仮面ライダーヴァレン・オーブエトワールショコラ 作:Ryo-ka
俺はズボンのポケットに入れていたスマートフォンを手探りで探すとポケットから出しながら画面を起動させた。時間は午後の一時十三分を写し出している。取材先に行くまでちょっと時間があるな。俺は深呼吸をして腕を天高く伸ばしてストレッチを始めた。俺の姿を少し怪訝そうな表情で見つめる眼鏡を掛けた男がいる。酸賀だ。
「なんだよ...」
「別に、絆斗くんが全然起きないから。このまま改造手術でもしちゃおうかなーって思ってたのに。起きてざーんねん。」
「やっやめろよ!」
「ははっ、冗談だよ。おじさんのジョーク。若い子はすぐ間に受けちゃうんだから。」
乾いた笑い声でそう言うといつも座ってる椅子に腰をかけてホットコーヒーが入ったティーカップを持ち上げた。湯気が立っているせいか酸賀が掛けている眼鏡のレンズが曇ってしまう。酸賀は小言を呟きながら眼鏡拭きを探し始める。
「で、絆斗くん。今日は何を取材しに行くの?巷で噂の詐欺?芸能人のスキャンダル?あ、分かった。殺しだ。」
「そんな物騒なやつじゃねー」
「おじさん気になるなー」
瞼をパチパチとさせながら、俺の方を上目遣いでじーーっと見つめてくる。答えないといけないのか?面倒くさいけど、おじさんとコミュニケーションをとってやるか。
「日本の未来、地域に根付いた子育て応援ってテーマで実際に取り組んでる企業に取材に行くんだ。」
「へー絆斗くん。そういう記事も書いたりするんだー意外だねー」
「好き好んでやってるわけじゃねぇよ。プロとして仕事は選ばねぇだけだ。」
「ひゅーかっこいい。」
「だろ......はーでも、記事にまとめようと思うと難しいんだよなー」
今まで書いたことがないジャンルだし、前から詳しいってわけでもない。でも、一度受けた仕事は完璧にこなさないといけない。これから取材する企業の話も併せてどうやってまとめようか。構成がまとまらないと書けない、このままじゃ家に帰っても徹夜コースだなーそんなことを考えていると酸賀が話し始めた。
「そうだな。子育てねーやっぱり住んでいる地域に保育所から小、中、高等学校まであるといいよね。通わせやすいし。あと、ドラッグストアと小児科。子供...とくに赤ちゃんは免疫力が弱いし、夜に急に発熱した時は家のそばにあると心強いよね。この街とか結構そうでしょ?」
「まぁ......言われみればそうだな。」
確かに怪我した時に包帯とか薬とか売ってるドラッグストアよく見かけるよな。あと子供が遊ぶための公園、ラキアがベンチで昼寝とかしてたしショウマが喜びそうな駄菓子屋もあったな。あれ、意外とこの街って色んなところで親や子供に寄り添ってるのか?そう思うとちょっと親近感が湧いてきたな。それにしても......
「アンタ、そういうの気にかけてるんだな。結構意外かも。」
俺が軽率に放った言葉を聞いた瞬間、飲もうとしていたコーヒーを上げる手が止まる。半笑いだった口角が少しずつ下がっていくようにも見えた。少し黙り込んだあと酸賀はゆっくりと立ち上がった。コーヒーカップをテーブルに置く音がやけに大きく聞こえる。なんだ。俺、変なこと言ったか?
