音と共にある人生   作:Taku-One

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習作です。よろしくお願いします。


1年生
第1話_転生


 

 定番のトラックに轢かれた覚えもないのに、気がついたら僕は転生していた。

 

 前世の最後の記憶は、打ち上げでしこたま飲んで盛り上がったものであったので、もしかしたらそのまま急性アルコール中毒で死んでしまったのかもしれない。我らが研究室が十数年をかけて上げた研究成果が、ついにノーベル物理学賞選考の最終候補に残ったことでテンションを上げ、研究仲間とともにバーで馬鹿騒ぎしていたので、正直言ってそのあたりの記憶が全く残っていないのだ。

 

 もしその研究成果が最高の栄誉を得たのだとしたら、まったくもって情けなく、かつもったいない死に方をした。

 とんでもない奇跡が起きてもし受賞していたら、せめてしばらくの間くらいは受賞ブーストでチヤホヤされれただろうし、皆の大変な労力をかけた研究の集大成だったのだ、代表としてドヤ顔で記者会見くらいしたかった。

 

 

 自分が転生したのだと気づいたのは、もうすぐ3才になるくらいのことだった。

 いわゆる、『()()がつく』という頃だろう。

 今世の両親いわく、その時の僕はインフルやその他知られた感染症にかかったわけでもないのに何故か高熱が一週間弱も続き、命の心配もされたのだという。

 

 僕としては、前世の知識が流れ込んだことによる知恵熱的なものが原因だったと思っている。

 熱も引いて落ち着いた今の状態としては、前世の僕と今世の僕が半々入り混じった人格になったと思う。数十年を生きた前世の自意識と赤ん坊の自意識が衝突すれば、後者は跡形もなく消え去りそうなものだが、そうでもなかったようだ。

 前世の記憶も思い出もバッチリ覚えているし、今の両親にも、なんというか甘えたくなるようなものを感じる。自分の親は誰だと聞かれたら、今世の両親を選ぶだろうほどには既に馴染んでいた。二重人格とかになったら面白かったのか。でもそれはそれで複雑な状況になったかも知れない。

 

 体調不良の間は両親は交代で様子を見に来たり、症状が悪化したらふたりとも仕事を休み、つきっきりで看病し、病院と家との往復の日々を過ごしていたようだった。

 必死に看病し、僕を心配する姿を見たことで、僕は今の家族のは本当に僕を愛していてくれているんだなと感じた。

 

 両親からの愛というものは前世ではあまり感じられなかったこともあり、それが今世で感じられたことは本当に幸運だと思う。

 前の家族や研究チームの皆、数少ない友人達はあの後どうなったのだろうか、今更考えても詮無いことなのだけど。

 

◇ ◇ ◇

 

 今世の僕の家は一般家庭とは少し変わっていると言えるだろう。

 名字は大槻(おおつき)、名前は透理(とおり)。父母息子の3人家族で静岡県浜松市在住、そこまではまぁ普通だろう。

 しかし父親は大手楽器製作メーカーの設計・開発職、そして母親は世界的とは言わないまでも日本では名の知れたプロのトランペット奏者、いわゆる音楽一家だったのだ。父は京都出身だったが就職を機に静岡へ引っ越した。

 母は大阪を拠点とする楽団で活躍していたが、そこへの機材支援活動の仕事中に出会ったのが馴れ初めらしい。

 そして僕が生まれた後に静岡に家を買い現在に至る。

 

 そして音楽一家ということは、家の中に楽器が沢山あるのである。

 キラキラとした色々な種類の楽器に目を引かれた僕は、楽器専用の倉庫(一般家庭に楽器室!)へと父母に連れてきてもらっていた。また当然のように演奏練習用の防音室まであるという。すごい。

 ちなみに3才になるまでは高級で壊れやすい楽器も多いということで、入っちゃだめと言われていた。

 

 「な~に、透理はトランペットに興味ありそうな感じ?」

 

