音と共にある人生   作:Taku-One

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第16話_花火大会

 

 「透理、12日の花火大会一緒に行こうぜ」

 

 部活が終わって帰る準備をしていたとき、秀一が誘ってきた。

 塚本秀一、第一印象は物静かな性格なのかなと思っていたが、案外おしゃべりなようで仲良くなるのも早かった。

 部に入ってきた孤独な男子部員を気遣って声をかけてきてくれたようだし、呼び捨てで呼ぶように言ってきたのも向こうからだ。

 この男、高身長イケメンの上にコミュ力もあるのである。

 

 「……」

 

 性格の良いイケメンなど尽く塵になれば良い等と考えているわけではないが、この誘いには少し思うところがあった。

 

 「なんだよ、予定でもあるのか?」

 

 返事を返さず胡乱な目つきで自分を見る僕を不審に思ったのか、秀一は困惑している。

 

 「いや、誘ってくれるのは嬉しいんだけどさ、そんな暇あったら久美子誘えばいいのに、って思ってただけ」

 

 「なぁっ!? って透理って久美子のこと名前で呼んでたのか?」

 

 あ、先にそっちが引っかかるのか。

 

 「低音パートの皆と混じって話したことがあってね。流れで緑と葉月も呼ぶようになったよ。で、重要なのはそっちじゃないでしょ」

 

 「え、いや、でもおれと久美子は何も関係ねえし……」

 

 「幼馴染で片思いの相手が何も関係ないんだ」

 

 実際は両思いっぽいが、それはここでは言わんでおこう。その方がおもろいし。

 

 「いや、片思いってなんだよ片思いって。そんなんじゃねえんだってホントに」

 

 「ふーん……」

 

 「なんだよ、その目……」

 

 目ということなら、秀一の両目は魚類最速のバショウカジキのごとく泳いでいるわけだが。

 

 「へたれだな~」

 

 「ぐぅっ」

 

 まぁ女子の恋バナでもあるまいし、この辺りにしておいてやるか。

 

 「まぁいいか、秀一が僕を誘ってくれるんなら、予定は空いてるから花火大会は行ってみたいかな。こっちきてから初めてだし」

 

 「……最初からそう言ってくれよ、一応ちかおも誘ってるけど、いいよな?」

 

 ちかおというのは同じ吹奏楽部1年男子の瀧川ちかおのことである。

 

 「もちろん良いよー」

 

 まぁ久美子は麗奈か低音1年あたりと行くだろうし、秀一の恋愛戦線に緊急事態が起こることはあるまい。

 今年くらいは男子でのんびりしてても良いんじゃかな。

 

◇ ◇ ◇

 

 花火大会当日は普通に部活の活動日だった。

 しかし練習の終了時間は早めだったし、居残り練習も禁止された。

 理由は単純、花火大会特有の交通規制で滝先生と松本先生が車で帰れなくなるからだ。

 

 久しぶりに日が沈む前に解散したので、少し不思議な気分だ。

 いつの間にか吹奏楽部のスパルタに染まってしまったなぁと言う気分だ。

 高校の部活の中でも、吹奏楽部の練習時間というのはかなり上位となるのではないだろうか。

 

 つらつらととりとめのない思考を続けているのは、秀一とちかおを待っているからだった。

 男子らしく、花火大会に行くことだけは決めていたが、集合時間も場所も決めていなかったので、部活終わりに決めようということになっていたのだ。

 で、同期男子二人を待っていたんだが、こちらに近づいてきたのは思っていたのとは違う人だった。

 

 「大槻くん、お、お疲れ様ー」

 

 「ん? 牧さんじゃん、お疲れ様。今帰り?」

 

 サックスの1年生の牧さんだった。あまり話したことは無いけど、気さくで良い子だという印象がある。

 小柄で、髪をツインテールにまとめ、いつも笑顔で可愛い。

 

 「う、うん。大槻くんはこの後花火大会行くの?」

 

 「ああ、一応男子連中で行こうと思ってるよ。静岡から引っ越してきてから初めての花火大会だしね。ちょっと楽しみ」

 

