仮面ライダーヴァレン・オーブエトワールショコラ   作:Ryo-ka

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苦い昨日にキャラメリゼ4

「あなたと...ユニット?」

 

「うん。」

 

「広、本当に言ってるの?」

 

 広の突然のユニット勧誘に一番星の星南もどうやら相当困惑しているようだ。あと数ヶ月もしないうちに卒業してしまう三年生の星南をユニットに勧誘するなんて広は何を考えているんだ?「私は本気。ユニット組んでくれたら......」と呟いた広はポケットの中をゴソゴソと漁って何かを取り出した。

 取り出したものを星南にまるで水戸黄門の紋所のように見せつける。どうやらそれはアクリル製のチャームのようで、デフォルメされた黄色い髪の三つ編みの少女のイラストが描かれていた。

 

「そっそれは......!?!」

 

 俺には分からなかったが横にいた星南が白目をむいて絶句している。スッゲェ顔してる。この顔を星南に憧れている他の生徒達が見たらどう思うんだろうな。

 

「星南なら......分かる、よね?」

 

「それは......今日発売の『でふぉキャラ藤田ことね!キラキラアクリルチャームvol.3』!!」

 

「なんだそれ......」

 

「そう。さっき駅前のグッズショップで買ってきた。」

 

「ふっ...ふん!広。一番星を侮らないでほしいわ。私はもう!全種コンプリートのために公式オンラインショップ上限の5BOX予約済みよ!」

 

「おー」

 

「それ一番星関係あんのか......?」

 

 落ち着きを取り戻した星南は自信満々に俺達に瞳を輝かせながらスマートフォンの画面を見せつけた。そこには確かにインターネットのオンラインショップで予約済みかつ配達済みと表示されている。だが、広はニヤリと笑うと「星南。これ、よーく、見て。」と再び自分が持っているアクリルチャームを星南に見せた。

 

「だから、私は5BOX予約ず......うん?うーーーーーん???」

 

 先ほどまで自信満々だった星南の表情が広が持つアクリルチャームを見つめるほどどんどん崩れていく。余裕がなくなっていき目がどんどん見開いていく。そして小声で「知らない......」と呟いた。

 

「しっ知らないわ!その絵柄のチャーム!私は何度も公式の商品紹介ページで全種類目に焼き付けて暗記してるのよ!!」

 

「へーじゃあ、言ってみて。」

 

「えーもちろんよ!初星アイドル衣装、コック藤田衣装、メイド服衣装、平成ギャル衣装、浴衣衣装(花火)、ハロウィン衣装、藤田サンタさん衣装、しゅきしゅき大好き応援隊衣装、浴衣衣装(正月)、着ぐるみ衣装、コンビニアルバイト衣装、おかねコンプリートゴールド衣装、バレンタイン衣装、シンデレラ衣装、幼稚園児スモッグ衣装、体操服ジャージ衣装、おいでやす京都......」

 

 よく噛まずにここまで言えるなと感心してしまうほど長い間、星南はアクリルチャームに収録されている様々な衣装の名前を述べていった。俺だったら絶対どこかで噛むし全部覚えられる気もしない。やっぱり一番星ってすげーなって思った。

 

「ジューンブライドドレス衣装の49種類+シークレット1種類の全50種類よ!!」

 

「おーすごい。」

 

「ふふっ当然よ。」

 

「ということで、これはシークレット。」

 

「え......ええぇぇぇぇえぇぇぇ!?!!しっシークレットですってーーーーーー!?!?!」

 

「マジか!?」

 

「うん、一発で出ちゃった。君のおうちでお泊まりデート衣装。」

 

「君のおうちで!?!お!お泊まりデート衣装!?!!!??あっああ......」

 

バタッ!!

 

 星南は白目をむいたままその場で膝から崩れ落ちてしまう。床に手をついて小言で何かをボソボソと呟き始めた。これは相当、困惑しているようだな。

 

「おっおい!大丈夫か!」

 

「シークレットは噂によると1カートンに入ってるかどうかの確率......」

 

「うん、だから星南。あげる。」

 

「ほっ本当!?」

 

「うん。星南、わたしは星南を越えるトップアイドルになる。そのために星南のことをもっと近くで知りたい。」

 

「そのために......ユニットを?」

 

「......だめ?」

 

 星南は目を閉じて少し考えたあと、ゆっくりと立ち上がり溜め込んでいた息を静かに吐いた。そして目を開いて広を見つめると優しく微笑んだ。先ほどとは別人、一番星でありこの初星学園の生徒会長の姿がそこにはあった。

 

「これも一番星として......いいえ。先輩として後輩にできることかしら。」

 

「それって......」

 

「いいわ。一夜限りのユニット結成よ!」

 

「星南......ありがとう。」

 

「良かったな。広。」

 

 どうやら話はいい方向に纏まったみたいだな。一番星を越えるために一番星と一夜限りのユニット結成。ジャーナリストとして特ダネになる予感しかしない。この記事だったら俺に依頼してくれた砂藤さんも喜んでくれるかもしれない。あとで広と星南に相談してみよう。ユニットか......うん?