 「そうだな、昨日もずっと触っていたし」

 

 確かに他の楽器もかっこいいが、トランペットが一番しっくりする気がする。前世では楽器とは何の縁もなかった僕だが、何故か運命的な出会いを感じる気がする。ただキラキラするトランペットが幼児の精神的にクリティカルヒットしただけかも知れないが。

 

 「やっぱり私の息子ってことなのかねぇ~……あっ、それ一番高いやつじゃないの! 触るなら練習用のにして!」

 

 音楽一家の必然として僕は幼い頃から楽器や音楽と親しむことになった。

 母親が居るときはその足元に寄りかかって奏でる音を聞き、普段は常に部屋を満たしているクラシックやジャズの音に身を浸した。

 前世ではほとんど関わりがなかったのが不思議なくらい、楽器や奏でられる音楽に心惹かれるものを感じた。もしかしたらこれは今世の僕の性格や好みのせいなのかも知れない。

 なによりトランペットを吹く母親は、息子補正がかかったのか女神もかくやというくらいに美しく眩しく見えたのだ。

 

 余談だが、母お気に入りのトランペットを指紋でベタベタにした僕は、親と一緒でなければ楽器室への入場禁止の措置をとられた。

 解せぬ。

 

◇ ◇ ◇

 

 ところで転生といえば、僕の前世の偏った読書知識によると、神様と面会してなんやかんやチート能力を貰えることがあると期待していたが、残念ながらそんな都合のいいテンプレイベントはなかった。

 そもそも神と思われる存在とは会ってすらいないし、生まれ落ちた現世は明らかに現代日本だ。

 ちょっぴり異世界ファンタジーで剣と魔法で無双して、耳の長い種族とイチャイチャできる妄想を抱いていた僕は、静かに失望した。

 

 ただ、現代日本にしては目に入ってくる有名企業や有名学校等の名前が前世の記憶と微妙に違う気がするので、もしかしたら現代を舞台にするフィクションに転生したのかも知れない。

 しかしどちらかというと異世界モノに傾倒していて現代モノをあまり手に取らなかった僕にはその知識を活かせそうにない。

 

 ただし、前世の知識を全く活かせないということでもなかった。国内最難関大学を卒業し、海外大学研究室で博士課程を完遂し、その後も最先端研究をしていたのは伊達ではないのだ。

 これから通うだろう学校の成績は保証されたようなものだし(社会系科目は少しあやしいが)、僕の誕生年月と今までの社会経済情勢の推移的に株価、為替、現状存在すらしていない仮想通貨などはある程度予想できそうだ。流石に僕ひとりの影響で世界経済に影響を与えた結果、チャートが激変し大損をするということはないと信じたい。

 

 あ、あとタピオカミルクティなど流行り物が流行する時期の販売やパンデミック用マスクの買い占めとかもいいかもしれない。マスク買い占めは流石に倫理的にやめたほうが良さそうだけど。

 まぁ自分と家族用にある程度確保する程度はした方が良いかな。パンデミック真っ只中に手持ちのマスクが尽きたときの絶望感はもう体験したくない。

 とにかく今後どういった人生を歩むにしても、お金はあればあるだけ有利だろう。僕は前世の知識でお金を稼ぐことを決めた。

 

 僕の考えによると、お金稼ぎに一番効率が良いだろうと思ったのは株式投資、次に仮想通貨への投資だった。為替もいけそうだと思ったが、本当に極端に大きい値動きの時期しか覚えていないし、結構理不尽な乱高下があった気がするので断念した。そういう意味では仮想通貨もやめたほうが良いかな。