 「うっ、あ、そうなんだ。男子も仲良さそうだよね……楽しんできてね……私も花火大会行くから、もし会ったらよろしくね。」

 

 「うん、よろしく。牧さんも楽しんでねー」

 

 「……ちなみに、大槻くんはどのあたり周る予定?」

 

 「うーん。特に決めてないんだよね。秀一達について、屋台とか廻る感じかなぁ」

 

 「そ、そうなんだ。たこ焼きとかおいしそうだよね。私達もそっち行こうかなぁ」

 

 と、牧さんは少し肩を落として離れて見ていた友達のもとに去っていった。

 牧さんの言いたいことはなんとなく分かった。僕はこういう経験は今世では皆無だけど、鈍感系主人公ではないのだ。

 男子連中と予定を入れていなかったらどうだったのだろうか、むしろ男子連中なんか裏切っても良かったのではないだろうか。

 複雑な心境の僕を現実に引き戻したのもまた男子連中だった。

 

 「よう、透理、おつかれー」

 

 昇降口で先に待っていた透理に声をかけたのは瀧川ちかおだった。

 

 「おつかれ、ちかお。秀一はまだ?」

 

 「さっき楽器室で会ったから、すぐ来るんじゃね? というか今牧さんと話してなかった? 何話してたん?」

 

 「いや、吹部1年男子を大事にするべきか、裏切るべきかって話を……」

 

 「え、いやなんでそんな話してんだよ、こえーよ!」

 

 それから程なく来た秀一を交えて、花火大会の集合時間と場所を決めて、僕らはさっさと解散した。

 

◇ ◇ ◇

 

 花火大会、花火が打ち上がる前に集合し、僕らは屋台を巡っていた。

 

 「秀一は焼きそばか。屋台の焼きそばって水っぽくてあんまり好きじゃなんだよなー」

 

 「いや、それがいいんじゃん。そして多めの紅生姜と青のりでかきこむ! それが祭りーって感じで!」

 

 「それわかる! 透理は祭りの焼きそばの良さわからんかー、やっぱりお坊ちゃんだなー」

 

 祭り特有のB級、いやC級グルメについてどうでもいい会話をしながら花火観測ポイントを探しながら歩く。

 地元の秀一とちかおはそもそも家から見えるため、去年などは祭りにすら足を運んでないという。一応受験生だったということも大きかったらしいが。

 僕の家は宇治川とは少し離れているので、家から花火を眺めるのは少し物足りない。

 こっちの花火大会が初めての僕に付き合ってくれているあたり、ふたりとも口はあれだが、いわゆる良い奴なんだろう。

 

 「イカ焼き、うっま。なんか静岡のよりも大きいし、タレも美味い気がする」

 

 「そうなん? でも確かに関西は粉モンとか多いからタレは美味いのかもな」

 

 イカ焼き、たこ焼きは明らかに故郷の静岡より上手い。これはいいことだ。

 僕は旅行とかで地元以外のところへ行くときに、観光名所などより優先して最初に美味しい食べ物を探すタイプだ。

 その点で言うと、京都は”当たり”の街だ。

 こういった祭りの出店もそうだし、そのあたりに普段出店しているカフェや定食屋も外れが少ない。

 

 静岡で無駄に研ぎ澄まされてしまったお茶に対する舌も、京都の宇治茶は十分に満たしてくれる美味しさだった。

 ちょっとお高めなのが玉に瑕だけど。

 

 ただなぁ、浜松餃子を食べられなくなったのはかなり痛手だよなぁ。あのいつも買ってた有名店は通販してくれないからなぁ。知り合いに送ってもらうしか無いか。

 

 と、イカ焼きを食べながら前を見ていると、見覚えのある姿が目に入った。向こうも気付いたようだ。

 

 「あ、麗奈と久美子じゃん、すごい! 浴衣着てきたんだね、似合ってるよ、ホントいい感じ、可愛い」

 

