仮面ライダーヴァレン・オーブエトワールショコラ 作:Ryo-ka
「私とユニット?」
「うん、一夜限りのユニット結成。」
「ふーーん。で、この人は?」
テーブル席に移動した俺達はラーメンを食券機に頼んだあと、ラーメンが来るまで広と一緒にユニット勧誘の話をしていた。俺の横には広が座っていて広の目の前に青い長髪の女子生徒が座っている。彼女の名前は月村 手毬(ツキムラ テマリ)。広と同じ一年生らしい。中学アイドルコースから進学してきた内部生で、中等部ではナンバーワンユニット『SyngUp!』で活動をしていたことを後で知った。
「フリーでライターやってます。辛木田絆斗です。」
俺はバッグに入れていた名刺入れから名刺を取り出して彼女に手渡した。
「フリーライター......分かりました。私はアイドル科高等部一年の月村手毬です。よろしくお願いします。」
「あ、こちらこそ......月村...さん?」
「手毬で構いません。一夜限りのユニット結成って言ったよね。広、もう一人って誰?」
「星南だよ。」
「星南......生徒会長の?」
「うん。」
もう一人のユニットメンバーの名前を聞いた瞬間に手毬の表情が変わった。一瞬広から視線を外して深呼吸をする。鋭い目つきと吊り上がった眉毛、真剣な表情で広の顔を見つめた。俺は今日、彼女に会ったばかりだから分からないけど何か深刻なことでも考えているのか?彼女が何を考えていることが全く想像つかねぇ。
(生徒会長とユニットなんて無理無理むりむりーー!!一番星だよ!?!ことねみたいに深い接点なんてないし!!......ユニット組んで怖いこと言われたらどうしよう!!?ここは、広に悪いけど断った方が......)
「手毬。」
「なっなに......」
「わたしはね。真っ先に手毬の顔が浮かんだ、よ?ユニットを組むなら、手毬がいいって。」
「......ずるいよ。そういうの......」
広の言葉に手毬は目線を泳がせて少し照れくさそうな表情を浮かべる。その間もずっと広は真剣な表情で手毬を見つめていた。なんかプロポーズみたいな構図になってるな。
「ふっ、ふん!しっ仕方ないな.....広は。いいよ、私が手伝ってあげ」
「お待ちいたしましたー!!豚骨ラーメン大!餃子セットのお客様は......」
「あ、それ俺です。」
手毬が話している途中で女性の店員が俺たちの元へとやってきた。どうやら俺達が頼んだラーメンができたようだ。豚骨ラーメンがテーブルに置かれた瞬間に豚骨スープの濃厚な香りが湯気と一緒に立ち昇ってくる。この匂いが俺の食欲を掻き立てる。身体が反射的に割り箸を手に取ってパキッと割った。
「お、綺麗に割れた。」
「ごほん!広、私がユニットを組んであげ」
「キムチ豚骨ラーメンのお客様はーー!!」
「わたし。」
「ちょっちょっと!私の話聞いてるの!?!」
「うん、聞いてる。あ、絆斗。割り箸とって。」
「おう。」
俺は割り箸を横に座っている広に手渡した。キムチ豚骨ラーメンか、美味そうだな。今度ここに来ることがあったら頼んでみるのも悪くねぇな。手毬はその間、頬を膨らませて不満げそうな顔を浮かべている。
「ありがとう。」
「ったく......すみません!店員さん!」
「はい!!!」
「替え玉ってできますか!」
ラーメン屋での食事を終えた俺達は店を後にした。なかなかいい店だった。今度、ショウマ達を誘ってくるのも悪くないかもな。ショウマだったら子供みたいに喜んでくれるだろ。横にいる手毬や広も満足そうな顔を浮かべている。食ってる途中に手毬は替え玉をしていたが、本人曰く今日はチートデイらしい。
ユニットのことはそれぞれのプロデューサー同士がこれから相談するようだ。午後から用事があると言った手毬と別れたあと、俺と広は初星学園へと戻ることにした。
「わたしと星南と手毬でユニットを組む。すごく楽しみ。」
「どんなユニットになるんだろうな。」
「ねぇ、絆斗には、夢ってある?」
