仮面ライダーヴァレン・オーブエトワールショコラ 作:Ryo-ka
現在の走行距離は19キロメートル。陸上競技場をスターターピストルの合図と共に仮面ライダーゼッツとチャンピオンナイトメアは飛び出した。果てしなく続く公道をただひたすら走り続ける。ゴールは42キロメートル先。チャンピオンナイトメアよりも先にゴールへと辿り着き、起爆装置を破壊する。ゼッツは十メートル先にいるチャンピオンの背中をひたすら追いかけた。まっすぐ立ち並ぶ街灯を何十本過ぎ去っただろう。
二人の姿は陸上競技場に設置された大きなモニターに映像として映し出されている。中継で映されたゼッツの姿を心配した表情でねむはスタンドの客席に座って見つめていた。
「セブン......」
すると彼女の隣の席に「お嬢さん。お隣、よろしいかい?」と言って一人の男性が座った。ねむが目線を向けるとその人は人ではない。バイクから変形したロボットだった。彼は司令官ゼロ。普段は『コードゼロイダー』というバイクを通して司令を出しているのだ。
「ゼロ。どうしてここに?」
「気分転換さ。ここから彼を観るのも悪くない。」
ゼロはどこからかポットを取り出してティーカップに紅茶らしき液体を注ぎ始めた。ちなみにこの紅茶らしき液体はバイクの燃料なので絶対に普通の人は飲んではいけない。中継された映像を見つめているとリードしていたチャンピオンナイトメアがペースを一気に上げ始めた。ゼッツは不審に思いながらも走り続ける。現在の走行距離は23キロメートル。ゴールまで半分を切った。
(まだ半分。終盤でもないのにどうしてペースを......)
ゼッツがそう考えているとペースを上げたチャンピオンナイトメアとの距離は二十メートルほどになっていた。チャンピオンナイトメアは少し息を切らしながら、後ろを一瞬振り返って何かを確認すると上半身をしゃがませてアスファルトの地面を手で叩きつけた。叩いた瞬間に地面が波紋のように揺れ始める。
次の瞬間、アスファルトの地面が地割れを起こし、大きく裂けてしまった。どんどんその裂け目は広がっていき、底が見えない崖となってしまう。ゼッツは走るのをやめ、二十メートル先の向こう岸を走るチャンピオンナイトメアを見つめた。
「なるほど、このためにペースを上げたのか。」
「これじゃあセブンが走れない!」
「ナイトメアは夢主から生まれた存在。夢主と同様に夢の世界を作り変える強い主導権を持っているのだ。」
「じゃあどうすれば!」
「No problem.そのための『カプセム』だ。」
ゼロは人差し指をチッチッチッと横に振ってそのままモニターを指差した。モニターに映るゼッツは周囲を見渡すと向こう岸の街灯に目をつけ、ゼッツドライバーのカプセムを赤いインパクトカプセムからオレンジ色の『トランスフォームカプセム』に入れ替えた。寝癖のように飛び跳ねた緑色のレバーを押し込む。
『トランスフォーム』
そしてカプセムを勢いよく指で弾いて回転させた。ゼッツドライバーのベルトがオレンジ色に発光し、全身を血流のように流れる赤いラインの色が四肢へと集中し始める。両腕と両足が赤色のアーマーへと変化した。
『グッドモーニング!ライダー!』
『ゼッ』
『ゼッ』
『ゼッツ!!!!』
『トランスフォーム!』
トランスフォームは自分の身体を自在に変化させるカプセム。その力を使用してゼッツは向こう岸の街灯に狙いを定めて、自身の右腕を一気に伸ばした。右手でしっかり街灯を掴むと腕を戻して地面の裂け目を乗り越えて向こう岸へと着地する。
「正々堂々......とはもういかないらしい。こっちも自由にやらせてもらう!」
ゼッツはそう言うと再び腕を伸ばして街灯に手を伸ばした。振り子のように勢いをつけてジャンプするともう片方の腕を伸ばし、次の街灯へと移動をしていく。足を休めながら伸びる腕を使用してチャンピオンナイトメアとの距離を縮めていった。そして一分足らずでチャンピオンナイトメアを追い越した。現在の走行距離は34キロメートル、余裕そうに走るチャンピオンナイトメアは上空を見上げて仰天した。
「え!?」
「追いついたぞ!」
「もう乗り越えたの?!腕を伸ばせるだなんてズルじゃない!」
チャンピオンナイトメアから三十メートル先に着地する。そのまま走りながらカプセムを再びインパクトカプセムへと入れ替えて姿を変えた。カプセムを回転させると両足の太ももとふくらはぎの血管が音を立てて膨らみ、筋肉が膨張を始めて走るペースが上がっていった。
