仮面ライダーヴァレン・オーブエトワールショコラ   作:Ryo-ka

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苦い昨日にキャラメリゼ3

 幼い日、わたしが生きていた世界はあまりに狭く色褪せてしまっていた。冬のある日のこと。どこまでも白い雪の中で遊ぶ子供達を曇ったガラス越しに見つめていた。

 顔を真っ赤にしてクシャミをしてしまうくらい外は寒いのに、暖房の効いた快適な部屋で過ごすわたしと比べてどうしてそんなに楽しそうなの?外に行ってみれば分かるのかもしれない。わたしは静かに階段を降りて家の玄関を開けた。わたしの身体を凍てつかせる冬の風が吹き抜けていく。

 雪が積もった道を一歩一歩進んでいく。あの子達のように厚着をすれば良かったと後悔をした。今まで温かい家の中でしか過ごしていなかったわたしはすぐには気づけなかったのだ。

 

「わ、」

 

 数分間、外にいただけなのに身体が熱い。頭の中にモヤがかかってしまったようだ。そのせいで雪の中に埋もれていた小石につまづき、受け身も取れないまま倒れてしまう。小さな身体が雪に沈んでいくのを感じた。

 そのあとすぐに両親が駆けつけてきてわたしを担ぎ上げて家の中へと運んでくれた。二日ほど熱が出てしまった。二人にものすごく心配をかけてしまった。でも、薄れゆく意識の中でわたしは見た。雪に残った自分の足跡を。

 ここまで歩いてこれたんだ。なんだか少し嬉しかったことを覚えている。

 

 わたしの人生は不特定多数の誰かが望んだものだ。もてはやされ甘やかされて生きてきた。わたしの名前と功績しか知らない誰かはきっとわたしの人生を羨むのだろう。でも、長いエスカレーターをただ上っているようで、それはあまりにも退屈だった。

 だから、一層輝いて見えた。自分達が望んだ人生を歩む彼女達が。わたしの人生はわたしが望んだものだと言えるようになりたい。その瞬間、わたしの世界は色を取り戻していった。

 心臓が痛い。風船のように破裂してしまうかもしれない。でも、どうしてだろう。この痛みが心地良い。どうしてこんなにわたしはワクワクしているの?

 不特定多数の誰かのために動いていた心臓がわたしのために動いている。それを実感できている。嬉しい。楽しい。このままわたしが走り続ける限りずっと、ずっと。

 

 

 

 

 

 初星学園の校庭を一人の少女が歩いていた。まるで美術館に飾られた絵画のような上品な金色の長い髪の毛。モデルのような長い足、所作の一つ一つで育ちの良さが伺える。彼女の名前は十王星南。これから俺が話しかけないといけない相手だ。

 確かに俺は取材をするなら一人に絞りたいと言ったが、周りの大勢の生徒が彼女に視線を向けている。あれじゃあ話しかけに行ったら絶対に注目されちまう。どうしたもんかと考えてベンチに座って見つめていると十王星南がこちらを見て目が合った。慌てて視線を外す。ヤベ、怪しまれたか。

 

「ごめんなさい、そろそろ行くわ。」

 

 十王星南は他の生徒達にそうやって告げると真っ直ぐに俺の方へとやってきた。なんでこっちに来た!?他の大勢の生徒達が俺に視線を向ける。

 

「あの人だれ?」

 

「プロデューサー科の人かな?見たことない。」

 

 周囲がザワザワと騒ぎ始めた。やっぱり生徒会長に話を聞くのは無理だったか?このまま十王星南に怪しまれたら全生徒を敵に回すことになっちまう。そうなったら行方不明事件の調査も普通の取材も出来なくなっちまう。ここは立ち去るのが正解か?そう考えたその時だ。十王星南は俺の前へと立ち止まってこう言った。

 

「遅れてごめんなさい。午後から取材を予定されていた記者の方ですね。」

 

「え?」

 

 やばい。驚きすぎて馬鹿みたいな声が口から出てしまった。午後からの取材?困惑する俺とは対称に周囲の生徒達の俺に向ける視線が変わっていくのを感じた。

 

「なーんだ。取材の記者なのね。」

 

「卒業前でも仕事があるってやっぱり星南会長はすごいな〜」

 

「取材は生徒会室にしましょう。こちらです。ついてきてください。」

 

