仮面ライダーヴァレン・オーブエトワールショコラ   作:Ryo-ka

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甘いも苦いも飛んでいけ2(挿絵有り)

「準備はいいかしら?」

 

「はい、大丈夫です。」

 

「うん、平気。」

 

「それじゃあ任せたわよ。トップバッター。」

 

「出鼻をくじいたら、ただじゃ置かないから。」

 

「へへ......プレッシャーを掛けてくるスタンス、いいね。任せて、死ぬ気でやってくる。」

 

 そう言って広は星南と手毬に見送られ、ステージへと飛び出した。ステージへと出た瞬間にスポットライトが彼女を照らす。背景の大きなモニターにも彼女の姿が映し出された。その瞬間、観客席から歓声が湧き上がる。砂漠を彷徨い、ようやくオアシスを見つけた時のように。誰もが始まりを待ち遠しく思っていたのだ。

 全ての席が埋め尽くされた観客席を見渡し、広は「ふふっ」と微笑むと手に持ったマイクを両手で握った。

 

「みんな、今日は来てくれてありがとう。まずはわたしから歌う、ね。......聴いて、『サンフェーデッド』。」

 

 再び歓声が起き、観客達が持つペンライトの色が水色や黄色へと変化する。広の後ろから差す照明の光が強くなり、逆光となる。そして曲が始まると同時に広は歌い出す。彼女の声に合わせるかのようにステージの階段に設置された照明が水色に変化し始めた。

 

「あ,日焼け止め 塗らないままでいたな」

 

 左手でマイクを掴みながら、右手を伸ばし光を掴み取るような動作をするとその場でバレリーナーのように回転を始めた。一歩一歩、着地をしては少し飛び跳ねる。ギターのリズムに合わせてステップを踏む。彼女の動きに合わせて、スポットライトが影のようについていく。

 曲が進み連れて照明の光量と色の数が増えていく。まるで、進み続ける限り可能性は広がるように。選択肢が増えるように。人は物事を知るたびに世界の解像度が上がる。人は経験をするたびに世界の彩度が上がる。無機質で儚げな人形のような少女と歌の対比が言語化出来ないほど美しかった。ただ......

 

「僕は言う,」

 

 ペンライトを振る速さ。

 

「僕は禁じる,」

 

 観客の目線。

 

「僕は覚える,」

 

 観客の思考。

 

「僕は慄く,」

 

 会場の全てが一体となっていた。

 

「僕は踊る,」

 

 そして、その中心に。

 

「僕は生れる,」

 

 広というアイドルがいた。

 

「僕は褪せる,」

 

 決して色褪せない光景として。

 

「僕は判断する.」

 

 彼女の全てをその場にいた全ての人間へと焼き付けたのだった。

 

 

 

 

 

 その後、広は続けて『コントラスト』を歌い上げると観客席へと礼をした。額から熱い汗を流し、息を切らしながらゆっくりと深呼吸をした。額から真っ赤になった頬へと伝った汗を拭うと観客席に満面の笑みを見せてステージは暗転する。数分の静寂。観客達は次の準備するためにペンライトの色を変化させ始めた。

 そして、その時は突如訪れた。静寂を突き破るようにあの曲が観客の鼓膜へと響き渡る。

 

「あのね」

 

 彼女の声が聞こえ、再び歓声が湧き上がる。長い間奏の間にマイクを握った彼女は透き通った声で自己紹介を始めた。長く青い髪が照明に照らされ、夜空に光る幾千の星のように輝く。

 

「今日はお越しいただきありがとうございます!月村手毬です!最初から全力で行くから......ついてきて!!『Luna say maybe』!」

 

「I say ‘’私、大丈夫?‘’」

 

「Maybe,うまくやれるはず」

 

「ずっと走った息継ぎもしないまま」

 

「あっそう、終わりが来るなら」

 

「別に寂しくなんかはない」

 

