仮面ライダーヴァレン・オーブエトワールショコラ 作:Ryo-ka
「いやー絆斗くんのおかげでうちのサイトがトレンドトップ!編集長も大喜びだったよ!」
取材先の初星学園からの帰り道。駅に向かう道中、寒さを感じた俺は自販機の前に立っていた。暗い夜の中、街灯のように自販機の明かりがぼんやりと周囲を照らす。どの飲み物にするか選びながら、スマートフォンを片手に今回の取材の依頼をしてくれた砂藤さんからの電話に出た。声色から相当喜んでいることが分かる。どうやら俺が書いた記事はかなり好評のようだ。
「それは良かったです!次の記事も俺に任せてくださいよ!」
「お!頼もしいね〜期待してるよー!それじゃ!切るね〜」
そう言って通話が終わった。やっぱり自分が書いた記事を評価されると誇らしい気分になる。自然と口角が上がり、俺は自販機のボタンを軽快に押した。ゴトッ!という自販機特有の音と共にホットコーヒーが落ちてきた。取り出し口から手を伸ばしてアツアツのホット缶コーヒーを手に取る。まだ寒さが続くこの時期にとって熱い缶コーヒーはカイロみたいだ。
「はー」
色んなことがひと段落ついたからだろう。自然とため息が出てしまう。まさか息抜きで受けたこの仕事でグラニュート絡みの事件を受けることになるとはな。ショウマ達のおかげで初星学園の生徒達や他の人を救うことができた。いや、それでも失踪事件は一向に収まる気配はない。あのベロルスっていうグラニュートのことも気になるし、やっぱり元締めのストマック社をぶっ潰さねぇと。
それに俺の母ちゃんを攫ったグラニュートも......許さねぇ。手に持った缶コーヒーを強く握りしめる。
「あっつ!!?」
慌てて缶コーヒーをもう片方の手に持ち直して火傷しそうになった手を振る。危ねぇ。缶コーヒーで火傷するとこだった。なんか...バカみてぇだな。やっぱりこういうことを考えてると怒りに任せて、つい周りが見えなくなっちまう。ショウマがストマック家だったって知った時もそうだ。アイツの話もろくに聞かずに殴っちまった。
「あぁダメだ!はぁ......もう帰って寝るか......あ?」
「うおぉぉぉおぉぉぉおぉぉおおお!!!!!!!」
すっげえ声。声の方へと反射で振り返るとそこには茶髪のふんわりとしたショートヘアの少女がものすごくペースでランニングをしていた。俺も健康やグラニュートとの戦いのための体力づくりでランニングはするが、さすがにあのペースではやらない。ん?待てよ、この子どこかで......あ。
「おーい。」
思わず声をかけてしまう。俺から数メートル過ぎ去ってからようやく声をかけたことに気がついたのか後ろ歩きで俺がいる自販機の辺りへと立ち止まった。はっきり顔を見て確証した。前に商店街で見た広の友達だ。向こうも俺のことを思い出したのか表情が明るくなる。
「あ!広ちゃんのお友達のフリーライターの辛木田さん!」
「お友達......うーーん、まぁ、はい。えーーっと花海さん...だよな。」
「はい!佑芽で大丈夫です!辛木田さんはお仕事帰りですか?」
「あぁ、取材が終わってその帰り。佑芽はランニングか?」
「はい!!食後の運動で初星学園の近くを外周してました!」
「そのペースの速さだと始めたばかりか?」
「いいえ?一時間くらいこのペースですけど?もうすぐ帰ります!」
「一時間!?一時間もその速さで走ってんのか!?!」
「はい!!!!」
「体力オバケか?」
「よく言われます!!!!!」
そう言って佑芽はニコッと笑った。あのペースのランニングを一時間、俺だったら二十分持つかどうかだな。若いって羨ましいなーアイドルっていうのはやっぱり体力がねぇとダメなのか?最初に会ったアイドルが広だからよくわかんねーーー
「よし、ここは大人の俺が飲み物を奢ってやろう。」
「いいんですか!!!は!でも......ジュースは糖質が......」
「スポーツドリンクでいいか?」
「スポドリならオッケーです!!」
佑芽は勢いよく親指を立ててサムズアップをする。小銭を入れてスポーツドリンクを押すと再びゴトッという音と共に冷えたスポーツドリンクが落ちてきた。冬でも運動をしたあとだと冷えた飲み物が美味いんだよな。俺はそれを佑芽に手渡した。
「ありがとうございます!辛木田さん!」