 タピオカの流行に乗るにはまず店を立ち上げなければいけないし、人道的な見地を無視してもマスクの買い占めも稼げる額はたかが知れている。

 また、前世では競馬を含むギャンブルとか、宝くじとかにはかけらも興味がなかったので、ダービーの着順とか当選番号とかも記憶のデータベースには入っていなかった。

 株取引などは子供では手が出せないので大人になるまで我慢かなぁと思っていたが、少し調べると親の許可さえ貰えれば案外簡単に取引をできることがわかった。

 もちろん親の厳正な監視のもとだが。

 

 投資を始めるとなると、どうしてもある程度まとまったお金が要る、当然子供のお小遣い程度では始めることすらできない(そもそも僕はまだお小遣いすらもらっていない)。

 そこで僕はある程度両親からお金を借りることを思いついた。

 だがどうやって両親からお金を引き出すか、それが問題だ。

 投資の元手としては少なくとも六、七桁万円は欲しい。その経済的余裕が我が家にあることは知っていたが、幼児にぽんと貸してくれるかは別問題だ。

 

 色々悩んだ結果、結局正面から正々堂々おねだりすることにした。

 

 どうしてお金がほしいのか、お金を稼いで何をしたいのか、稼げなかったら、赤字が出たらどうするのか。儲けが出たらどう還元するのか。

 僕の人生をかけたと言ってもいいプレゼンは数時間にも及んだ。

 そしてその熱意は両親の心に届き、許しを得ることができた。当家の余剰金がそれなりにあったことも幸運だったろう。

 当時は単純に喜んだものだが、後から考えるとこの両親ちょっとおかしいと思う。優しいとか甘いとかを超えておかしい。

 4歳児に100万円ポンと渡して口座作ってあげるとか、明らかに普通ではないだろう。

 僕にとっては都合が良いので甘えるだけ甘えるのだが。

 

 後年に聞いたところ、説明に納得したり、熱意に感動したというよりも、息子のノリと執念と頑固さと目の輝きが面倒くさすぎて、とりあえず失敗するまで社会経験させようとなっただけだったようだ。

 その後の成果には度肝を抜かれたようだが。

 

 またその他にも色々と苦労はあった。投資に関する税制の無理解から来るトラブルとか、それを色々と犯罪にならないグレーゾーンで回避しようと奮闘したり。……下手をしたら両親まで巻き込んで税金地獄になるかもしれなかった、そんなに甘くはなかったわけである。

 まぁ色々と頑張った結果、なんとか軌道には乗ったが、しなくても良い苦労をしてかなり疲れた。

 

◇ ◇ ◇

 

 ある日、転生以来の不思議事件が起こった。

 ひとつ僕の特異体質?もしかして転生特典?的なものが見つかったのだ。

 

 僕は音が見えた。

 

 僕は音が目で見えたのである。

 2回言った意味は特にない、ちなみに何故か匂いも感じた。

 

 見えると言っても生の音楽として奏でられたものだけであるが、それでも見えたときの光景は僕には衝撃だった。

 ある日、母親がトランペットを演奏するのをすぐ隣りに座って見ていたのだが、奏でたトランペットのベルから眩い光が飛び出したのだ。そして何故か良い香りがした。

 母親のトランペットは特殊な光学攻撃仕様なのかと真面目に疑った。

 以前から母親の演奏する姿は輝いて視えるような気がしていたが、実は物理的に輝いていたようだ。

 さり気なく近くに居た父親を射線に誘導して試したところ(酷)、この光にあたったところで人体に影響はないようだが、前世では経験したことも聞いたこともないとんでも現象である。

 

 転生特典にしろ自分の目か頭がおかしくなったにしろ、両親には気軽に話せることではないと思ったので、時間をかけて色々検証したところ、大きな音であるほど明るい光が生まれ、美しい音やハーモニーであるほど綺麗なエフェクトが掛かった綺麗な光に変わり、雑にマウスピースとかを吹くだけであればぼんやりと電球のように光るだけのようだ。

 そして母親の鼻歌でもうっすら光っていたから、歌でもいいらしい。

 