 「えっ、あ、うん、ありがとう。祭りだから適当に着てきただけだけど……」

 

 「ああ、ありがとう。麗奈の隣に並ぶの正直しんどかったけど、褒めてもらえて少しほっとしたよ」

 

 「久美子も可愛いけど、麗奈なんか大人っぽくていつもと違う感じでいいね」

 

 麗奈を褒めるのは僕の役目だと思うので、無難に言葉を重ねておく。

 麗奈が照れてるのは珍しい光景だ。浴衣姿といい眼福眼福。

 久美子も十分可愛いんだけどな、これ以上褒めるのは秀一の役目だ、と彼に目で促す。

 

 「げっ、なんだ、来てたのかよ」

 

 こいつ駄目だ。幼馴染とはいえ、似合ってるの一言も言えないのか。

 

 「来てたよ? 秀一は焼きそばかー」

 

 「なんだよ、うまいぞ、焼きそば」

 

 しかも『げっ』はないだろ秀一、祭りで偶然ばったり会うなんてかなりのチャンスなのに。

 せめて浴衣姿か、いつもより気合を入れた髪型とか小物を褒めろよ。久美子だって可愛い黄色の浴衣着てるのに。

 これは僕がなにか手助けしたほうが良いのかな。

 

 「久美子もその黄色い浴衣似合ってて良いね。秀一もそう思うでしょ?」

 

 「え? あ……まぁ悪くはないとは思うけど」

 

 もーだめだこいつ。せっかくフォローしてやろうと思ったのに、好きな娘の可愛いところを素直に褒められないのは小学生男子レベルだ。

 

 「一緒に来たいなら、付いてきてもいいけど? どうする?」

 

 麗奈も意地悪だ。というよりも久美子を取り合うライバルを牽制するみたいな雰囲気を感じる。

 どうせあんたはヘタレだから付いてこれないんでしょっ、てマウント取ってるのが見え見えだ。

 女同士の恋愛って存在するんだろうか。

 

 「別に! 行く理由ないし! 行こうぜ、透理、ちかお」

 

 秀一は去っていってしまった。

 

 ……

 

 秀一について随分遠くまで歩いてきたが、いいのだろうか。

 

 「秀一、よかったの? あれじゃ麗奈に完全敗北だよ?」

 

 「うるせぇ。高坂付きのところに合流しても揶揄われ続けて結局完全敗北することになるだろ」

 

 「ははっ、確かに。というか、秀一も秀一だけど、久美子もなんか天然なんだよな。今の流れも全然わかってない感じだったし。今度なんかセッティングしてやろうか?」

 

 「余計なお世話。というか、透理も高坂とどうなんだよ。なんか部内で噂になってるぞ。トランペット2トップでお似合いとか、高坂がいつも透理のこと見てるとか」

 

 それは初耳だ。多分、出来るだけ音を盗もうとして指とか口とか見てるって話なんだろうけど。

 今のところ麗奈からそういう類の雰囲気は感じたこと無い、と思う。

 

 「二人共なんだよ、おれが一生懸命出会いを探して何の成果も得られないのに、部内にいい感じの女子居るとか、◯されたいの?」

 

 「そういえばちかおは、そういう噂全く無いよね」

 

 「ああ、おれもちかおの恋愛話はこの吹奏楽部でも噂すら聞いたこと無い。大丈夫か? メンタルケアの病院しってるぞ」

 

 「は!? おまえら、おれを馬鹿にすんのも……」

 

◇ ◇ ◇

 

 吹奏楽部の同級生男子3人が去っていった後、高坂麗奈は久美子にドヤ顔で話しかけた。

 

 「私、意気地のない男はダメだと思う」

 

 「ん? まぁ、そうだね」

 

 久美子は何も分かっていない様子で、笑顔で相槌をうつ。

 あまりにも適当な返事だ。 

 ……もしかして、信じがたいが、本当に久美子は塚本を意識していないのかも知れない。うそでしょ。

 透理すら塚本と久美子の仲が進展するようにとフォローをしていたのに。

 