「きゅっ急だな。夢、夢か......ジャーナリストになることだから、もう叶えちまったかな。」
「なんで、ジャーナリストになりたかったの?」
「......俺さ。ガキの頃に母ちゃんが行方不明になって育ててくれた婆ちゃんも死んじまって。学生の時は大荒れして喧嘩ばっかしてたんだよ。」
「無理して話さなくても大丈夫、だよ......」
「別に無理なんてしてねぇよ。ありがとな......そんな時に師匠に出会ったんだ。」
「師匠?」
「俺のジャーナリストの師匠だよ。喧嘩するしかなかった俺に夢をくれて、育ててくれた恩人だ。」
「いい人、なんだね。」
そうだ。師匠は何もなかった俺に生きる意味をくれた。母ちゃんを攫ったバケモノのことも誰も信じてくれなかったのに、師匠だけは真剣に聞いて信じてくれた。だから、師匠みたいなジャーナリストになることが夢だった。
一緒に喧嘩に明け暮れてたダチにジャーナリストになるって言ったら「冗談だろ。」って鼻で笑われたのを今でも覚えている。「俺達みたいなヤツがまともな職に就けるわけない。夢なんて見るもんじゃない。」ってさ。悔しかった。腹が立った。それなのに何も言い返せなかった。
俺がいまさら夢なんて見ていいわけないんだって実感した。師匠にそのことを相談したら一言だけ言われた。
「お前ならなれる。」
何を根拠に?でも、心の底から嬉しかった。そこから俺は必死に変わろうと頑張った。この人の期待に答えたいって、苦手な勉強もやってさ。不良だったけどなんとか学校を卒業できたんだ。本当に感謝している。全部、師匠のおかげだ。
「......悪りぃ。嘘ついた。」
「うん?」
「師匠の跡を継ぐ!すげぇジャーナリストになることが俺の今の夢だ。」
「ふふっ、わたしもトップアイドルになることが今の夢。夢を叶えてくれた人の夢を叶える。」
「へへっ、同じだな!案外似てんのかもな......俺達。」
「そう、かな?」
「そこは......似てるって言えよ。」
「ふふっ、そうかも。」
そう言って広は微笑むと前を向いてリズミカルに駆け出して、楽しそうにくるっと回った。ライブをする時もこんな感じなのだろうか。少し冷たい風が背後から吹き抜けていくのを感じた。広は身体を震わせて寒そうにする。やっぱりまだ寒いよな。
「冷えるだろ、早く学園に戻ろうぜ。」
「うん。あ、でも。絆斗が温かい飲み物を買ってくれたら、元気出る......かも?」
「俺が奢るのかよ!そういうのは自分のプロデューサーに頼むんだな。」
「ふふっ......そうしてみる、ね。」
「今月は......上質な人プレスが少ないわね。」
ストマック家長女グロッタが今月の人プレスの仕入れ数をチェックしながら愚痴を言っていると長男ランゴが会議室へとやってきた。椅子に座って作業をしていた次男ニエルブはランゴの顔を一瞬見て作業を再開する。
「仕方ない......アイツに頼るか。」
「アイツ?」
「おい、ニエルブ。頼みがある。」
「兄さんが僕に頼みだなんて珍しいね。」
ニエルブは眼鏡の位置を直して立ち上がるとランゴの元へ駆け寄る。ランゴは手に持っていた資料をニエルブに手渡す。どうやら人プレスのバイトをしているとあるグラニュートの資料のようだ。気になってグロッタも立ち上がり、ニエルブと一緒にその資料を眺め始めた。
「改造してほしいグラニュートがいる。」
「ベロルス・ヘルズゲート......誰これ?」
「姉さん、去年の人プレス仕入れにおいて『業績最優秀』のバイトくんだよ。......彼の改造手術をするの?」
「そうだ。ヤツが仕入れてくる人プレスは今まで全て上質だ。業績が優れるアルバイトには投資をしないとな。」
「へー面白そうだね。やってみるよ。」
ニエルブはランゴから受け取った資料を見つめながら、不敵な笑みを浮かべると自室へと戻っていった。その背中はなんだか楽しそうに見える。
「これなら上質な人プレスが期待できそうね、兄さん。」
「ふん......どうだかな。」