路線で暴走
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アコとカナの百合展開
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カナの空白の10年間