 つまり、「生の音楽」に僕の耳が反応しているようだ。

 録音した音源をスピーカーやイヤホンで聞いたところ、全くもって普通の音楽として聞けた。

 なぜか少し安心した。

 音の高低は色で分けられて視える。低い音ほど赤っぽく、高い音ほど紫っぽくなっている。これは純粋に音階把握に使えそうで助かる。

 

 しかし逆にこの感覚にはデメリットもあった。「演奏として悪い音」、つまり音程やタイミングを外したときには、どんよりとした暗い影と(電気照明も十分な明るい場所なのに)、夏場のじめじめした公衆トイレにいる気分にさせる匂いを感じるのだ。なんだこの能力。

 

 父親のPCを(勝手に)借りて調べたところ、現実世界的にはこういった例はないわけでもないらしい。かなり珍しいが。

 『共感覚(きょうかんかく)』とかよばれているそうで、ある感覚が別の感覚にも影響を与えることがあるとか。

 僕の場合は聴覚で聞いた音の感覚が、視覚と嗅覚にも影響を与えて、美しい音ほど綺麗な光が見え良い香りを感じる、ということになるそうだ。

 過去に実例のある感覚だということがわかったので、親に「僕、音が視えるんだ」とか軽く報告したところ、病院での検査だのなんだので一応の結論が出るまで大変も大変だった。

 

◇ ◇ ◇

 

 そしてまたある日、更に事件は起きた。

 これまたおねだりしていたトランペット用のマウスピースをゲットした僕は、母親に教えられながら音を出すことに成功したのだが、このときに自分のマウスピースから漏れ出た光?闇?と匂いが僕を混乱に陥れた。

 まさに、「眼の前が真っ暗になった」状態に、そして追い打ちのように畑の有機肥料の匂いが僕の共感覚を直撃したのだ。

 初めての楽器演奏でテンションが爆上がりだったのに、自分の演奏で吐き気を覚える状態に突き落とされた落差はかなり堪えた。

 しかも自分の演奏に関しては目と耳を塞いでも逃げ場所がないのだ。

 要は、初心者も良いところの下手な自分の演奏に自分でダメージを受けるという誰得状態になったわけだ。

 

 正直次の練習はしたくないなとも思ったが、それよりも母親の演奏の心地よさを目指したい気持ちが辛うじて上回ったため、なんとか練習のモチベーションを保つことが出来た。

 自分の演奏で美しい光と香りを奏でられたら素晴らしい日々になるんじゃないか。そう思って、なんとか僕の音楽の練習は続いていくのだった。しばらくは暗闇と悪臭に飲まれる日々が続きそうである。

 

 あ、あとお金稼ぎの日々も。音楽を続けるとかお金がかかること確定だしね。

 とりあえずこちらの目標は、小学生、遅くとも義務教育のうちに生涯に必要な金額を確保すること。

 人生舐めてるとか思われそうだが、真っ当な投資の知識を持ち、前世の経済の流れが大幅に変わらなければ可能だと思っている。

 

 今のところ、お金稼ぎ以外のこれと言った人生の目標がないので(お金稼ぎもどちらかというと手段だ)、人生の土台を作っている感じだ。

 前世はある一つの分野の研究に対して数十年身を捧げていたし、今世でもそれを(というよりもその研究の続きを)発表して続けるのもいいかと思ったが、どうにも熱が湧いてこない。

 いつかは前世のように目標に向かってがむしゃらに進む様になるのだろうか、あれは楽しい日々だったが、辛いことも沢山有った。もしかしたら寿命を縮めた原因も、研究を頑張りすぎたせいなのかも知れない。

 それなら、今世はトランペットでも吹きながらのんびりと老後生活を送るのも良いかも知れない。

 精神年齢的には今の状態は老後と言ってもおかしくはあるまい。

 

 まぁ、それはこれからの僕自身の頑張りと、他人との出会い次第だろう。

 

 

 

 

 

 

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