「…………」
「…………」
静寂。
私とお姉ちゃんは、木の葉の陰にしゃがみ込んで身を潜めていた。
お姉ちゃんは眉間に汗を浮かべ、緊張感を漂わせている。
その隣で私は、もう何もかも諦めたように無表情で前を見つめていた。
──ギギッ……ギギギ……
耳障りな金属音が、ゆっくりと近づいてくる。
ヒナ委員長だった。
無言で金属バットを地面に引きずりながら歩いてくるその姿は、処刑人そのもの。
しかも目元には妙な笑みまで浮かんでいて、明らかに誰かを探している。
「……コロス……コロス……」
低く呟かれる言葉と、バットが擦れる音。
完全にホラー映画の演出。
お姉ちゃんの額から、冷や汗がつーっと伝った。
「…………」
「…………」
空気は完全に凍りつく。
そこで私は、口を開いた。
「……さっさと処刑されてきたらどうですか?」
「驚くほど辛辣ですね!?」
小声でこちらに文句を言ってくるお姉ちゃん。
「アコ、お姉ちゃんですよ?もっと情を持ってください」
「いや、完全にお姉ちゃんが悪いじゃないですか……。私が見たときにはヒナ委員長が“カナ”って言ってましたよ」
「ち、違うんです!あれは尊さの極みで──」
「鏡と手紙を仕込んで逃げたの、全部お姉ちゃんですよね?」
「…………ッ」
お姉ちゃんが目を泳がせる。
はい、黒確定。
「その……美しいものに出会った時、人は理性を失って逃げるものなんです……」
「じゃあ覚悟決めてください」
「まだいけます!ヒナさんは寛容な人間ですから!」
「金属バット持ってる人が寛容に見えるとか、すごい視力ですね。てか銃じゃなくてバットって、相当怒ってますよ」
「やばい……このままじゃ“やわらかいお姉ちゃん”が“薄い本のお姉ちゃん”になってしまう……」
「何言ってるんですか」
──ギギッ。止まった。
ヒナ委員長が、すぐそこ、数メートル先の茂みで首を傾ける。
「……そこかしら?」
「ッッ!!」
お姉ちゃんが咄嗟に私の肩を掴んだ。
「アコ……お姉ちゃんのこと、覚えていてね……次に生まれ変わった時も姉妹でいようね……」
「生き残りたいなら、なぜフラグを立てるんですか」
──バサッ!
茂みをかき分けて、ヒナ委員長の顔が現れる。
「…………」
無表情。いや、微笑。いや、もっと怖い何か。
「逃げたわね、カナ」
「ヒェッ…」
お姉ちゃんは反射的に立ち上がり、敬礼した。
「ヒ、ヒナ委員長! 本日は大変お美しく、まるで純白の氷河のような──」
「……逃げた理由は?」
「……」
声が低い。殺意が滲んでいる。
お姉ちゃんの顔からは汗がダラダラ。目は泳ぎまくり。
「ヒナ委員長、お寿司はお好きで──」
「逃げたわよね?」
「はいすみませんでした」
速攻で土下座。地面に額をこすりつける勢い。
「反省してるの?」
「反省しすぎて逆に開き直っちゃう的な?」
「処すわね」
「one more chance please!!」
ヒナ委員長が一歩前に出た、その時だった。
「待ってください」
私が声を上げる。
「確かにお姉ちゃんは、尊さに感情を持っていかれ、鏡と手紙で華麗に逃亡しました」
「うん」
「そしてそれに巻き込まれた私は、無実の罪で処刑されかけました」
「うん、つまり?」
「殺っちゃってください」
「ファッ!?!?」
お姉ちゃんが素っ頓狂な声を上げて振り返る。
「普通今の流れで裏切ります!?」
叫ぶお姉ちゃんを無視して、ヒナ委員長はため息をつき、金属バットを肩に担いだ。
「……アコにも見放されて、ちょっと同情するけど……ほら、さっさとお尻出しなさい」
その一言で、お姉ちゃんの顔は青ざめた。
「金属バットでお尻は絶対ダメですよ!? それに今は履いてな──」
──ヒュッ。
空気を切り裂く音がした瞬間。
パァァァァンッッ!!!
「ア゛ッッッ!!!???」
お姉ちゃんの体がびくんと震え、そのまま地面を転がっていった。お尻に一点集中で直撃したらしく、反作用でくるんと回転してる。
「痛い痛い痛い痛い!! 痛覚がフルオープンしてるんですけど!!? あ、これトゲついてません!?」
「まだ一回目よ」
ヒナ委員長の声は冷たく、静かに響いた。
「は???」
お姉ちゃんが目を見開く暇もなく──
パァァァァンッッ!!!
「んぎゃあああっ!!?」
二撃目。えぐい音。
「アコの分」
「うああああああああああ!!」
さらに──
パァン!「私の分」
パァン!「逃げた分」
パァン!「鏡で誤魔化した分」
パァンッ!「“お姉ちゃん”って言わせた分」
「マジで死にます!! 姉としての尊厳が……!」
地面を転げ回るお姉ちゃんに、私は静かに思う。
(尊厳なんて元からないのでは……?)
「変わった遺言ね」
ヒナ委員長は楽しんでるのか、優雅にバットを回していた。
「いやほんともう勘弁してください」
お姉ちゃんが涙目で懇願すると、ヒナ委員長はさらっと答えた。
「でも、わざわざ屋外に来たのは感心したわ。床が血で汚れないように」
「あなたには人の心がないんですか!?」
……知らなかった。血の飛び散りより床の汚れを気にするのが、風紀委員長基準らしい。
「まあ……次はサボらず出てくるわよね?」
「はいぃ……もう逃げません……絶対に……」
お姉ちゃんはぐったり座り込み、魂抜けた目で空を見上げていた。
「お姉ちゃん、大丈夫ですか?」
私はしゃがみ込み、努めて優しげに声をかける。
「……切り捨てたアコが何を……」
弱々しい声で返す姉。私はすっと立ち上がり、ヒナ委員長に振り返った。
「じゃあヒナ委員長、残りはまた次回ということで」
「えっ」
お姉ちゃんが間抜けな声を上げるが、ヒナ委員長は無言でうなずき、踵を返す。
「次サボったらこんなもんじゃ済まないから」
背中を向けて片手だけをひらりと上げるヒナ委員長。かっこいいけど怖すぎる。
お姉ちゃんはお尻を押さえながら、震える声で私に問いかけた。
「……アコ、私まだお尻あります?」
「形状は……まあ、一応」
私はポケットから湿布を取り出す。
「さすがに準備が良すぎません……?」
ぶつぶつ言いながらも、素直にお尻を差し出す姉。湿布を貼ると──
「ん?……これなんか……ピリピリ……ピリピリしすぎぃぃぃいい!!!!」
「カプサイシン湿布です。血行促進タイプ」
「アッッッツ!!?!?!?!???」
お姉ちゃんは地面でのたうち回り、ゴロンゴロン転がっていく。
「頑張ってくださいね、お姉ちゃん」
私はにこやかに声をかけた。
……もちろん、少し悪意を込めて。
絶叫は夜空にこだまし、近所の犬が遠吠えする。
──風紀と秩序は、やっぱり今日もギリギリだった。
今後はどんな話がみたい?
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ブルアカ本編のストーリーに介入
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ギャグ路線で暴走
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アコとカナの百合展開
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カナの空白の10年間