「真実は心の奥の方」

 

「自分のことすら愛せないまま......君のこと守れるの...かな」

 

 『Luna say maybe』素直になれない、不器用なひねくれ者の歌。中等部の時、手毬は『SyngUp!』という三人組のユニットを組んでいた。中等部において並ぶ者はいないナンバーワンユニットのはず......だった。いつ壊れてもおかしくない過度な練習をする手毬に対して他の二人は心配をしていた。そのことに対して手毬が不満を持ち、反発し続け大喧嘩の末に解散という形で関係が崩壊し終わってしまった。

 あの時、素直になれてたら。三人で一緒にトップアイドルを目指せていたのだろうか。後悔だけが胸に残る。それでも前に進み続けた。これが自分が選んだ道だから。もう後戻りはできない。

 

 

二人に聴いて欲しい。

 

 

見ていて欲しい。

 

 

私一人でもできることを......だから。

 

 

「’’信じて‘’」

 

 

「どうか,正真正銘のこの思いを!聴いて 私,全身全霊で歌うから!!」

 

「大丈夫、世界はこんなに綺麗だと...」

 

「分かってる、」

 

「分かってる!」

 

「解ってる...わかってるよッ!!」

 

「ごめんね、じれったい」

 

「足りない、こんなんじゃ誰も愛せないの」

 

こんな自分じゃ誰も愛せない。こんな自分じゃ誰も愛してくれない。手毬の瞳に観客席から伸びる数十、いや数百本の青い光のペンライトが写る。

 

「全部、決めるのは、自分次第」

 

「初めて背中をみた時に、覚悟を決めた。」

 

「どーこーまーで いけるのかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 

 手毬の声がマイクを通して観客席の一番奥の壁まで響き渡る。

 

「届くのかーーーーーーーーーー!!!!」

 

「わからないよーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 

「臆病が、そこに立っている」

 

「三秒前バックステージ!」

 

「震える背中を君に預けて」

 

 手毬はステージを歌いながら歩くとステージの下すぐに設置されたカメラのレンズを覗き込むとウィンクをしてニカッと笑うと再びステージ中央へと歩き始めた。男女の声が混じった歓声が響き渡る。

 

「この運命的出会いはー」

 

「きーーっとーーーー」

 

「そう、きっとーーーーー」

 

「偶然みたいな」

 

「多分、神様のいたずらです。」

 

 次の瞬間、何の合図も無しに観客達が一斉に手拍子を始めた。打ち合わせも指示も何もしてないのに。まるで知っていたかのように。そう、知っていたんだ。みんなこの曲が大好きだから。月村手毬のことが大好きだから。何度も何度も曲を聴いているからこそ!まるで曲の一部のように一ミリもズレることなく手拍子をすることができるんだ。

 

「どうか、正真正銘のこの思いが!」

 

「君の心にちゃんと届くまで!!」

 

「ここで、私、全身全霊で歌うから!!」

 

「待ってる!待っている!」

 

 ステージの中央に立つ手毬の顔がカメラによってアップされていく。左腕を伸ばし、開いた左手を優しく握った。

 

「だから!この場所を大切したいの!」

 

「これが!正真正銘の私だ!!」

 

 ステージのサイドに設置されたキャノン砲からボン!!という音が曲に合わせて鳴り、キャノン砲から発射された銀テープが会場内を雨のように青い照明を反射させながら、観客席へと降り注いでいった。

 

「大丈夫!!もう怖くは!ないわーーーーーーーー!!!」

 

「たまにつまづくことーなら、あるーけれどーー!」

 

「一番!特等席で!君の!笑顔見たいんだ!!」

 

「私だけの特権!あーあ!!」

 

「見えない!未来!手探り、今日もステージの上で!照明して見せるかっらーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

「あーあ!ぁああぁあぁぁぁああぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」

 

「君に!まだ!話せてないことばっかりあるんだ!」

 