 俺はベンチから立ち上がり、十王星南の後をついていくことになった。なんとか助かったがどうして彼女は俺が用があるって分かったんだ?数分ほど歩いて校舎へと到着すると生徒会室へと案内された。

 

 

 

 

 

「今の時間は私しかいないわ。ここなら他の生徒には聞かれないでしょ。」

 

「あっありがとうございます。」

 

「話はおじ...ごほん!学園長から聞いているわ。失踪事件のことよね?私が知っている彼女達の情報は何でも話すわ。」

 

「ほっ本当ですか!」

 

 十王星南に座るように言われた俺は目の前にあったパイプ椅子へと座った。彼女も目の前の席へと座った。まるで面接を受けてるみたいだ。俺は予め用意していた失踪した生徒達の名簿を彼女に手渡す。それを一通り読み終えた彼女はこちらへと目線を向けた。めくるたびに少し悲しそうな表情を浮かべているように見えたが気のせいだろうか。

 

「彼女達のことは知っているわ。貴方が聞きたいことは何?」

 

「俺が聞きたいのは失踪した生徒達の共通点です。」

 

「共通点......そうね。強いて言うのならあまり言いたくはないのだけれど、過去五ヶ月以内に外部からの仕事依頼がなかった生徒よ。」

 

「仕事依頼がなかった?」

 

「えぇ。逆に聞くわ。貴方はもしこの事件が誘拐だとして犯人の目星がついているの?」

 

 彼女にどこまで話せばいいのだろうかと考える。グラニュートという別の世界からやってきた化け物が闇菓子というお菓子の材料にするために幸せそうな人間を攫うということを彼女に話して信じてくれるのだろうか。普通は信じてくれない。俺が悩んでいると彼女は「話せないのならそれでいいわ。」と先ほど見せた悲しげな表情を浮かべた。

 

「いえ、俺も目星はついてはいません。一つ言えるとするなら奴らは幸せそうな人間を狙うってことだけです。」

 

「そう、やっぱりただの失踪じゃないのね。幸せそうな人間......それなら彼女達は当てはまるかもしれないわ。」

 

「え?」

 

「アイドルにとって外部からの仕事はアイドルを続けるためにとても大切なものなの。仕事を失っていた彼女達はきっと藁にもすがる思いでその仕事を受けたはずよ。」

 

 なるほど。アイドル活動を継続するために仕事を探していた彼女達はどんなに怪しい仕事でも喜んで受けた。自分達の夢にとって最後の希望。それなのにグラニュートは偽物の希望を用意して、生徒達を自分達の食い物にしようとしている。腹の底から怒りが湧き上がっている感じだ。絶対に許せね......

 

「絶対に許せないわ。」

 

「え、十王会ちょ......」

 

「星南でいいわ!アイドルを目指す生徒達の夢をこんな形で終わらせたりなんてさせない。ねぇ、私にできることはあるかしら。」

 

 そう言って星南は立ち上がった。先ほどまでの落ち着いた雰囲気とは違う。

 

「もしかしたら同じ手口で他のアイドル養成校や事務所を狙うかもしれない。その注意喚起。もし怪しい企業から仕事の依頼が来たら俺に連絡してほしい。」

 

「分かったわ。学園長に伝えておく。」

 

「信じて...くれるのか?」

 

「もちろんよ。なぜか分からないのだけれど、貴方なら生徒達を救ってくれる気がするの。」

 

「あぁ、絶対俺が救ける。」

 

「ふふ、心強いわね。」

 

 俺は星南に頭を下げて礼をした。絶対に彼女達を救ける。今、ここで誓った。そのためにも自分ができる最大限のことはするつもりだ。二人で生徒会室を後にすると入り口の前に一人の少女がいた。

 

「あ。話、終わった?」

 

「広!?なんでお前がここに?」

 

「絆斗、わたしはね。星南に話があるの。」

 

 いつにもなく真剣な表情で広はそう言った。俺は少しずれて星南の前に広が立つ。

 

「星南、お願いがある。」

 

「珍しいわね、広。貴方から私にお願いだなんて。」

 

「もうすぐ星南は卒業しちゃう。」

 

「......えぇ、そうよ。」

 

「だから、その前に一つだけ。わたしと。」

 

「......」

 

「わたしと、『ユニット』を組んでほしい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

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