仮面ライダーヴァレン・オーブエトワールショコラ 作:Ryo-ka
「ねぇ、絆斗はどっちがいいと思う?」
俺は今、天川市の駅前にあるショッピングモールで初星学園のアイドルと一緒に買い物をしている。どうしてこうなったんだ?こうなった経緯を振り返っていると篠澤広という女子生徒がこちらをじーーっと見つめているのに気づいた。俺はかけているサングラスの位置を直す。
「なんでそんなに離れてるの?もっとこっち、おいでよ。」
「ばか、アイドルが男と買い物してたらヤバいだろ。」
「そうなの?わたしは別に気にしない、よ?」
そういう意味じゃねぇ。ジャーナリストっていうのは常に話題となるネタを探しているんだ。それが未成年のアイドルだろうと関係ねぇ。一枚でも写真を撮られたら最後、あることないこと記事にされてコイツのアイドルとしての人生が終わっちまう。俺のせいでそうなることだけは避けねぇと。しかし、コイツは不用心すぎる。隙しかねぇ。本当にアイドルの自覚があるのか?
「で、なんで俺が買い物に付き合うんだよ。そういうのは友達と一緒に行けばいいだろ?」
小声で俺が尋ねると「わたし、男の子の友達いないから。」と答えて再び雑貨コーナーを物色し始めた。うん?どういう意味だ。
「もうすぐ、わたしのプロデューサーの誕生日。だからそのプレゼント探し。」
「誕生日プレゼント?」
「うん。でもわたし、男の人が何を貰ったら喜ぶのか、わからない。」
だから俺を買い物に誘ったってわけか。納得した、たしかにさっきからコイツとショッピングモールの色んなコーナーを回ったがどれも男向けのコーナーばっかだったしな。
「仕方ねぇな、わーったよ。」
「絆斗、ありがとう。で、男の人は何を貰ったら嬉しい、の?」
「男が喜ぶもの、か......そうだなー漫画とか、ゲームとか、あと焼肉とか?」
「うーーん。参考にならない、ね。」
「参考にならなくて悪かったな。ていうか、篠澤......」
「広でいいよ。」
「......広のプロデューサーってどんな奴なんだ?」
広は少し考えたあと、俺に自分のプロデューサーについて口頭で教えてくれた。四月に初めて会った時、プロデュースを頼んだら速攻で断ってきたらしい。プロデュースをなんとか引き受けてくれたあとも、練習でボロボロになった自分の姿を見て呆れた顔で見つめてくる顔が好き。自分のことを誰よりも低く評価してくれるところが好きと広は言っていた。上げてから落とすタイプ。鬼、悪魔......
「なぁ、」
「うん?」
「そんなやつで本当に大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫。むしろすごく合ってる。」
「そうか......」
「プロデューサーは確かに、ひどい。でもね、わたしのことを見捨てないでくれた、よ。誰よりもアイドルに向いてない、わたしと一緒に、ここまで歩いてくれた。すごく、感謝してる。」
「......」
広は口頭で自分のプロデューサーのことを説明するとき、すごく幸せそうに話していた。事実、四月に出会ったということは今に至るまでずっと二人でアイドルの険しい道のりを歩いてきたのだ。二人が築きあげた信頼関係に俺が「そんなやつで本当に大丈夫なのか?」と心配するのは無粋だったな。悪いことをしてしまった。
「お前。プロデューサーのこと好きなんだな。」
「うん、大好き。」
自分で自信満々に答えたあと、やはり少し恥ずかしかったのか広は俺から目線を外して頬を赤らめた。アイドルでも年相応の少女なんだなと思った。
「だったら妥協は許せねぇな。最高の誕生日プレゼントにしようぜ!」
「うん。」
「話を聞く限り......仕事に真面目そうなやつだから......あ、そうだ。」
俺は広を連れてエレベーターに乗って別のコーナーへと足を運んだ。紳士服売り場と隣接した文房具のコーナーだ。一通り見ているとショーケースに入った立派な万年筆に目が止まる。
「仕事道具ってのはどうだ?例えば、俺だったらメモ帳とかペンとか。」
「なるほど、確かによく書類、書いてる。」
「あとは......プロデューサーってスーツ着てるんだよな。ネクタイとかスーツにつけるピンバッジとか。自分がプレゼントしたものを普段から身につけてると嬉しいだろ。」