「聴いて欲しいの、」

 

「あのねぇぇぇえぇぇぇぇええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええぇえええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」

 

 肺を潰すように息を押し出していく。限界まで息を振り絞る。息が続く限り歌い続ける。これが唯一にして自分が最後まで信じることができる最強の武器だと知っているから!!全員が圧巻して言葉を失っていた。これが、初星学園の『歌姫」月村手毬の実力。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「はぁ...はぁ...」

 

 手毬の声が終わると同時に曲が終わって観客席から最高の拍手喝采が巻き起こる。手毬は汗を流しながらその光景を見て笑みを浮かべると中央に設置されたマイクスタンドにマイクを乗せた。そしてステージはゆっくりと暗転する。暗闇となったステージの中、吐息混じりの手毬の声が会場に響き渡った。

 

「いかがでしたか!Luna say maybe、最初は歌詞に出てくる女の子と私の性格が違いすぎて感情を入れにくいと思って...いました。」

 

「「「「「「え?????」」」」」」

 

 彼女の言葉に観客全員が唖然とし苦笑が漏れ始めた。

 

「何か物言いたそうですね.......最後のトークショー覚悟しておいてください!!でも、この曲を何度も歌ううちに自分と似てるようなところを見つけて...見つけていくうちにどんどん!この歌の本当の歌い方を知れてるような気がして......私にとって歌は自己紹介...なんです!私というアイドルを!歌を通してより深く知ってもらえると思います!だから!次の曲も聴いて欲しい...です。」

 

「聴いてください。『Unhappy Light』。」

 

 再び歓声が巻き起こる。まだかまだかと観客席がざわつき始める。だが、一向に曲が始まらない。観客達の興奮によるざわめきは不安のようなものへと変化し始めた。

 

「あれ?始まらないね。」

 

「準備とかがあるんじゃない?」

 

「手毬ちゃんのライブらしくないね。」

 

 そのざわめきは絆斗がいる関係者席まで届き始めた。他の関係者達もゴソゴソと小言を始める。予定では手毬が最後の一曲を歌って次に星南が二曲歌って、メイクを直したりステージのセットを変えるための十分から二十分の休憩時間があるはず。休憩時間にはまだ早い。だが、誰よりも困惑し焦っているのは暗闇のステージに立つ手毬本人だった。

 

「何が...起きてるの?」

 

 ステージの裏、それぞれの場所で仕事をしていたスタッフ達が冷や汗を流しながら慌てた様子で駆け回る。非常事態だった。耳にかけたイヤホンとスタッフ用のインカムで音響を担当しているスタッフにほぼ怒鳴るように声をかけた。

 

「おい!音響どうなってる!!曲が始まらないぞ!!」

 

「曲が始まらない限りは照明もつけることができません!!」

 

「こちら音響!主音源から会場中へ音を届けるスピーカーへ繋げたコードのうちの一本が切れました!!」

 

「は?」

 

「おいどういうことだそれ!!」

 

「その...元々このライブ会場に保管されてたコードで、この会場のスピーカーと主音源を繋ぐためにはこれが絶対必要なんですよ!それがこのライブの前にあったバレー大会の時ですかね。その時のスタッフが結構雑に使用してたみたいで、切れかけをそのままにして倉庫に返却したみたいなんです!」

 

「バカ!!なんで気づかねぇんだ!!」

 

「それは前日の準備をした音響スタッフの谷口さんに言ってください!でも、補強テープで切れかけてた部分が隠されてたんで気づかなかったんじゃないんですかね!!」

 

「じゃあどうすんだよ!!」

 

「今!倉庫から変わりのコード持ってきてます!!」

 

「そうじゃなくてこの時間だよ!この時間!どうすんだよ!!!」

 

 ステージの裏。表には出せない混乱がスタッフやアイドル達に襲い掛かってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Luna say maybeっていい曲ですよね。
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