「絆斗くん.......俺にだってね。」
「おっ俺にだって......」
妙な緊張感が走る。空気が冷えていくような感覚。
「親戚の子くらいいるよー?」
「......は?」
「いやーね。お盆とか正月とか?親戚みんなで集まったりするとね。親戚の子達が、やれ「おじさんお年玉はー?」「お小遣いちょうだーい。」って、親は親で「最近旦那が全然家事手伝ってくれない。」「物価が高すぎて家庭のやりくりが大変。」ってせっかくゆっくりしたいのに愚痴ばっかり俺にこぼすんだもん。」
「親戚とかいんのかよ......」
「えーなにー?天涯孤独の科学者に見えるの?心外だなーそれに生物学と子育てっていうのはふかーい繋がりがあるの。親が子を育てて、またその子が親になって子を育てる。生物の進化において必要不可欠な要素だね。そうだ、授業でもしようか?」
「長くなりそうだからいいわ。......さて、そろそろいくか。」
俺は立ち上がるとバッグを持って階段を上がり始めた。後ろを振り返ると酸賀が「じゃ、またなんかあったら。俺がみてあげるから。」と言って小さく手を振る。「分かったよ。」と返事をして俺は酸賀の研究所を後にした。
「......もうでてきていいよ。ごめんねーずっと隠れさせてて。」
酸賀は絆斗が入り口のドアを閉めて帰ったことを確認すると自分しかいないはずの部屋に声をかけた。普段は絆斗に入らないように言っている部屋から黒いパーカーを着た同じ顔をした二人の青年達が現れた。酸賀がショウマのDNAを使用して作ったクローンだ。一人がお腹を摩りながら酸賀に駆け寄る。
「ご主人様、お腹...すいた!」
「あ、そうだね。もうお昼過ぎだもんねー何か頼もっか。」
「俺ピザがいい!!」
「はいはい、ピザねー」
時間を確認した酸賀がどこからかピザ屋のチラシを取り出すとメニューを見ながら電話の子機を手に取る。一人が子供らしくソファに腰をかけて足をバタつかせる。その姿をもう一人のクローンショウマが冷めた表情で見つめていた。
「ご主人様、なんでアイツに変な嘘ついたの?」
「あれー聞いてたの?......あそこで変に黙り込んでも怪しむだけでしょ?それだったら適当に嘘ついて話を流して、他愛のない雑談で終わらせるのが正解。絆斗くん、単純そうに見えて疑り深いから。発言には気をつけないと......」
「ふーーん。そうなんだ。で、結局はどうなの?」
「ふん?どうなのって?」
「親戚とか家族とか......いるの?」
クローンショウマの発言を聞いて耳に当てていた子機を下ろす。クローンショウマの方を見つめながら不敵な笑みを浮かべてこう言い放った。
「さぁ、どうでしょう。」
電車が強く揺れ、俺は目を覚ます。次の駅を知らせるアナウンスが聞こえてきて俺が目的としている駅だった。危ねぇ、あの揺れがなかったら乗り過ごすとこだった。これ以上眠くならないように俺は立ち上がって吊り革に手をかけた。それにしても変な夢だったなーなんで夢に酸賀が出てくるんだ?それに俺がいなくなっても酸賀と偽ショウマの会話が続くし、夢ってやっぱり変だなー
夢の出来事が少しずつ曖昧になって忘れていく。目的の駅まで辿り着くと改札を通って初星学園へと向かった。
「初星学園......さて、ここでする最後の仕事と行きますか。」
初星学園の大きな門をくぐって歩き出す。学園の中に植えられた桜並木が満開だ。俺が初めて来た時はただの木だったのに、時間の流れを改めて実感する。温かい穏やかな風が桜の花びらをさらっていく。今日の仕事は一つ、新年度に向けて十王学園長に簡単なインタビューをして礼を言うことだ。前に行った学園長室に向かおうとしたその時だ。
「待ち侘びておったぞ!辛木田くん!」
快活な声が俺を引き止める。振り返ると桜の木の下で仁王立ちして俺を待ち構える十王学園長の姿があった。俺は急いで駆け寄る。
「十王学園長!」
「全く年寄りを待たせるでないわい。」
「すっすみません......」
「辛木田くん!見てごらんなさい。我が学園自慢の桜の木を!!」
十王学園長がバッと手を上げるとタイミングを合わせたかのように風が吹いて桜吹雪が起こる。雨のように散る桜の花びらが俺の頭の上に落ちてきて、花びらを掴んだ。
「本当に綺麗ですね。」
「そうじゃろそうじゃろ。新入生、そして在校生や卒業生の新たな門出を祝ってくれおるわい。」
卒業生、つまり俺が出会ってきた星南や燕、他の三年生達はこの初星学園を卒業してしまったのか。そう思うと少し切なくも感じる。
「何を辛気臭い顔をしておる!新たな門出と言っておるじゃろ!ワシらが祝ってやらんでどうする!」
「そっ!そうですよね!」