「うん、嬉しい。ちょっと、この辺りで探してみる、ね。」
「おう。」
そう言って広は楽しそうにプロデューサーへのプレゼントを探し始めた。ある程度プレゼントを絞ったらあとは自分が納得するものを見つけるだけだ。せっかく俺もショッピングモールに来たんだし何か買い物しよっと。
それから一時間ほど経った。俺がフードコートの席に座って休んでいると大きな紙袋を持った広が歩いてやってきた。どうやらプレゼントが決まったみたいだな。
「いいプレゼント決まったか?」
「うん、でも、買いすぎちゃった。」
「プレゼントは多ければ多いほど嬉しいだろ。まぁ、そのぶんお返しが大変になるけどな。」
「ふふっ......わたしの誕生日楽しみ、だね。」
「だな。」
俺達はショッピングモールを出たあと、駅に向かって歩き始めた。日がだいぶ暮れてきたな。少しずつ空が夜の色に染まっていく。二人で歩いていると広が突然歩くのをやめて立ち止まった。「どうしたんだ?」と声をかけるとどうやらビルの大型モニターを見つめているようだ。三人のアイドルがどこかの会場でライブをする姿が映し出されている。周りを見渡すと広以外にも同じくらいの年の女の子がそのモニターを見つめて楽しそうに話していた。
「わーBegraziaだ!」
「ほんと憧れちゃうよねー!みんなすっごく可愛い!」
「あの子達も初星学園か?」
「うん、わたしの友達が映ってる。」
「へーどの子だ?」
どうやら全員、広の知り合いらしく俺に彼女達について話し始めた。
「あの子が佑芽、その隣の青い子が美鈴、そして......」
最後に金色の髪の少女を広は指差した。彼女の名前は十王 星南(ジュウオウ セナ)というらしい。初星学園の生徒会長であの十王学園長の孫だという。たしかにどことなく説明はできないが似ているような気もする。
「初星学園の『一番星』」
「ぷ......プリンカステラ?」
「プリマステラ、イタリア語で一番星っていう意味。学園一のアイドルに与えられる称号。」
「学園一......すげぇ奴なんだな。」
「うん、だから。わたしは、篠澤広は、『一番星』を目指す。」
その瞬間、先ほどまでとは違う真っ直ぐな眼差しで大きなモニターに映る一人のアイドルを見つめ始めた。冗談じゃないみたいだ。本当に広は一番星を目指すと宣言している。
「プロデューサーと約束した。トップアイドルを二人で目指す、って。それが今の二人の夢。」
「できるのか?」
「今のわたしは、『一番星』とは、ほど遠い。言うなれば......『オーブエトワール』」
「オーブエトワール......」
「フランス語で夜明けの星って言う意味。一番最後に出てくる星、スタートするのが、一番遅い。それでも、一番星以上に輝く、きっと道のりは険しい。辛いことだってたくさん、ある。それでも......今の自分がすごく、楽しい、よ。」
そう無邪気な子供のように笑う広の瞳は最初に会った時以上に宝石のように輝いていた。あとで調べたところ、広は入学当初、今以上に体力がなく歌うことも日常生活もままならなかったらしい。素人から見てもアイドルに向いていない人間だということが分かる。
元々、飛び級をして俺でも知っているような有名な海外の大学を卒業している。世間では日本有数の頭脳を持つ『神童』と言われていたようだ。本来ならそのまま海外で俺が想像できないような分野を研究していたのだろう。少し深く調べていくと......見つけた。大学生時代の篠澤広の写真。その写真を見て、愕然とした。
記念撮影か何かだろうか。大勢の中の真ん中に広は座っているが、かけている眼鏡の奥の瞳が全く笑っていなかった。暗く澱んだ死人のような目。無機物な印象だ。今日会った広とは似ても似つかない。
「今の自分がすごく、楽しい、よ。」
広はこのまま世間の期待を背負って自分の得意分野をしていれば、歴史に名を刻むような栄光を掴んでいたのだろう。それでも広はその全てを投げ捨ててアイドルの道へと飛び込んだ。
スタートラインに立ったのは一番最後、ノウハウも走り方も知らない、そもそも走れるような身体ではない。でも、広にとってアイドルとして一歩一歩進む今が一番楽しいのは間違いない。
俺は今日、誰も見たことがない唯一無二のアイドルに出会ったのだ。