 「ん?」

 

 いや、流石に天然で朴念仁の久美子といえども塚本との関係には思うところがあるはず。

 表の反応はいまいちだけど、心の底では意識しているのは麗奈にはわかる、親友だから。

 ただ、久美子にとっての塚本は近すぎるのかも知れない。家族に近い感覚というか。

 でも麗奈から見れば明らかに恋が軸にあると思っているが。

 

 その点、麗奈の頬と耳が赤くなっているのを指摘されないのも、久美子が朴念仁であるからと思うので、プラマイゼロなのか。

 彼から可愛いと言われたのはなにげに初めてなので、少し動揺したのだ。

 いや、あくまで恋愛対象ではなく吹奏楽のライバルなのだけど。

 

 「はい、いちごのかき氷、買っておいたよ」

 

 「わぁ、ありがとう! じゃあ早めに花火見えるところに行こうよ」

 

 どうせなら一番いい場所で見たい、ということで、宇治川の中洲の島へ渡る橋のたもとに二人で陣取った。

 そしてしばらく話しながら待っていると、花火が打ち上がり始めた。

 

 「綺麗だね。花火なんてしみじみ見るのなんて、随分久しぶり」

 

 「去年は受験だったしね」

 

 受験なんて関係なく、去年までは友達と一緒に花火を見るなんて考えもしなかった。

 人混みは苦手だし、祭りの屋台は特に興味なかった。

 それでも久美子とならこのひとときを楽しむことが出来ている。

 

 「麗奈はさぁ、ずっとトランペット一筋なんだよねぇ」

 

 「うん」

 

 「トランペット、好き?」

 

 「うん、好き。どうして?」

 

 「今日、希美先輩がフルート吹いてる所見て」

 

 「練習の後?」

 

 「うん、話してたら、フルート大好きだ。って言ってたから」

 

 去年途中で退部したという傘木希美先輩があすか先輩に復帰させてくれと直談判した話は、密かに広まっている。

 

 「なんであすか先輩復帰の許可出さないんだろうって思って」

 

 「嫌だからでしょ。今復帰を許して引っ掻き回されたら、関西大会に影響が出る。私はあすか先輩の判断が正しいと思う」

 

 「でも、好きなのに皆と演奏できないってもどかしいんじゃないかな?」

 

 「そんなの、やめた方が悪い……だってそうなるの分かってたんだから」

 

 「それはそうだけど……」

 

 久美子は優しい。ほとんど面識のない先輩にも、自分だったら、と親身になってしまうところがある。

 それは久美子の良いところでもあり、悪いところでもあると思う。

 

 「やめるってことは、逃げるってことだと思う。それが嫌な先輩からか、同級生からか、それとも自分からかはわからないけれど。とにかく逃げたの。私だったら絶対逃げない。嫌ならねじ伏せれば良い。それが出来ないってことは逃げたってことでしょ」

 

 「……麗奈だね」

 

 「そう? 普通じゃない? 私達は全国に行こうと思ってる。特別になるって思ってるんだから」

 

 「全国に行ったら特別になれるのかなぁ」

 

 「わからない。けど、それくらい出来なきゃ特別にはなれない」

 

 「そうだね……」

 

 ……

 綺麗な花火が次々に打ち上がる。

 

 「良かったね、花火大会、一緒に来られて」

 

 「うん」

 

 「一緒に来ようね、来年も」

 

 ホントに、来年も久美子といっしょに来られたら幸せだと思う。

 麗奈は音楽を、トランペットを一生やり続ける覚悟は出来ているけれど、音楽を仕事にして一生やり続ける人がごくわずかだということは理解している。

 久美子はどうなんだろう。久美子が高校を卒業した後音楽を止めてしまったらどうなるんだろう。

 そのときに今の関係を続ける自信がなくて、麗奈は高校一年の今からすこし怖くなってしまった。

 

◇ ◇ ◇

 

 花火大会も終わりに近づき、僕達は駅に向かって歩いていた。

 