「おう。」
佑芽はお辞儀をするとスポーツドリンクのペットボトルの蓋を開けてゴクゴクと煽るように飲んだ。いい飲みっぷりだ。半分まで飲み終えて蓋をする。佑芽の顔はなんだか眠そうに見える。
「疲れてるのか?」
「あたし、最近なんだか寝つけなくって......疲れるまでトレーニングすれば気持ちよく寝れると思って!」
「それでランニング?」
「はい!......焦ってるんです...あたし。」
「焦ってる......何にだ?」
「あたしには花海 咲季(ハナミ サキ)っていうお姉ちゃんがいます!何でもできてカッコイイ大好きな最高のお姉ちゃんが!今は『Re;IRIS』っていうアイドルユニットでも個人でも大活躍してるんです!」
「すげぇ姉ちゃんなんだな。」
「はい!お姉ちゃんはあたしの憧れなんです。テレビや雑誌、SNSでお姉ちゃんの活躍を見かけるたびに嬉しくって......でも...」
「でも?」
佑芽は呟くようにそう言うと俯いた。夜の街、俺達以外は誰も通らない。かすかに遠くの大通りの方から車が走る音が聞こえてきた。佑芽の数秒間の沈黙。その静けさが周囲の音を引き立たせる。
「なんだかお姉ちゃんがあたしよりもっともっともーっと!遠くに行っちゃったような気がして。あはは......おかしいですよね、学校や寮でいつでも会えるのに。もう追いつけないような気がして。」
「そうだな......でもよ。佑芽が諦めない限り、追いつくんじゃねぇのか?」
「本当ですか!!?」
「いや、俺には分かんねえけど。」
「えーーーー!?!根拠がないですよ!根拠が!」
「姉ちゃんに追いつくのが夢なんだろ?夢に理由も根拠もいらねぇ。絶対に諦めねぇ!追いついてやる!っていう情熱さえもっとけばいいんだよ。」
「絶対諦めない......あ!あーーーーー!!!」
「うわ、どうした急に。」
「そうです!そうですよ!お姉ちゃんが遠くに行くたびにあたし必死に追いかけて!何度も何度も何度も!繰り返してきました!!あたしの人生!お姉ちゃん一筋なので!!!」
「おっおう......」
「なんでこんな大事なこと忘れてたんだろ......今からでもお姉ちゃんに追いついてみせます!この生涯をかけて!!」
「よし!その意気だ!」
「はい!!辛木田さんのおかげでスッキリしました!今日はいい夢見れそうです!ありがとうございます!!」
佑芽は深く礼をして時間を確認すると再びランニングを再開した。寮には門限があるらしい。走りながら「おやすみなさい!」と言いこちらに向かって笑顔で手を振ってきたので、俺も「おやすみ!」と手を振って返した。本人の問題が解決したようで何よりだ。俺も帰路に向かって歩き出す。
駅の近くまで来ると建物の壁にかけられた一枚のポスターが目に映った。知っている三人のアイドルの姿がそこにはある。
「Say-rainのライブポスターか......もう貼られてるのか。」
この仕事を引き受ける前はアイドルのポスターとかそういうのに全く興味がなかったけど、自分の知り合いがライブをやるってなるとポスターを見るだけで自分のことのように嬉しいな。心の中で無事何事もなく成功することを祈って歩き出そうとしたその時だ。コートのポケットに入れていたスマートフォンが震える。すぐに取り出すとショウマからだ。画面を押して通話に出る。
「どうしたショウマ?」
「見つかったよ。」
「見つかったってあのグラニュートか?」
「うん。ゴチゾウ達が住処を見つけてくれた。ラキアにももう連絡してる。」
「分かった......でも、今日は無理だ。アイツの能力だと夜は俺達が不利すぎる。」
前回での戦闘でアイツの能力はモノを自由に動かせるってことは分かった。この真っ暗な夜の中、四方八方からそれをやられたらいくら三人でもまともに戦えるとも思えない。俺も怪我が完全に治ったわけじゃねぇからな。
「そうだね......明日にしよう。」
「あぁ、明日だな。」
通話を切って自分の頬を叩いて気合を入れる。肩にかけていたバッグを元の位置に戻して、中にいるゴチゾウ達に声をかけた。
「話、聞いてたか。」
「「「わにゃ!」」」
「聞いてたでー!」
「明日が決戦ですね!!」
「気合入れていくぞ。絶対にアイツを倒す!」
「よっしゃいくで!」
「任せてください!」