『インパクト!』
「このレース、勝つのは俺だ!」
「ふざけないで......勝つのは......勝つのは私だぁあぁあぁぁぁぁあぁぁぁあぁ!!!」
チャンピオンナイトメアの身体が震え始める。苛立ちが、怒りが溢れ出し全身を駆け抜けていく。そしてチャンピオンナイトメアのふくらはぎから肉を突き破って、大量のバイクのマフラーが露出した。マフラーから炎がロケットのように噴き出し、推進力で前方へ進み始める。
「何!?」
「あれこそズルでしょ!」
「歪んだ勝利への渇望、まさに夢をねじ曲げた存在だ。」
「あっはははは!!!あっはははははははははははははは!!!!」
推進力で進んでいくチャンピオンナイトメアがゼッツを追い越してそのままゴールに向かって進んでいく。現在の走行距離は35キロメートル。残り7キロメートル。身体能力を強化されたゼッツでもあの推進力には追いつけない。
「くっ!!」
「このままじゃセブンが......何とかしてよゼロ!......あれ、ゼロが...いない?」
先ほどまで横で座っていたゼロの姿がない。ねむが辺りをキョロキョロと見回して探しているとモニターに変化が起きた。必死に追いつこうと走るセブンの元に向かってブルンブルン!とアクセルを煽って回転数を上げる音が聞こえてくる。音がする方へ振り返る。そこにはバイクの姿に変形したゼロ、いやコードゼロイダーの姿があった。
「ゼロ!」
「燃料の補給を完了した。私に乗れ、セブン。」
「分かった。」
ゼッツは頷くと膝を曲げ、飛び跳ねるとコードゼロイダーへと跨った。ハンドルを握りチャンピオンナイトメアに向かって走り出す。長い公道を走り続け、距離を少しずつ縮めることはできているがチャンピオンナイトメアの背中に追いつかない。
「このままでは追いつく前にゴールされてしまう。どうする、セブン。」
「ブレイカムゼッツァーを出してくれ!」
「OK.」
コードゼロイダーのサイドのシェルターが開き、剣形状の武器『ブレイカムゼッツァー』が勢いよく飛び出した。ゼッツはそれを空中でキャッチすると刀身を外し、向きを変えてグリップに再び装着した。刀身の色が赤から青へと変化する。
『ガンモード』
銃形状の武器に変化したブレイカムゼッツァーの銃口をチャンピオンナイトメアの大量のマフラーが生えたふくらはぎに向ける。
「あのマフラーを破壊する。片方でも破壊できれば推進力のバランスを崩して転倒するはずだ!」
ゼッツは青色のカプセムをブレイカムゼッツァーに装填した。カプセムを回転させると銃口にエネルギーが集中し始める。ブレイカムゼッツァーを持った手を伸ばして引き金を引く。銃口から勢いよくブロック形状の弾丸が発射された。
『ブレイカムバレット!』
発射された弾丸はチャンピオンナイトメアとの距離のせいか、ふくらはぎに命中せずにチャンピオンナイトメアを過ぎ去ってしまった。それでもゼッツは弾丸を放つが全てチャンピオンナイトメアには当たらずに過ぎ去ってしまう。それを見てチャンピオンナイトメアは背後にいるゼッツの方へ首だけを動かして振り返って嘲笑った。
「何をやっても無駄よ!私がゴールして悪夢は遂行されるのよ!!」
「無駄なんかじゃない。俺は無敵のエージェント。絶対に諦めない!」
ゼッツは覚悟を決め、ハンドルから手を離すとブレイカムゼッツァーを両手で握ると狙いを定めて最後の弾丸を放った。「いけ。」そう言って引き金を引き、放たれた弾丸はチャンピオンナイトメアの右足のふくらはぎから生えたマフラーの穴へと吸い込まれ爆発した。
「何ですって!!?!ぐあっ!!」
片足のマフラーの推進力が失われたことでバランスを崩し、変な方向へと曲がってチャンピオンナイトメアは壁へとぶつかってしまう。その間にゼッツは距離を詰め続けた。「まだよ!まだ終わりじゃない!!」チャンピオンナイトメアは崩れた壁から這い上がるとマフラーの炎を切って、走ることを再開した。
「私には今の間に溜めたこの足があるわ!ほら!!ゴールラインが見えて来た!!」
チャンピオンナイトメアの言う通りゴールのテープが見えて来た。その向こうには起爆装置のボタンが設置された台が置かれている。チャンピオンナイトメアまであと五メートルまで追いついた。だが、徐々に離されていく。どうやら足を溜めていたのは本当のようだ。
「セブン!このままじゃゴールしちゃう!」
