仮面ライダーヴァレン・オーブエトワールショコラ 作:Ryo-ka
「篠澤広?」
「うん、アイドル科の1年生」
篠澤広という女子生徒はそう言ってベンチから立ち上がろうとする。俺は「もういいのか?」と言って止めようとするが首を横に振って立ち上がった。まだ足は産まれたての子鹿のように震えている。全然大丈夫じゃねぇじゃねぇか。
「なんでそんなにボロボロなんだよ。」
「前の時間にレッスンしてた、ボロボロなのはいつものこと。」
こんなボロボロになるまでレッスンか。どうやらアイドルっていうものは俺が思っているより大変なものなのかもしれない。歌、ダンス、コミュニケーション能力、どれが欠けてもいけないらしい。だからと言ってここまでボロボロになるまでレッスンするものなのか?これは記事のネタになるかもしれない。参考程度に少し話を聞いていこう。
「そんなに大変なのか、レッスンって。」
「うん、大変。腹筋30回は鬼の所業。」
「ん?」
「今日はそれにグラウンド5周......途中から走っていた時の記憶がない。」
「......なぁ、一つ聞いていいか?」
「うん。」
「それって普通のレッスンよりも簡単なんじゃねぇのか?」
「うん。わたしがぜんぜん体力がないだけ。」
だろうな!!!思わず喉元まで来ていた心の声が漏れそうになる。話を聞いていておかしいと思った。単にコイツに体力と筋力がねぇだけじゃねぇか。よく見れば手足が細すぎる。ちゃんと飯食えてんのか?テレビとかで観る激しめのダンスの最初のステップをした瞬間に骨が複雑骨折してしまいそうだ。これは参考になりそうにないな。
「そんなんでアイドルってできるのかよ?」
「わたしもそう思う。その意見で正しい。自信持って。」
変なやつだ。話していると調子が狂いそうになる。
「そういえば、今日は何をしに初星学園に来たの?」
「何って取材に決まっ......あ、やっべ!!今何時だ!?」
完全に時間を忘れていた。慌てて左手に巻いた腕時計を確認する。取材の予定時間まであと10分だ。10分しかねぇ。取材させてもらってるのに相手を待たせるわけにはいかねぇ。コイツを運ぶ時に邪魔でカバンにしまった仕事道具をどんどん取り出していく。そもそも学園長の部屋ってどこだ?
「誰に取材、するの?」
「十王学園長だよ!あーこの時間にどこに部屋があるか調べとくんだった!!」
「おじいちゃん?おじいちゃんの部屋なら、あっち。」
そう言って広という女子生徒は指を差した。確かに校舎らしき建物が見える。広という女子生徒曰く、その方向へ向かっていけば生徒や教員と会うから分からなくなったら聞けばいいとのことだ。方角が分かれば約束の時間までに間に合うかもしれない。
「おう!教えてくれてありがとな!」
「あ、待っ......」
何か声をかけられた気がしたが時間がない。準備が整った瞬間に広という女子生徒が言った方角に向かって全速力で走り出す。頼む!間に合ってくれよ。
「......」
校舎らしき建物まで走ってなんとかやってきた。辺りを見渡して学園長室らしき部屋を探していると一人の女性に話しかけられた。暗い茶髪のゆるいボブカットっぽい女性だ。
「辛木田さん......ですね?」
「あ、はい。」
「学園長からお話は聞いています。私が学園長室までご案内いたしますね。」
「あっありがとうございます。」
助かった。どうやら間に合ったようだ。こうやって案内してくれる人がいるとありがたい。この女性は初星学園の専門大学プロデューサー科の教員で根緒 亜紗里(ネオ アサリ)という人らしい。俺は息を整え、ハンカチで汗を拭くと学園長室のある校舎らしき建物の中へと案内された。
「根緒さんは教師なんですよね、何を教えてるんですか?あ、国語とかですか。」
「う〜んそうですね。基本的には生徒であるプロデューサーくん達がアイドルを正しく導けるようにお手伝いをしています。個別に相談に乗ってあげたり特別指導を行ったり。」
「なるほど、アイドル養成校だからこそですね。」
「はい。ちょうど辛木田さんくらいの歳の子達を生徒に持っていますね。」
そうか、俺が今23だから。俺より少し下のやつらは普通、大学生くらいか。俺の学生時代は荒れてて大学に進学なんて全く頭になかったな。ずっと馬鹿みたいに喧嘩ばっかしてた。そんな時に師匠と出会って、喧嘩に明け暮れてた俺に新しい目標ができた。そして、今のライターとしての俺がいるんだ。
「さぁ、着きましたよ。」
「ありがとうございます。」
根緒さんはそう言って学園長室の大きな扉をコンコンとノックした。「うむ、入りたまえ。」という学園長らしき男性の声が響き、根緒さんは扉を開ける。扉の向こう側は隅々まで掃除が行き届いた立派な学園長室だった。俺が学生の時に通っていた不良校の校長室とは広さも清潔さも全然違う。まるで月とスッポンだ。
「失礼します。」
「君が辛木田絆斗君じゃの。ハッハッハ、さぁどうぞ。このソファに座りたまえ。」
「はい、ありがとうございます。」
俺はここまで案内してくれた根緒さんと取材に応じてくれた十王学園長、2人に会釈をして十王学園長が座るワインレッドのソファの向かい側にあるソファへと腰をかけた。十王学園長がこちらをずっと見ているような気もするが、窓から差し込む光が眩しすぎて顔が全く見えない。
「本日はお時間いただきありがとうございます。」
「なに、構わんよ。ちょうど暇をしておったところじゃ。なんでも聞いてくれて構わんぞ!」
「はい!」
「これにて取材は以上です。ありがとうございました。」
「うむ!いい記事を期待しておるぞ。」
無事に取材も終わったな。しかし、この十王学園長は本当に気のいい人だ。有言実行で用意していた質問に全て丁寧に答えてくれた。自分が記録したメモ帳をペラペラとめくって眺める。決して人に見せられる字ではない。当たり前だ。自分だけが読む。自分が読める字だったらいい。取材で大切なのは、どれだけ綺麗に書くことではない。どれだけ正確に相手が話した内容を記録するか。そして、相手を待たせないことだ。取材を終えた俺は学園長に礼と会釈をしてソファから立ち上がる。
「待ちたまえ。」
「はい?どうしましたか。」
「まさか、これで終わる気じゃないじゃろ?」
「と、言いますと。」
「ワシだけじゃなく、実際に我が校の生徒であるアイドルやプロデューサーにも取材するといい。」
「いっいいんですか!?」
十王学園長の話だけで完全に満足していた。これからどう記事にまとめるか考えていたが、アイドルやプロデューサーにも取材できるとなると話が変わってくる。より詳しい、幅広いネタが手に入るかもしれない。こうなるとライターとして燃えてくるぜ。
「その代わりと言ってはなんじゃが......相談に乗ってくれるか?」
「相談、ですか?」
「お主になら話してもいいかもしれん。実はお主について調べさせてもらってな。普段は最近、話題の化け物の目撃情報や行方不明事件を追っているそうじゃな。」
「はっはい。そう、ですけど。」
「実は......数日前から仕事の打ち合わせに向かった我が校の生徒達と連絡が取れないのじゃ。」
「......え、」