 「そういえば、おまえらお盆休みどうすんの?」

 

 「おれは親父の実家に行くことになるかな。毎年行ってるし、正直つまらんけど涼しいからまあいいかって感じ」

 

 「僕は今のところ予定ないけど、折角の休みだし、ここのところサボりがちだったマウスピースの設計でもしようと思ってるよ」

 

 新年度から続けていた自分用のマウスピースだが、漸く形になりそうだ。

 設計データはとりあえず完成し、金属の鋳造も済んだ。あとは旋盤で成形するだけだ。

 実はもう今までに何個か試作品は出来たのだが、思ったよりも出来が悪く、今は改善の日々なのだ

 初の自分専用のマウスピースができるかと思うと感慨深いものがある。

 

 「いやー、灰色の夏休みを送ってるな。いや透理のはなんか違う気がするけどまあいいか。そこで、お前らのために! このちかお様が極秘情報を仕入れてきたのだよ。今ならジュース一本で教えてあげてもいいぞ」

 

 またアホがアホなこと言ってる。秀一とアイコンタクトをしてちかおを無視することに決めた。

 

 「それにしても合宿ってどこでやるの? 涼しいところがいいんだけどな」

 

 「一応山の中だぞ。宿もちょっと古いけど、クーラーも効いてるし、そんなに不便でもない。回線速度遅いけど一応Wi-Fiもあるし」

 

 秀一は中学の頃に行ったことがあるらしい。京都府内だが琵琶湖方面にちょっと山を登ったところにあるらしい。

 移動時間も大した事ないようだ。

 

 「北中のときも行ったけど、周りにも散歩コースとかあるし、ホールは小さいけど2個あるし、合宿するにはまあ良いところだと思う」

 

 「ふーん、近場にそんな良いところがあるなら合宿する意味もあるのかもね」

 

 と、完全に無視されていたちかおがここでブチギレた。

 

 「おい、ふざけんな! おまえら、おれの極秘情報を全く信じてないだろ! 折角低音パートのドアに耳当てて盗み聞きした貴重な情報なのに、教えてやらないぞ!」

 

 「……おい、こいつ滝先生に突き出したほうがいいんじゃないか」

 

 「いや、もう警察レベルだろ。僕が警察呼ぶから、秀一は滝先生に連絡よろしく」

 

 「おいぃぃぃい! 止めてくれ! 全部話すからほんとに止めてくれ! おまえら目がマジなんだよ」

 

 目がマジというか、マジで通報するつもりだったが、ちかおの話は意外なことに大変興味深い内容だったので、結果的には許しをくだされた。

 

 「なんと、お盆休みの1日目に、中世古先輩、田中先輩のみならず、2年生の吉川先輩に加部先輩、低音の1年とか我が吹部最強のメンツが太陽公園のプールに集結するらしいんだよ! これは行かなきゃ損だろ!」

 

 くっ……ちかおの癖にホントに価値ある情報をもってきやがった。

 どうせ近くの川にザリガニが大量発生してるから釣りに行こうぜ、くらいのどうでもいい情報だと思って油断した!

 

 「……で、おまえら、通報するのか? 一緒に行くのか? 今ならさっきの態度を許してかき氷一杯で同行させてやらんでもないぞ」

 

 「……僕も同行させてください、ちかおくん」

 

 駄目だ、状況が詰んでいる。ちかおに頭を下げたうえでかき氷を奢らなければならないなんて、人生でも指折りの屈辱だが仕方ない。

 もし嘘情報だったら相応の報いを受けてもらうが。

 

 「あぁー、その日はマジで父親の里帰りに付き合わなきゃなだめなんだよ。わりぃけど二人で行ってきてくれ」

 

 「わかった。写真撮影はプールでは駄目だと思うけど、久美子の水着姿はしっかり目に焼き付けて、お前に伝えるからな」

 

 冗談のつもりだったのだが、余裕のない彼はそう受け取らなかったようで、知り合ってから最大の腹パンをマジ顔の秀一から食らった。

 

 

 

 

 

 

 

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