「うおぉおぉぉぉおぉぉぉぉぉおぉぉ!!!私が一位よぉぉぉおおぉぉぉぉお!!」
そしてゴールテープを切ったのはチャンピオンナイトメアだった。ゴールのテープが地理となって消えていく。モニターを見て、立ったまま応援していたねむは口を開いて膝から崩れ落ちてしまった。
「うっ嘘......」
「私の勝ちよ!!」
「......」
ゼッツは俯いたまま走り続けた。チャンピオンナイトメアはくすくすと笑って起爆装置が置かれた台の前に立つとゼッツ達がゴールへと到着した瞬間に拳を起爆装置のボタンに叩きつけた。チャンピオンナイトメアは勝利を確信して高笑いをする。
「あっはははははは!!!これで電車はドッカーーンよ!!」
「......」
「......」
「......」
「なっなんで何も起きないの!?」
「爆発が起きない?」
ねむがそう呟く。ゴールを過ぎたゼッツ達はそのままチャンピオンナイトメアを置いて走り続けた。すると、チャンピオンナイトメアがいるゴールと起爆装置がチリとなって消えてしまった。そして、ゼッツ達が目指す先に本物のゴールが姿を現したのだ。
「は!?!はぁぁぁあぁ!?!!」
「言ったはずだ。無駄なんかじゃない、と。」
ゼッツはそう言ってブレイカムゼッツァーに装填した『プロジェクションカプセム』をカメラが設置されてるであろう場所に向かって見せつけた。モニターを見ていたねむが拡大されたカプセムを見て唖然とする。
「あのカプセムって......」
「俺が撃った流れ弾はわざとだ。お前が俺達の方へ振り返った一瞬の間にこの光学迷彩を司るプロジェクションカプセムの力を持った弾丸で本物のゴールを隠し、偽物のゴールを偽装したんだ。」
「なっ...何ですってえぇぇぇ!?!」
「さぁ、セブン。本物のゴールが見えて来たぞ。」
「あぁ、勝つのは......俺達だ。」
コードゼロイダーがゴールテープを切ると同時にくす玉から大量の紙吹雪が風に吹かれて舞っていく。ゼッツはゴールの先に設置された本物の起爆装置を見つめるとブレイカムゼッツァーの弾丸に撃ち抜いて破壊した。コードゼロイダーから降りて茫然とするチャンピオンナイトメアに向かって走り出す。
「悪夢の時間は終わりだ。」
胸に装着したゼッツドライバーの緑色のレバーを三回押し込んでインパクトカプセムを回転させた。両手の拳を強く握り締め、右足に赤いエネルギーを集中させていく。チャンピオンナイトメアを睨みつける。
「消えろ。」
チャンピオンナイトメアに飛び蹴りを放つ。
「ぐあっ!」
『7』
よろめいたチャンピオンナイトメアの背後に回り、後ろ蹴りを放つ。
『7・7』
『インパクト!』
そして完全に戦意を失ったチャンピオンナイトメアに向かって飛び上がり、トドメの赤いオーラを纏ったライダーキックを放った。
「はぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁ!!!!」
『バニッシュ!!!』
『ゼッ』
『ゼッ』
『ゼッツ!!!!』
『7・7・7』
「ぐあぁぁぁあぁぁ!!!!」
『Z・Z・Z』
チャンピオンナイトメアの身体を赫く激しい旋光と共に貫通し、着地した。背後のチャンピオンナイトメアはイビキを立てながら紫色の粒子となってどこかへと消えてしまう。ゼッツはチャンピオンナイトメアが消えたことを確認するとゼッツドライバーからカプセムを外し、レバーを押して元の人間の姿へと戻った。そこにねむが駆けつける。
「Mission complete.」
「セブン!」
「ねむちゃん、任務完了だ。」
「花海選手のお姉さん!無事に到着したみたい!」
「そうか......それは良かった。」
「もうすぐ始まるよ!いこいこ!」
ねむはそう言って莫の服の袖を引っ張るが莫は「待って。」と言ってねむを引き留める。ねむは不思議そうな顔で莫を見つめた。
「どうしたの?」
「これ以上、彼女の夢を勝手に覗くのはやめておこう。彼女の夢は彼女自身のものだ。」
「そう......セブンがそういうなら私もそうする!基地に戻ろう!」
ねむは笑顔でそう言うとコードゼロイダーに向かって軽快なステップでスキップを始めた。莫は背後にある陸上競技場を振り返ると少し微笑み、歩き出す。陸上競技場から彼女達の明るい声と歓声が聞こえたような気がした。
「おやすみ、良い夢を。」
Have a happy New Year.
よいお年を