 

「ユニットって広と星南の二人か?」

 

「うんうん。もう一人、誘う予定。」

 

「もう一人......は!!ふふっ、広。あなたの考えはすぐに分かったわ。さっきのアクリルチャームは伏線......もう一人のメンバーは!そう!こと......!!」

 

「違う。」

 

「えぇ、分かっていたわ。うん。分かってた......」

 

 星南は悲しげな表情を浮かべながら小声でそう言った。目線を外して床を見つめている。どうやらかなり期待していたらしい。

 

「ということで絆斗。もう一人、スカウトしに行こう。」

 

「おっ俺も行くのかよ!?」

 

「うん。ついてきて。」

 

「おっおい!待てって!!」

 

「うん分かってた......変に勘違いしちゃった私が悪いのよね。」

 

 

 

 

 

 古城のような建造物が上下に大小立ち並ぶ異様な場所。ここはグラニュート界の大手製菓メーカー「ストマック社」。そのストマック社の会議室。長いテーブルに座った二人の人間に擬態したグラニュートが眷属であるエージェントが持ってきた書類を確認していた。すると遠くからこちらに向かってくるヒールのカツカツという音が聞こえてくる。

 

「おかえり、グロッタ姉さん。」

 

 ストマック家の技術開発担当、次男のニエルブが眼鏡の位置を片手で戻しながら声をかけるが無視をして椅子に座った。不機嫌そうに長いテーブルの上にヒールを履いた両足をドン!と乗せる。彼女はグロッタ。ストマック家の長女で闇菓子の製造を担当している。

 

「おい、グロッタ。テーブルに足を乗せるな。」

 

 そう言って長男であり、このストマック社の現社長であるランゴがグロッタを睨みつけた。

 

「兄さん、ちょっと静かにして。今は機嫌が悪いの。」

 

「珍しいね。」

 

「またバイトが赤ガヴ達に始末されたのよ。このままじゃ人プレスの仕入れ数が今以上に不安定になっちゃう。」

 

「今いるバイトくん達には頑張ってもらわないとね。そういえば、最近変なバイトくんがいるんだ。アイドルっていう人間を狙うらしい。」

 

「何ぃ?アイドルだと?」

 

「なによそれ。」

 

「よく知らないけど、人間界には歌って踊って人間達を笑顔にする職業があるらしい。」

 

「へーそれじゃあ。その人間を餌にして、一つの場所に集団で集まって幸せになった人間達を一気に人プレスってのはどう?」

 

「へー面白いね。」

 

 二人の会話に少し耳を傾けていたランゴは大きくため息を吐くと目を通し終わった書類を自身の横で待機していた赤いエージェント達に渡して立ち上がった。

 

「ふん、そんなことをして見ろ。人間共の注目を引いて赤ガヴに警戒されるだけだ。」

 

「それもそうね。相当追い込まれない限りそんなことはしないわ。」

 

「それじゃあ、僕も研究室に戻ろうかな。」

 

 そう言ってニエルブとグロッタは立ち上がるとそれぞれの持ち場へと戻って行った。ランゴは二人の背中を見たあと、窓に映るグラニュート界の景色を静かに見上げた。

 

 

 

 

 

 俺は今、ユニットメンバーを誘うために広と初星学園を出て駅の方へと来ていた。腕時計で時間を確認する。十二時手前、そろそろランチタイムだ。そういえば今日は朝食はパン一枚で済ましちまったな。歩きながら辺りを見渡すと駅前の飲食店街も少しずつ店の前に列ができ始めている。

 

「腹減ったなー」

 

「ついた。」

 

 立ち並ぶ飲食店から香る多種多様な料理の匂いに誘惑されそうになったタイミングでどうやら俺達は目的の場所に到着したようだ。

 

「ここにいんのか?」

 

「うん。」

 

 広は頷いてその建物のドアをガラガラと開けた。開けた瞬間にいい匂いが立ち込めて俺の理性が一瞬吹っ飛びそうになる。店員の女性が「何名様ですか?」と尋ねてきて咄嗟に「二名です。」と答えてしまう。今の目的は広のユニットメンバーを探すことだが、このまま昼飯もここで済ませちまおう。空腹状態の俺には耐えられない。俺達は店の奥へと進んでいく。広はチラチラと客の後ろ姿を見てユニットメンバーを探す。カウンター席の向こうには屈強な店長らしき人物がものすごい勢いで湯ぎりをしている。

 

「いた。」

 

 広は少し駆け足で一人の客へと近づいた。どうやらユニットメンバーに勧誘するアイドルが見つかったらしい。その子のそばまで近づくとゆっくりと背後をとり「ば!!」と声をかけた。いや、普通は背後に回る前に気づくがその子は豚骨ラーメンを食べるのにかなり集中していたらしい。

 

「うっ!!」

 

トントントン!!

 

 急に後ろから声をかけられて驚いたのか麺を喉に詰まらせてしまったらしい。慌てた様子で胸を叩きながらラーメンの横に置いていたコップの水を一気に飲み干す。喉の詰まりが治った青い長髪の女子生徒が目を見開き、息を切らしながら背後に立つ広を睨みつけた。

 

「やっほー手毬。」

 

「はぁ...はぁ...はぁ......何?」

 

「一緒にユニット、組もう。」

 

「......はぁ?」

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