「いいかい辛木田くん。この学園を卒業しても彼女達の未来は続く。アイドルの道を進み続ける者、全く異なる分野に挑戦する者、三年間の経験を活かし、プロデューサー科を目指す者もいる。道は違えど『夢』が決して終わることはない!!夢は新たな夢に受け継がれていくのだ!!」
「夢は終わらない......」
その言葉がやけに胸の深くに突き刺さった。十王学園長は口角を上げ、ニカッと笑うと俺の両肩を勢いよく掴んだ。十王学園長の腕から何か熱いものが伝わっていくような感覚。さっきまであったらしみったれた負の感情が拭い去られていくようだ。
「その通り!お主の夢もまだ終わっておらんじゃろ?」
「え...」
「ガハハハハハハハ!!!インタビューはこれでおしまいじゃ!あとは好きにすると良い。お主の記事、楽しみにしておるぞ。」
そう言って十王学園長は大声で笑うと校舎に向かって歩き始めた。大きく雄大なその背中を見つめながら「ありがとうございました!!!!」と俺もその背中に届くような声で頭を下げて礼をした。やっぱり十王学園長はカッケェ人だ。メモをすることは出来なかったけど、あの人が言ってくれた言葉は全て俺の記憶に焼き付いている。俺がその背中を見送っていると背後から気配がした。
「ばっ!!」
「その手には...もう引っかからないぜ。広。」
もう驚かされない。余裕な表情で背後を振り返ると広の姿があった。いつも通りの笑顔でくすくすと笑う。
「ね、絆斗。さんぽいこ。」
「散歩?」
広の後をついていく。俺は学園の敷地外を出て駅に向かって歩き始める。広は一体どこを目指しているんだ?住宅地を抜けて人気が少なくなっていく。「こっちが近道。」と言って路地裏の方へと向かっていった。その割には自然がある。デカい公園が近くにでもあるのか?緑で生い茂った木々の葉の隙間から柔らかな日差しが注いでいた。本当に、冬の寒さを感じさせない穏やかな季節だ。
「ねぇ、絆斗。」
「なんだ?」
「ずっと聞きたかったことがある。」
「聞きたいこと?最後かもしれねぇし、答えてやるよ。」
「......あのね、」
バァン!!
広が何か呟こうとした瞬間、少し離れた場所から銃声のような音が聞こえてきた。反射的に広の前に立つ。先ほどまでの和やか空気が一瞬で変わってしまった。ここは人の行き来が少ない場所だ。アスファルトの上をコツコツと歩く足音が少しずつ大きくなっていく。脇道から俺達の前に黒いボロボロのフードを被った人間が目の前に現れた。
「みーつけた。」
「誰だテメェ。」
「忘れたなんて酷いなーオレはこんなにもキミ達のことを考えているのに。」
フードを脱ぐと白い髪、緑の瞳の女性が俺達をニヤッと笑いながら見つめてきた。肌の至る所に火傷や切り傷のような跡がある。俺はその顔に見覚えがあった。ショウマがあの時、倒したはずのベロルスだ!!
「ベロルス!なんでテメェが!」
「キミ達を殺しに地獄から戻ってきたの。赤ガヴやラーゲ9がいないのは悲しいけど。まずは弱っちぃぃ人間のキミからだ!横にいる人間もついでに殺してあげるから見ててぇ!!」
ベロルスは不気味な笑みを浮かべ、笑いながらフードを勢いよくめくった。黒いガヴがついた腹が露出する。その黒いガヴに見覚えがある。偽ショウマのガヴ、それにマーゲンっていう野郎にも同じ口がついていた。こんなことが出来るのはアイツしかいねぇ。
「ニエルブさんにやってもらったんだー。」
「やっぱニエルブの野郎の改造か!」
「それじゃあ...いっくよー!!」
ベロルスはそう言うと穴だらけのズボンのポケットから黒いチョコのゴチゾウを取り出して、黒いガヴを開けると舌の上に乗せた。あの黒いチョコのゴチゾウにも見覚えがある。嫌な思い出しかないやつだ。
「チョコルド......」
『チョコ』
ベロルスは胸の前に両手を伸ばし、クロスさせると指を噛む動作のように動かしながら腹部まで下げた。クロスさせた腕を勢いよく元に戻す反動で黒いガヴの口を閉じる。
『バイト!チョコ!バイト!チョコ!』
片方で黒いレバーを回転させ始める。身体中にビリビリと青い電流のようなものが走っているが本人はずっとケラケラと笑っていた。目を見開いて笑うその姿が余計に不気味だった。ベロルスの背後に銀紙に巻かれた黒いチョコレートの板が出現する。レバーを回す方へとは別の腕を俺達の方へと伸ばし、首を絞めるような動作をする。
「あはははは!!変...身。」
ベロルスの緑色の瞳が発光する。黒いガヴのピンク色のボタンを勢いよく叩きつけた。背後の黒いチョコレートがドロドロに溶け、ベロルスの足元までくると全身を包み込み蝕んでいった。
『チョコルド!ヤミー』
「さぁ、もう一回オレと遊ぼうよ!!ヴァレン!!!!アッハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」
おまけ 仮面ライダービターガヴ チョコルドフォームのビジュアル